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第5話 ええっ! マジですか! ああ、そうですか‥‥‥、ガックリ。

タイトルを少し変更しました。

少し長めです。

 クローディアとエルネストは、亡霊をどうかよしなにという祈りを済ませると、早々にパースフィールド侯爵家へと帰宅した。

 エルネストとは一旦別れ、自室へとあてがわれている客室へと急ぐ。

 どうも元気がないララが心配だった。

 そっと部屋に入ると、ベッドの横のサイドテーブルにあるララの寝床になっている籠を覗き込む。

「ララ、大丈夫?」

<あら~。もうお出かけから帰って来たんだ~。早いわね~>

 ぎゅうぎゅうに詰めた綿に木綿の布を敷いた寝床はララのお気に入りである。

<よく眠ったから、大丈夫よ~。やっぱり夜更かしはいけないわね。気をつけないと~>

 うーんと大きく伸びをしてから、軽く羽を羽ばたかせると、クローディアの肩へと飛ぶ。

 どうやら、大丈夫そうである。

 クローディアはほっと息を着いた。

「よかった。じゃあ、これからエルネスト様と、首無し騎士の亡霊にお引越ししてもらおうと思うんだけど、ララ一緒に来れるかしら?」

 今は夕方と呼ぶには少し早い時間。まだ夕食には時間がある。その為、エルネストの憂慮案件を早々に解消したい。エルネストに聞いたところによると今現在この侯爵家の屋敷(タウンハウス)にいる亡霊はあの首無し騎士だけということである。おそらく、首無し騎士の存在が強烈すぎて、他が住めないのかもしれない。それがいいのか悪いのかは、判断が難しい。

 それにしても、エルネストがそこまでの調べを一人でこなしてくれるとは。これはクローディアに頼らなくなる日も近いのでは。うむ。経過は良好である。

 とにかくも、目下のところ、あの首無し騎士の亡霊が教会へとお引越ししてくれれば、しばらくはエルネストの心の平穏が保たれるのである。

 そうすれば、クローディアは心置きなく、王都観光や温室に籠れるようになる。

 ああ、早く温室を見たい。王都で食べ歩きをしたい。

「あ、その前に、まずはニコル叔父に会いに行かないと」

 すぐに先ぶれが必要だ。

 侯爵夫人フロレンシア様との約束、これ大事。

「なんか、私、忙しすぎないかしら?」

 クローディアの眉間にぎゅっと力が入る。

 まだ弱冠6歳である。まだきゃっきゃっ遊んでいてもいいお年頃のはずなのに。

<大丈夫~、クローディア~? なんか、顔が怖いわ~>

 ララが心配そうに顔を覗き込んでくる。

 いけない。ララに余計な心配をさせてしまった。

 心のストレスは身体の不調を誘発する。

 せっかく元気になったのに、自分が負担をかけてどうする。

「ん。ごめんね、心配かけて。ちょっとやらなければならないことが多すぎるなあって思ったら、顔が不細工になっちゃったかも」

<そっか。そうね、最近クローディア、忙しいものねえ。でも、どんな顔のクローディアでも、可愛いわよ~>

 完全な身内贔屓(びいき)である。平凡な容姿のクローディアである。でも、そう言ってもらえるとやはり嬉しい。

「ララ、ありがとう。元気が出たわ」

<うふふ。よかったわ~>

「それじゃ、エルネスト様のところに向かいましょうか」

<了解!>

 ビシッと敬礼するララが可愛い。

 クローディアはほっこりと和みながら、自室にと当てがわれた客室を後にした。


 クローディアとララは、それからすぐにエルネストと合流すると、首無し騎士の亡霊を探し始めた。

「あ、いましたわ!」

 クローディアが指さした廊下の先、2階の廊下を今日も戦斧片手に歩いている。

「さあ! 首無し騎士様をお送りして差し上げましょう!」

 クローディアとエルネストは侯爵領の屋敷で行ったように、レタの鏡を二人で持ち、首無し騎士の背中に向けて、ドワーフに教えてもらった呪文を唱える。

「この地に思いを残す同胞よ、我ら2人が願う。女神、エーレフィアの慈悲が届く場へと導かれんことを! ターリーマーシャリア!」

 刹那。鏡の部分から膨大な光が溢れる。

 光は網のように広がり、首無し騎士の亡霊を包む。縛られ、人の輪郭が消え、光の筋に変化すると思った瞬間、

 ゴウ!!!いう地を響かせるような音とともに、黒煙が騎士から広がり、光を断ち切ってしまった。

「ひやあああああっ!!」

 いつもと違う展開にクローディアは目を見張る。

 どうして、なぜ?

