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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第二章:黄巾の乱
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関長生

「ほお、劉家も立つのか」

 県令を勤めている公孫瓚に劉備・劉亮は挨拶をしに行く。

 幾ら盧植門下の朋友とはいえ、朝廷の役に就いている者を無視し、勝手に兵を挙げるのは憚られる行為である。

 説明を受け、公孫瓚は何度も頷き、そして

「出立はしばし待って欲しい。

 俺も一緒に行く」

 と伝えた。


 既に黄巾の乱は激しくなっていた。

 幽州刺史の郭勲と、広陽太守の劉衛が既に黄巾軍によって攻め殺されている。

 幽州の上の方は統制が取れなくなり始めた。

 だから

「県令の俺も、県の正規兵を集めて戦いに出る」

 と、上の命令を待たずに公孫瓚も戦う事を決めたのだ。


 公孫瓚は、遼西の名家・公孫家の出ではあるが、母親の身分が低く、家の中での扱いは悪い。

 故に出世欲は激しい。

 それでも盧植門下だけあり、汚職には手を染めず、県政も民に負担を掛けないものであった。

 彼は、公孫家の兵を使う事が難しい。

 だから県令として、役所の警備兵の他に、命令を出して兵を集める。

 そうしないと手柄は立てられない。

 彼も彼で苦労しているのだ。


 公孫瓚と別れ、町を歩く劉亮と劉備。

「兄者は兵法に秀でた者に心当たりはありますか?」

「無い……。

 が、頼りになる男なら知っている」

「兄者、ちょっと付き合ってくれませぬか?

 兵法を知る者を紹介したいと思います」

 劉亮はそう言って劉備を連れ出した。

 行き先は張飛の家である。

 前に会った時は、図体こそでかいが細身の美少年であった。

 あの樽胴体で虎髭の豪傑ではなかった。

 だが、武官を勤めていた者から兵法を学んでいたし、書も達者な知識人、中の人の前世の歴史から見ても戦には必要な男な事は間違いない。

 是非とも仲間に迎えないと。


 久々に会った張飛は、前よりも背が伸び、体の厚みが増している。

 威厳をつけたい為か髭を生やしているが、まだ薄く、あの虎髭の「三国志演義」の張飛にはなっていない。

 美少年から美青年に変わっているが、劉亮の前世で例えるならスポーツ選手のようである。

「あれから随分鍛えられたようですね」

 劉亮が語りかけると

「鍛えた訳ではない。

 農作業をしていたら、自然とこうなった」

 と返す。

「それで、今日の用件は?」

 張飛の問いに、劉亮は黄巾の乱に対して義兵を立ち上げたから、是非力を貸して欲しいと言った。

 張飛は考え込む。

「乱を鎮めてどうする?

 今の腐った世が戻る事に力を貸すのか?

 田畑を荒し、民の蓄えを奪う暴徒に賛同はせぬ。

 しかし、官軍も助ける気にはなれぬ。

 悪いが断らせてもらう」

「官軍を助けるんじゃなく、俺に力を貸してくれねえか」

 劉亮が何か言う前に、劉備が話に割って入った。

「あんたは?」

「こいつの兄で、姓は劉、名は備、字は玄徳と言う。

 玄徳って言ってくれたらいいよ。

 それで張さん、あんたの言う事は正論だ。

 乱を鎮めても、腐った漢が戻って来るだけだ」

 劉備の言に張飛は面食らう。

 劉姓の者がこんな発言をして良いのか?

 或いは劉姓だからこそ、こんな発言も許されるのか?

 劉備は続ける。

「だが張さん、腐った世が戻って来て、それがずっと続くと思うかい?

 俺は第二、第三の黄巾を巻く奴等が現れると思うぜ」

「もっともな話です。

 お考えがあるようですね。

 玄徳殿、貴方の考えを聞かせて下さい」

 張飛は居住まいを改めた。

 劉備は続ける。

「漢が態度を改めて、世の中が良くなったなら、俺たちはまた故郷に帰って、土でも弄ってれば良いさ。

 だが態度を改めなかったら?

