第9話 叔父よ。正義の鉄槌だ!わたくしの苦労を受けてみよ!
少し長めです。
「やあ、我が姪っ子、久しぶりだね! 元気にしてたかい」
グレームズ商会に着くと、すぐに応接室に通された。
そこで、叔父ニコルが嬉しそうに両手を広げてクローディアを待ち受けていた。
ニコル=グレームズ。
兄のギャノンと違い、背が高くがっしりした体に、ちょっとくせっけの栗毛を伸ばして後ろで結んだ姿は、文句なくイケオジの部類だろう。好奇心旺盛をそのまま映した緑色の瞳はまだまだ若い。実際20代後半で、まだおじさんと呼ぶには若いかもしれない。
「ニコル叔父様、お久しぶりでございます」
「あれ? なんだいなんだい。いつの間にそんなに大人になってしまったのかな? 以前のようにどーんと私の胸に飛びこんで来ておくれ」
「まあ、いやですわ。それは遥か以前のことでしてよ」
そう言いつつ、ちらりと目で合図をする。
すると、ニコルは心得たとばかりに、頷く。
そしてクローディアの後ろに着いて来ていたマシューにお願いする。
「あー、姪を護衛いただき、ありがとうございます。ですが、できれば姪と水入らずで話をしたいのですが」
「お初にお目にかかります。この度お嬢様の護衛を務めさせていただいております、マシューと申します。かしこまりました。私は扉の外で待機しておりますので、何かあれば、すぐにお声がけください」
「マシュー様、かたじけのうございます」
「いえ、どうかごゆるりとお過ごしください」
笑顔をみせ、マシューは快く退出してくれた。
クローディアもミカに声をかける。
「ミカ、貴女も折角王都に来たのだもの、少しは楽しんで? ここはいいからお店の中を見て回ってらっしゃい」
「ありがとうございます!」
ミカは顔をぱあっと輝かせると三つ編みを飛び跳ねさせて、出ていった。
ぱたんとドアが閉まるや否や、クローディアはダッシュでニコル叔父に近づき、腹パンチをかます。
「ぐふっ! 何をするんだい! 痛いよ!」
「何をするんだい! じゃないですわ! こちらこそ何してくれたんですか! ニコル叔父様! 叔父様がパースフィールド侯爵様へ私の事を言ったばかりに、わたくし、大変な目にあっていますのよ!」
「あはは! ごめんね。つい。ほら、クローディアならきっとなんとかしてくれるかなあなんて思って」
「つい、ではありません! これでグレームズ男爵家がぺしゃんこにされたら、ニコル叔父様のせいですからね!」
「大丈夫だよ。クローディアは賢い子だからね。そうはならないさ。さあ、久しぶりだ。ちゃんと抱きしめさせておくれ」
「もう、相変わらず口がうまいんだから」
口を尖らせつつも、素直にニコル叔父に近づいていく。
「元気そうだね」
そう言われてふわりと抱きしめられると、ほっと安心する。
慣れない土地で、それも侯爵家で過ごしているからか、知らず緊張していたらしい。
それに久しぶりにニコル叔父に会えたのは、やはり嬉しい。
調子にのるから口には出さないが。
「さあ、座って。お茶を飲みながら、話そう」
見計らったように、メイドが入って来てお茶を入れる。それに合わせてお菓子も出された。
見慣れないお菓子だ。クローディアはワクワクしながら眺める。ピンク色、黄色、若葉色。色が華やかで楽しい。形も、まあるくてちょうどクローディアの手のひらにのるくらいのサイズである。可愛い。
「さあ、食べてみて」
「いただきますわ」
クローディアは黄色いのを手に取って口に運ぶ。
さっくりとして口で溶ける。甘酸っぱい。
「美味しい!」
「ママロンというお菓子だよ。最近王都で出たばかりでね。気に入ってもらえてよかった」
「流石王都ですわね! 他にも新しいお菓子があるのでしょうか?」
「ああ。王都にいる間、沢山お店を見て回るといいよ。それでもきっと回り切れないかもしれないね」
「ええ! 王都は広いですものね。楽しみですわ」
折角王都に来たのだ。存分に食べ歩きしたい。
「学院に上がる前に王都に来れてよかったね! きっと素晴らしい経験になるよ! これも私のおかげだよね」
うんうんと頷く叔父が憎らしい。
「それは結果論ですわ! 私がどんなに苦労したとお思い?」
「でも、ちゃんとエルネスト様の引きこもりを改善したじゃないか」
「そうかもしれませんが、変に懐かれてしまって、エルネスト様が王都で落ち着くまで、パースフィールド侯爵家の屋敷で滞在することになってしまったのですよ!」
「ははは! クローディアは可愛いからなあ」
違う。これは完全に身内の身びいきである。クローディアの容姿は可もなく不可もなくである。
「それにしても、侯爵家に住み込むことになるなんてねえ。末はエルネスト様のお嫁さんかな」
「ありえませんわ。身分が違いすぎます」
「そうだね。うん。でも、家にいたんじゃ学べないものあるよね。それに普段見られないものも侯爵家で見られるかも。よかったよねえ」
こういうところが油断がならない。まったくニコル叔父はどこまで商人である。
「それより、エルネスト様の引きこもりをどのように解決したのかな? 詳しく教えておくれ」
