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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第一章:三国志前夜
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北方民族との交渉

 劉亮は本来、大人しく慎み深い人物である。

 一部の記録に残る劉亮がそういう性格であった他に、転生した中の人も、基本的に相手に気を遣うよう訓練されていた為、豪快な行動とかはまずしない。

 そんな劉亮が、長城の外に出て鮮卑の地に向かう道中、大声で歌い、楽器を鳴らしたりしている。

 中の人の記憶から、日本のポップソングを歌ったりもした為

「叔朗、何だその曲は?

 というか、どこの言葉なんだ?」

 と豪傑肌の劉備にすら突っ込まれている。

 そりゃ後漢の人間が、英語混じりの日本語の歌なんか理解は出来ないだろう。

「どこかの民族の歌でしてね。

 漢の音曲でない事は確かです」

 そう答えると、どこで覚えた? とか根掘り葉掘り聞いて来る。

 そんな劉備だが、普段は慎み深い弟がこんな行動を取る意味は問わない。

 理解していた。

 どこに居るか分からない騎馬民族と出会う為に、存在をアピールする必要があるのだ。

 堂々と隊列を組めば警戒される。

 だから少数でやって来たのだが、そうなると見つけて貰えないか、襲撃して物資を奪い、人を殺して逃げ去ってしまう事もある。

 そこであえて目立ち、相手に存在を知らせ、意味不明な行動をする不審者を単于とは言わないまでも、里長辺りの居留地に案内して貰おうという意図だ。


 目論見は、七日目に実を結ぶ。

 この日はアニソンを歌っていた劉亮だが、サビの熱唱部分が終わるや否や、鏑矢が頭上を通り過ぎた。

 そして百騎前後の集団が遠巻きにこちらを窺い始めた。

 劉亮は通訳を通じ

「酒を飲みに来た!

 長の所に案内して欲しい」

 と伝えさせると、自分も大声で

「ワタシ、アヤシクナイヨー」

 と鮮卑の言葉で叫ぶ。


 劉亮の中の人の前世、金刀卯二郎は海外に飛ばされたっきりの社員であった。

 その海外にはモンゴルも含まれる。

 現地語を勉強した経験から、所謂ウラル・アルタイ語族と言われる言語群にも一定の知識があった。

 文法は中国語よりも日本語に近い。

 そんな知識と、来るまでに通訳をする奴婢から言葉を学んでいた為、多少は話せるようになった。

 ただし現代モンゴル語やウズベク語と、この時代の鮮卑語、匈奴語が同じな訳がない。

 なので、頑張って覚えたこの言葉も、向こうが聞けば「怪しい中国人」のアクセントになってしまうのだ。


 まあ意味さえ通じれば十分。

 劉亮たち一行の前から、騎馬集団が遠ざかっていく。

 だが、着いて来いとばかりに最後尾の者が叫んでいる為、彼等に比べて馬の扱いが下手な劉亮たちは、どうにかそれを追いかけて行った。


 連れて来られた集落で、劉亮たちは敵意込みの視線を向けられる。

 まあ当然だ。

 彼等にとって漢人とは敵でもあるし、獲物でもあるし、恐ろしい支配者でもあるのだから。

 そしてここが鮮卑族の集落ではない事も分かる。

 ここは烏桓族の集落であった。


「どうします?

 我々は鮮卑と交渉する為に来たのですぞ!

 違う者と話しても意味がありません」

 運搬係がそう呟くが、それを劉備が笑い飛ばす。

「折角案内されたのだ。

 違うと言って引き返す無礼があるか!

 飲めば一緒なんだよ!

 後の事は飲んでから決めれば良い」

 そう言って、ここの里長に対して一礼をした後、酒瓶を長の前に差し出すと自ら飲んで見せた。

 毒が入っていないアピールである。

 そして長の隣に立つ者に酒を薦め、飲ませてみる。

 こうなると酒好きな民族である、誰もが酒を求めて盛り上がり始めた。


 こうして酒宴が終わった翌日、劉亮は里長に帰る事を伝えた。

 里長は驚いて問うて来る。

 一体何をしに来た? ただ酒を飲むだけで良いのか? 何か要求があったのではないか?

