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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第三章:運命を改変せよ
25/112

再会、劉亮と曹操

 唐突に劉備の居場所が分かる。

 劉備は中山国安熹県の尉を勤めていたが、督郵(監察官)に暴行を加えて逐電してしまった。

 それで連座して、劉亮は朝廷の郎という職を解かれたのだが、そんな無職の劉亮が再度朝廷に召し出される。

 朝廷と言っても皇帝の傍ではなく、大将軍何進からの呼び出しであった。


 揚州丹陽郡で反乱が起こった。

 都尉の毌丘毅が事態の収束に向かうのだが、その助勢として劉備が加わるのだという。

(どういう魔法を使ったんだ?)

 先日まで反逆者として扱われていた劉備が、一転して官軍の一員となる。

 よく理解が出来ないが、劉亮には

「劉備は其方の兄であろう。

 行って共に戦うが良い」

 と大将軍からの命令を伝えられる。

 伝えたのは、何進の掾(属官)となった袁紹であった。


 その後、袁紹が招いて劉亮の送別の宴が催される。

 劉徳然も劉備の下で働くよう命じられ

「俺は洛陽を離れたくない!

 こんな良い扱いの場所を離れ、玄徳の下で軍務に就くのは真っ平だ!」

 と、言葉を変えてはいたが嘆いている。

(いや、あんたは劉備の督軍(監視役)なんだから、朝廷からの扱いは上がったんだぞ)

 と言いたい気分もあるが、ちょっと嫌な気分であった為無言である。

 劉亮は自分が死の運命から遠ざかれないよう感じていた。

 あと数年で、劉備が敗北し、一族が壊滅する戦いが起こる。

 もしも洛陽に、自分と劉徳然が残っていたなら、その運命は変わっただろう。

 だが自分たちは劉備の元に向かうよう命じられてしまった。

(まさか、自分は運命から逃れられないのか?

 歴史の修正力ってやつが働いているのか?)

 モヤモヤと考えている所に袁紹が酒を注ぎに来た。


「そういえば、君と話したいって奴が居てねえ」

「はあ、誰でしょうか?」

「曹操っていう、ちょっと変わった奴なんだが……」

「話は聞いた! 蒼天は死す!」

 袁紹が名を出した瞬間に、ガラっと戸を開けて現れる小男。


 ブーーーーッッッッ


 思わず口に含んでいた酒を噴射するという、士大夫の会合ではあるまじき振る舞いをしてしまった劉亮。

 だが、見ると鼻から酒を垂らしていたり、むせている者も居るから、これは曹操の登場タイミングが悪過ぎただけだろう。


「孟徳!

 来るなら一報を入れろ!」

 袁紹が一喝するも、

「その手間が惜しかった。

 使者よりも速く馬を駆けて来たんだ、許せ本初」

 と悪びれない曹操。


(説曹操、曹操就到(曹操のことを話すと、曹操がやってくる)ってこういう事か……)

 口元を拭いながら、中国の諺に思い至った。

 まあ、まだこの諺は出来ていないのだが。


「劉叔朗、久しぶりだな」

 顔を近づけて馴れ馴れしく声をかけて来る曹操。

「なんだ、君たちは知り合いだったのか」

「はい、そう言おうとしたら、曹操殿がもう入って来たので」

「そうだな。

 俺が洛陽北部尉をしていた時に、俺を訪ねて来たんだ」

「ははは……。

 袁紹殿はその時、濮陽の県令をされていたのでしたな」

「ああ、あの頃か。

 そうか、そうか。

 私も洛陽に居たら、会っておきたかったものだ」

「そうだな、陛下を譲位させようなんて事を言い出す男、滅多には居らんからな」

「いや、私はそこまで言っていません」

「生前譲位なんて、俺すら思いつかなかった。

 あの時も面白い男だったが、もっと酷くなったようで何よりだ」

(酷くなったって、どういう事だよ)

「あの頃も面白かったって、どういう事だ? 孟徳」

「叔朗はまだ十六歳だったかな。

 その時既に、お前と似たような事を言っていたぞ。

 上が変わらんと、下が何をやっても無駄だって」

「おお!

 その時からそのような卓見を……。

 やはり、その時に会っておきたかったなあ」

(なんか、俺って過激な運動家みたいな感じに扱われてないか?)

