第24話 行きますわ! セインピア聖教国へ!
「えーちら、とっと♪ おーちら、とっと♪ 馬車に揺らり揺られてどこまでも行きますわ~」
「クロード、ご機嫌だね」
隣に座るエルネストがくすりと笑う。
「えっ。わたくし、いえ、僕、口から洩れてました?」
「うん。きいたことない歌だけど、クロードの楽しそうな気持ちがわかる素敵な曲だね」
「あ、ありがとうございます」
くう。きっとエルネストは真面目に言ってくれてるのだろう。
それが余計に恥ずかしい。
「うんうん。素敵な歌声だったよ」
うあお。ここで追い打ちをかける、エルネスト祖父、ガーブス様。やめて欲しい。
「色々不満もあるけど、一緒に来れてよかった」
エルネストがクローディアに微笑う。
「そうですね!」
ヒースの遺骨が判別できるようになった日のお茶の席での話し合いで、クローディアが侍従に扮することで、ガーブスとエルネストと一緒になんとかセインピア聖教国に行けるようになった。
そう決まってからすぐに準備に取り掛かった。
まずは男装するクローディアの服の調達である。
それを頼んだのは、もちろんニコル叔父のグレームズ商会にである。
ニコル叔父に使用目的を聞かれ、エルネストのお供でセインピア聖教国に行く事になったのだと元気よく伝えた。
と、そこでニコル叔父に聞かれたのが、父ギャノンに許可はとったのかとの問い。
ニコル叔父曰く、その時のクローディアの間の抜けた顔で当分笑えるとの事。
ひどい叔父である。
だって仕方ないだろう。ガーブスとエルネストと3人での話し合いで、気持ちが乱気流に巻き込まれて、父への報告などスコーンと忘れてしまったのだ。
叔父に突っ込まれるまで全く頭に浮かばなかった。
いや、別に親を忘れていたわけではない。
目の前の楽しみ、いや、重い案件で頭がいっぱいだっただけである。
ニコル叔父に服を頼んだ後、慌てて侯爵家に帰り、ガーブスとアウグストにそれぞれ一筆書いてもらった。加え、援護射撃で、ニコル叔父からも手紙を出してもらった。そのおかげで、父からもかなりかなーりしぶしぶな許可の返事が届き、晴れて、セインピア聖教国へと行く事ができるようになったのである。
父よ。すまん。
もしセインピア聖教国に効き目のよい胃薬を見つけたら、お土産にぜひ買って帰ると約束しよう。
そんなこともあったが、それ以外は準備は滞りなく進み、5日後にはセインピア聖教国に出発となったのである。
「もう後少しで、セインピア聖教国です」
だから歌ってないで気を引き締めろよと、さりげない注意を促してくれたのは、この四人乗りの馬車に乗車している最後の一人、護衛のシラフである。灰色の髪にこげ茶色の瞳。無骨な感じはしない、文官と言われれば納得してしまう年齢不詳な人である。ただ、エルネスト祖父の護衛を長年務めているらしいので、すごい強いのは確かであろう。肉体的にも精神的にも。
彼からしたら、私はどう映っているのか。
男装してまで、外国へ行きたがる男爵令嬢。彼がこちらの事情を少しでも知ってくれていれば、評価は無難なものになっている筈である。
クローディアは己の服装を見下ろす。
茶色のズボンに、ベストに上着。うん。なかなか似合っていると思う。
それに何より動きやすい。これ大事。
いいな。男の子は。これは今後畑仕事する用のズボンを作ってもらえるように母に交渉すべきか。
そんなどうでもいいことを考えていたクローディアの耳に、ガーブスの声が響く。
「さて、ではここで少し日程をおさらいしておこうか」
「「はい」」
エルネストと二人、背筋をただす。
「今日このまま夕方、セインピア聖教国に入国したら、国境に近い宿に泊まる。そこからまた馬車で進む。ヒースの遺骨がある場所は王都ピアディール近く。そこまで4日くらいかな。まずはそこに本当にあるか確認しよう。そして確認ができてから、王都に入る。そして僕はそこから別行動するよ。用事があるからね。僕が用事を済ませる間、エルネストたちは観光でもしていなさい。滅多にない機会だ、王都の様子をよく見ておくといいよ。そして僕の用事が済み次第、すぐに帰国する」
滞在期間より、移動時間の方がはるかに長い。ついでにお尻も痛い。
「何か質問は?」
どうせ来たのだから、もっと滞在したい。が、費用も情勢もそれを許さない。
クローディアは粛々と頷くだけである。
少しでも観光ができるのを喜ぶべきであろう。クローディアのようなしがない下位貴族の娘だ、もしかしたら、二度と来られないかもしれない。まあ、セインピア王様が頑張って門戸を広げてくれればまた来られるかもしれないが。
「まもなく国境です」
シラフから、そう告げられる。
「セインピア聖教国に入ったら、常に監視があると考え行動するように」
いつも温和なガーブスが、真剣な目を2人に向ける。
それにごくりと唾を飲み込みながら、クローディアは重々しく頷いた。
さあ、これからセインピア聖教国だ!




