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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
番外編:青州牧劉叔朗の日々
93/112

不思議な鍋の使い方

番外編です。

本編より1話あたりの文字数は少なくなります。

転生ものなら恒例の、未来知識を使って何やら作るシリーズです。

本編でちょいちょい登場した物の開発秘話になります。

 中華料理には欠かせない鉄鍋、その歴史は新しい。

 明の時代になって、鉄が民間でも大量に使われるようになった。

 それまでの鍋とは、陶器で作られたものであった。


 漢の経済は塩鉄専売で成り立っている。

 塩は既に触れた。

 生活必需品を独占販売し、高額設定する事で漢の朝廷は莫大な利益を得ていた。

 だから私塩が作られ、その密売人は朝廷によって捕縛される為、朝廷の追捕人を追い払うような製塩業者の用心棒なんかが存在した。

 関羽の出自は、そういう塩密売人の護衛である。


 一方鉄の方は、武器や農機具に使用されていて、鍋なんかには回せない。

 塩程ではないが、鉄も十分な必需品であり、趣味の分野には使われていなかった。

 調理器具や食器には銅製品が使われている。

 しかしそれは裕福な者の場合で、一般的には瓦とか陶器とか、一番簡単なのは瓢箪を縦に割ったものだったりする。


 劉亮が州牧を勤める青州は陶器製造が盛んである。

 そこで劉亮は、新しい鍋の発注を掛ける事にした。

 それが汽鍋であった。


 中国の東部は、河川の下流域に当たる。

 上流は清流でも、下流に行く程に泥臭くなる。

 前世が「水道の水を飲める国」という水で困らない国生まれの劉亮だが、それをこの世界まで引きずってはいない。

 前世ですら、水道が通っていない国、飲料水は買わないと危険な国に赴任していたのだ。

 濾過とか薬を混ぜて消毒とか煮沸とかで、飲めるようにする技は心得ていた。

 だが、先日のビール醸造において

「綺麗な水が必要だ!」

 と覚醒したのである。

 簡単な浄水は、小石、藁、木炭を使った濾過である。

 その上で煮沸して使う。

 それでも不満が残った為、前世の記憶を頼りに汽鍋の図面を書いて発注したのだ。


「へえーーー、州牧様は面白いもの考えるなあ。

 作る方は大変だけどなあ」

 職人は感心しつつも、製作の面倒臭さに不満を漏らす。

 劉亮はボソっと

「蜀の更に西、南蛮の地で作られているものだが、そうか……難しいのか」

 と聞こえるように呟き、

「聞き捨てなりませんね。

 この青州が南蛮よりも劣る訳ないでしょう!」

 と職人の負けん気を煽ってみせた。


「よし、頼むぞ」

 と、大は人が入るような物から、小は持ち運び出来る物と注文する。

 この辺劉亮の中の人も悪い企業家、経営者と同じである。

 相手を(あお)って、(おだ)てて、銭を見せびらかして、無茶振りをする。

 窯業は流石に前世でもやった事が無い。

 プロに任せるのだが、プロは今までに自分がやった事が無い作業については結構嫌がる。

 だから納期までに間に合わせる為、発注者は手練手管を使うのだ。


 こうして出来た汽鍋の実験。

 下の鍋には海水を入れ、それを沸騰させた蒸気を上の鍋に満たしていく。

「随分と悠長なものですなあ」

 皮肉を言われながらも待つ事数刻、上の鍋には綺麗な水が作られ、下の鍋には塩が残っていた。


「塩が出来た!」

 職人たちは驚き、同時に恐れる。

 これは密造の私塩にならないだろうか?

「私が許可する。

 この塩は持ち帰って使いなさい。

 ただし、売ってはいけません。

 売れば法に触れる事になりますからね。

 まあいずれは、売れるよう朝廷からの許可を貰おうと思っています」

「州牧様は、だから大きな鍋を作れと命じたのですね?」

「ん?

 ま、まあそういう事です。

 塩が作れたら、貴方たちの生活の足しになるでしょうし、売れたらこの地も栄えます」

 塩を売るというのは、劉亮もついさっき思いついたのだ。

 だが、官営の塩製造業者はこの青州にも居る。

 国家の財政に関わる事業でもあるし、領内の業者との利害も関係する。

 ここは上手く調整しないと、同じ州の中で殺し合いに発展しかねない。

 まあ、もっと大きな塩釜となる汽鍋を作らないと、採算が取れる量の生産は出来ないのだが。


 清潔な水を得るという事で、汽鍋を開発させたのだが、この鍋の本来の使い方は浄水なんかではない。

 普通に料理を作る事である。

 別の鍋で、発祥の地である雲南と同じ鶏料理を作ってみせる。

 調味料はさっき作った塩だ。

「これは!

