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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第五章:袁と袁の時代
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徐州の劉亮と曹操

 興平元年(194年)、曹操が徐州に再侵攻する。

 前年の侵攻を振り返り、態勢を整えた曹操はやはり強かった。

 劉備陣営が本来曹操が手に入れる筈だった青州兵の四割を奪っているのだが、その分を補うかのように、より戦術的になっている。

 劉備と、陶謙の部将である曹豹がこれと戦うが、敗北した。

 劉亮は劉備に頼み込んで、少し離れた所で曹操の行動を観察している。

 本来、劉亮の烏桓兵は貴重な戦力なのだが、

「自分まで曹操と戦うと、和平において差し障りが出る」

 と言った為、劉備はそれを認めて戦いには不参加としたのだった。

 劉備にしても、特に武勇も無く作戦指揮能力も高くない劉亮は、戦闘に使うよりは交渉事に使った方が良いと分かっていた。


「曹操め、遊んでいるな……」

 先日、下邳・広陵・彭城を回収する戦いに参加した後、劉亮は曹操再侵攻までに徐州の地図を作っていた。

 そしてそこに彼我の部隊をプロットしてみる。

 すると、曹操軍の行動が見えて来た。

 ある時は中央突破、ある時は正面の部隊を囮にした半包囲、ある時は左右両翼を前進させての完全包囲、またある時は斜線陣。

「奴は兵法にある陣形を一通り試してやがる。

 全く、どこぞの金髪皇帝の若き日の艦隊運用かよ」

「は?

 金髪皇帝?」

「いや、何でもない。

 そんな奴は『実在』しないから気にしないでくれ」

 非実在名将の事は置いて、曹操の戦い方は妙だ。

 真っ先に難民が多い場所を攻めて虐殺する。

 そして多数を逃して悪名を広める。

 それは自身の悪名だけでなく、助けてくれない徐州の諸将の悪名もである。

 こうして出て来ざるを得ない状況を作り出した上で、地形に合わせた戦術を試す。

 地図上の曹操軍は、確かに陶謙に向かって迫っているが、曹操本隊は謎としか思えない迷走をしていた。

 それが、難民を殺して地元の武将を誘い出す為だとすれば、合点が行くのだ。

 戦術を試してはいない。

 恐らく訓練をしている。

 曹操が抱えた青州兵は、元々は黄巾軍であり、曹操の戦術にはまだフィットしていない。

 だから実戦経験を積ませ、自身の命令通りに動くよう鍛えて、精鋭を作っている過程なのだ。


(だとすれば、劉備が真っ先に応戦しているのは結構正解かもしれない)


 劉備は難民が殺される前に、どんなに不利でも戦いを挑む。

 どうやら戦術的に曹操には勝てないと分かった劉備は、民衆が逃げるまでの時間稼ぎに徹している。

 そして負け続けるも、それは遅滞行為の必然であり、致命的な損害を受ける前に撤退成功している。

 劉備の指揮能力、張飛の戦術能力はかなり高いと言えよう。

 だが戦いに勝つ以上に大事なのは、劉備が難民を始めとする徐州の民から感謝されている事だ。

 曹操の攻撃に対し、後手に回って評判を落とす徐州の諸将に比べ、殺される前に守ってくれた劉備の評判が鰻上りとなっている。


(だとすれば、曹操は間違っているな)

 劉亮は分析した。

 曹操は兵を鍛えながら、徐州を奪おうとしている。

 徐州を奪い、父の仇・陶謙を殺すなら電撃的に攻めれば良い。

 一方、兵を鍛えるなら戦いを数多くする必要があり、時間が掛かる。

 実際、二年がかりで徐州を攻めている。

 二律背反な作戦、複数の目的を同時に達成しようとする欲張りな行動であり、こういう事やると大体失敗する。

 曹操がそんな馬鹿ではないなら、優先順位として兵の鍛錬、次いで徐州攻略なのではないか?


 だとしても問題は残る。

 補給をどうする?

「知将は敵にむ」

 と言って現地調達が基本ではあるが、作戦期間が長過ぎる、行動範囲が広過ぎる、機動が激し過ぎるとそれでも賄えない。

 当然、自領からの輸送も必要になるが、州牧と太守が同格な以上、こんな事をしている州牧には従えないと思う太守が出て来るだろう。


 ここまで分かれば、劉亮の前世知識と結びつく。

 交渉で撤退させられる!


