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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第一章:三国志前夜
3/112

劉亮と曹操

 曹操、字は孟徳、熹平五年(176年)当時は二十二歳。

 孝廉に推挙されて、現在は洛陽城北門の警備担当である洛陽北部尉の任に就いていた。


 この時期の曹操の逸話には、以下のものがある。

 霊帝に寵愛されていた宦官・蹇碩の叔父が門の夜間通行の禁令を犯した。

 曹操は躊躇う事なくこの違反者を捕らえて、即座に打ち殺す。

 宦官たちの報復を恐れる者たちを一笑した。

 これは曹操もまた宦官の孫であり、現在権勢を誇る宦官たちを恐れなかったからかもしれない。

 後漢時代には、生殖能力を失った宦官も養子を取る事が認められた為、大宦官の曹騰は夏侯氏の出身である者を養子として財産を相続させる。

 その養子・曹嵩の子が曹操であり、彼は義祖父の曹騰からは大変可愛がられていたそうだ。


 劉亮が曹操に会おうと思ったのは、自身の帰郷が近い事以外にも理由がある。

 逆行転生者である劉亮には、そろそろ曹操が頓丘県の県令に栄転させられる事を知っていた。

 蹇碩の叔父を殺した事で、宦官たちが報復を考えたが良い方法が無く、栄転という形で首都から遠ざけようとしたとされる。

(今を逃せば、次に会えるのはずっと先になるだろう。

 その時、この劉亮という俺の転生した者が生きているとも限らない)

 実のところ、「鬼の北部尉」に会うのは少々怖かった。

 歴史の主役になってからの、大人になった曹操ですら苛烈な部分がある。

 まして血気盛んな今の曹操は、

「職務を妨げた咎で、丈刑とする!」

 なんて言うかもしれない。

 それでも、

(中央アジアで対立関係にある二つの部族の関係者に、ラクダを曳いて会いに行った時を思い出せ。

 いつ殺されるか分からないのは、今も昔も同じさ。

 まあ、実際俺は殺されてしまったんだがな)

 と開き直ると、曹操への面会を申し込んだ。


「門限が過ぎ、職務が終わった後ならば良い」

 という返事を貰い、案外あっさりと会える事になった為、ちょっと力が抜ける。

 こんな事なら、もっと早く会っておけば良かった。

 まあ、今までは兄・劉備の世話で忙しかったから、時間も無かったのだが。

 あの派手好きな兄は、コーディネートしてやらないと田舎者丸出しか、どこの不良(ヤンキー)だ?というセンスの悪い服や、これから誰か殺しにでも行くのか?という長大な刀を()く等、ちょっとヤバい所がある。

 洛陽で盧植先生の書生として立ち回っているから、それなりに礼を尽くしてはいるが、ちょっと目を離すと洛陽の破落戸(ごろつき)たちと絡んでいる。

 仲良くしているならまだ良いが、たまに喧嘩騒ぎを起こす為、弟の劉亮にしたら放っておけない。

(本当に、演義の劉備像をガンガンぶち壊してくれる)

 と思いつつも、元の日本人の人格の部分が、劉備を推していて離れたくない。

 まして実弟である劉亮としては、兄を裏切るなんて以ての外だ。


 まあそれでも、これを逃せば機会が無いと考えた劉亮は、曹操に会ってみる。

 紹介してくれたのが、司馬懿の父で曹操を推挙した司馬防というのが面白いところだ。

 盧植先生に紹介を頼んでみたが、盧植は宦官の孫である曹操をこの当時余り好ましく思っていないようで、それで司馬防への紹介状だけを渡されたのだ。

 その司馬防からの紹介状にざっと目を通した曹操は、

「涿郡涿県には劉元起という勢家があったが、君は劉元起の親族だな?」

 と聞いて来た。

 劉超、字は元起、中々の資産家(勢家)であり、劉備・劉亮兄弟の学費を支援してくれた一族の長者である。

 劉元起の妻は、実子である劉徳然と同じだけの支援を、遠縁の劉備に対して行っている事に不満を漏らしていたが、劉元起は劉備の素質を見越して取り合わない。

 そんな人物だが、遥か遠い幽州劉氏について曹操が知っていた事に思わず驚く。

「どうした?

