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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第六章:新勢力台頭
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呂布の最期

 青州の劉亮の元に

『直ちに兵を率いて逆賊・呂布の討伐に参加するように』

 という勅命を持った使者がやって来た。

 勅命とか言いつつ、それは曹操が出したものである。

 とりあえず一万の常備兵を率いて、劉亮自ら出向く事にした。


「兵の鍛錬の意味も有ります。

 折角の戦なのですから、十万とは言わないまでも、五万程は引き連れて行っては如何でしょう?

 そして拙者も参陣したいと思いますが」

 太史慈がそう言うが、劉亮にはこの勅命とやらの裏が透けて見えていた。

「将軍の参陣は認めましょう。

 しかし、兵の動員は不要です。

 既に呂布は下邳で籠城戦に入っているようで、しかも曹操軍は特に攻城をせず、遠巻きに囲んでいるだけと聞きます。

 行っても兵の鍛錬は出来ず、いたずらに備蓄食糧を減らすだけになるでしょう」

「しかし、こうして増援しろという命令が出ていますが」

「太史慈殿、曹操に会った事は無いですよね?」

「は、有りません」

「これは恐らく、あの人の悪戯ですよ。

 実際は私を呼び出したいだけ。

 近くに来ているのに、挨拶の一つも無いとは何だ、ってものです。

 その為に、こんな仰々しいものを寄越したんでしょう」

「ですが、勅命ですぞ」

「勅命にしないと、州牧である自分を任地から呼び出せないからです。

 行けないって返事をしたら、また別の手を使ってくるので、ここは行っておきます。

 なお、普段なら私に代わって烏桓兵の指揮をする我が妻は青州に残します。

 理由は何故か分かりますか?」

「本来、戦場に女性を連れていくものではないからですか?」

「いいえ、曹操は人妻が好きで、私の妻にもちょっかいを掛けて来るからです」

「……分かりました。

 州牧閣下は曹操との付き合いが深く、色々と分かっておいでのようです。

 判断に従います。

 しかし、そうであっても兵の戦場経験は欲しい所です。

 閣下直属の烏桓兵は今回は使わず、軍屯兵も含む二万の歩兵でどうでしょうか?」

「分かりました。

 将軍の提案を受け容れます。

 留守は陳別駕と劉主簿(劉徳然)に守って貰いましょう」




 青州を出発した劉亮と太史慈は、劉亮が言った通り一切の戦闘をする事なく、下邳城包囲陣に到着する。

 既に曹操は水攻めを行っていて、包囲陣は城から相当離れた場所に敷かれていた。

 兄の陣に行って挨拶をすると

「そぉいっ!!」

 いきなりぶん殴られた。

「一体何を?」

「手紙でも書いただろ。

 まずは一発殴らせろって。

 それで伯珪兄の事はチャラだ。

 それから、益徳からも話があるそうだ」

「劉亮殿、俺の師の仇を討ってくれて有難う。

 この通り、礼を申します」

 張飛も大分たくましく、むさくるしい感じになって来た。

 髭を剃り、顔を洗えば美中年になるのだろうが、戦塵に汚れ、強張った髭を生やし、体形も相当なマッチョになっていた。

 関羽は見た目が全く変わっていない。

 特に用が有った訳ではないが、それでも関羽とも挨拶をしようとした矢先


「勅命で参陣したのに、司空であるこの俺より兄を優先させるとは、礼儀が成っていないな」

 と曹操が現れた。

 曹操の話をしてもいないのに、「説曹操、曹操就到」を地でいっている。


「これは曹操殿、我が陣へようこそ」

「なあに、叔朗が来たと聞いてたまらずやって来ただけだ。

 世話をかけるな、玄徳」

「……呼び出したのはあんただろ。

 それに、我が兄とはもうそんなに親しくなったのか?」

「ああ、お前さんが俺に会いに来た時言ってた兄がどんなものか、興味を持ってな。

 確かにお前程の男が仕えるに足る器を持っている。

 それに、お前に負けず劣らず面白い。

 恐らく才はお前の方があるが、器って部分でお前は玄徳には及ばないだろう」

「私もそう思います」

「待った待った、二人して俺の事を褒めても、何も出て来ないぞ」

「何も出て来ないって言ってもなあ、俺はもうそこの偉丈夫に興味津々なのだが。

 名を伺いたい。

 私は漢の司空、曹操だ」

「存じております。

 拙者は太史慈と申します」

「おお、そなたが太史慈殿か!

