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第8話  ニコル叔父よ、覚悟して欲しい。苦労は一緒にしてもらおう

「ふふ、ニコル叔父様が丁度王都に帰って来ているなんて、なんて幸運なんでしょう」

 クローディアは窓の外に視線をやりつつ、黒く呟く。

 その視線の先に、浮遊する黒い物体が視えてもスルーする。今は首無し騎士の亡霊でお腹一杯である。

 王城へと向かうエルネストを見送った後、外出する旨を執事のギルバートに伝えると、すぐに馬車を用意してくれた。侯爵夫人から指示が出ていたらしい。ただ、その使用する馬車について、ひと悶着あった。侯爵家の紋章が入った馬車が玄関前に用意されていたのを一目見るなり、クローディアはすぐに回れ右をして、クローディアが王都に来た時と同様、紋章がついていない、普通の馬車を用意して欲しいとギルバートに懇願した。最初ギルバートは難色を示したが、侯爵家の客人でしかない男爵家の娘である自分が侯爵家の紋章入りに馬車を使うなど恐れ多いからと説得し、何とか了承をもらって馬車を交換してもらった。それでも、グレームズ男爵家が使用している馬車よりも遥かによい作りの馬車である。見た目もそうだが、座席が柔らかい。尻と腰に優しい作りである。

 なんとか馬車の説得には成功したものの、護衛は問答無用でつけられた。

 執事のギルバートいわく。

 これは貴賤問わず、他家より大事な子女を預かっている以上、何かあれば侯爵家の沽券にかかわりますから、とのことである。諦めるしかない。

 本当は王都を観光がてら徒歩で向かいたいところなのだが、今回は我慢した。

 えらいぞ、自分。

 かくて、クローディアは護衛を伴い、今まさにニコル叔父の商会へと向かっている。

 本当、自家でないと何かと不自由である。

 これも元はと言えばニコル叔父が口を滑らせたからー。

「ふふ、ふふふ。さて、ニコル叔父様にはどこまでしてもらおうかしら?」

 昨日、フリージ教会から帰ってきた後、ニコル叔父の商会に先ぶれを出したところ、すぐに返事が返ってきた。家族一同で待っていると。

 ニコル叔父の商会、グレームズ商会はそれほど大きくはない。精々中堅どころの筈である。なぜパースフィールド侯爵などという高位貴族と取引があるのか不思議なくらいである。

「それもニコル叔父様に聞いておかないといけないわね」

 そして今後、いかなる取引先でもクローディアの事を言わないようにくぎを刺しておかなければならない。

 ええ、太いくぎをぐっさりと。

「ふふふ、ふふふ、ふふふふ」

 口に拳をあてて、物理的にニコル叔父を締め上げるところを想像する。

 だが悔しいかなクローディアは6歳、身長差がかなりある為、ニコル叔父の首をぎりぎりと締め上げるのは実質無理である。

 別の方法で報復を考えないといけない。これに関して文句は受け付けない。

 ニコル叔父のせいで、クローディアの日常は一変してしまったのだから。

「ふふ、ふふふ、ふふふ、ふふふふふ」

<クローディア、こわーい>

「クローディア様、さっきからブツブツと独り言を言ったり、不気味に笑ったり、怖いです」

 隣に座っていたミカからクレームが、ララからは率直な感想が入った。

 ちなみに今日ララには付いて来てもらっているが、人前では会話ができない旨伝えている。

「あら、ごめんなさい」

 クローディアの心の声がどうやら漏れていたらしい。

 眉をしかめたミカの視線が痛い。更に向かい側に座っている護衛の男の顔に至っては引きつっている。

 おっと。気を付けなければ。不気味幼女ではなく、しとやかな幼女として覚えて欲しい。人間関係を円滑にするにはよい印象を持ってもらわないと。

「マシュー様、少し喉の調子がおかしくて。変な音を出してしまって申し訳ございませんわ」

「いえ。喉は大丈夫ですか。何か飲み物でも買って参りましょうか?」

 大人だ。絶対喉のせいではないのに、スルーしてくれてる。

 好感度アップである。

「お気遣いありがとうございます。でももうすぐ商会に着きますから」

「さようでございますか。ではもうしばらくのご辛抱を。それと私の事はどうかマシューとお呼びください」

「ありがとう存じます。では、そうさせていただきます」

 ミカが何猫かぶっちゃってるのこのお嬢という顔をしているのは、無視である。

 クローディアは軽く会釈をして、にっこり笑う。

 今回護衛についてくれた男性、あたりだ。

 マシュー=スティール。

 年はいくつくらいか。かなり若く見える。枯葉色の髪。薄い茶色の瞳。穏やかなおにいさんという感じだ。それでも護衛を務めるくらいだ。きっと強いのだろう。クローディアもすばしっこさには定評があるが、いかんせんまだ小さい。悪漢が来たら、ひとたまりもないだろう。うむ。マシュー様、よろしく頼む。

 それにしても護衛なんて初めてつけられた。クローディアも底辺ながら一応は貴族のお嬢様であると実感した。実家の男爵家に帰れば、自分専用の護衛などつけられる財力も必要性もまるでない。ミカで十分なのである。

 けれどここは王都、カルギニア王国の中心地である。田舎貴族の娘でも万が一という事もある。

 うむ。マシューともう少し懇意になったら、護身術をこっそり教えてもらえないか頼んでみようか。給金外だと断られるだろうか。いや、言ってみる価値はあるかも。

 うむうむ。そうすればタダで自分を守るすべを身に着けられる。タダ、無料、なんといい響きだろうか。

「ふふ、ふふふ」

「ど、どうかしましたか?」

 うっとりと顔が緩んだところで、再度マシューに声を掛けられた。

 先程より、顔が固いのは気のせいか。

 ミカに至っては、処置なしというように首を振っている。ひどい。

 いかん。欲望が顔に出てしまった。これはかなり引かれてしまったかもしれない。

 いけない。タダで護身術を教えてもらう野望が潰えてしまう。シャンとしなければ。ただでさえ、成功率が低い頼みごとをする予定なのに、更にこれ以上確率を下げてどうする。

 クローディアは最大の無邪気さを装って、彼に微笑み返す。

 秘儀、子供のまっさらな笑顔攻撃、である。

「いいえ。何でもありませんわ。おほほ」

「そ、そうですか? もし気分が悪くなられたなら、おっしゃってくださいね」

 なんと優しい言葉。こんな6歳の子供であるクローディアをちゃんと丁寧に扱ってくれる。やはり、パースフィールド侯爵家、薫陶が行き届いている。素晴らしい。

「ありがとうございます。ニコル叔父様にお会いできるのは久しぶりなので、楽しみで少しそわそわしてしまったようですわ。申し訳ありません」

「さようでございましたか。親元を離れ、1人王都にいるのは心細い事でしょう。叔父様が王都にいるのは心強いことですね」

「はい」

 うわ。紳士だ。男爵家にはいないタイプである。やはり都会の騎士は違う。

 すまし顔の下で、大興奮のクローディアである。ちらりと見ると、ミカもぽおっとマシューを見つめている。おっとミカよ。恋しちゃだめだよ。憧れまでに留めておかないとやけどするよ。

 護衛マシューの評価が2人の少女の中で爆上がりしているうちに、馬車はグレームズ商会へと到着した。


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