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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
序章:とある日本人の逆行転生
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転生したら劉備の弟だった

金刀卯(かねとう)さん、お疲れ様です」

 ここはアフリカ大陸のとある地域。

 某企業の海外勤務員・金刀卯(かねとう)二郎、年齢はそろそろ五十歳が事務所に戻って来た。

「今日も酒でしたか?」

「ああ」

 希少金属(レアメタル)の買い付けを行っているのだが、丁度そこは複数の部族が利権を主張する地域。

 部族の長に話を通したり、見返りを示したり、対立する部族間の問題を調整したり、吹っ掛けて来る相手が満足するような取引条件を模索したりと胃が痛くなる仕事である。

 そして、こういう交渉の場には、手土産と酒が欠かせない。

 金刀卯は自ら羊を市場で購入し、日本やヨーロッパから取り寄せた酒を携えて部族長の元を訪れる。

 当然そこで酒宴になり、物理的にも胃が痛くなるまで酒に付き合わされていた。

 それで酒を飲んでも、こちらの要求が満たされるとは限らない。

 資金力に物を言わせる中国や、市民団体とかを使う妨害だけは得意なヨーロッパ諸国なんかと競合し、調達をせねばならない。

 本社からは

「相手を怒らせてはならない。

 環境にも配慮せねばならない。

 持続的に成り立つよう配慮せねばならない。

 傭兵とかを使って物理的な行動をしてはならない。

 金の払い合いになって、無駄な競争となってはならない。

 この条件を守った上で、絶対に資源は必要量確保せよ」

 なんて言って来ている。

「行動に制限を掛け過ぎだ!」

 と文句を言いたいが、ここはグッと抑えて我慢していた。


「また『三国志』ですか?」

 同僚が金刀卯の読みかけの本を見て聞く。

「うん。

 現実の中国は、物凄くえげつない相手で、競争していて嫌になるけど、この本の中の中国は好きだよ。

 まあ駆け引きに関しては、本の中の中国も相当厄介だけどね」

 そう言って金刀卯は笑った。

 とはいえ、政府高官に賄賂を掴ませたり、女を使った策謀をしても、「三国志演義」では大概スカっとした最後となるから、やはり本の中の中国の方が親しみやすい。

「で、その本を読みながら今日も宿直ですか?」

「うん。

 事務所寝の方に慣れてしまって、帰りたくないんでね」

 現在の彼は単身赴任でアフリカ某国に来ていた。

 いや、アフリカだけでない。

 彼は東南アジア、中央アジア、中東、中南米と揉め事が多かったり、治安が悪い地域に派遣されてばかりだ。

 これは彼が言語能力が高く、ちょっと勉強すれば挨拶や軽い日常会話が出来て、じっくり勉強すれば商取引も可能になる長所を持っているからという理由もある。

 会社からしたら、使いやすい社畜だから、海外に放牧されっぱなしだったのだ。

 そして妻と娘はそれに絶対について来ない。

 それどころか、たまに帰国して日本勤務になっても

「あー、普段居ないのが家に居ると、狭苦しいわ」

「発展途上国臭いオッサンの服と一緒に洗濯とか、マジ迷惑」

 等と邪険にされている。

 冷え切った家族仲に、いつしか彼は日本に居ても帰宅せず会社に寝泊まりするようになり、更には自ら海外勤務を望むようになっていた。

(俺が居ない方が、あいつらも気分良いだろうしな。

 俺はATMで、しかも普段は顔を見る事もない都合の良いものなんだろうな。

 労力をかける時間があったら離婚してえわ)

 離婚手続きってのも中々面倒であるから、会社もバックアップしてくれないようだし、そのままズルズルと来てしまった。

 現実から逃げるように、彼は海外で仕事を続ける。

 やがて、宿舎はあるのに事務所に寝泊りする癖がついてしまった。


 彼の友人とは、持ち込んだ本の中の劉備玄徳であり、関羽雲長であり、張飛翼徳であった。

 辛い現実の中、本の中の英雄たちこそが慰めである。

 そんな金刀卯に部下が意外な事を語る。

「そう言えば、劉備に弟が居たって知ってます?」

「そんなの存在しないよ。

 だからこそ関羽・張飛と義兄弟の契りを交わしたんだ」

 即座に否定した金刀卯だったが、部下は通信環境が悪い中、ネットで調べた画面を見せてくる。

「なになに?