 孔少府(孔融)から噂は聞いている」

 孔融はこの時期、許都において将作大匠を経て少府に任じられていた。

「太史慈殿、我が元に来ないか?」

「曹操、人の所の大事な部下を、目の前で勧誘とかするな」

「そう言えば、お前には同じような事で怒られたよな?

 あれは、そうだ!

 嫁女はどうした?

 来ていないのか?」

「あんたみたいな人妻好きの前に連れて来るか!!」

「流石にお前の妻には手を出さんよ。

 なあ、玄徳」

「はい、我が妻にも良くしていただいて」

「兄者、妻って……麋竺殿の妹御か?」

「それも居るけど、袁紹殿の娘御だぞ」

「へ?

 いつの間に結婚したんですか?」

「本初の所に使いを出したら、送って来たぞ。

 俺の様子を探る侍女をわんさか付けてな。

 まあ、袁夫人は都での生活を楽しんでいるし、気立ても良い。

 侍女の事は目を瞑ろう」

「いやいや、その侍女全部に手を付けて、自分の妾にしたのはどこのどなたでしたかな?」

「過ぎた話だ、気にするな」

「やはり妻を連れて来なくて正解だった」

「だから、お前の妻には手を出さんよ」


「ごほん!!」


 関羽がジト目で咳払いし、曹操・劉備・劉亮のグダグダトークを打ち切る。

 関羽が居てくれて良かった。

 いつも曹操にはペースを乱されてしまう。


「改めて、私を青州から呼び出したのは、どういう理由でしょうか?」

 その問いに曹操は

「いや、単にお前の顔を見たくなったからだよ。

 隣の州に居るのに、挨拶一つしないとは、寂しいじゃないか叔朗」

 と相変わらずの口調だったが、その背後から

「殿、そろそろ私めにも話をさせて貰えませんかね」

 と言って来る男が居た。

 その顔を劉亮は知っている。

「そうだ、叔朗と話をしたいと言っていたのはこの男でな」

「荀攸殿!

 お久しぶりです」

「こちらこそ、ご無沙汰しておりました、劉亮殿。

 長安以来ですねえ」


 潁川荀氏の一人、荀攸。

 荀彧の甥にあたる。

 かつて共に長安で朝廷に仕えていたが、董卓暗殺計画を立てて投獄された。

 劉亮は、前世の知識から荀攸を知っていたが、曹操のせいで董卓に投獄された事もあり、浅く付き合うだけにしていた。

 勿体無いとは思っていたが、用心しないと生き残れなかった。

 それでも劉亮は自宅軟禁されたし、荀攸も董卓暗殺が露見して投獄され、董卓死後は自然に没交渉となってしまった。

「あれは二度目の事でしたな。

 貴殿は董卓に金貨政策を打ち出し、不興を買って軟禁されたと聞いております」

 流石にあの長安に居た荀攸は、七度投獄されただの、董卓を暗殺し掛けただの、荒唐無稽な噂ではないキチンとした情報を持っている。

 劉亮も苦笑いする事なく、普通に会話出来るのが嬉しい。


「劉亮殿は、あの時董卓に言って不興を買った金貨を、青州で造って財政立て直しをしていますな。

 我々も見習おうと思ったのですが、どうにも難しいという事が分かりまして。

 それで劉亮殿に直接お話を聞こうと思いましてな」

「それは問われた事への回答書で応じたではないですか。

 あれでは足りませんか?」

「足りません。

 いえ、言いにくい事、聞きづらい事が有りましてな。

 私の叔父で、尚書令をしておる者からも、是非に尋ねて欲しいと言われておるのですよ」

 この尚書令をしている叔父こそ荀彧である。

 劉亮は

(面倒臭い事になりそうだな……)

 と思いつつ、荀攸との会談に応じた。




「で、どうだった?」

 曹操は劉亮とじっくり話し合った荀攸に尋ねる。

「いやはや、何とも凄まじいですな。

 色々隠そうとしているのですが、ポロっと出て来る言葉が意表を突く……」


 荀攸は、さらっと劉亮が作った「兌換」という言葉にも驚いていた。

 銭と交換出来るという意味だが、中々センスが良い。

 劉亮からしたら、明治時代頃に誰かが翻訳した言葉であろう為、自分が考えた言葉のように言われたら恥ずかしいのだが。

 荀攸は

「国家が保証する通貨など、瓦礫をもってしても代替可能」

 という劉亮がどこかで言っていた言葉を漏れ聞き、それについて問い質した。

「それなら董卓の悪貨でも良かったのではないか?