 違う劉氏なのか?」

 曹操に聞かれ

「いえ、元起殿は従叔父です」

 と答えた。

 前世の記憶に残っている、かなり遣り手の企業家のような空気を曹操からは感じた。

 相手の事を知っているとアピールするのは、交渉の主導権を握る手法の一つである。

 だが曹操は、何気なく心当たりの人物を挙げたに過ぎない。

 だからこそ、恐ろしくはある。

 一体どれだけの事を知っているのか。


「さて、俺に会いたいって理由は何だ?」

「それは……」

 劉亮は兄の話をした。

 兄は漢や皇帝や劉氏というものについて疑問を抱いているようだ。

 その説明をした後、曹操に

「この兄の葛藤なんですが、北部尉殿はどう考えますか?」

 と尋ねる。

 しかし曹操は

「君は狡いな。

 その答えは君の、……名前は知らないがその兄君にしか言うつもりはない。

 その兄君が直接聞きに来たらだが。

 君に答えたなら、君の兄君は何もしていないのに、無料で俺の考えを得る事になるな。

 いや、その兄はそんな答えを知りたいと思ってないだろ。

 それを知りたいのは君自身だ。

 君は兄を出汁にして、俺から危険な答えを引き出そうとしている。

 だから、俺は何も話す気はなれない」

 そう返した。

(もっともな事だ。

 日本では第三者の事を話題にして盛り上がる事は有ったけど、曹操相手には通じないのだな)

 冷や汗をかきつつ、では自分なら……と言おうとしたら、曹操が先手を打つ。

「俺は、君自身の事を聞きたい、知りたい。

 君はその事についてどう思った?

 それなら俺がどう思うのかを話せるぞ」

 会話の主導権を握られたのを自覚するも、彼は

(別に討論しに来たのではない。

 曹操と会いに来たのだ。

 俺自身を曝け出して話すとするか)

 と思い直し、前世の知識混じりで話す。


「宦官は古来よりの宮中の倣い。

 これを排除するのは、宮中の在り方を変える覚悟が無ければ出来ない事。

 そこまで踏み込んで宦官排除を考える者は居りましょうや?」

「君はそれをするつもりはあるのか?」

「自分はまだ無理です。

 力がありません」

「それもそうだ、君はまだ(ガキ)だからな。

 で、もしも君に力があって、何かを為せるとしたらどう思って行動する?」

「自分は、宦官というシステム……じゃなくて体系を崩して新しい体系を構築するのは困難と考えます」

(そう、中東の諸部族に民主国家のやり方をしろって言っても、背景が違うのだから上手くいかない。

 今まで上手くいっていたものを慌てて無理に変えると、かえって歪みが生じる事がある)

「では君は、何も変革する気が無いのか?

 現状を追認するのか?」

「変革は必要ですが、それは宦官排斥だけで簡単に出来る事ではないと考えます。

 今は昔から在ったものが、清流派の望まぬ形で現れたもの。

 この漢朝は宦官によって助けられた事もあり、主上は宦官の事を捨てられないでしょう」

「ふむ」

 曹操は、この少年が多少歴史の知識を持っていると見て、少し真面目な表情になる。

「それが俺の祖父に気を遣っての発言でなければ、君は鄭衆や孫程らの事を言っているな?」

 鄭衆は和帝に従い外戚の禍から救った宦官、孫程らは順帝即位の前に専横を振るっていた同じ宦官の李閏、江京らを討った者たちである。

 後世に残る「紙」を開発した蔡倫も宦官であった。

 後漢は専横する宦官も目立つが、度々皇帝の身近に仕える宦官が活躍した時代でもあった。

 それもあり、劉亮の次の質問に繋がる。

「今仮に宦官を排除したところで、上が宦官のしていた事を是とするなら、結局同じ事になりましょう?