 首無し騎士の亡霊が拒絶した?

「クローディア‥‥‥」

 隣にいるエルネストが、がたがたと震えている。

 立ち竦む2人に、首無し騎士がガシャンという音ともに、振り返った。

「あわわ! 一時退避ですわ!」

 クローディアはそ叫ぶと、エルネストの手を握り、一目散に逃げだした。


「はあはあ」

 ところ変わってここは、クローディアの客室。

 2人は全身冷や汗をかきつつ、ソファに崩れ落ちる。

「大丈夫でございますか? お二人ともいったいどうなさったのですか?」

 そこにメイドミカがお茶を持って来てくれた。

 ありがたい。

 とにもかくにもまずは落ち着かないと。

「ありがとう。大丈夫。ちょっと予想外の事が起きて、少し驚いただけ」

 礼を言いつつ、紅茶を一口含む。

 本当は少しどころではない。びっくり仰天で腰が抜けそうになった。

 ああ、紅茶の優しい香りが身に染みる。

 焦った。本当、焦った。まさか、送りができないなんて思わなかった。

 向かい側のソファに座ったエルネストの顔も久しぶりに真っ青である。

 きっと自分も同じであろう。

 これは声に出して発散しなければ。

「ミカ、申し訳ないのだけど、お使いを頼んでいいかしら?」

「なんなりと」

「ニコル叔父のところに使いを出して欲しいの。明日わたくしが伺いますと」

「承知致しました」

 ミカは一礼すると踵を返して部屋を出ていく。

 これでしばらくは部屋には2人きりだ。

 もちろん、部屋の外には護衛がいるだろうし、ミカが部屋の扉を少し開けていったので完全に2人きりとは言えないが、とりあえず人払いはできた。

 クローディアはすうっと大きく息を吸ってから叫ぶ。 

「あー怖かった!!」

 彼女の大声に、エルネストがびくりと飛び上がった。

「な、なに?!」

「発散です! 怖い気持ちを発散させましょう! 怖かったあ! 怖かった! 怖かったあ!」

 叫ぶうちに、肩から緊張がほぐれる。

「ほら! エルネスト様も!」

「う、うん。 こ、怖かった!! 怖かった! 怖かった!」

 吐き出す事。これ大事。

 エルネストの顔色も少し良くなった。

 声に出すことで、動けるようになる。思考力も回復する。

「ララ」

<は~い!>

 クローディアの呼び声に元気よく答えて、彼女の目の前に来てくれる。

「ララ。なんで首無し騎士の亡霊は、教会へと向かわなかったのかしら?」

<ん~。多分、レタの鏡よりも存在が強いからかも~>

「存在が強い?」

<うん。多分クローディアたちのレタの鏡より、強い亡霊なんじゃないかなあ>

「どういうこと?」

<ん~。亡霊にも弱い奴強い奴がいるってこと。あんまり強い奴だと、クローディアたちの持っているレタの鏡では対処できないんだと思う。鏡の方が負けちゃうのね>

「そんな!」

 確かにあの首無し騎士、めちゃくちゃ存在感ありありで、もし生きていたら、めっちゃ強そうである。きっとクローディアなんて一撃でぺしゃんこである。生前の強さも関係しているだろうか。

「レタの鏡が使えないとなると、どうしたらいいの?」

 クローディアは呆然と呟く。

 全く打つ手がない。

 クローディアとエルネストの武器は一つしかないのに。

 またドワーフの大翁に力を借りる? 

