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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
番外編:青州牧劉叔朗の日々
92/112

中の人の発作

番外編です。

本編より1話あたりの文字数は少なくなります。

転生ものなら恒例の、未来知識を使って何やら作るシリーズです。

本編でちょいちょい登場した物の開発秘話になります。

 劉備玄徳の弟・劉亮叔朗の中の人は、千八百年以上未来の日本人だ。

 死亡時の年齢は四十九歳、加齢臭が出ているオッサンである。

 彼は時々、生ビールを飲んで熱々の餃子を頬張りたくなる。

 それでテレビで野球中継でも見られたら幸せだ。

 大学の時は、球場に足を運んで野次を飛ばしていたものだ。

 まあ野球観戦は、海外赴任が多くなった事で嗜好から消えていく。

 しかし「とりあえず生」の魅力は、こちらの世界に来て二十年以上経っても忘れられない。


「青島ビールを持って来い!!」

 そう叫んだ所で、場所は合っていても時代が違い過ぎる。

 後に山東省と呼ばれる地域を治めていても、ドイツという国に支配された時に作られた青島ビールなんてものは、まだ存在していない。

 発作を抑えつけながら暮らして来たが、ある時どうにも抑えられなくなった。

「無かったら作ってしまえ!」

 この時ばかりは、曹操のバイタリティーが劉亮に憑依していた。

 かくして劉亮のビール醸造が始まる。


「で、麦芽は分かるけど、ホップってどんな植物だったかな?」

 飲む専門だったから、ホップという植物を見た事はない。

 いや、見ていたかもしれないが、意識していた訳ではないから覚えていない。

 転生者で未来の記憶があると言っても、知らないものは知らない。

 この世界から元居た世界に検索をかける事も出来ない。

 ビール醸造は早速暗礁に乗り上げてしまった。


「過去に同様の酒が造られた事は無かったか?」

 劉亮は古文書を当たってみる。

 字を書く方は苦手だが、読む方は抜群だ。

 アンバランスな能力なので、よく物を知っていても「だが字が汚いから、あれは志が無い」とか言われたりする。

(気骨の士だって褒めたり、字が心を現すからただの野人と言ったり、忙しい事だ)

 と自分の評価は他人事のように思う劉亮。

 話を元に戻すと、彼が州牧を勤める青州は春秋戦国時代の斉の国で、歴史が古い事もあって文書を色々と読み漁る事が出来た。

 職が終わった時間でも、色々と読みまくっている姿が属吏たちから目撃されるようになった。

 その結果

「州牧閣下が早朝から深夜まで仕事をしている。

 これは見倣うべき態度だ」

 と儒学系官吏が早出・残業をし始めた為、別駕の陳羣から

「一番偉い人がそういう姿を見せると、下の者が休めなくなる」

 と注意されるに至った。

 劉亮の中の人は、前世で多忙な時期に深夜まで仕事をさせられた為、数十年経ってもその悪い癖が抜けていない。

 まして自分が州で一番偉くなったから、それが部下に無言のプレッシャーを掛けている事に自覚が無かった。

(ヤバいな、俺が嫌いなブラック企業化を、自分が推し進めていたとは……)

