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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
番外編:青州牧劉叔朗の日々
95/112

蒸留水と蒸留酒

番外編です。

本編より1話あたりの文字数は少なくなります。

転生ものなら恒例の、未来知識を使って何やら作るシリーズです。

本編でちょいちょい登場した物の開発秘話になります。

 青州別駕(副知事)陳羣は、劉亮の酒造りには良い顔をしていない。

 ちょっと堅物の気がある陳羣は、趣味にかまけるのなら文句を言って来ただろう。

 しかしその酒を対北方民族用の売り物にしているし、劉亮自身が酒に溺れた訳でもないから、とやかく言わない事にしていた。

 劉亮はちゃんと州の政治もしているのだから。

 だが、そんな陳羣の認識を改める出来事が起こった。


 青州は現在の所平穏である。

 隣州の冀州の領主・袁紹とは友好関係にある。

 南で接する徐州も曹操の領土に収まり、許都に出仕している劉備込みで平和な関係であった。

 戦争をしているのは、易京での公孫瓚くらいだ。

 これも冀州に劉展が出張して戦っているだけで、青州本土は平和そのものである。


 その劉展率いる軍が帰還して来た。

 劉展は父の仇を討った形になり、面目を施している。

 帰還兵には負傷者も含まれている。

 その中には、傷が膿んで重症化している者も多数居た。

 それを見た劉亮は、直ちに医者を呼んで治療を命じる。

 その際、特に指示を出した事があった。

「布は熱湯で消毒せよ。

 傷口はこの酒で洗うように。

 また、小刀や鎚も酒につけてから使用する事」


 陳羣は疑問を呈する。

「州牧が直接医者に指示を出すのも異例ですが、それ以上に酒に漬けろというのが分かりません。

 州牧殿は怪我人を酒漬けにする気ですか?」

「いや、その疑問は一々納得いきます。

 普通の酒なら、私がおかしな事を命じているように思って当然です。

 しかし、これは違うのです。

 悪戯とかではありませんので、少し手に酒を着けさせて下さい」

 そう言って、原液を陳羣の手に着ける。

 気化してスーッとする。

「これは?」

酒精(アルコール)には消毒効果があります。

 普段我々が飲んでいるのは、ずっと薄いのでそれを感じる事はありません。

 しかし、煮詰めて酒精を強めるとこのようになるのです。

 我々の周りには、悪しき気が充満しています。

 それを消す為に、これを使いました」

 そんな話は聞いた事がない陳羣は、まだ懐疑的である。

 だが酒を楽しむ為だけでなく、そういう目的の為に製造していたのなら、と劉亮の酒造について認識を改める事にする。


 この時の外科治療の追試とも言える負傷者治療案件が、別の所で発生する。

 青州は平和であるが、一ヶ所不穏な場所が在った。

 泰山である。

 ここには群盗が潜みやすく、度々太史慈が治安出動を行っていた。

 その治安部隊と盗賊が交戦し、今回は負傷者を多数出したという。

 ここで行われた、アルコールや蒸留水を使った傷口の手当をした結果、重症になるような化膿をした者はほとんど出なかったのである。

 アルコール消毒でも効かない破傷風で死んだ者も居るが、数を見るにつけても効果は高いようだ。

 何より、早期に手当をした者の治りが早い。

 不衛生で雑菌塗れの環境で治療したら、かえって増悪したものだが、アルコール消毒と熱湯で殺菌された布地を包帯にするだけで、大分変わって来たのだ。


「州牧殿は、一体どこで医学を学ばれたのですか?」

 効果を目の当たりにした陳羣が、敬服しながら尋ねて来る。

「いや、医学なんか学んだ事ありませんよ」

「しかし、どうしたらあのような知識を得られるのですか?」

 未来知識だと言う訳にもいかない。

 劉亮は用意していた答えを話す。

「その辺は士大夫よりも、民の方が知っているのです」

「民が……ですか?」

「そうです。

 酒は、どうして麦や米、高粱(コーリャン)からあのようになるかご存知ですか?」

「さて……詳しくは分かりません」

「発酵という作用によるのですが、それは黙っていて出来るものではないです。

 良き気か、悪しき気かを上手く操らねばなりません。

 悪しき気を使えば、腐らせたり、カビを生やすだけとなります」

「確かに。

 酒造はそのようなものと聞いております」

 細菌という概念が無い為、「気」という言葉を使って説明をする。

「私は酒精を強める作業をしました。

 そうして出来た酒精をカビにかけた所、死滅させられたのです」

「なんと!」

「カビは悪しき気がもたらすもの。

 それを除去出来たのなら、と色々試した所、傷の治療を妨げる悪しきものを防ぐ力があると分かりました」

「なるほど」

「酒を造る者、塩を作る者、絹を織る者、全ての人はその仕事に合った知恵を持っています。

 私は悪しき気を払う酒を造る者の知恵を借りて、より酒を強くしたのです」

「分かりました。

 書物だけの知識に頼っていた己を恥じます。

 士大夫ではない民にも、我々の知らぬ知が有るのですな」

「はい、私も日々勉強させて貰っています」

 そう言いながらも劉亮の本音は

(よし、上手く誤魔化せたぞ!)