「よし、曹操と会って来る。

 護衛を頼む。

 樓煩はちょっと調べて欲しい」

 劉亮は腹に一物抱いて曹操の本陣に出向く。




「ほお、劉叔朗か。

 意外な場所で会ったな」

 軍内だからか、以前のようなフレンドリーな態度ではなく、尊大な態度で曹操は応じて来た。

「白々しい。

 前青州牧の劉備が援軍に来ているなら、私が来ているだろう事は予想していたでしょうに」

「ふん、和睦の使者とは思えん態度だな。

 随分と度胸がついたものだ」

「そうさ。

 和睦の使者じゃないからな」

「…………?

 和睦の使者じゃないだと?」

「私は徐州を代理して来ていない。

 私が和睦を纏めても、それは陶謙の預かり知らぬ事。

 気を抜けば反攻されるな」

「じゃあ、お前は何をしに来たんだ?」

「春秋戦国時代の縦横家の真似事をしに来た」

 しばし沈黙。

「あっははは!

 やはりお前は面白い!

 よし、聞いてやるぞ。

 皆の者、俺が許すのだ、そう殺気立つな」

 曹操の幕僚や部将たちは、デカい口を叩く劉亮に殺意を向けていたが、曹操本人は無礼な態度は気にならないようだ。

 実際、そういう態度で接しろと言ったのは曹操なのだし。


「こんな長期間の遠征、本領に不満が出ないと思っているのか?」

「問題無い。

『我が子房』こと荀彧が留守を果たしておる。

 謀叛を企んでも、あやつなら対処出来よう」

 子房とは高祖劉邦の軍師だった張良の字。

 曹操はそれ程までに荀彧を信頼していた。

 だが……

「その荀彧殿でも手に負えない事態が起きるなら?」

「兗州に荀彧を出し抜ける奴は居ない」

「兗州ではなく、外から来たなら?」

「……。

 叔朗、何が言いたい?

 何を知っている?」

「この徐州は後将軍袁術の同盟国。

 しかし援軍に来たのは、同じく袁術の同盟国である公孫瓚の部下や、その友人で我が兄・劉備くらい。

 袁術は動いていない。

 袁術は自分が直接動かず、手駒を動かす男。

 その袁術が呂布と手を組んだかもしれない」


 曹操は意表を突かれたようだ。

 ここで董卓暗殺後の呂布の足取りを見よう。

 呂布は共犯者の王允と長安で政権を握るが、即座に董卓軍生き残りから反撃を受けて敗北する。

 長安を追われた呂布が真っ先に接触したのが袁術であった。

 董卓を討った自分なら、反董卓の一方の重鎮・袁術は歓迎するだろう。

 しかし袁術から参入を断られると、一転してライバルの袁紹の元に向かった。

 そこで客将になるも、袁紹に命じられた黒山賊の討伐後に揉めて、ここからも離脱する。

 一度兗州の張邈の元を訪れて親交を深めた後、すぐに冀州河内郡太守の張楊を頼って身を寄せた。

 だから曹操は、一度拒絶した袁術と浪々の呂布が手を組む可能性を考慮していなかったのだ。


「叔朗、お前どうやってそれを察知した?」

「私の配下は烏桓族だ。

 数騎を必ず情報収集に出している」

 これは嘘である。

 北方遊牧民が戦いの前に偵察騎兵を大量に出すのは周知の事だが、彼等が出来るのは戦術偵察に過ぎず、漢の群雄間の駆け引きを調べる戦略偵察・政略偵察なんて出来っこない。

 彼等は漢に置けるパワーバランスのような事は、全く知らないのだから。

 劉亮にしても、前世での知識から「呂布が兗州を襲う」と言っているに過ぎない。

 袁術と呂布が手を組んだというのも、口から出まかせである。

 まあ、後々そうなるんだから、最終的には嘘ではない。


 曹操は配下に何やら指示を出すと

「春秋戦国の縦横家は、失敗した時は殺される運命。

 叔朗、それは覚悟しているな?」

 と凄む。

「無論。

 我が情報が正しいか判別するまで、此処に留まらせていただこう。

 間違っていたら、春秋戦国のように煮殺してくれて結構」

「ならば良し。

 劉亮殿を丁重にもてなすように」

 そう言い残して曹操は慌ただしく立ち去った。


(洛陽では散々おちょくられたからな。

 あの慌てよう、ちょっとは意趣返しも出来たかな)

