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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
番外編:青州牧劉叔朗の日々
99/112

学校を作ろう

番外編です。

本編より1話あたりの文字数は少なくなります。

転生ものなら恒例の、未来知識を使って何やら作るシリーズです。

本編でちょいちょい登場した物の開発秘話になります。

 劉備・劉亮兄弟は儒に対し隔意を持っていた。

 劉備は学問としての儒学に興味が無い。

 劉亮は宗教としての儒教に馴染みが無い。

 一方で逆の面も持っている。

 劉備は原始的な儒教の価値観を大事にし、親兄弟・朋友には仁厚く、領民には徳深い。

 劉亮は学問としての儒学に対し、薄く広く上っ面な事なら理解していた。

 つまり劉備は儒「学」を馬鹿にしながら、儒者から崇拝されるような生き方をしているし、劉亮はその思考や政策が儒者から否定されるのに、一端の儒学者と何となく話せる程度には学識があるという事だ。

 この兄弟を高く評価しているのが、儒学の本家たる孔融、儒学の庇護者として高名な劉表というのが中々面白い。

 儒者としては中級以下が、特に劉亮に対し批判をしている。

 字が汚い、殖財に拘る、華夷秩序を乱す、宦官の孫と仲が良い、等々。

 一方で「暴虐な董卓に歯向かい、七度投獄されても屈しない気骨の士」という評価もあり、形式や評判に拘る程度の低い儒者には何とも判断が難しい相手なのだ。

 そんな劉亮が儒者たちから無条件で絶賛されている事がある。

 それが青州における子供向け学校の充実であった。


 青州牧である劉亮は、劉備・孔融と歴代で続けて来た流民慰撫政治をしっかり行なっている。

 霊帝の悪政、黄巾の乱、張純の乱で青州は荒れた。

 多くの民が故郷を捨てて流浪した。

 それらを受け入れて、屯田兵として生活を安定させつつ兵力を手にしたのだが、本貫地を離れた彼らには問題も有る。

 郷里ならば古老やその地の学者がしてくれた初等教育、それが無い為に子供たちが無学になる事だ。

 生活が安定してこそ、字の読み書きや道徳を学ぶ事に親が寛大になる。

 生活が苦しいと、親は子供にも労働を強いる。

 そして無学の子供は、成長しても収入の多い仕事に就けず、同じような境遇の男女が無計画に子供を作り、その子たちに労働を強いる「貧困の連鎖」。

 劉亮の前世で散々見て来たものである。

 劉亮の前世・金刀卯二郎は寧ろそういう地域に行き、金持ち相手にビジネスをして、貧困な連中を働かせて資源や利権を得る側に属していた。

 だからかも知れない。

 転生後の劉亮は、子供たちが親より豊かになれるよう、教育をさせる事を考えて実行に移した。

 まあ州牧として、法令を理解させる為にも最低限の学力を求め、またモラルハザードとなっているから治安維持の為にも道徳教育の必要を感じたのも、理由に含まれているのだが。


 後漢において、教育のベースに最適なのはやはり儒学になる。

 こんなに教科書が多いのは他には無い。

 また教師が出来る人だって多い。

 後漢時代に英語とか西洋哲学なんて、教科書も教師も無いし、大体社会が受け入れないから教育しようも無いのだ。

 現在使える中で儒学が最高であろう。


 しかし劉亮は、儒の弊害を散々見て来ている。

 余りに頑なで、形式主義で、経済を軽視どころか蔑視し、理想主義に走りがち。

 それ故、劉亮は初等教育において教師となる吏僚に「命令」を出していた。

 それは、己の思想を入れて教えない事。


 流民たちには蓄えが無い。

 私塾に通わせる時に支払う礼金も無いし、無料の教育所にだって貴重な労働者を行かせたくない。

 だから州の命令で子供を学問所に通わせる事と、就学児童が居るなら税の還元を行った。

 そして教師には、州の官吏を充てる。

 彼等は儒学を修めて役人になった為、こういう役目は誉れでしか無い。

 流民たちから授業料を取れないから、教育としての俸給は州から支給される。

……子供を働かせない代わりの税還元や、教師としての給料を払っても州の財政に支障が無いのは、儒者が軽蔑する劉亮の商売の賜物なのだが、それに気づいても気づかぬふりをしている。