 何故董卓は失敗したのか?」

 と。

 劉亮は信用の問題と言い、董卓では適わなかったと答える。

 では、青州の劉備でも可能だったから、曹操でも皇帝でも可能ではないのか?

 それの回答は

「曹操なら可能だが、皇帝では不可。

 漢の信用はそれくらい落ちている。

 漢が信用を回復するには、自力で曹操を廃するくらいの実力が必要」

 であった。

 そして、劉備でも青州だけだから何とかなる、曹操も自分の領内だけなら何とかなる、だが誰も漢全土に信用通貨を普及させるのは無理、だからそのものに価値がある金貨が必要、と話した。

 金貨という、鋳潰しても金塊そのものに価値がある物体だから、貨幣という形にして付加価値を付けられる。

 しかし黄金自体量がそう多い訳ではないから、自分が払える範囲で兌換券を用意する。

 すると、通用通貨量を倍にする事が出来る。

 更にちゃんと交換出来る事を示せば、金持ちが隠し持っていた銭貨を吐き出し、金貨や紙幣に交換する。

 その発行量をしっかり管理していないと、支払える額を超えた紙幣が出回り、不渡りを出す事で信用を崩壊させてしまう。

 国家レベルで管理するのは不可能に近い。


 劉亮とのこういう会話で、荀攸は

(この考えを導き出す、更に深い考えを持っている。

 それは脳内で考えたものではない、実体験に近い知見だ)

 と見透かしていた。


「な、あいつは葡萄酒を飲ませればよく喋るだろう」

「はい、高価な酒をいただいただけの価値はありました。

 ところで殿、そろそろ下邳も落ちる頃でございますね」

「呂布は君主の器に非ず、一介の将だ。

 俺の下で上手く制御すれば、大層活躍するだろう。

 お前はどう思う?」

「いやはや、あの猛獣を飼う気ですか。

 私めはお薦めしません。

 劉備殿、劉亮殿にも聞いてみては如何ですか?」


 このやり取りの数日後、呂布は味方の裏切りに遭って捕縛された。

 そして曹操に尋ねられた劉備が、呂布を生かす事を否定した為、処刑された。

 劉亮は特に意見を言わない。

 初めて呂布を間近で見たが、何故かこの人には何も感じなかった。

 もう死が近かったせいかもしれないが、他の群雄には感じた覇気というか、生命力のようなものが無い。

 劉亮は

(こういう人だったのか?

 世を騒がせた猛将なのに、どうして何も感じないんだ?)

 と、ただただ疑問を抱くだけであった。


 こうして徐州の戦いは終了した。

おまけ:呂布のナレ死は意図的です。

決して会話が長くなり過ぎて字数オーバーしそうだったから、ぶった切った訳ではありませんので。


あと袁紹にそんな娘が居たか? となりますが、史書に残っていないってのはよくある事でして。

側室の子で、袁煕と袁尚の間くらい、二十歳前後ってところでしょう、リア劉タヒね……。


荀攸さん、お久しぶりの登場。


張飛はマッチョで髭面美形、大谷投手の体に、髪モジャ&ヒゲの時のダルビッシュの顔がついてるイメージです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 控えめなふりをして三国時代にはなかった縦横家として何だかんだで史実通りに進めながら着実に成り上がってやりたいことを押し通す乱世の奸雄ぶりが見ていて興味深い。 生き残りたいという強い意志の下…
[一言] あらーあっさり呂布さん滅亡 生かしといても扱い難しいし IF道でもバランスブレイカーだし仕方ないですね 張遼とか高順とか人材拾い期待しときます
[一言] 酒が入ると口が軽くなる設定、前の世界でもならかなり致命的だったような。 どこに行っても酒は絡むだろうし、いくら交渉事で正直に対応といっても隠さないといけない部分などいくらでもあるだろうに。…
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