表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第八章:新しい歴史
77/112

第三回方針策定会議

 袁紹が死んだのを知ってからしばらくした日の事である。

 劉備が張飛、劉徳然、太史慈を伴って徐州郯城にやって来た。

「一体何事ですか?

 言えば、青州まで行きましたのに」

 再建途中の徐州よりも、支配地域の中間に位置して、既に安定した統治が行えている青州に居れば良いものを。

「いや、関さんとか麋竺殿とかも呼びたいから、それなら此処の方が良い。

 田豫殿には迷惑を掛けるが、幽州から来て貰う。

 既にこっちに向かっているし、迎えに徳公を出しておいた」

 つまり、劉備陣営の主要なメンバーが揃う事になる。


 数日後、全員が揃った所で劉備が密書を皆に披露した。


『渤海の件、上々  ……田豊』

『鉅鹿を取り纏めつつあり  ……沮授』

『河間郡、同志を集めた  ……張郃』


「これは?

 まさか兄者は、亡き袁紹殿の家臣を調略していたのですか?」

 劉亮が思わず大声を出してしまった。

 劉亮は、自分がそれをしようと思っていたのだ。

 陳羣から「時を待て、今は危険」と言われ、まずは徐州再建に専念していたのだが……。

「俺は何もしてはいない。

 あっちから近づいて来たんだ。

 どうやら俺に冀州を貰って欲しいらしい」


 田豊はかつて韓馥に仕えていたが、これを見限って袁紹に冀州を譲り渡すよう工作した者である。

 沮授はこれに反対したが、結局受け入れて袁紹に仕えた。

 張郃は武人として淡々と主を変えたまで。

 彼等は公孫瓚との戦いまでは重用されて来たが、曹操との対決決定以降は意見が取り入れられなくなった。

 それだけでなく、他州出身で袁紹に従って来た者たちからは、讒言されて失脚させられそうになっている。

 だから再び主を変えるべく、劉備に接近したのだろう。


「一度裏切った者は、その後何度でも裏切りを繰り返す。

 このような輩を信じるべきではない」

 関羽がそう断ずると、張飛と太史慈も同意する。

 主・呂布処刑後とはいえ、主を変えた形になる高順は複雑な表情であった。


「田豊殿も沮授殿も優れた軍師。

 劉亮殿がかねてから探していた人材です。

 私は彼等の受け入れに賛成します」

 陳羣がそう言い、麋竺や陳登、孫乾もこれに同意する。


 武将たちは己の武が有るから余り認めたくないが、文官たちからしたら、劉備軍は戦に弱いように見える。

 これは比較対象が呂布や曹操だからである。

 劉備は標準以上に強い将軍だし、指揮を担当する張飛も、別動隊として活動する関羽も十分に強力だ。

 ただ客観的にはそうでも、実際に対峙するのが曹操軍である以上、他より強いと言っても意味が無い。

 曹操軍に対抗出来る、軍事面での軍師が必要だと彼等は思っていたのだ。


 田豫はまた異なる見解を示す。

「私は長老の劉元起殿と話す機会が多いので、代弁させて貰います。

 殿は汚れ仕事が出来ない。

 だから、それをやってくれる者が必要だ。

 韓馥をして袁紹に冀州を譲らせる詐術をやってのけた田豊殿は、この先必要になりましょう」


 この意見を聞いて、また関羽たちが怒る。

「劉将軍に汚れ仕事等不要!

