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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
番外編:青州牧劉叔朗の日々
97/112

戦争に役立つ文房具

番外編です。

本編より1話あたりの文字数は少なくなります。

転生ものなら恒例の、未来知識を使って何やら作るシリーズです。

本編でちょいちょい登場した物の開発秘話になります。

 劉亮の中の人の前世、金刀卯二郎は海外に行きっぱなしの社畜であったが、たまには日本に戻されている。

 その際、実に嫌な事があった。

 早朝打ち合わせ、夕方ミーティング、深夜まで第二ミーティングという会議漬けである。

 これくらいならまだ(・・)我慢出来た。

 その間に突発的に打ち合わせを入れられる事が我慢ならない。

 社内の者では無い相手からの申し出があれば、相手の都合に合わせてものだから、何か作業をしていてもお構いなしだ。

 打ち合わせを入れる側は鈍感だが、入れられた側は、その時点で集中力が途切れてしまう。

 偉そうに言う側は

「終わったんだから、中断した所から再開しろ」

 と簡単に言うが、集中力を切られた側はたまらない。

 頭の中をリフレッシュしないと。

 それが一回や二回なら、切り替えが出来ないのは社会人失格と言ってもまだ許されるが、一日に度々有ってその都度作業を中断される上に、各種ミーティングの準備も挟まる、その上で

「仕事が終わらないのは、その人の責任。

 終わるまでは残業してでも作業しろ」

 なんて言うのをブラック企業と言う。

 度々の作業中断と、別な事に頭を切り替えさせる事を繰り返す、これって結構なストレスであろう。


 さて、こちらの世界に転生した中の人は、儒者の議論好きには辟易していた。

 朝廷に出仕していた頃、朝議は定時でさっさと終わったのを見た。

 また定時遵守な部門も結構あり、例えば城門の開放時間なんかは僅かでも過ぎれば、他人の都合なんか関係無く閉じられてしまう。

 こういう部門がある一方で、議論が長引いて結論が出ないまま何度も持ち越されるものもあった。

 大体、前例の無い提案をすると、儒学に基づいた原則論が唱えられ、反対の為の反対が出て話がごちゃごちゃになるのだ。

 現在も朝廷で、孔融がそういう事をやって曹操をイラつかせている。


 劉亮の中の人は、話がごちゃごちゃになる理由に、資料を出して話をしていないのも有ると考えた。

 口頭での議論であるから、言った言わない論争も起こるし、言葉尻を捕まえて難癖を付けられたりもする。

 主張の解釈違い……というか意図的な曲解もされたりする。

 だから、文章と図解で説明すれば、口頭での議論よりも時間退縮が適うだろう。

 悪意のある議論破壊者は防げないが、それでも多数の解釈と違う、明らかに恣意的な解釈をしていると晒されれば、その者が批判される事になる。

 それには、紙が大量に必要だし、可能なら印刷技術が欲しい。


 とりあえずそこまで行かずとも、劉亮の中の人は会議の円滑化に、ある発明をもって対応しようとしていた。




 建安四年、劉備と曹操が突如敵対関係になる。

 劉備が刺史の車胄を殺害し、曹操領である徐州を突然乗っ取ったのだ。

 それに伴い、青州の劉亮も方針策定会議に参加する事になった。

 劉展と共に徐州に向かったのだが、

「叔朗兄、その荷物は一体何だ?

 矢避けの楯のように見えるけど?」

 と持ち物について問われる。

「これは、皆との情報共有に必要なものだよ」

 と説明するも

「いや、口で言えば十分でしょ?

 大体、叔朗兄の字は俺から見たって読めないものだし、意味無いでしょ」

 と返して来る。

 字が汚いのは確かだが、書く物による。

 劉展に色々話してはみたが、結局実物を見ないとどうにも納得しない様子だった。


 徐州には関羽・張飛の他、太史慈、高順、麋竺、麋芳、陳登等が集まっていた。

 まずは劉備から事の経緯を聞く。

 そして、この先どうしたいかを聞くが、これは

「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処……」

 と相変わらず深くは考えていない様子で、軍師が存在しないこの陣営の弱さを示していた。

 劉亮は机を用意させ、持って来た物「黒板」をそこに置く。


「いいですか?

