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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第三章:運命を改変せよ
28/112

烏桓族との交渉

 本人にとっては当たり前、余人が見れば優れた将軍が出来る「地図を描きながら敵の行動をプロットし、そこから未来位置を予測する」能力を発揮した劉亮は、無事に烏桓族の宿営地に辿り着いた。

 そこで一夜を明かし、翌日に顔馴染みの大人(たいじん)・丘力居と交渉をする。

 その晩、劉亮は嫌な夢を見ていた。




----------

「ママ、また糞オヤジが洗濯機に服入れてる」

「だったら取り出して、ポリ袋に入れといて」

「やだよ、汚い。

 触りたくもない」

「そこにトングあるから、それで摘まんだら」

「はーい。

 汚いオヤジなんだから、少しは考えてよね!」


 久々の自宅だが、金刀卯二郎は気が休まらない。

(せめてビジネスホテル代くらい出してくれよ)

 会社に対してそう思うが、あちらは勝手に気を遣って

「久々に家族水入らずで過ごして来い」

 とか言って、自宅まで送り届けたのだ。

 外面は良い妻と娘は、会社の同僚には

「いつも夫がお世話になっております」

「パパ、お帰りなさい!

 大変だった?

 お土産はあるの?」

 なんて演技をしてみせていた。


「ほら、あんたの服。

 コインランドリーで洗って来て。

 あと、風呂入るなら銭湯ね」

 銭湯なんて斜陽産業であり、近場には全く無い。

 電車に乗って遠くにあるスーパー銭湯とか温泉とかに行って来いという事だ。

 その往復の時間も含め、不在である方が彼女たちには嬉しいようだ。


(俺は何の為に外国まで行ってるんだ……)

 愚痴も出したくなる。

 そして妻や娘に対しては、愛情よりも憎しみが勝るようにもなって来ていた。

 それじゃいけないと思い、逃げるように外国での勤務をして、更にお互いの心は離れていった。

 もう今じゃ、幼い頃の娘との幸せな時間は忘れてしまい、汚い物を見る目つきの娘しか思い出せなくなっていた……。

----------




(嫌な夢を見た……)

 劉亮は不快な気分で目を覚ます。

 隣では劉展が能天気にいびきをかいている。

(いかん、いかん。

 気持ちを立て直さないとな。

 不機嫌な表情で丘力居と会うなんて出来ない)


 今日は表向きは馬の調達、真の目的は「少なくとも田野の戦いでは、烏桓族は劉備に敵対しないで欲しい」と伝える交渉をする。

 この先の自分の生死に関わる事だ。

 しっかりしないと!


「ほお、小僧、大きくなったな」

(どこの聖帝だよ)

 丘力居は尊大な態度で劉亮に向き合った。

 幽州に侵攻している軍中という事もあり、殺気や威圧感が半端ない。

「それで、何の用か?

 お前は我々を見下す漢人の中では、我々への態度が好ましい。

 つい先頃も、お前たちと共に戦った我が同胞を通じて貢ぎ物を送って来た。

 そんなお前だから、こうして話を聞く気になったのだ」

 全くもって、お歳暮やお中元は大事である。

 劉亮は鮮卑の脅威が薄れて没交渉になっていく中、折を見ては丘力居や、顔見知りの里長たちに贈り物をし続けていたのである。

 こういうのは高価な物を一発よりも、安価な物でも継続的に贈っておいた方が良い。

 無論安すぎると相手を軽んじる事になる為、ある程度の高級さは欲しいのは言うまでもない。


「単刀直入に言います。

 張純と手を切り、私と手を組みませんか?」

 丘力居は目を剥く。

 お為ごかしな事から始まるかと思いきや、いきなりとんでもない発言をして来た。

 この若造は一体何を考えている?

