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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第四章:董卓時代の劉亮
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劉亮出陣せず

 劉亮の前世において、董卓とは悪逆非道な人物とされた。

 しかし付き合ってみると、確かに強権的だし残忍な部分もあるが、ただの私利私欲の人物ではない。

 やる事に筋が通っている事は認めざるを得ない。

 それでも、このままの歴史の流れでは、董卓はやはり「悪逆非道」として歴史書に名を残すであろう。

 その側近として自分の名が残っては、推しである兄の劉備にも迷惑がかかる。

 そう考えた劉亮は、反董卓連合軍攻撃の命を受けた後、董卓の気分を害さないようその場では承諾し、一旦自宅に戻って考えた。


(俺の知ってる歴史通りなら、蹴散らす事は簡単なんだよなあ。

 曹操や孫堅といった、本気で戦っている奴等に当たらない限りは……)


 反董卓「連合」と言っても、それは袁紹を名目上の総大将にしているだけの雑軍だ。

 袁紹は首都圏である司隷の河内郡に居る。

 韓馥は冀州の鄴、袁術は荊州南陽、孔伷は豫州の潁川、劉寵は豫州の陽夏、劉表は荊州の宜城、そして張邈・劉岱・橋瑁・袁遺・鮑信・曹操が兗州の酸棗に駐屯している。

 その酸棗の連合軍だが、酒盛りばかりしていた筈だ。

 曹操はそんな状態に激怒し、単独行動を取る。

 曹操が離れた瞬間に、烏桓騎兵を率いて一撃を掛ければ、彼等は崩れるだろう。

 やる気が無いのだから、真面目に戦わなくても、さっと兵を引く可能性が高い。


(だが、その戦いに何の意味がある?)