 曹操が色々吹聴して回るから、周囲の見る目が変わって来ている。

 好意的に見る者もいるし、宦官の孫という事で曹操を嫌っている感じの者は、同じような視線をこちらに向けて来る。

 曹操の同類と見られているようだ。

 曹操は黄巾の乱での活躍後、済南の相に任命されたが、十人の県令のうち八人を汚職の罪で罷免したり、城陽景王の祠を邪教として廃棄したりした。

 その後に東郡太守の任を受けたが、済南での辣腕っぷりを嫌がられたものと解釈し、拒否して郷里に戻ったという。

 そして有り余る祖父・曹騰の金を使って遊び回り、たまにこうして洛陽まで足を伸ばしていたようだ。

 どうも曹操のそういった話を聞いたようで、劉徳然も曹操を胡散臭げに眺めている。

 曹操の方は、劉徳然を気にも留めていないが。




「で、今でも天子を代えないとダメって意見なのかな?」

 宴が散会した後、曹操は劉亮を捕まえて自分の館に連れ込む。

 男にお持ち帰りされたって嬉しくも何ともないが、強引過ぎて断れなかった。

 そこで曹操は自分で料理した物を持って来ながら、そう問う。

「いや……、今すぐそうしろとか思っていませんよ」

 劉亮が口ごもりながら答えると、

「君は陛下を見たな?」

 とすかさず言って来る。

「はい」

「どう思った?」

「名君かどうかは分かりませんが、暗君では無い……」

「ハッキリ言うなあ。

 暗君とか昏君とか痴愚とか銭の亡者とか、俺も恐れ多くて口に出来ん言葉だ」

(嘘つけ!

 あんた、よっぽど酷い事言ってるぞ)

 劉亮は明らかにからかわれている。

 曹操は更に尋ねる。

「で、君が見た陛下について、もう少し思った事を聞かせてくれないか?」

 態度を改めて真面目に聞いて来たから、劉亮も居住まいを改めて答える。

 劉亮は地方反乱に対し、自腹を切って軍を支えた話や、その人事について何進よりも的確であった事、近衛兵の拡充を考えていた事等を話す。

「で、ただの守銭奴だと思っていたが、考えを改めたって事だな」

「まあそうなりますね」

「叔朗」

「はい」

「君が俺を訪ねて来た時、主上は何歳だったと思う?」

「えーと……」

 記憶を辿ると、霊帝は曹操の一歳年下。

 という事は

「十九歳か、二十歳?」

「正解だ。

 そして竇武や陳蕃を殺して、党人(清流派)を追放した時は十三歳だった。

 君はその年の頃、一体何をしていた?」

「従兄弟たちと野山を駆け巡っていました」

「ハハハ。

 俺は本初の奴と花嫁泥棒をして遊んでおったぞ」

(なんつーガキだ……)

「分かるな?

 そんな年齢の天子に正邪、真贋を求めるのは酷だと言う事が」

(そうか!

 皇帝も人間。

 年齢と共に成長していくんだ。

 今の霊帝が賢く見えるのは、それだけの年齢だから当たり前なんだ。

 まあ長じても暗愚って場合もあるが。

 逆に言えば、あの時に大人たちが密かに暗愚だと思っていても、少年だから右も左も分からないだけだったんだ)