 陳羣に注意をされて、劉亮は部下たちに定時での出退勤を促し、自分の残業……と見せかけた庁舎での調べものを止める事にした。


「そこまで一体何をされているのですか?」

 陳羣の問いに、劉亮は上手く答えられない。

 この一月程、ビールが飲みたくてうずうずしている。

 それを言うのが恥ずかしい訳ではない。

 確かに陳羣は、「史実」だと余りに飲酒が過ぎて勤務態度が悪い郭嘉を、曹操に言って批判した事があるように口うるさいタイプだ。

 だが、付き合っていると「度を過ぎた行為」でなければ普通に見逃してくれる。

 だから酒を造りたいって言う事は良いが、ビールという単語を伝えられない。

 彼の前世では、中国語で「啤酒(ピージウ)」と呼んだが、その言葉はまだ存在しない。

 台湾語では「麥仔酒」というが、これも通じない。

「麦酒」と言ったら、妙な濁酒を出された事があった。

 だから、麦で作って、苦みがあって、シュワシュワと泡が出る黄金色の酒をそのまま説明するしか無かった。

 そして酒屋の主人たちは皆首を傾げた為、通じないものと諦めていたのだ。

 それでも一応聞いてみる。

 すると陳羣は

醪醴(ろうれい)の事ですかな?」

 と答える。

「知ってるんですか?」

「はい。

 古来、祭酒として造られていたものです。

 今では余り造られなくなったようで……。

 まあ、今でも有ると言えば有るのですが……」

 どうやら後漢末期の醪醴と言えば、麦酒を頼んで出されたあの濁酒というか甘酒の事であった。

 それには落胆するも、調べる取っ掛かりは出来た。

 陳羣に感謝の言葉を述べ、古代の祭祀の研究と称して「醪醴」についての情報提供を部下たちに命じる。

 この辺、明らかに公私混同であった。


「えーと、大麦・キビ・アワ・ジュズダマを原料に使う、か」

 ジュズダマとはハトムギの原種の事である。

 とりあえずそこまで調べた後、酒造に詳しい者を雇ってビールの自家醸造に手を出す。

 自分ではやった事が無かったが、前世で世界各地を回った時の記憶を頼りに工夫を凝らしていた。


「そういえば濾過が必要だった。

 濾過器の開発も必要だが、確かビールは数日で発酵、二週間くらい熟成だから、その間に作れる簡易的な物を用意しよう。

 あとは殺菌が必要だったかな。

 殺菌しない生ビールが良いけど、初めて作るし、この世界の衛生状況からしても殺菌した方が良いな。

 だけど、どうするんだったか?

 思い出さないと……。

 酒を自作していた原住民たちはそんな事していなかったし……。

 企業見学とかした時だな、その時なんて言われたかな……」


 ぶつぶつ言いながら考え込む劉亮を、長男は変な物を見る目で見ている。

「母上、父上はどうしたの?」

「何か考えているんですよ。

 貴方たちの父上は凄い事を考える人なんです。

 きっと民の生活を豊かにする事を考えているのです。

 知らんけど。

 頭が良い父上の事は置いといて、今日の鍛錬を始めますよ!

 まずは裸馬に乗って、街の外まで行って来なさい!

 騎射の練習はそれからです!」

 妻の白凰姫は、幼い子供を烏桓流に育てている。

 長男は幼名・阿房といい、建安元年の生まれだ。

 だから建安四年はまだ三歳なのだが、もう馬に乗り弓を引かされている。

 母である白凰姫は子供に対し、長じて学問が必要になるならその時からで十分、まずは一個の人間として草原でも生き抜ける武力が必要という方針であった。

 学問の早期教育なんてなんのその。

 それを夫の劉亮、主君の劉備も認めていた為、子供たちは大人の烏桓族に混じって日々馬で走り回り、弓の特訓や相撲をして鍛えられていた。


 それから約一月。

 劉亮もビール醸造にばかりかまけて居られなかったが、それでも時間が有る限りは協力していた。

 そうして手を掛けた物を、やっと口に出来る。

 沸騰しない熱湯で殺菌し、濾過をして器に移された液体。

 それっぽい匂いはする。

 しかし

「泡立ちが足りない……。

 熱を加えたとはいえ、炭酸がまるで抜けている。

 いや、熱よりも密閉が不十分だった。

 よし、飲むぞ。

 うん、甘い!

 苦くない!

 失敗だ!

 ちょっとビールっぽい他の何かだ」

 と、初回の作は失敗であると劉亮は判断する。


「いや、こんな物ですよ」

「出来が良い酒だと思いますね」

「濾す作業とか火入れとか、州牧様の手当で随分と綺麗な酒に仕上がったように見えますね」

 雇った職人たちは満足している。

 当時の酒は濁酒が主なもので、放っておけば更に発酵が進むものだった。

 濾過は知っていたが、火入れは知らなかった為、彼等にしたら良い酒が出来たと思っている。

 まあ、量産出来るものではないから、売り物にはならないが。


 後日、このビールもどきを見て口にした陳羣は

「祭祀用の醪醴はこんなものではないですか?

 色も透き通っていて、酒精も効いている。

 これで十分でしょう」

 という評価を下していた。


 ホップが無いのに、比喩としての苦い酒を飲んだ劉亮の中の人は、それでも諦めない。

「器具の問題だ。

 もっと酒造りは上手くやれる。

 今回は発作的に始めたから、色々と手探りだった上に、泥縄的に器具を作ったりした。

 次は今回の反省を踏まえて取り組もう!」


 不味いなりに、何か違うけどビールっぽいものを飲めた為、発作は収まった。

 満足してではなく、失敗して反省して収束した感じだが。

 それでも酒造は続けていこう。


 やり始めたら凝り性の劉亮の私欲から始まった事は、次第に歴史を変える事業に発展するのだが、この時点で劉亮はそんな事は知らなかった。

番外編は出し惜しみせずに一日4話ペースで公開します。

本編2話の後なので、今日はあと1話。

この後、23時にもアップします。



おまけ:

騎馬民族、幼い頃から馬に乗ってますが、大人も一緒に乗ってサポートしてます。

流石に三歳で乗馬は無理。

感覚を養う為に馬上生活させるくらいのものです。

(これだけでも漢民族とは段違いの騎乗脳裏になりますが)


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― 新着の感想 ―
[一言] 白鳳姫久々やな 知らんけどはコレ絶対劉亮が普段から使ってて移っただろw 時代を超えて流行らすなw
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