 なのであった。




 しかし、所詮は酒である。

 工業も医療も化学も未発達のこの時代、溶剤とか麻酔とか化合物なんかを作れないし、作っても使い道は余り無い。

 金属製連続蒸留機なんてものを開発しないと、ウォッカとかスピリタスみたいな90%の高濃度アルコールは作れず、濃度50〜60%で不純物も多いのを作るのが簡易蒸留の限界である。

 だから出来上がるのは、基本的には飲んで潰れる為の液体であった。


「幽州の交易市場で鮮卑が暴れたとの事です」

 田豫からの報告がもたらされる。

 取引で何か相手を怒らせる事があったのか?

 劉亮が読み進めていくと、それは実に呆れる内容であった。


 口コミで蒸留酒の存在を知った鮮卑の者は、早速購入し、説明もそこそこに飲み始める。

 最初はチビリチビリだったが、次第に大胆に飲み始めた。

 そこに別の鮮卑族がやって来る。

「お前、それは俺が頼んだ奴ではないか!

 毒見に一杯は許したが、既に数本開けているとは何事だ!」

「やかましい!

 遅れて来た方が悪い。

 俺が酔うまでに止めなかったあんたが悪い」

「お前、里長に向かって何だ!」

「うるせえな!

 こっちには何人居ると思ってんだ!

 酔っ払い五人!

 お前ら老人十人なんて屁でもねえ」

「よし、殺す」

「殺し返す」

……といったやり取りで、市場を巻き込む大乱闘が発生した。

 これが第一幕。


 問題を知った大人(たいじん)が兵を連れてやって来て、

「足りないからこんな事になる。

 出し惜しみするな!」

 と酒を求めて市場中を駆け回る。

 そして、漢人が私用で持っていた酒を見つけ、刀を抜いて脅し取った。

 これが第二幕。


 噂を聞いた烏桓族単于、劉亮の姻戚に当たる蹋頓の配下たちがはるばるやって来て、

「この市場を警護するよう、単于から命じられた。

 その見返りとして、優先的にあの辛い酒を回すように!」

 と居座ってしまった。

 これが今、という事であった。


「どうします?

 生産量はそこまで多く無いんですよね?」

 生産設備が小規模な為、北方の遊牧民全員が満足する量なんて生産出来ない。

 価格はかなり高額に設定していて、貿易赤字を取り戻し、砂金入手で黒字になる勢いだが、高い代償を払ってでも彼等は酒を欲する。

 価格なんてどうでも良い、量が必要だという訳だ。

 そして、足りないとこうやって問題を起こす。

 陳羣は、対北方民族の事にはタッチせず、劉亮に丸投げをしている。

 他人事のように話していた。

「よし、烏桓鮮卑匈奴(あいつら)にも作り方を教えよう」

「お待ち下さい。

 それだと交易における売り物を、みすみす手放す事になりますぞ」

 漢から買わないとダメだから儲けになっている。

 自分たちで作れるなら、大金を出して輸入なんかしないだろう。

「蒸留器を、彼等は造れない。

 似たようなのは造れても、質が良く大きい物のは無理だ。

 酒の生産量が多くなれば、今度は蒸留器が売れる」

「……分かりました。

 しかし、州牧殿は豪族の出なのに、よくそんなに交易の良案を簡単に思いつきますね」

 中の人が、この時代の人間ではないからだ。


 劉亮は、自分に仕える烏桓族に蒸留の仕方を教え、それを北方の市場にもたらす。

 蒸留酒の造り方を聞いた彼等は大喜びしていた。

 やがて彼等は馬乳酒を持ち込み、そこで蒸留酒にして飲む事を始める。

 そして馬乳酒の蒸留酒と、漢側の穀物蒸留酒を交換したりした。

 こうしてモンゴリアン・ウォッカとも言える酒が、幽州だけでなく、并州や涼州の市場からも漢内に流入して、結構な人数のアルコール依存症患者を生み出してしまうのだった。

おまけ:

モンゴル人、酒に相当強いイメージ。

ウォッカとか白酒とかストレートで飲む。

そんな相手の禁断の扉を開けてやった感じです。


なお、ショットグラスを用意しないと、適量分からずにガブ飲みして身体壊す人が続出しそう。

ある意味「埋伏の毒」の計になってる……。


郭嘉「いつぞやは殿に潰されてしまったが、あれは良い酒だ。

 荀彧殿に何を言われようが、飲むぞ!!」

……この人の命数にも関わって来るようで。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後世のモンゴルの皇帝や皇族ってたくさん酒の飲み過ぎで死んでますもんね。
[一言] アルコール消毒って今病院でしてないからね!結構前から水で消毒してる。 学会で水で消毒してもアルコールで消毒しても効果は変わらないと発表され認められたとか。 と言うことを看護師を定年退職したウ…
[一言] さらっと郭嘉の寿命が削れていく……
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