 また反乱が起こる。

 漢が直らない限り、乱は何度でも起こるだろう。

 度重なる乱によって、国はボロボロになり民は更に苦しむ事になる。

 今の漢に期待しても無駄だ。

 誰かが立ち上がらねばならない。

 その時、一軍を率いる者になっていなければ、民を救う事も出来なくなるんじゃないか」

「うむ…………」

 張飛は考え込んだ。

 そして

「玄徳殿が世を変えると言うのか?」

 という問いを発し、劉備は

「変えるだけの力を持つかどうか、この義兵での活躍に掛かっている。

 だから張さん、あんたの力を貸して欲しいんだ」

 そう言って頭を下げた。

(俺が今日紹介した、今まで知らなかった相手に対し、こうも懐に入っていけるのか)

 劉亮は改めて劉備の凄さに驚く。

 張飛は膝を折り、礼を取りながら

「是非とも玄徳殿と共に戦わせていただきたい」

 と言う。

 こうして劉備の義兵に、とんでもなく力強い者が加わった。




「叔朗、今度はお前が俺に付き合え」

 張飛宅を辞すと、劉備が劉亮に話しかけた。

「良いですが、どちらに行かれるので?」

「さっき言ってた、俺の方の心当たりの所だよ。

 ちょっと訳アリでな」

 そう言いながら馬で駆け出す。


 暫く行った所の茂みの中。

 そこに多数の山賊のような者たちがたむろっている。

「関さん!」

 劉備が呼び掛けると、長い髭を蓄えた赤ら顔の男が振り返った。

(関羽!!)

 劉亮の中の人は驚く。

 ここで会えるとは思わなかった。

 歴史を思い出すと、関羽・張飛ともに黄巾の乱討伐軍で劉備と出会っているから、遠からず会うとは思っていたが、まさかこことは……。

「叔朗、こちらは関長生さん、塩の密売人だ」

「玄徳殿、訂正して頂きたい。

 儂は塩の密売人でも、密造人でもない。

 私塩を運ぶのを護衛していただけだ。

 それに、今の漢のやり方では、民は安く塩を得られん。

 だから手を貸していただけで、何も悪い事はしておらん」

(悪法も法とは言うが、それは言わないでおこう)

 劉亮は関羽の抗議を聞きながら、色々考えていた。


 漢において、塩と鉄は専売品であった。

 鉄は兎も角、塩は生活に無くてはならぬ物。

 その販売を独占し、高価格を付ける事で漢の財政は潤っていた。

 だが、鉄と違って塩は簡単に作れる。

 そうして作った密造塩は、漢朝の価格の半値でも大儲けとなる。

 だから塩の密造人、密売人は後を絶たず、漢の官憲はそういった者の摘発をしていた。

 関羽は塩の産地・河東郡解県の出である。

 ここは劉亮の前世では山西省運城市塩湖区と言い、解池は重要な塩湖であった。

 この地の闇商人たちは、先日官軍の襲撃を受けて捕縛され、護送隊の関羽たち一行は脱出したのだと言う。

 そして各地を転々としながら、幽州に入ったのだ。

 劉備は馬商人の張世平や蘇双と付き合っている。

 その物資輸送の護衛をしていた時、関羽たちと出会った。

 隊商を襲おうとした関羽に、劉備は話し掛ける。

「あんたら強そうだね!

 襲うのではなく、護る方に回ってくれないか?

 そうすりゃ、胸を張って飯を食えるようになるぜ」

 盗賊を勧誘し、逆に手駒にしてしまうのが劉備の器と言える。

 関羽はその器を感じ取り、一笑に付して襲おうとする手下を黙らせると、劉備に従うと申し出たのだった。

 劉備もそれに応え、雇い主の豪商に頼み込み、関羽たちも護衛隊に加えて貰った。


「……という経緯なんだが、まだ公にはお尋ね者のままなんでね」

 それが、すぐにでも劉備の義兵に参加せず、野に隠れていた理由なのか?