 という儒者官吏のご都合主義を見逃す代わりとでも言うか、劉亮は教師個人の思想押し付けを禁じる。

 教育・私塾には自分の弟子を作りたい面があった。

 盧植と劉備・劉亮・公孫瓚の関係ではないが、弟子により師の評価が上がる事もある。

 師が弟子を推薦し、派閥を作る事も出来る。

 故に、折角教師となれたのに自分の思想を語れない官吏は、劉亮に食って掛かった。

 だがこの件、上っ面な部分は人一倍知っている劉亮には、彼等を論破出来る自信が有る。


「諸君は荊州学について語れますか?」

 問われた官吏は、得意気に古典解釈を重視する荊州の儒学について説明を始めた。

 一通り聞いた後、劉亮は

「前任の孔融様や、青州出身の鄭玄先生の経典解釈との優劣はどうなりますか?」

 と問う。

 言葉に詰まる官吏たち。

 青州で流行った儒学と荊州の儒学はやや異なる。

 儒の総本家・孔融の学問を上だと言いたいが、一方で太学の有名人で「八及」の一人である劉表もまた憧れの人物。

 どちらが優れているか、一人が意見を出せば、別の者が反論し、次第に州牧の前だと言うのに議論が始まった。

 劉亮はそれを制すると

「諸君の中でも纏まっていない、お互いを納得させられないのに、それを書生たちに押し付けるのですか?」

 と嗜める。

 まだ何か言いたい相手に対し、

「私が盧植先生から学んだ儒もまた違います。

 洛陽の太学もまた少し違う。

 蜀の儒もまた違うし、袁家の家学も違うと太傅様(袁隗)から聞きました。

 其れ等について深く語るのは、儒の大家、我々の師に当たる方々がする事で、我々が優劣を語るのは烏滸がましいと思いませんかね?」

 と言って封じる。

「私が諸君に求めるのは、己の儒を語る事ではありません。

 あらゆる儒に学べるよう、学問の基礎を教える事です。

 もしかしたら儒では無く、兵家や法家に進む者も出るでしょう。

 いずれにせよ、諸君が師を自分で探したように、子供たちが更に学を求めて師を求める時に、困る事が無いよう偏らせないで欲しいのです。

 道徳は教えてくれて結構。

 そこに他者への悪口を入れて、醜い姿を見せないで欲しいと思います。

 子供は染まりやすいのですから。

 諸君は教師として、子供たちに対して高潔であって下さい。

 生き様で尊敬を勝ち得て下さい。

 そうすれば、生徒は君たちを立派な師と慕うでしょう。

 そして、自ら更に上の師、大学者に学びたいと思ったときに、胸を張って推薦出来るだけの学力を着けさせるべきです。

 そして己を超える教え子と、いつか語り合って貰いましょう。

『青は藍より出でて藍より青し』とは荀子の言葉ですね。

 優れた教え子を世に送り出せたら、教師も本望でしょう。

 その為にも、今は基礎、兎に角基礎を教えましょう」


 とりあえず「基礎教育」の徹底を命じた劉亮。

 陳羣は

「儒者は面妖ですぞ。

 理解したふりをしながら、面従腹背、裏ではやはり己の思想を教えかねません。

 恐れながら、先程の説得も聞き流されるでしょう」

 と忠告して来たが、劉亮はちょっと悪い笑顔で

「聞き流しても、ちょっとでも頭に入っていれば、私が何を望んでいるかは分かるでしょう。

 そして、陳羣殿が言われた事も承知しています。

 どうです?

 貴方が考えている人材の鑑定を、この学校でしてみませんか?

 求める教育をする者を、より上の地位に引き立てる。

 教師としての資質がある者を見極め、そちらの仕事を任せる。

 場合によっては朝廷に推挙する、というのは」

 と伝えた。

 陳羣は苦い表情で

「私の人材鑑定官を、監視役に使うのですか。

 私の恐れている使い方ですね。

 鑑定官の気に入るように振る舞い、阿るようになりかねない。

 鑑定官が特権を持ちかねない。

 だから、そうならないように学校と教師という場面で試し、そうならないよう私にも工夫をさせるのですな。

 中々人遣いの荒い上司ですな」

 と言って下がる。

 どの道、陳羣の新方式人材登用も実地試験による問題点洗い出しが必要なのだ。

(上司をこき使う部下が何を言っているやら)

 劉亮はそう思いつつも、陳羣との関係は嫌いでなく、寧ろ好ましく感じている。


 かくして青州では初等教育が始められた。

 次第に儒学だけでなく、算学や薬草学、測量の基礎といったものも教えられるようになった。

 後に劉備が青州に復帰した際、儒者たちは自分の思想を教えても良い中等以上の学校設立許可を乞い、劉備が鷹揚に認めた為、儒学の都っぷりは加速する事になる。

 ではあっても、青州の「あらゆる方面に応用が効く初等教育」の有用さは、儒嫌いと思われている曹操すら注目し、取り入れる事になるのだった。

おまけ:

関羽「儂も生きて泰平の世を迎えられたら、私塾でも作ろうかな。

 青州でやってる青瓢箪を作るものではない。

 真の男を作る塾を!

 それには根性が必要だ。

 油風呂とか、剣山地獄腕立て伏せとか、竹林剣相撲とか……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 男塾初代塾長がここにいるとはw
[一言] 民明書房や太公望書林の話が本当になってしまう
[一言] 頭上から後光がさす姿になるような気がする関羽殿。
感想一覧
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