 ここが徐州、その上が青州、更にその上が幽州です」

 劉亮がチョークで黒板に地図を描く。

 一同驚いていた。

 布なり紙に書いた地図を元に軍議した事はあるが、それは皆で覗き込むには小さかった。

 この黒板は「矢避けの楯」なんて言われたくらいに大きい。

 そこに皆から見えるように勢力図が書き込まれる。


「我々の勢力は、こういう風に南北に細長い。

 その横に袁紹と曹操の勢力が在り、南には孫策の勢力が在ります。

 ただ、ここには長江が在って、すぐには渡って来ないでしょう。

 陸続きの二勢力との関係を主として考えましょう」


 劉亮は、墨を開発している段階で、黒板の作成を思いついたのだ。

 前世ではホワイトボードを使っていたから、ついぞ「黒板」という学生時代の懐かしき遺物が思いつかなかったのだ。

 背景が黒になるように漆で板をコーティングする一方、摩擦も有るように松の燃えた墨を松脂込みで塗り付ける。

 何回かの試行錯誤の結果、適度な摩擦がある黒板が完成した。

 そしてチョーク。

 これは青州の沿岸に行って、漁民から貝殻を買って来れば良かった。

 焼いて炭酸カルシウムだけにし、それを小麦粉のグルテンと混ぜ合わせ、型に嵌めて固める。

 それを乾燥させて、未来の物よりはやや脆いが、チョークを作り出した。


(一回、「そら、そこ寝ない!」と言って投げつけてやりたいが、皆真面目に見ているから出来ん)

 と余計な事を考えながら、黒板上に現状の勢力図を現していた。


「現在は、袁紹と劉表が同盟関係に近く、孫策と劉表は対立関係で……」

 と線で結んで関係図とする。

 劉徳然は

「当然、袁紹殿と組んで、我々も反曹操で加われば良い」

 と主張。

 大筋で異論は無かったが、その場合徐州が先に攻められる場合、分断すべく青州が攻められる場合等、様々な意見が出る。

 黒板は矢印というか、連携線というかで汚くなって来た。


「じゃあ一回整理しましょうか」

 劉亮がそう言って、不要な線とかを消す。

「え?

 消せるの?

 なんかそれ、便利だな」

 一同が驚嘆の声を上げた。

 黒板は、黒板消しとセットである。

 何回でも書き直しが出来るし、不要な部分は消す事が出来る。

 これが墨ではそうはいかない。

 書き込めば書き込む程汚くなり、清書が絶対に必要だ。

 軍議では、これまでは粘土板とか、土に棒で描くやり方もあった。

 それは粘土を戻したり、足で土を掻いたりして書き直しは出来るが、見づらい。

 一番これに近いのは、平坦に削った石板に、石灰石で図や字を書くものだったが、それはサイズが小さいし、チョークのように書きやすい形には加工されていない。

 この適度に硬いチョークだと、毛筆だと読めない劉亮の字も読めるのだ。

 格調高い書体とは言えないが、軍議にそんなのは求められていない。

 分かれば良いのだ。

 そんな訳で、黒地に白で見やすい一方、書き直しも効くこの道具を一同は便利な発明と認識したのだった。


 大体の方針が定まった後、張飛、太史慈、高順といった将軍たちが劉亮の元に来る。

 気位の高い関羽すら傍に来ていて

「その板と白筆、小さいのは無いか?

 伝令用にピッタリだから、使いたい!」

 そう頼み込む。

 要するに、ホワイトボードにその場で書いた物を、印刷して他部署に渡すような使い方をしたいのだ。

 口頭で伝えるだけでなく、図解して、例えば迂回経路を説明した方が誤解されない。

 用事が終わったら、即消せば良いし、命令が実行困難な場合はその黒板にフィードバックで記述させれば良い。

 劉亮ならずとも、字を書くのが苦手、あるいは無学で字が書けない者も、チョークを使って絵を描く事は出来るだろう。

 この硬い物体は、墨を摺ってから使う筆よりも扱いやすく、敷居が低い。

 子供でさえも、地面に棒で絵を描くくらいだし、毛筆に慣れない人でもこういうのなら使えるだろう。

(まあ、便利だと分かれば、こうなるだろうな)

 予想はしていたので、劉亮は予め作っていた小型の黒板とチョークを何セットかずつ渡す事を、劉備軍の将軍たちに約束したのであった。

おまけ:

そして、機密情報は消していても、黒板とチョークと黒板消しの存在は、捕虜や戦死した伝令の持ち物から、曹操にすぐ把握されるのであった。


曹操「これを作った者を連れて来い!」

某美食家のように、製作者を追求して劉亮の存在に辿り着く事になる。

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[一言] 結局曹操に呼び出される理由を自ら作り続けている主人公
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