 張純は元とはいえ中山太守、張挙は元の泰山太守である。

 取るに足らない漢人とはいえ、目の前の無位無官の若造よりは価値があるだろう。


「話にならんな。

 お前と手を組んで、何の利が我々にある?」

「来年にも赴任される劉虞殿との交渉で役に立ちますよ」

 これは逆行転生者、或いは一巡した世界に転生した劉亮ならではのハッタリであった。

 中の人は、劉虞が刺史より強化された権限を持つ「州牧」に劉虞が任命されるのを「知って」いる。

 そして烏桓族だけでなく鮮卑も匈奴も、徳をもって彼等に接してくれた漢の宗族である劉虞を慕っていた。

 これも前世の知識である。


 実は劉亮は洛陽に居る時から、既に手を打っていた。

 親しくなった袁紹と彼のサロンの士大夫たちに、漢と塞外民族との関係がこじれた時は劉虞を推薦するように頼んでおいたのだ。

「劉虞様は彼等から慕われています。

 劉虞様ならば、戦わずに事を収められましょう」

 後に袁紹は劉虞を担いで皇帝に擁立しようとする。

 関係は悪くない。

 繋がる縁は全て繋いで、自分が生き残るよう必死で布石をしていたのだ。


「劉虞殿か……。

 悪くない。

 あの方は我々を対等な存在として接した。

 そう、お前と同じようにな」

 丘力居は劉亮の方を睨んだ。

「だが、信じられない。

 どんなに良いように見えても、お前も漢人だ。

 腹の底では我等を侮り、馬鹿にしているかもしれん」

 この辺り、劉亮の中の人は鈍感である。

 確かに漢人は周辺民族の事を蔑視している。

 劉亮の前世でも、白人は有色人種を差別する事は頻繁であった。

 だが彼自身は差別した事は無く、差別された経験も少なかった。

 前世の日本人は、人種差別・民族差別に鈍感である。

「名誉白人」とか「日本人という特別カースト」なんていう、良いのか悪いのかそんな言い方で特別待遇された為、差別されて死ぬ程悔しいという経験も無かった。

 たまに差別用語を吐く連中も居たが、周囲に居た者たちがすぐに擁護し、時には法的措置で相手を叩きのめしたりした。

 だから丘力居が漢人を警戒するのも、頭では分かるのだが、やはりどこか分かっていない所がある。


「お前が腰に吊るしている刀、それは漢の物ではない。

 我々の物だ。

 お前は胡風というものを下には見ていないな。

 お前には我々を敬う気が本当に有るかもしれない。

 それと、色々言ってはみたが、儂はお前そのものは好ましく思っておる。

 小僧ながら劉虞殿の使いとしてやって来たあの時からな」

 董卓から貰った羌族の刀が、意外な所で役立ったようだ。

「一つ試してやろう。

 娘たちを連れて来い」

 騎馬民族は、民族全部で行動する。

 集落が丸ごと移動して来る。

 だから戦う数には入っていないが、女子供も近くに居たようだ。

……定住しないのだから留守番というものはないし、仮に残して来たら、それは他の民族に餌を提供しているも同然である。

 こうして連れて来られた二人の烏桓族の女性。

 丘力居は劉亮に向かって

「この二人は儂の娘だ。

 お前はこのどちらかを正式な妻とせよ。

 側室は許さん。

 さあ、選べ!」

 そう迫った。

「叔朗兄、これは玄徳兄や母君と相談しないと……」

 能天気な劉展が焦っている。

 婚姻というのはそれ程大事な事なのだ。

 家と家、氏と氏の関係を結ぶものであり、劉展からしたら北の野蛮人の娘なんてとんでもないと思っている。

 更に二人の内、一人は漢族から見ても柳腰で美人な方だが、もう一人はガタイが良く、男と言っても疑われないような化け物だ。


 劉亮は内心で頭を抱えている。

 彼の中で、騎馬民族の娘との婚姻そのものは簡単にクリア出来ている。

 中の人は日本人だから、良い意味でも悪い意味でも差別意識は無い。

 まあ出来れば同じ国の……という意識はあるが、それを乗り越えたら国際結婚は珍しいものではなかったからだ。

 悩んでいるのは、目の前に居る女性の一人が、前世における自分の実の娘そっくりだった事だ。


(いくらなんでも、娘を妻に出来るか!

 いや、転生したこの時代、この女は俺の娘ではない。

 それは分かっている。

 だけど、俺は娘の顔を見続ける事に耐えられない!)


 今朝の夢がフラッシュバックする。

 中学生になる辺りから、嫁と二人で自分の事を蔑むようになった娘。

 もう可愛いとは思えない。

 それでも娘と同じ顔の女性を妻とする事にも抵抗がある。

……であるなら、選択は一つだ!