 いや、無理だろう。今いるのは遠く離れた王都である。

 それに困るたびに、助けてはくれないだろう。元々人間が嫌いなドワーフである。

「ララ、ここに妖精、精霊はいる?」

<ん~。昨日夜散歩に出た時には、見かけなかったな~>

 という事は、この土地にいる妖精精霊に頼るのは無理だ。

「ララ」

 縋る思いでララを見る。

 だめだ。侯爵領での亡霊だって、ララは吹き飛ばすのが精一杯だった。無理はさせられない。

 侯爵領では、本当にラッキーだったのだ。ララが小人を連れて来てくれ、小人がクローディアのお菓子を気に入ってドワーフの大翁の元まで連れていってくれ、大翁が力を貸してくれた。

 幸運3連発である。

 今回はそうもいかないだろう。どうする?

 頭を抱えて悩んでるクローディアの頭を、ちょいとララがつついた。

<騎士さんには、いてもらってもいいんじゃない?>

「ララ!? 何をいうの?!」

 あんなに怖いのに、ここにずっと居座られたら、エルネストの心の平穏は永遠に訪れない。

<だって。全く敵意はないよ、あの騎士さん。屋敷を歩き回ってるのも多分見回りだよ。この屋敷を守ってるんだと思うよ。ん~というより、この侯爵家の人を守ってるんだと思う>

 ララはクローディアたちが怖がっている間、冷静に首無し騎士の亡霊を見ていたようだ。

<それに自分を追い出そうとしたクローディアたちに何もしなかったでしょ?>

「え! こっちに向かって来ようとしたじゃない」

<あれは単にクローディアたちを確認しただけ。首無し騎士さんだったら、生きてる人間に物理的に外傷与える力があると思うよ。でもしなかったでしょ? クローディアとエルをここの住人と認めてるから。自分の守るべきものとみてるからだと思うよ>

 ちょっと待ってほしい。聞き捨てならない。私はここの住人ではない。

 そこ、大事だから。

「私はここの住人じゃないよ」

 そう、否定大事。

<見た目は怖いかもだけど、ほっといて大丈夫だと思うよ>

 スルー。ララが綺麗にスルーした。くすん。

<どうしても何とかしたいなら、してもいいけど、無体な事はしないであげて>

「ララがそこまでいうなんて珍しいわね」

<うん。なんか。悲しい思いが伝わてくるから>

「そうなの?」

 思えば、怖がってばかりで、なぜ首無し騎士になってしまったのか。どうしてここにいるのか考えたことなどなかった。

「とりあえず、できることからしようか。クローディア」

「エルネスト様?」

 黙って会話を聞いていたエルネストが口を開く。

「幸い、首無し騎士は、部屋の中までは入ってこない。だから、ぎりぎり我慢できると思う」

「あんなに怖いのに、大丈夫ですか?」

「うん、クローディアがいれば」

 はいはい。こちらもスルーします。

「ララの言葉を信じれば、僕たちに害意はなく、それほど近づいては来ない。ならば少しじっくり対処方法が考えられると思う」

「そうですわね」

 首無し騎士に対処する方法を探す。探すにはまずどうしたらいいか。

「あの首無し騎士の亡霊の正体を調べましょう。そうすれば、何かよい解決策が見つかるかもしれませんわ」

「そうだね。あれだけ存在感がある騎士の亡霊だ。きっと名の通った騎士だったかもしれない」

「ええ。亡霊に敵意がないなら、少し近づいて観察してみましょう。首無し騎士が身に着けている鎧に何か手がかりがあるかもしれません」

「そうだね」

 エルネストが再度顔を青くしながらも、頷く。

 うん。成長している。成長しているね、エルネスト様! 前だったら、絶対頷かなかっただろう。

 よし! 未来への希望が見えてきた。

「ではもう一度、首無し騎士さんに突撃ですわ!」

 クローディアはぐいっと紅茶を飲み干すと立ち上がった。

エルネストが少し成長してます。クローディアに可愛いからかっこいいと言われる日が来るとよいですね。

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