「いや、こんな所に居たのは別の理由だよ。

 で、関さん、見たところ三百は居るようだけど」

「うむ、見どころが有りそうなのを連れて来た」

 聞けば、かつての自分たちと同じお尋ね者、山賊、盗賊らを肉体的に説得し、仲間を増やして来たのだと言う。

 中には黄色い頭巾を被った者もいたが

「よろしいな?」

 と関羽が聞くと、劉備が

「構わない」

 と返す。

(いや、これ黄巾賊の仲間だろ……)

 と内心突っ込みを入れる劉亮だったが、二人は一切気にしていない。


「それで、もう一度腐った漢の朝廷に力を貸す理由をお聞かせ願いたい。

 この者たちにも聞こえるように、是非!」

 関羽は皆を劉備に見せながら要求する。

 関羽もまた、今の漢に不満を持つ男だ。

 先程の張飛同様、腐った政府を助ける事に疑問を持っているようだ。


 劉備は人相の悪い連中に囲まれながら、演説を打った。

「『蒼天已に死す』と言う。

 これは正しい。

 正確には、これから死んでいく。

 世は乱れるぞ!

 そんな時に、お前ら野に居て良いのか?

 一発逆転してみたいと思わないか!」

(演説ではなく、煽動(アジテーション)だったよ……)


「それなら黄巾でも良いではないか!」

 誰かがそう叫んだ。

 劉備は答える。

「確かにな。

 だが黄巾ではちょっと早過ぎる。

 世を変えるきっかけにはなるが、その段階で死んでしまうだろう。

 世が変わるのはもう少し後になる。

 だから、その時の為に長生きしろ」

「なんで黄巾が負けると、決まったように言うんだ?」

「負けるよ。

 だって、これから俺が討伐に行くんだから!」

(ハッタリもここまで来れば凄いものだ)

 劉亮の内心のツッコミは劉備にも関羽にも届かない。

 劉備には、ここの盗賊集団を合わせても八百人の兵しか無い。

 それなのに、よくもこんな大言壮語を吐けたものだ。

 だが劉備の迫力は、有無を言わせぬものがある。

「とりあえず、お前ら全員が今の漢の事、気に入らないってのはよ~く分かる。

 俺だって洛陽で酷え有り様を見て来たんだ。

 だからお前さんたちに言う。

 まだ死ぬな。

 死ぬなら俺の為に死ね。

 天下の為に俺と共に戦い、民の為に死ね。

 そうしたら、俺はお前らの家族の面倒を最後まで見てやる。

 ここで黄巾を討ち、官軍に味方する理由。

 それは功績を挙げて、お前らをお尋ね者から良民に戻す!

 そうして胸を張って生きていき、世が変わる時にまた助けて欲しい。

 だから、まだ死ぬな、今死ぬな、罪人のまま死ぬな。

 納得出来ないなら去っても構わねえ。

 だけど、俺の思いは分かって欲しい。

 俺は腐った連中、民を苦しめてる連中に媚びを売る為に立つんじゃねえからな!」


 その発言の後、数人は離脱したものの、ほとんどの者は残って劉備に従うと誓った。

(いやはや、これが劉備の大器か)

 改めて乱世における劉備の実力を見られて満足な劉亮の中の人である。


 やがて劉備は、元盗賊も含む八百程の兵を率いて、県令の公孫瓚と共に出陣した。

 その前に公孫瓚に頼み込み、関羽たちの追討を取り消すよう手配して貰う。

 関羽はここで

「生まれ変わったものとし、(あざな)を長生から、雲長へと変えます。

 向後、関雲長とお呼びあれ」

 と皆に伝えた。


 こうして劉備・関羽・張飛の所謂「桃園三兄弟」が揃ったのを見た「三国志」マニアの劉亮の中の人は、それだけで泣きそうになっていたのである。

おまけ:

関羽は劉備の部下ではなく、対等に近かったって話をどこかで見ました。

この人、劉備とは別行動してる事が結構ありますし。

この後、基本「関羽、メンドクセー!!」なキャラでいきます。

陳寿の評を読めば、そうならざるを得ないので。

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― 新着の感想 ―
法や理、常識ではなく心をくすぐる劉備の巧さ!これは面白い!
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