 董卓の悪名に、劉備の弟である劉亮も加えてはならない。

 色々考えた末、劉亮は董卓に面会してある事を要求した。


「袁隗、袁基らの身代が欲しいだと?」

「正しくは彼等の首、なのですがね」

 劉亮は演技をしている。

 冷酷な人物のように装っていた。

「どうするつもりだ?」

「敵陣の前で泣き喚かせます。

 その後、切った首を投げ込み、怯んだ隙に烏桓兵で蹂躙します」

「うむ……」

 董卓は少し考えた後、

「策を弄し過ぎるようにも思うが、まあ良い。

 やって見よ。

 ただし、監視はつけるぞ」

 と了承した。

 劉亮は更に

「私は董相国の傍に居ます。

 烏桓は我が妻に率いさせます」

 と申し出た。


「何だと?」

 目を剥く董卓に劉亮が

「私は牢生活で体が衰えています。

 この体では、烏桓族の騎乗には着いていけません。

 それに、私が目の届く場所に居た方が良いのではないですか?」

 そう言うと、

「女に指揮が出来るのか?」

 と董卓が問い、自分よりも上手いと返すと、それでやっと了承された。


 袁隗、袁基たち袁氏の者十人程が監車に入れられて劉亮の邸宅に運び込まれる。

 それを蛮族である烏桓兵が乱雑に扱いながら、敷地内の倉庫に入れた。

 この時点で相当な屈辱であり、董卓の配下の者はその扱いを見ると満足して帰って行った。

 夜間、密かに袁隗だけを母屋に入れる。

 劉亮は頭を下げ

「貴方たちを生かして洛陽から逃れさせたい。

 だから、屈辱でしょうが暫くは芝居に付き合って欲しい」

 と告げた。


 劉亮は袁紹・袁術の叔父であるこの男を利用するつもりである。

 袁一族全員なんて到底救う事は出来ない。

 だから一番官位が高かったこの男を始め、朝臣として仕えた者を助けて証言して貰う。

「劉備も、その弟も董卓に味方してはいない」

 と。

 だが、董卓の目を欺くのは至難の業だ。

 彼は劉亮が洛陽に入った時も、どこかで見ていた。

 だから彼の妻の白凰姫の容姿を知っていたのである。

 その董卓の目を欺くには、屈辱的な扱いに耐えて貰うしかない。

 そして、その事は一族の者たちには黙っておく。

 助かると分かれば、弛緩した空気が出てしまい、董卓が付けた監視役が感づくだろう。

 袁隗は、首枷を着けた屈辱的な姿ではある。

 劉亮はそれに対し土下座の如く頭を地に擦り付けて

「私の書記として傍に仕えて下さい」

 と頼み込んだ。

「私は字が汚いので、奴婢の中から書記を選んでもおかしくはありません。

 そして、私の指示で手紙を書き、酸棗の陣と密かに連絡を取って欲しいのです」


 思う所はあるのだろうが、このままだと董卓に処刑されるのは明白な為、袁隗は劉亮に協力する事にした。

 そして白凰姫と楼煩を加え、今後の作戦を立てる。


 劉亮、出陣せず。

 代わりに白凰姫が袁家の要職に居た者十人程及び、彼等の男の子供を抱えて洛陽を出た。

 また烏桓の地に向けて、援軍を要請する使者も送られた。

 劉亮の身辺には、僅かな烏桓族が付き従うだけ。

 だがこの烏桓族はただの護衛ではない。

 その騎乗技術を生かして、早馬となって前線と連絡を行う。

 連絡手段は暗号文書であった。

 字は漢語でしか書けない。

 しかしそれを音読しても、烏桓語である為に漢人では理解出来ない。

 漢字を借用して音声表現をする「万葉仮名」を知っている劉亮の中の人の発想である。

 まあ劉亮の癖字だけでもナチュラル暗号、Webサイトにおけるロボット対策の文字認証くらいには効果があるのだが。


 洛陽に残った劉亮は、長安遷都の準備を手伝いつつ、ある事も平行して行っていた。

 それは袁氏の身代わりとなる首の捜索である。

 どうせ遷都において、罪人は連れて行かずに、ゴミと一緒に処分されるだろう。

 だから斬首された死骸を検分する時間なんて無い。

 そこで、袁氏の者とよく似た首を、早馬で白凰姫と楼煩の部隊に届けるのである。

 投げ込まれた首を見て、袁氏の者は「死んだ」事になる。

 そして多くの者の換え首を見つけて、それを密かに運び出した。

 首だけなら大した大きさにならないし。

 唯一、袁基と似た者が見つからない。

 だが前線の袁隗から、拷問されて重傷だった袁基が、作戦実行を待たずに死んだという報告が入る。

 可哀想というか、丁度良かったというか。

 本物の首を使う事とし、董卓の監視の手前、袁基はまだ生きている事にした。


 作戦は、曹操が酸棗の陣に愛想を尽かして出陣する前に行われる。

 今回に限っては、曹操が居ないと折角の策を理解されないだろう。

 まず、単騎で陣に迫った楼煩が矢文を放った。

 その内容は

「袁家の者を処刑する。

 之を知らせてやる。

 首は陣に投げ捨てられる。

 贋の檄文を奉じて戦う者たちよ。

 物を捨て、裸で逃げるなら許してやる」

 であった。

 そして最後に「←」という記号付き。

 これを読んだ諸侯は激怒するも、曹操は稚拙な暗号に苦笑いを抑え切れない。

「何をおかしな表情をしているか!」

 と注意される曹操だったが

(横読みとは、随分とバレバレな悪戯いたずらをするものだ。

 まあ、それに気づかん愚か者も多いがな。

 いや、悪戯もしないような良い子ばかりだから、思いも着かないのかな)

 そう内心で呟いていた。


 親とかの目を盗んで情報を交換するには、一見ちゃんとした文章の中に、読み方を変えれば本当の内容が伝わるように「仕込んだ」手紙を送るのだ。

 一行飛ばしとか、斜め読みとか、部首の部分だけを繋げるとか、色々な遊びをしていた。

 儒学ばかり勉強して、不良のような事をしていない者には、周囲の目を欺いて情報交換をする「遊び」はしなかったのだろう。

 曹操は、別に重要事項でない事ですら、こういう言葉遊びをして楽しんでいたのである。

 そして曹操は

「敵もなりふり構わずに来たようで、苦笑を禁じ得ませんな。

 このような卑怯な振る舞い、断じて許せません。

 盟主殿にも一報せねばなりませんぞ!」

 と言って、この手紙を袁紹に転送する。

(まあ、本初の元に届く前に仕掛けて来るだろうが)