それより。それよりに片付けたよ、ニコル叔父。
眉を吊り上げたクローディアを目の前にしても、ニコル叔父は気が咎めた様子もない。
わくわくした目を向けてくるのみである。
暖簾に腕押し。糠に釘。
これ以上言っても、クローディアが疲れるだけである。
<ニコルは相変わらずね~。マイペースなところがクローディアに似てるわ~>
ララ、それは聞き捨てならない。どこか似てるというのか。クローディアの6歳の繊細な心は大いに傷つけられているというのに。
<ね~。このお菓子、美味しそう。食べていい? 食べちゃうよ~>
ララはそう宣言すると、お皿の上に女の子座りをして、ママロンをあんむりと食べ始めた。
小さな体でピンクのママロンを食べるララ。
癒しである。
くっ。ララの可愛さに免じ、今は怒りを収めよう。後で、労働と物で存分に償ってもらう。
クローディアは気を取り直し、少し考える。
さて、どこまでニコル叔父に話したものか。
ニコル叔父ならば、正直にすべて話しても、気味悪がらず、今まで通り受け入れてだろう。
その内容をどこまで信じてくれるかはまた別問題であるが。
何より目をキラキラさせて見つめてくる叔父には正直に話したい。
自分より遥かに年上のくせに、いつまでも子供のような目をしている。
おそらくこの目で、いつも取引先の人間を誑し込んでいるに違いない。
罪作りな叔父である。
よし。全部話そう。叔父の好奇心を満足させてあげられるし、今後何か困ったことが起きたら、助けてもらう為にもその方がよいだろう。
クローディアはここ2ヶ月弱の出来事を話して聞かせた。
聞き終わったニコル叔父は大げさに両手を広げて、焦がれるように言う。
「そうか。ドワーフに会ったんだね! 私も会いたいなあ。何か珍しいものを分けてくれないかなあ」
「無理ですわ。ドワーフは基本的に人間が嫌いですの」
「そっか。残念、とても残念だよ」
首を振って嘆くそぶりをする。
たいして落胆してないようにみえるのはなぜか。
うさん臭い商人にしかみえない。うむ。叔父よ、もう少し人徳を磨いた方がよい。
そんな姪の軽視した視線に気づいたのか、ニコル叔父が急に真面目な眼差しをクローディアに向けた。
「髪、残念だったね」
違った。帽子に隠れてほとんど見えない、クローディアの髪の事だった。
眉をハの字にして、申し訳なさそうにしている。
いや、こちらこそ申し訳ない。
「髪はすぐに伸びますわ。代わりに得たものが大きかったのですから、仕方がないですわ」
ニコル叔父よ。気にしないで欲しい。これはクローディア自身の選択である。それにクローディアの体面が傷ついてもまだ子供だ修復可能だろう。ましてや男爵の娘だ。それほど注目を浴びる地位でもない。
「それよりもニコル叔父様、今日はご相談があって参りましたのよ。このわたくしが寒さ対策で作った帽子いかがです?」
今は髪より帽子に注目して欲しい。
今日は王都に来た時に着けていたクリーム色の毛糸の帽子をかぶって来ている。
「うん。僕も気になっていたよ。とても可愛いね。特に赤い花。毛糸で別に編んで取り付けるなんて見た事もないよ」
「完成した帽子を作って眺めてたら、少し寂しいと思ってお花を作ってつけてみただけだったのですが、侯爵夫人フロレンシア様が非常に興味を持たれたのです。だからわたくし、これは叔父様の商会の試作品だと申し上げましたのよ。そうしたら、ぜひ帽子やほかのものもみたいと仰せになられて。叔父様、売り込むチャンスですわ!」
ふふ。ニコル叔父よ。侯爵夫人への対応はすべて任せた。
「そうか! ちょうど北の国から、毛糸を沢山仕入れてきたところだったんだよ。年々王都の冬は寒さが厳しくなってきているから、何か商品化できないかと思っていたところだったんだよ!」
「まあ! 丁度よかったですわ! この帽子の編み方やお花の作り方など、お教えいたします!」
「ありがとう! ああ、クローディア! 君は恵みの天使か!」
ニコル叔父から先程までの暗さは吹き飛んだ。流石商人。商いの話をすれば効果覿面である。叔父には暗い顔は似合わない。
「もちろん、収益が出たら、クローディアにアイディア料を支払うからね!」
「ありがとう存じます。流石、ニコル叔父様。わかっていらっしゃいますわね」
生む。利益還元。これ大事である。
やった。これで王都散策、食べ歩きの資金ゲットである。侯爵夫人とのやりとりはニコル叔父に丸投げだ。商売の事は親せきの商人へである。ニコル叔父がくれる範囲のお金で楽しむまでである。
「よかったですわ。侯爵夫人はなるべく早く欲しいようですから、急いだほうがよろしいですわよ」
「了解。じゃあ、サマンサが来たら、早速編み方を教えて欲しい」
「そういえば、叔母様は?」
「ああ、ちょっと所用で出かけているんだ。もう帰って来る頃かと思うよ。あ、噂をすれば」
ニコル叔父の視線に導かれ、クローディアはドアの方へ眼を向ける。
すると、ドアからちょうど一人の女性と、4、5歳くらいの少年が入って来た。
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