 泥臭さが無い、上手い(スープ)ですな。

 州牧様は料理にも秀でておられたのですね」

 職人たちが感心しているが、塩と違ってこちらは計算通りであった。

 こういう物は大量に作られないと単価が下がらない。

 それには、使ったら便利だと知られる必要があった。

 民需が増えれば、生産量も増すし、次第に製造コストも下がるだろう。


 目的を果たした劉亮は、もう一種類の鍋を持って帰宅する。

「ちょっと試して欲しいのだが」

 劉亮は白凰姫と楼煩、子供たちを呼んで料理の味見を頼む。

 建安四年には娘が産まれていて、その子が白凰姫に抱かれていた。

 彼等は謎の器具に驚きを隠せない。

 赤ん坊ですら、謎の形状に目を丸くしている。

 喋れる長男がたまらず質問した。

「父上、これ何?」

「これはタジン鍋と言って、料理を作る鍋だ。

 尖がっているのは、蓋だよ」

「分かんない。

 鍋って、こうグツグツするのでしょ?」

「まあ、そっちの方が多くを煮込めるから良いけどね。

 肉と野菜は有る?」

「阿房が狩りで獲って来た野鳥なら」

「……もう鳥を獲れるくらいまで弓の腕を上げたのか?」

 長男が胸を張って、父に威張ってみせる。

 劉亮は董卓から貰った刀を使わせたらまずまずだが、弓の腕は良くない。

 もう少し成長したら、長男の方が弓の技術で父を追い越すだろう。


 さて、狩猟して得た鳥の羽を毟り、血抜きをした後、適当な大きさに切ってタジン鍋に入れる。

 野菜は結構な量を使って下に敷く。

 そして水蒸留の副産物である塩を軽く振った。

 待つ事暫し。

「え?

 水が無いのに、(スープ)が有る!」

 子供たちが驚き、白凰姫と楼煩、見に来た他の烏桓人たちも目を見張る。

「どうして、父上どうして?」

 劉亮はタジン鍋の仕組みを紹介した。

 重い蓋が圧力を高める事や、野菜に含まれている水分が出て来た事、それが水蒸気となり、高い円筒状の蓋で冷やされて水滴となり、スープを作る事等等。

 子供の方は、聞いていてサッパリ理解出来ない。

 理解出来ないながらも

爸爸パパ弱いけど、魔法を使えるんだ)

 と尊敬し、一方で恐れるようになる。


「で、どうかな?

 これって水が少ない烏桓の地で使えるんじゃないかな?」

 烏桓人たちが大きく頷いた。

 そして、これを見せる為に自分たちを呼んだのだと理解する。


 現在、幽州の市場等で行われている北方民族と漢族の交易は、劉亮の方針で適正価格での取引にした為、漢側の赤字となっている。

 砂金との取引で食糧や布、酒や武具等を大量に渡している為、北方民族が豊かになる一方、漢人にはメリットが少なかった。

 金は得たいのだが、対価の生産物だってそう潤沢な訳ではない。

 彼等が欲しがる、売れる輸出品を作っておきたかった。

 水の少ない地で、こうして料理を作れる物が有れば彼等も喜ぶだろう。

 その為には、同じ烏桓族にその成果を見せて教える。

 彼等に交易市場まで行って貰い、実演というプレゼンテーションで商品の売り込みを図りたい。

 簡単に見えるから、模倣もするだろう。

 しかし窯業において漢は先進国、窯を使った質の良い鍋を必ず欲するようになるだろう。


「父上……それ何?」

 子供たちが、劉亮が手にはめている物を面白そうに見て来た。

「これは鍋掴みだ」

 散々鍋の開発をして来たのだ、熱い蓋を取って火傷をしたら割りに合わない。

 輸入した羊毛を使って開発したのである。

 劉亮は様々な台所用品を開発していた。

 それは「美味い物の為には知恵を出し惜しみしない」だけが理由ではない。

 タジン鍋はついでのようなもので、本命の汽鍋が出来た、これを使っての新たな試みの為に必要なものでもあったのだ。


(見てろよ、曹操。

 いつか必ずギャフンと言わせてやる!)

 劉亮のちょっとした対抗心が、技術の発展を加速させている。

おまけ:

劉亮の前世の人は、赴任先で

「無ければ作る、有り合わせでどうにかする」

をやって来た人なので、色々やる下地は持っている人です。


おまけの2:

現代の中華料理の形が出来るには、

・宋代に窯業の発展と共にコークスとかを使って火力が増す

・元代に遊牧民の影響で獣脂が大量に使われる

・明代に鉄鍋が一般的になる

・清代に満州料理がもたらされる

と段階を踏んでのものになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 技術的には鍋なら早い段階でコピー品が出回るだろうな。 曹操の定住化という意味ではこの延長で家財を増やしていくということで促進されていきそうだ。
[一言] 汽鍋っていうのを初めて知りました。 調べたら、作るのに手間というか時間はかかるようだけどおいしそう…
[一言] 中華四千年というだけはあるな 確かにそれだけないと現代の中華料理にならないのか
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