 正々堂々と戦うまで」

 文官たちは

「そういう意識だから、邪道な手でも躊躇なく使う曹操軍に一手及ばないんじゃないのか?」

 と言ってしまい喧嘩になりかける。


「まあ皆、言いたい事は分かったから、俺の話も聞いてくれないか。

 俺と、この徳然が見て来た袁紹陣営の中の話なんだ」

 一瞬にして議論が収まり、皆が劉備の方を見る。

 劉備が語ったのは、袁紹軍の内情というよりは袁紹との最後の会話であった。


 袁紹は皇帝に成ろうとした。

 黄河の戦いから三年前に袁術が皇帝を宣言した時、あらゆる勢力が袁術を批判した。

 しかし今はそれから五年が経つ。

 皇帝になる、そう口にしても「あいつもそう思っているのか」で済まされてしまう。

 そこまで漢の皇帝の権威は低下した。

 ある意味袁術は早過ぎたのかもしれない。

 だから、袁紹が皇帝を目指したのを、劉備陣営の誰も批判しない。

 袁紹は、他の皇帝僭称者とは違い、天下の為を考えてそう志した。

 そして天に恥じない見事な皇帝たらんと己を律した。

 そうして皇帝を志した袁紹は、変わっていく家臣たちを見て、自分では無理だと悟った。

 だがもう引き返せない。

 分裂気味な家臣たちを束ねる為にも、神輿であり続けた。

 袁氏は「三公」という朝廷の最高位であれば分相応で、それ以上を望んではいけないようだ。

 だが既に、息子たちも家臣たちも夢を見ている。

 皆が「袁術の亡霊」に取り憑かれてしまった。

 袁紹が亡くなったのであれば、袁譚と袁尚は自分こそが皇帝に。

 取り巻きたちは、皇帝の側近に。


 袁術の亡霊に取り憑かれた者たちは、お互いに足を引っ張り合っている。

 しかし、中には袁術の亡霊に取り憑かれておらず、そこから距離を置いた者たちがいる。

 その者たちは、同じ信仰の解釈違いである「異端」ではない、「無神論者」のような扱いとなる。

 同じ夢を見られない者は、敵対とかでなく、排除されるのだ。

 こうならないよう、袁紹が抑えていたのかもしれないが、もう箍が外れた。

 田豊や沮授が一線を外れて故郷に帰ったのは、そういう理由である。

 鄴に居たら命が危うい。

 こういった袁術の亡霊に取り憑かれていない者の中には、袁隗たち元朝臣たちも居る事を劉亮は文通によって知っている。

 彼等こそもっと前から、袁氏は皇帝になってはならないと主張し、煙たがられていたからだ。


 ここで劉備は、袁紹の遺言を語る。

 それは病の床の袁紹が、劉備の本音を語らせようとした策謀ではあった。

 しかし劉備は、そこに若干の真実が含まれていると感じた。

 真実が含まれていない丸っきりの作り話を、人は信じない。

 袁紹の遺言とは

「冀州を奪っても構わない、代わりに袁氏をよろしく頼む」

 というものだ。

 劉備の中で相当に四捨五入して話しているが、袁紹を看取った劉徳然も近い話をする。

「魏王は……魏王は、ご子息が骨肉の争いをする事を嘆いていました。

 袁譚・袁尚ご両人とも自分に及ばないのに、と……。

 身内で争えば曹操には勝てない、だから袁氏を纏める仲介役になって欲しいと、王は私の手を取って仰いました」

(まあ、リップサービスではあるな)

 相当弱気になっていても一代の英雄・袁紹が、毒にも薬にもならぬ劉徳然にそんな事を本心から頼むとは思えない。

 劉亮に同じ事を言って来ているのは、袁隗である。

 あの董卓からの脱出行以来、袁隗は劉亮をずっと頼みにしている。

「袁家はこのままでは滅亡する。

 本初は凄い奴ではあったが、やはりあいつが我が家を危うくした。

 分不相応な夢を見た報いだ。

 だが、『四世三公』の家柄を潰したくはない。

 あの馬鹿息子たちを夢から醒させ、手を取り合って曹操と張り合うようにしたいのだ。

 それで、いざという時は叔朗殿に縋るつもりだ」

 なんて頼られて、劉亮は困っていたのだ。


「では、冀州を奪う事が不義にはならない、と?」

 太史慈の問いに、劉備はあっさり

「不義に決まっている。

 言葉をどう言い繕おうと、他人の領土を奪うのは不義に決まっている」

 と答える。

 引き続き

「袁紹殿も、俺に譲るなんて一言も言っちゃいない。

 奪える物なら奪ってみよ、この程度さ。

 だけど、不義をやらないと冀州は丸々曹操の手に落ちてしまう。

 袁の坊ちゃんたち、俺の義兄弟になるのだが、あいつらに仲直りして共に当たろうって言っても、かえって俺が害されそうな勢いだからなあ。

 纏まって掛かれば何とかなるかもしれないが、内で争いながら外で曹操に当たるなんて、絶対に勝てねえ。

 俺は陶謙の援軍で曹操と戦った時、次に曹操と一緒に呂布と戦った時、あいつの強さはよ〜〜く見て来たんだ。

 あの坊ちゃんたちじゃ、曹操には勝てない」

 そう語る。

「しかし左将軍が冀州を貰っても、結局曹操には勝てないのじゃないですか?

 今まで一回も勝ってませんよね」

 陳羣の冷静なツッコミに、劉亮は内心

(いや、全くその通りだ)

 と拍手をしていた。

 自分たちが侮辱されたと感じて怒りの表情を浮かべる関羽。

 それを制した劉備は、にこやかな表情で

「全くなあ。

 そうなんだよ、俺では曹操に勝てない。

 冀州を取られたら、もっと勝てない。

 だからといって不義を行って冀州を奪っても、やっぱり曹操に勝てない。

 何もしなくてもダメ、積極的にいってもダメ、どうしようか?