 劉亮、(あざな)は叔朗。

 『三国志』には登場せず、元の時代の歴史書の『元大徳九路本十七史』のみに登場。

 元大徳九路本十七史とは、モンゴル帝国の元の時代、大徳九年に学者グループによってまとめられた歴史書か……。

 それによると劉亮は兄の劉備、従兄弟の劉展、族兄弟の劉徳然とともに盧植の門弟子となった。

 兄と違い、穏やかで礼儀正しかったという。

 黄巾の乱において兄が義兵として立つと、劉展・劉徳然・簡雍とともに親族として従軍した。

 ほうほう。

 なに? 劉備は程遠志・鄧茂の軍勢と田野県で戦って惨敗し、劉亮・劉展・劉徳然はその時に戦死した?

 劉備は豪族としての多くの一族を失ってしまい、曹操や孫堅と異なり、補佐したり後盾となる身内が皆無だった……。

 劉亮は劉展・劉徳然とともに年若かった為、妻も子も居らず、後漢の臨邑侯の系統は唯一劉備のみとなった。


 確かに劉備には豪族の私兵である部曲はおろか、助けてくれる同族が全く居なかった。

 だから関羽・張飛という義兄弟が必要だったのかな?

 しかし、劉備の家系は前漢の中山靖王を祖としていた筈。

 後漢の臨邑侯ではないだろ?

 というか、臨邑侯って誰だ?」


 そうベッドの中で劉亮を調べていた金刀卯は、臨邑侯についても調べてみる。

 臨邑侯・劉復、後漢初代皇帝光武帝・劉秀の兄である劉縯の孫。

 学問を好み文才に優れ、班固や賈逵と共に『漢史』を編纂した。

 一説には、蜀漢の昭烈帝劉備の祖先とする……。

 その一説は?

 典略という歴史書?

 典略は古代から魏朝までの通史で、その一部が「魏略」として見られている、魏略以外のほとんどの部分が散逸している、か……。




 色々考えながら、いつしか金刀卯はまどろんでいた。

 そしてそれが悲劇に繋がる。

 その国、その地域に援助をしているとか、近所の人ともうまく付き合っているとか、そんなのは盗賊にとっては何の意味も無い。

 金目のものがありそうだ、外国人だ、そういう理由でもない。

 ただ隙があったから、それだけで彼等は侵入する。

 つい鍵をかけ忘れた、人が残っているから警備システムも作動していない、しかも守衛という名の用心棒がサボって出勤していないのに代わりを呼んでいない、そんな「途上国では絶対やってはいけない」事の数え役満をしてしまったのだ。

 自分はまだ起きているという油断の為に。

 同僚が帰宅する際、

「金刀卯さん、寝るんだったら俺が出た後すぐに鍵を掛けて、セキュリティ装置入れておいて下さいよ」

 と言われた時、既に半分眠った状態であった為

「んー、分かった」

 と生返事をしてしまったのもいけない。


 押し入って来た2人の若者。

 事務所の中の文房具とか置時計とかを手当たり次第持ち出そうとする。

 その気配に目が覚めた金刀卯が

「あ……」

 と声を出した瞬間、その見境の無い若者の一人が発砲した。

 よく手慣れた泥棒なら、脅して黙らせるとか証拠が残らないようにしただろう。

 しかし頻繁に泥棒はしているが、プロでは無く短絡的なそいつは、銃声で周囲に気づかれる事すら想像せずに、反射的に金刀卯に乱射をしてしまった。

 もう片方が、そいつを現地語で怒鳴りつけている。

 おそらく、何を馬鹿な事をした、捕まる前に逃げるぞ、とか言っているのだろう。

 もう脳内で翻訳する力は無い。

(あー、駄目だぁ……、力が入んない……)

 どんどん意識が遠くなっていく。

 痛みすら感じなくなって来た。

 そのまま金刀卯は死んだ



……筈であった。






――――――――――――――――――――


「叔朗、起きろ。

 よし、大丈夫だな。

 馬から落ちるならともかく、馬車の荷台から転んで落ちるとか、間抜け過ぎるぞ」

 喋りかけられているのは中国語かな?