 劉亮はたどたどしく

「ナニモナイヨー。

 私ヲ覚エテチョーダイ。

 マタ来ルヨー」

 と話し、その際の取り決めをした。

 青い旗は酒、赤い旗は肉、白い旗は布を意味するとし、この貢ぎ物リストの旗を掲げた一行を見たら襲わず、里長の所に案内して欲しいと。

 そして周囲の集落の者にも伝え、その時はどこの集落に届いても一緒に飲もう、と。


 これで最初の接触は十分であった。

 この集落を出ると、護衛兼監視であっただろうか、やはり騎馬の集団が着かず離れずで長城の内に入るまで見送って来た。

 彼等と別れると、劉亮一行は幽州刺史の役所に向かい、仔細を報告する。

 その際に鮮卑の集落でなく烏桓の集落に着いた事も報告された為、劉虞は劉亮にどういう事か聞く事とした。


「鮮卑はこの近くには居ません。

 涼州を襲撃したと言っていましたから、彼等の特徴でもある部族全てが移動した事でしょう」

 騎馬民族はそういうものだ。

 後の世のモンゴル帝国なんて、国家単位でロシアの方にまで移動してしまう。

 女子供老人家畜全てを連れて大移動する民族なのだ。


「では鮮卑との交渉は出来ないのではないか!」

 劉虞が声を荒げる。

 劉亮は騎馬民族について説明した。

「彼等は集合離散が激しいのです。

 今は烏桓族がこの近辺に居るのですが、その中に西に行かなかった鮮卑族も混ざったりしています。

 無論、鮮卑の主力が戻って来れば、そちらに合流するでしょう。

 出たり入ったりは当たり前、だから鮮卑の言葉も通じたのです」


 実際の所、鮮卑も烏桓もモンゴル高原に居た東胡族の末裔とされる。

 東胡族自体がモンゴル系かトルコ系か不明な多民族集団とも言われる。

 分けて呼ばれるくらいだから違いは有っても、鮮卑と烏桓はかなり近い集団であった。

 だから烏桓の里に漢人の酒飲みが居る事は、鮮卑が西から戻って来たらすぐに知られるだろう。


 劉虞は劉亮を一旦下がらせ、かつて烏桓突騎とか征鮮卑校尉等の下に居た者を呼び出して裏取りをする。

 確かに争ってはいるものの、末端では混ざり合い、勢力が強い方に合流する傾向がある事が分かった。

 ならば鮮卑も烏桓もどちらでも問題無いという劉亮の考えは、相手を侮って適当な事を言っているのではなく、確かな情報に基づいての事だと分かった。

 劉虞は劉亮を呼び、引き続き

「責は儂が負うから、そのまま進めよ」

 と告げた。


 劉亮たちは

「ただ東夷・北狄どもと酒を飲んでいる禄泥棒」

 と陰口を叩かれながらも、劉虞がそれを抑え込み、次第に烏桓やちょっとだけ残っている鮮卑の顔なじみを多く作っていく。

 この知己作りには、勝手に参加している劉備も大いに貢献している。

 北方民族から見ても器が大きい。

 彼等が物資をちょろまかそうとしたら

「そんなちょっとで良いのか?

 もっと持っていけ」

 なんて言って、身につけている物を渡したりもする。

 酒を飲んで笑うが、案外隙も無い。

 分け隔てはしないが、里長への礼儀はしっかりしている。

 一気に友人を増やしていく光景に

(流石は俺の推し武将だ)

 と劉亮の中の人は感心していた。


 それは十五回目の宴会で起こった。

 いつものように、フラっとやって来た漢人たちを迎えて野での酒宴を行っていると

「邪魔をするぞ」

 と言いながら入って来た者がいた。

 その人の顔を見た瞬間、剽悍な騎馬民族の者たちが酔いを醒まし、立礼を取る。

「お前たちが、頻繁に酒を持ってやって来る漢人か」

 質問ではなく確認であろう。

 劉亮は習った、騎馬民族式の礼法で

「幽州刺史劉虞の属吏・劉亮と申します」

 と、やっとおかしなアクセントを直した言葉で返答する。

「劉……皇帝の一族か?」

 その男は警戒しながら尋ねて来た為、

「左様です」

 と難しい事を付け加えずに答えた。

 この場で、遠い血縁で地方住みで低い役にしか就けないとか言っても意味は無いのだから。

「で、何をしに来られた?