 宦官は……言ってはなんですが……所詮は御主上あっての側近。

 上が変わらねば……」

 すると曹操が笑い出す。

「クククク……。

 劉叔朗殿と言ったな。

 大胆な男だ。

 誰を討ったところで、あの陛下では何も変わらん。

 だからいっそ、陛下を弑逆しようと言うのだな。

 いやあ、若いって凄いねえ」

「!!!!

 そこまでは言っていません」

「はっはっはっ!

 戯言(ざれごと)よ、聞き流せ。

 俺もそこまで君が考えているとは思わんよ。

 ただ、宦官を討っても陛下が愚昧(アレ)では何も変わらん、だから宗室・劉一族の末端であっても、どうすべきか悩んで俺と話しに来たってところか。

 なんで俺を選んだのかは分からんが、まあ俺という人物を見込んでくれたのなら、嬉しくその評価を受けようじゃないか」

(いや、まあ、何かする劉氏は自分じゃなく、兄の劉備になる筈だけど)

「面白い男だ。

 そこまで言ってくれた以上、俺も自分の考えを話そう。

 結論から言って、今の宦官一掃は世を変える契機になるぞ」

「なんと?」

 劉亮には意外だった。

 確か曹操は後に起こる何進や袁紹による宦官・十常侍排斥の際

「宦官を置くは古来よりの慣わし。

 彼等に権限を与えなければそれで十分。

 十常侍を殺すだけで良く、宦官皆殺しは必要ない」

 と言った筈だ、彼の前世の記憶「史実」によると。


 意外な事に面食らう劉亮を興味深く見つめると、曹操は笑いながら言う。

「君の発言は、下手をしたら大逆(国家転覆)の罪に問われかねないものだ。

 だから、君や君の兄君を俺はいつでも訴えられる。

 それを踏まえて、俺も随分な事を言うぞ。

 それでおあいこだ。

 玉座に座る者とは、ただ社稷を祀っておれば良い。

 天子は天上に対して責任を負う者。

 天下に対する政治は、廷臣が行えば良いのだ。

 天子が地上の事に関わっているのが全ての間違いの元。

 君は上の者、即ち天子が考えを改めなければ誰を排しても同じ事という、かなり大胆な事を言った。

 そうなると、天子を愚昧から英邁にするよう教育、いや躾けるってところか。

 フフフ、天子を躾けるとか、中々に面白い。

 君は太傅や太僕(共に皇帝の教育係)に最適かもしれんな。

 だが俺の考えだと、天子個人の考えなんかどうでも良い。

 天子が愚昧だろうが英邁だろうが、どっちでも構わない。

 司徒や司空といった役職に人を得ていれば、むしろ天子の考え等邪魔なだけだ。

 天子なんてものは、玉座に居てくれれば良く、それ以上でもそれ以下でもない。

 その玉座の置物の意向を汲んで、天子の意思だと錯覚するような輩を殺して天子を丸裸にしてしまえば、世直しのきっかけにはなるな。

 ハハハハハ、どうだ、君よりももっと不敬な事を言っているだろう!」

 そう悪戯っぽい表情で曹操は笑う。


 劉亮は呆気に取られていた。

 彼の前世の記憶にある「天皇機関説」。

 主権は国家にあり、君主はその中の役割の一つに過ぎないというもの。

 曹操の考えはそれに近いのか?


 その曹操は、更に爆弾を投げつけて来る。

「そもそも儒学の毒が、この国を蝕んでおる。

 儒一尊が国を歪めてしまった」

「え、えーと、それはこの話にどういう関係が?」

「天子の事を語ってるんだ、関係無い訳ないだろ」

 劉亮は、曹操の論に引き込まれていた。

おまけ:

「蒼天航路」の曹操がかなり影響はしていますが、ああは書かないつもりです。

あれはキャラ立ち過ぎなので。


今日は投稿ここまで。

明日は17時と19時にアップします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読めない漢字が多いですが(笑) 引き込まれて楽しく読んでます(⌒▽⌒)
[一言] なんか、この作品の曹操=サンの論説を読んでいたら頭の中でバグパイプの演奏が始まったのですが・・・
[良い点] 三国志銭記に続く三国志モチーフに期待大! 完結保証の嬉しい限り
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