 ただ現代の普通語、所謂北京語をベースとした言語ではない。

 違う言語だが、何故かすんなりと頭に入って来て意味が通じる。

 それに「叔朗」?

 俺の名前は金刀卯二郎、日本人な筈だが?

 そう思いながら目を開けると、急に様々な情報が頭に流れ込んで来た。

 日本人で某企業に勤め、長らく海外に赴任していてさっき殺された人間の記憶ではない。

 それは古代中国で生まれ、兄弟や従兄弟と共に育ち、地方豪族の一員としてこれから旅路に就こうとしていた記憶が脳に奔流となって押し寄せて来た。


 そして融合した記憶の結果、自分の事を叔朗と呼んだ人物の事も知っている。

 それは劉備、字は玄徳、言わずと知れた「三国志」の主人公の少年期の姿であった。

(つまり自分は……)

 彼は劉備の弟、劉亮に逆行転生してしまったようだ。

 いや、劉備に本当に弟が居たのかどうか。

 劉備に弟が居た別の歴史の中に転生したのかもしれない。

 自分の知る歴史なのか、一巡してどこか違う歴史になったのか、知る由は無い。


 そんな事を考えながらボーっとしていたら、劉備少年が心配そうに言って来た。

「おい叔朗、お前大丈夫か?

 やっぱり起きなくて良い。

 そのまま寝てろ。

 おい誰か、叔朗を家まで運ぶの手伝ってくれないか?」

「なんだよ玄徳兄。

 弟なんだから自分で運んでよ」

「いいから手伝え、徳公!」

 こいつは俺たちの従兄弟にあたる劉展、字は徳公。

 今日は荷造りの手伝いという名目で、遊びに来ていた奴だ。

 いつも劉備の後ろを金魚の糞のようにくっついて歩いている。

 そいつと劉備に頭と足を持たれて、俺は家の寝台に運ばれた。


 筵売りの貧しい、名ばかり皇族の劉備。

 いや違う。

 何だかんだで祖父の劉雄は兗州東郡范県の県令を勤め、父の劉弘は州郡の官吏を勤めたという地方豪族の出自なのだ。

 父が早くに亡くなったとはいえ、一族もそれなりの役付きであるし、援助もして貰っている。

 貧乏な家では決してなかった。

 その証拠として、今日やっていた荷造りの事を挙げられる。

 これは中央に呼ばれた儒学の師・盧植と共に洛陽まで行く為のものである。

 劉備は一族の助けもあり、高名な儒学者・盧植が故郷で開いた私塾に、多くの豪族の師弟たちと同様に通えていたのである。

 そして、盧植に付いて洛陽まで行き、そこで書生をさせるだけの財力はあったのだ。

 如何に没落しても、劉氏であり、周囲に一族が居る中、貧農同然の生活になる事は無かったのだ。


(そうだ!

 明日には洛陽行きだったんだ!)

 劉備の弟に転生してしまった日本人は、今更のように思い出し、密かに興奮してしまう。

 後漢帝国の首都・洛陽、歴史好きなら一度は見てみたい場所であった。

ネタバラシ:

金刀卯という苗字は、現在存在している日本人と重ならないよう作ったもの(DEATH NOTEの変な苗字と同様)ですが、もう一つ「拳児」という漫画で出た「卯金の刀」と同じロジックです。

つまり、

 卯

 金刀

「劉」になるってものでした。


19時に次話をアップします。

21時にさらに次話をアップします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 劉備 弟で検索した一番上に出てきたサイトと一部殆ど同じ文章や。 索引先の文章そのまま引用は著作権的に不味いですよ。 著者が本人だったらそれは申し訳ない。
[良い点] 新作ありがとうございます! [気になる点] >本社からは >「相手を怒らせてはならない。 > 環境にも配慮せねばならない。 > 持続的に成り立つよう配慮せねばならない。 > 傭兵とかを使っ…
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