 ただ酒を飲みに来た、友人を作る為と言っておるそうだが、そうではあるまい?」

 厳しく問うその男。

「私たちは酒を飲み、友人を作る為で嘘を言っていません。

 私たちを遣わした劉虞からは別の用を言いつかっております」

「それを聞きたい。

 おい、皆の者、ここから離れよ。

 話を聞かれたくない」

 騎馬民族の者たちが、酒器を持ったまま慌てて遠ざかる。

 かなりの迫力を持ったその男は、側近だけを残すと劉亮たちに名を告げた。

「俺は丘力居だ」


 想像以上の大物がやって来た。

 丘力居、それは五千を超える集落を支配する烏桓族の大人(たいじん)(部族長)である。

 鮮卑が最近は目立つが、この丘力居が率いる烏桓だって、何度も幽州を襲ったりしていた。

 そんな丘力居に対し、前世では部族長との交渉を何度も経験して来た劉亮が営業モードに入った。

「勇名は伺っております。

 丘力居様であれば、我々の話に対して責任を持った受け答えがなされるものと信じ、話します。

 我々は烏桓や鮮卑との交易を望んでおります」

 これは交渉手法の一つだ。

 本音は幽州への侵攻を止めて欲しいから、欲しいものを言え、なのだがそうは言わない。

 そんな言葉は足元を見られるだけだ。

 丘力居も言葉をそのまま捉えない。

 本音の方を見抜いているが、相手がそう言わない以上は揺さぶりを掛けてみよう。

「交易等不要。

 欲しいものは奪うだけだ」

「それじゃあこちらが欲しい物が貰えないなあ」

 この発言は、本来員数外の劉備の口から出た。

 省略はしたが、名乗りは済ませてある。

 通訳を通して劉備の言を聞いた丘力居は、劉備の方を向いて聞く。

「何が欲しい?」

「馬、毛皮、羊」

「羊は渡せんが、馬や毛皮は何に使う?」

「農作業」

「はっ!

 農業だと?

 天の恵みを受けるのが人間としての生き方。

 地に無理矢理麦を植えて収穫する貴様ら漢人は、天の道に背くと知れ」

 これは騎馬民族の価値観である。

 彼等は農耕を軽蔑し、山野に自生する食物を得たり、それを家畜に食べさせるのを天の道に沿った生き方としている。

 まあそういう説教をしたいのではない。

 丘力居は挑発目的でこう発したのだが。

 劉備は怒るでもなく、頭を掻きながら

「全くもってそうではある。

 しかし、漢の地には多くの人が住み、天の恵みだけでは生きていけないのだ。

 弱き者は死ねと言っても、それが自分の親兄弟なら救いたくもなるだろう。

 だからどう言われても、皆を飢えさせないように足掻くのだ」

 と答える。

 その回答に丘力居は考え込み、

「畑を耕す馬や、何かに使う毛皮が欲しいのだな。

 分かった、渡してやろう。

 だが無償ではない、何を我々に提供する?」


(劉備、凄いわ!

 俺が交渉して引き出そうとした発言を、こうもあっさりとクリアするとは!)

 劉亮の中の人は舌を巻く。

 ここまで来れば話が早い。

 劉備も理解したようで、弟に交渉を引き継いだ。

「お渡しするものは、貴方たちが欲しいものとします。

 それが分からないので、聞いて来いというのが私たちの使命でした。

 幽州の刺史に伝えますので、何でも言って下さい!」


 思わぬ大物の登場、思わぬ兄のアシストを得て、劉亮は目的を達成出来た。

 彼は丘力居と劉虞が交渉するという約束を取り付け、彼等が欲しい物についての情報を引き出せたのである。

おまけ:

劉亮の中の人はオッサンです。

アニソンも、シャウト系の曲が大好きです。

ゆえに「アニソンの兄貴」とか「帝王」の曲を歌ってますゼェェェッット!!

基本「俺は炎の〜♪」とか「誰が為に〜♪」とか「V!!」とかそんなのを叫んでます。


なおこのオッサン、気持ち良く歌ってるだけなので、上手いかどうかは……。

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― 新着の感想 ―
パッションランゲージの完成形をあっさりやっちゃう劉備兄さんすげえ!!
[一言] よく考えると言語習得に得意設定ありそれなりに通訳からも学んでいた主人公以上か同レベルに彼らの言葉を学んでいた劉備? 交渉時の言葉とか日常会話とはまた違ったところがある点から考えるとすごいこ…
[良い点] まさに高祖(劉邦)の風がある男だ。相手の懐にすんなりと入り込んでしまう。 だからこそ、この男が家族というものをどう考えているのかが気になるところであり、 民を想うがために戦に巻き込み、民の…
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