 劉亮が色々と吞み込んでいる表情なのを見て、曹操はニヤニヤ笑う。

「成長したから名君、だから宦官さえ成敗すれば全てが終わる、そう思っていたら大間違いだぞ」

 その曹操の言葉に、劉亮もすぐに反応する。

「漢朝は天子が長生きしない」

「む!」

 曹操は自分が言いたい事を先回りされたようだ。

 だが、それはそれで気分良さそうである。

「君は実にハッキリ物を言う。

 小気味良くて実に良い。

 そうだ、漢朝は皇帝が早死にする。

 だから皆、今上の天子も早晩死んでしまわないか、期待している」

「まあ、何となくそう感じます。

 直接的な事は言いませんが」

「幼君になれば、それを懐に入れた者が勢力を握る。

 まあ外部の者は、例え皇后の一族であれ長続きはしない。

 後宮で宦官にかしづかれていたら、いつか宦官に取り込まれる。

 まあ宦官の中にも、党人追放を改めるよう陛下に具申した呂強のような者も居るから、宦官だから悪という訳ではない。

 天子も宦官も古くから宮廷の中に存在するもの、その是非を問う事はこの漢の在り方そのものに疑義を唱える事だ。

 だから……」

「皇帝の賢愚、長幼を問わず、政治が左右されない仕組みが良い。

 宦官も居て問題ない、それが政治に関わらないようにすれば良い」

「アッハッハッハ。

 まあそういう事だが、それは俺に言わせろよ」

「すみません」

 恐縮する劉亮に曹操が酒を注ぐ。

「うむ、酒はもっと美味いのを作りたいものだ。

 すぐに劣化してしまう。

 甘ったるいと思ったら、どんどん酸っぱくなる。

 そうは思わんか?」

「いや、酒は口当たりが良くなり過ぎると、思わず飲み過ぎてしまいます。

 それで余計な事を言ってしまって……」

「分かっているなら、そこまで飲まねば良い。

 俺は酒そのものの製法を話しているんだが、まあ政治に話を戻そうか」

「そうしてくれたら嬉しいです」


 とりあえず不味い酒で乾杯する二人。

 杯を干した曹操は、ちびりちびり口にする劉亮に

「君だろ?

 副車騎将軍(皇甫嵩)が役立てた資料を作ったのは」

 とズバリ口にする。

 劉亮が酒を吹き出さなかったのは、少量をもう飲んでしまっていたからだ。

(は?

 皇甫嵩が使った?

 董卓があれを後任に残していったのか?)

 彼は自分の仕事を過小評価している。

 引継ぎ資料というのは、有ればとてもとても、とても有難い物なのだが、その作成は仕事の成果にはカウントされないものだ。

 実際に取れた営業成績、実物の開発、金銭になる成果が出たら評価されるもので、資料作りは業務の余事のような扱いであった。

 そういう扱いをされていたから、引継ぎ資料を残さないと自分の記憶からも気持ち悪かっただけで、使わなければ使われなくても気にしていなかった。

 だが董卓はこれを重視し、自分は使わなかったが、後任に残していったようである。


「それでな、あの董卓が君を採用に動いたと聞いた。

 俺は君の名前を知っている。

 それで、副車騎将軍の部下に色々聞いてみたら、そういう資料が有った事を聞いた。

 盧植殿の戦略を記したという事は、盧植軍に属していた者の仕事。

 その中で、『師にのみ忠実』というおかしな儒の意識を持っていない者は、俺が知る限り君しか居なかった。

 だから俺も君を推挙したのだ。

 俺の推挙も無ければ、君は董卓に仕えるべく并州に行かされていただろう。

 だから先に洛陽で朝廷に仕えさせ、一年経ったら俺の部下にすべく働きかけるつもりだった。

 まあそうなる前に君の兄が面白い事をしたせいで、君は職を解かれて洛陽に留まっていたのだがね。

 そして俺も無官になって、このザマさ」

 そう言って笑う曹操。

(二人の推挙者のうち、一人は曹操だったのか!!)

 劉亮は謎が解けて、ちょっと気分が晴れた。


 劉亮は曹操に

「董卓殿をご存知なのですか?」

 と尋ねる。

「優れた男だ。

 百回を超える羌族の反乱勢力と戦い、ことごとく勝利している。

 恩賞は全て部下たちに分け与え、西域のあらゆる民族に名が知れた勇将だ。

 黄巾賊に敗れたのは、大方実情を知らぬ朝廷より強襲を命じられたからだろう。

『死すれば再びは生きず、窮鼠も狸を噛む』

 というように、追い詰めた後こそ肝心なのだがな。

 まあ、それくらいの敗戦で董卓の武名は揺るがぬだろう。

 だからこそ、君を取られてたまるか、と思ったよ」


 曹操は董卓を評価しているようだ。

 そして相変わらず、自分に対する評は

(それ、過大評価ですよ)

 と劉亮は思っていた。

おまけ:

済南国相の曹操には推挙権有り。

その際、孝廉や茂才でなく賢良で推挙したのが曹操らしいというか。

「茂才(学問に秀でた)は主に儒学だし、一年に一回だけだから、賢良(ジャンル問わず賢い)はいつでも推挙可能だし、叔朗に合ってるだろ」

とこんなノリ。


なお董卓は劉亮を辟召で朝廷に推挙。

要は、郎をすっ飛ばして自分の部下にしたがった。

後には、朝廷の見習いを経る孝廉・茂才・賢良方正より、有力者が直接部下にする辟召の方が手っ取り早く偉くなれましたが、今は推挙されて朝臣からキャリアスタートが格上。

「儂以外にあいつに目を付けたの誰だ?」

てな感じで、劉亮は洛陽に呼ばれたという流れ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 過大評価じゃないよねえ 字が汚いから 表面しか見ない袁一族はダメだけど 本質を見るだろう 劉備、孫堅、董卓、曹操からすると 得難い人物なんだよなぁ
[一言] 打てば響くという感じで、曹操と話しているときが一番楽しそうに書けているなあ
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