 劉亮は客人として、監視付きながら丁重な扱いを受ける。

 戦中だから、丁重と言っても大した事は無いが。

 それは僅か十日前後で終わった。


 真っ先に知らせて来たのは樓煩である。

 最初から答えを知っていた劉亮は、張邈の居る陳留を見に行ったのだ。

 そして呂布の来訪を確認し、直ちに戻って来た。

 遅れる事数日、張邈、東郡守備を任された陳宮、従事中郎の王楷・許汜が呂布を担いで挙兵。

 瞬く間に兗州の攻略を始めた。

 留守居の荀彧、程昱、夏侯惇が対処したが、呂布に敗れてしまう。

 本来なら、これで兗州の大半を失い、籠城に入る段階で曹操がこの事態を知るのだが、劉亮の事前情報を得ていた曹操は、呂布が兗州入りして挙兵という段階で察知出来た。

 荀彧が知らせるより先に、曹操は情報を得たのだ。

 劉亮の情報は正しかった。

 であれば、彼が言うように留守部隊だけでは対処不能だろう。

 更に背後に袁術が居るなら、早めの対処が必要だ。


 曹操は劉亮の元を訪れると

「我々は兵を引く。

 お前の情報が正しかった。

 であるからには、この情報をもたらした真の目的は果たされたな」

 と告げた。

 最初から撤兵を求めていたら、ケンもホロロに追い返されただろう。

 だが、興味深い情報をもたらした。

 小癪だがこれで危機を回避出来る。

 ならば素直に裏に有る劉亮の目的に応じてやって良い。


「言いたい事は他に有るか?」

「兵の調練の為とはいえ、随分な事をやったよな。

 その報いが有るぞ」

「調練?

 何の事だ?

 徐州は官民全て我が父の仇だ。

 皆殺しにして何が悪い?」

 劉亮は

(よく言うよ)

 と半ば呆れている。

 劉亮は曹操の徐州攻めを政治的な理由からだと見ていた。

 数年に渡る陶謙からの嫌がらせに対する報復。

 そして戦いに際しては、新しく得た兵たちの調練が第一で、徐州攻略は二の次、親の敵討ちなんて三の次。

 実際の所、曹操と父の曹嵩とは不仲だった可能性がある。

 放蕩息子の曹操を曹嵩は避けていたし、反董卓連合での挙兵時も全く協力していない。

 長く曹操から離れて暮らしていた。

 さっさと自分の庇護下に入らなかった父や弟の死を、曹操は自業自得と思っているかもしれないが、一方で儒学社会の漢においては「父の敵討ち」は開戦理由に使える。

 その程度のものだと劉亮は感じている。


 が、劉亮の言う「報い」とはその事ではない。

「曹操、君の軍は長く激しく戦い過ぎた。

 疲れているし、物資の消耗も激しい。

 呂布との戦いは長期に渡るだろう。

 だが、私の言う『報い』は戦いの長期化ではない。

 戦いの最中にイナゴが兗州を襲う。

 既に筋張った飛蝗が見られ始めたようだ。

 ここで無駄に長く戦った報い、それは兵糧不足だ。

 兗州に戻ったら、長期戦を覚悟し、兵糧の備蓄とイナゴの禍を避けるべく手を打つ事だな」


 劉亮がそう言うと、曹操は劉亮の顔をまじまじと覗き込んで来た。

「よし、信じるとしよう。

 だが、俺が速攻で呂布を倒せば問題は無いな。

 しかし、やはり君は興味深い。

 意外な事を考えつく男とは思っていたが、まだ奥に隠している何かが有る。

 まるで未来を読んでいるような何かを。

 いずれ、それを明かして貰うとしよう」


 そう言い残して曹操は立ち去った。

(色々と見せ過ぎてしまった。

 曹操は俺の異常さ、完全一致ではないにせよ、この先の歴史を知っている事に気づいたような感じだ。

 あいつと話す時は、もっと注意しないと……)

 そう思った劉亮は、背中に大量の汗をかいている事に気づいたのである。

おまけ:

徐州虐殺の曹操の行動は、創作だから色々言ってますが、基本弁護出来ないものと思ってます。

ただ陶謙の方を見ると、そりゃ攻められて当然ってくらい曹操にちょっかい出してます。

要は色んな意味で極悪が、悪党の尻馬に乗った小悪党に過剰攻撃を仕掛けていたら、別の悪党が暗躍して有耶無耶になってしまった乱世の姿かと。

……そりゃ劉備が好まれるわな。

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― 新着の感想 ―
ほんとこのシーンの劉亮さんかっこいいな・・・
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