第32話(最終話) 望んだのはこの結果ではないのだ。あれ?!
夜が明けて、翌日、早朝。
久々にクローディアが里帰りする日である。
パースフィールド侯爵家の玄関ホールには、侯爵家の皆様が見送りにと集まっていた。
侯爵家当主アウグスト、侯爵夫人のフロレンシア、若様ことヴォルター、エルネスト、そして前パースフィールド当主のガーブスである。
「皆様わざわざのお見送りありがとうございます。そして長い間お世話になりました」
きっちり深々とお辞儀をして挨拶をする。
今後状況が大きく変化して、こうしてお会いするのもなくなってしまうかもしれない。
出来るときにできるお礼はしておくに限る。
これ、下位貴族として大事。
「何そんな他人行儀な挨拶をしているんだい? ディア? 少し里帰りすだけじゃないか? またすぐに帰っておいで!」
いや、帰っておいではない、ガーブス様。クローディアが帰る家はグレームズ男爵家のみである。
「ディアはもう孫娘も同然だよ! そんな堅苦しい挨拶なしなし!」
「あ、ありがとうございます」
前侯爵ガーブス様。いつから自分を愛称で呼ぶようになった?
そこで、ガーブスは一歩出て、クローディアにずいと顔を近づける。
「ディア、覚えておきなさい。アウグストがどんなに反対しようとも、僕は君たちの味方だよ。何か困ったことがあれば、お祖父様に言いなさい」
待って。貴方は私のお祖父様ではないです。エルネスト様のお祖父様ですから。
「お祖父様!」
エルネストが目を輝かし、祖父を見つめる。
「エルネスト、よーくお聞き。ディアは将来すごい女性に成長するよ! ちゃんと捕まえておかないと誰かに取られてしまうよ」
「わかりました!」
そこ、元気よく返事をしない!
やめて! 私はしがない男爵家の娘ですから。なんでしたら、今は女性の命と言われる髪もチョー短くて男の子のようですから! それにみてください。容姿も地味な茶色のドレスが似合う平々凡々ですから。
ほら! アウグスト様も、フロレンシア様も、ヴォルター様まで、微妙な顔してるから!
グレームズ男爵家が危機に陥るから!
本当やめてください!
「ほほほ、ガーブス様ったら、冗談がお上手ですわ」
「冗談ではないぞ!クローディア! 短い間だが、君と過ごしてみて感じたんだよ! エルネストのお嫁さんは、ディアしかいないってね!」
「お祖父様! 僕、嬉しいです! 大好きです!」
「ははは。僕にまかせなさい!」
やめて、エルネスト様! あおらないで! そしてガーブス様、何を任せるのか!
今回のヒースの件で、ガーブスがクローディアを気に入ってくれたのは嬉しい。下位貴族は高位貴族に気に入られ、なんぼのところがあるから。
何とも心強い味方ではある。
だが、待って欲しい。クローディアが望んでいるのは、こういった味方ではない。
クローディアが欲しいのは、エルネストを独り立ちさせて、彼女の夢である大陸を自由に回れるよう力を貸してくれる味方である。
「ディア」「クローディア」
ガーブスとエルネスト、2人にがっしりと手を握られ、クローディアの額に汗が噴き出す。
あれ? なんか、間違えた!?
何をどこで間違えたのおおお? とのクローディアの心の嘆きは、誰にも届かなかった。
そしてクローディアが王都の食べ歩きをしていないと気づくのは、馬車に乗ってしばらく経ってからの事だった。
「いやあああ! 食べ歩きしたかったあああ!」
<終わり>
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