「そちらの大柄な女性を我が妻として迎えたい。

 如何でしょうか?」

「本気か?」

 これは劉展と丘力居が同時に発した言葉である。

 劉展は劉亮がトチ狂って自暴自棄になったように思っていた。

 しかし丘力居は違う。

「本気で、烏桓の娘を妻にすると言うのだな?

 そして、漢人好みのこちらではなく、あの巨体の方を選ぶと言うんだな?」

「はい」

 丘力居はしばし呆気に取られていたが、すぐに大笑いした。

「そうか、そうか!

 やはりお前は面白い。

 全く他の漢人とは違う。

 大柄な娘は、我々ならば良き子を産めるだろうとして妻に相応しいと考える。

 だが漢人からしたら女子は飾り物。

 見た目が良ければそれで良い。

 だから華奢な姉の方も用意して、お前を試したのだ。

 妻に迎えぬというのは問題外だ。

 烏桓だから身内に出来ぬと言ったようなもの。

 その時点でお前の要求は断った。

 その次に、もしも華奢な方を選んだなら、外面だけは我等に同調しているが、内面はやはり見栄えを気にする漢人だと、我等は割り切って考えただろう。

 だがお前は、この娘を選んだ。

 それは我等と同じ感覚を持っているという事だ。

 お前はこの丘力居が手を組むに値する。

 同族と看做して歓迎するぞ、婿殿!」


 周りでは丘力居だけでなく、他の烏桓の者たちも喜びの雄叫びを上げていた。

 巨体な娘は、白い顔を赤く染めて嬉しがっている。

 唯一劉展だけは、何が何やら分からないまま佇んでいた。


「では大人、張純とは手を切って……」

 だが丘力居は甘い男ではない。

「それとこれは別だ」

 そうピシャリと言ってくる。

 この辺り、烏桓族大人の威厳が溢れている。

 だがすぐに笑顔になると

「劉虞殿が幽州に来られたなら、直ちにそれに従おう。

 だが、本当に来るかどうか確かめねばなるまい」

 と言って来た。

「ごもっとも。

 では私は、人質として烏桓の中に留まる事になりましょうな」

「フフ……婿を人質だとは思わんよ。

 来なかったとしても、お前は儂の婿として働いて貰う」

「ありがとうございます。

 では、別のお願いをしてもよろしいでしょうか?」


 こうして劉亮は、表向きの仕事である馬の買い付けと、馬を引き渡した事で一回北方に戻って貰う事を約束させた。

 張純を裏切ってはいない。

 だが商売をしたのだから、商品兼戦力の補充の為に一回幽州から出る事を、頼んで同盟を結んで貰った張純たちが咎める事も出来ない。

 公孫瓚は大量の馬を手に入れられて満足だろう。


 とりあえず劉展に全ての馬を預け、戻って貰う事にする。

 いまだに何がどうなったのか分からない劉展に、劉亮はある物を手渡した。

「兄者に伝えてくれ。

 戦闘において烏桓族を含む敵に苦戦した時は、これを掲げよと。

 何度も使うものではない、いざと言う時に使って欲しい。

 だが、それで我々劉一族の運命が変わる。

 頼んだぞ」


 劉亮は烏桓に従って一旦北方に去る事にした。

 その道中、舅となった丘力居が

「折角だから、我が娘に漢人風の名をつけてくれぬか?

 本当の名前はあるのだが、お前たちでは発音が難しいし、娘も漢人風の名を欲している」

 そう言って来た為、即座に

「白鵬姫にしましょう」

 と答えた。

 白き伝説の(おおとり)、その美名に丘力居も娘も喜んでいた。


(言えん。

 前世で見た横綱にそっくりだったから付けた名前だなんて……)

 口に出せぬ思いを抱える劉亮であった。

おまけ:

丘力居とか檀石槐とか、多分中国人が当てはめた漢字名で、本当はどう発音したのか分からないと思ってます。

だから、東胡系民族の真名の読み方や、当時の女性名とか分かりません。

なので、モンゴル力士ネタでいきますが、ご容赦を。

(現在のモンゴル人ですら、ネーミングをどうしたら良いか知識が無いものでして)

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― 新着の感想 ―
糸目になったかぼちゃワインのあの子が浮かぶw
朝青姫じゃなくてよかった……
[一言] 白鵬姫=サンは遊牧民族の娘ですし、騎馬戦闘をこなしてくれそう。 そうなると、曹叡率いる魏帝国の誇る横綱曹真との“相撲”対決も楽しみです。
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