 だから皆に来て貰ったんだ。

 頼むぜ、皆さん」


 袁紹は優柔不断と言われて来た。

 それは、出来るだけ家臣の意見を聞く、名士・知者が活発に議論出来るような器を目指した結果、意見に振り回されるようになったからだ。

 劉備もまた他人の意見を聞いている。

 だけど、劉備を優柔不断と言う者は居ない。

 それは劉備が、良い答えを得たらしっかり決断するからだろう。


 田豫が劉元起や他の幽州人士の代表として話す。

「確かに劉将軍では曹操に勝てません。

 しかし、袁紹軍の半分でも味方に出来たら、負けないと思います。

 田豊殿、沮授殿は天下に聞こえた名軍師。

 彼等の助言を得られたら、曹操相手にもどうにかなるでしょう。

 私や、涿郡の皆さんがこう言うのは、将軍の天下を期待しているからです。

 将軍は黄巾の乱の旗揚げの時から、一貫して民の為に戦って来ました。

 将軍の天下なら、皆が安心して暮らせましょう。

 幽州から見たら、冀州はお隣。

 長い公孫瓚と袁紹の戦いで民は疲れています。

 ここの民も将軍が救えたら良いと存じます」

 劉備は頭を掻きながら

「俺はそんな大した人間じゃないぞ。

 皆が勝手に俺の姿をでっち上げてるだけだ。

 田豫殿は昔の俺を知っているだろ?

 俺は派手な遊び人で、面白い事があったらすぐそれに流れる、民の事は考えてはいるが、大した展望を持っていない。

 だから皆の助けが必要なんだ。

 それだけでも、俺は袁紹殿や曹操に及ばないんだよ」

 と言うが、それに対して意外にも陳羣が

「だからといって、曹操に屈する気は無いんでしょう?」

 と聞く。

 劉備が頷くと、関羽、張飛、太史慈、高順が我が意を得たりと拳を握る。

「ならば、おやりなされ。

 冀州を奪い、袁家を保護しながら曹操と戦い、天下を競いなされ。

 今が絶好の天の時。

『天の与うるを取らざれば、(かえ)って其の咎めを受く』

 と申しますぞ」


 慎重居士な陳羣の言葉に、劉亮は驚いた。

 この人がこんな事を言うなんて。


「だが、先程左将軍が仰ったように、冀州を奪うはどうあっても不義。

 譲られた訳でもない冀州に乗り込めば、袁譚・袁尚両方が揃って反発しましょう。

 袁兄弟での争いですら曹操の餌食となるもの。

 これに将軍まで絡めば、より冀州は混乱し、曹操に太刀打ち出来ないものとなりましょう」

 袁渙が悲観論を唱える。

 もっとも袁渙は、冀州奪取に反対ではなく、危惧する事を口にしただけだ。

 それに対して陳羣が劉亮の背後に立ち、肩を揉みながら告げた。


「左将軍には曹操との戦いに専念して貰いましょう。

 その間に、この弟御が冀州を乗っ取るのです。

 そうすれば左将軍の名声に傷はつきません。

 州牧殿は、我々は濡れ衣だと知っていますが、そうでない人には悪名が轟いています。

 あの騎馬民族を引き入れて漢土を荒した大悪人、なりふり構わない狂人。

 州牧殿にこれ以上悪名が追加されてもどうという事はありません。

 州牧殿に怨嗟が向かえば、左将軍には敵意が向かない。

 汚れ仕事をするには持って来いでしょう」


 一同が膝を打った。

 そう、劉家には劉備だけでなく劉亮がいる。

 ある意味天下に名が轟く、光の劉備と対となる闇の劉亮。

 実態は頭がいい割に人を殺せない甘ちゃん。

 それでも曹操軍からは「劉亮之禍」なんて言われる程に恐れられる存在。

 中には劉亮を、犬戎を使って西周を滅ぼし、幽王を殺した申侯に例える者もいるという。

 天下の為という大義の為、劉備は冀州奪取という不義理をする決意を固めた。

 その担当者は信頼が置けて、かつ中身が陰謀好きではない誠実な者でないと、関羽や張飛たちが納得しない。

 皆は、まだ実際の人間性を見てないから疑っている田豊・沮授と違い、劉亮ならよく知っている。

 汚れ仕事担当が劉亮なら問題無い。


 劉亮は全員から寄せられる期待という圧を浴びながら

(陳羣ン……、お前最近上司に対して酷いじゃないかぁぁぁぁ!!!!)

 と口に出せぬ絶叫を上げていた。

おまけ:

段々、陳羣がいい性格になって来たように思います(笑)。


おまけの2:

当初30万字で書いていましたが、毎話毎話加筆していた結果、45万字を超えてしまってます。

最終話まで書き終わっているのは確かですが、1話あたりの文字数が今後も増えていくと思われます。

文字数詐欺、失礼いたしました。

銀⚪︎みたいく「終わる終わる詐欺」ではないので、111話終了&112話があとがき、と予告しておきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こんなに魅力的な陳羣は見たことがない
[一言] 素晴らしい大逆転の秘策がありますぞ。 史実で李傕を滅ぼした裴茂に恩を売るんですよ。 そうすれば三国志に注釈をつけた裴茂の子孫が 実は劉亮はいい人だったとか書いてくれるかも。 つまり現世での悪…
[一言] ひっでえ そんな闇を背負わせるなら天下統一した後簒奪されても文句言うなよ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