 そしてすぐに、酸棗の陣に生首が投擲された。

 馬上から、ハンマー投げのように縄に括りつけられた首が、ブンブン振り回されて飛ばされて来る。

 最初の一個の首を見て、袁遺が叫んだ。

「これは太僕の袁基殿の首じゃ!」

 高官の首に騒然とする陣。

 更に続いて投げ込まれた首に対し

「これは太傅の袁隗様の首じゃ!」

 という声も上がり、浮足立った所を烏桓兵が襲撃する。

 袁基の首は本物だが、その後の首は全て贋物である。

 しかし、最初に本物を見てしまうと、以降はしっかり確かめずに本物だと思い込んでしまう。

 ちょっと違うかもしれないが、詐欺をする上で最初は本当に儲けさせてやる「見せ金」をし、以降は損をさせ続けても信用させるようなものだ。

 上が狼狽えてしまい、陣は統制が取れなくなった。

 劉亮は、烏桓兵に人を殺すなとは言っていない。

 言ったって無理だし、無茶な命令を出すと劉亮が愛想を尽かされる。

 多少の敵兵殺戮には目を瞑り、一方で目標を酸棗の陣の物資・食糧に定めた。

 彼の知る「歴史」では、反董卓連合軍は兵糧不足で自然解散になる。

 それを早めてやったに過ぎない。

 物資に火を点け、一方で兵糧を載せた車を馬ごと曳いて去ったり、連合軍団の馬を奪ったりと、短時間の攻撃ながら中々深刻な打撃を与えられた。


 奇襲を受けた酸棗の陣において、曹操が叫んでいた。

「見るに、敵は烏桓の騎馬であっても、数は精々三千程度だ。

 これより追撃を掛けて、恥を雪がねばなりますまい!」

 だが、やる気の無い諸侯は

「まずは焼かれ、奪われた兵糧を補充せねば先に進めぬ」

「陣の立て直しも必要だ」

 と言って動こうとしない。


「では諸侯はそこでジッとしていれば良い。

 俺はこれから逆襲に出る!」

 と言って出陣する。

 鮑信と張邈がそれに続いた。


 曹操は内心で

(良いきっかけを与えてくれた。

 あの手紙といい、烏桓の部隊といい、兵糧と厭戦気分という弱点を狙って来た事といい、劉亮の可能性が高いな。

 しかしあいつ、董卓の元を抜け出せないとはドン臭い奴だ。

 俺なら、曹操という奴が董卓暗殺に失敗した時点で何もかも捨てて洛陽から逃げるがな。

 だが、袁術はともかく本初に恩を売るとは抜け目無い。

 袁術は知らんが、本初はあれで一族を大事にしているからな。

 その橋渡し役に俺を選んだ事も上々だ。

 そして何より、あの温い陣を出るきっかけを与えてくれた。

 あんな場所に居たら、俺の名は天下に轟かん。

 だが理由なく命令違反も出来なかった。

 まったく、丁度良い奇襲攻撃だったよ)

 そう笑いながら、董卓軍に対し攻勢に出る。


 劉亮軍と連携をしていた訳ではなかったが、董卓が劉亮の烏桓兵の後で出陣させた徐栄が曹操の前に立ちはだかり、曹操及び一緒に出陣した鮑信・張邈の三軍が大敗を喫した。

 それでも、曹操はこれで連合軍の統一行動から外れる事が出来る。

 敗れ、自身も矢傷を負ったとは言え、連合軍の中で勇猛に戦ったという評価を得た曹操は、酸棗の陣に戻ると改めて全軍での積極攻勢を訴えるも受け容れられず、

「まず自分の兵を補充して来い」

 と侮辱気味に言われたのを良い事に、この弛緩した陣を離れた。


 酸棗を奇襲された事と、滎陽における曹操の敗戦を知らされた袁紹だが、同時に曹操から転送された劉亮の手紙も受け取る。

 曹操と子供の頃に、こうした遊びをしていた袁紹は、竹簡の最上部の文字だけを読む「横読み」から

「どれ程かは知らないが、我が一族は助けられたようだ。

 敵の中にも、我々の味方が居るっていう事だな」

 と事情を理解して頷くのだった。

おまけ:

ネットなら縦読み。

しかしこの時期は縦書きなので、竹簡の先頭の字を右から左に読んでいく事になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 劉備陣営(予定)の誇る横綱のデビュー戦は中々の活躍ですね。 今回はプチ騎行でしたが、今後騎馬民族の本領発揮とも言える騎行或いは“海への進軍”に発展し得るとなると中々将来が楽しみです。
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