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第23話 行くぞ! 行けるか? セインピア聖教国!

 夕食後、居間に移ってガーブスとエルネストとクローディアの3人で食後のお茶をしていた。

 今夜の居間のテーブルは少し小さめの丸テーブルである。とは言っても3人でお茶を飲むには十分な大きさである。

 ここの使用人は人数に合わせてテーブルセットまで変えるのだろうか。すごいぞ侯爵家。

 ちなみにアウグストはまだ王城から帰ってきておらず、侯爵夫人のフロレンシアとヴォルターは早々に自室へと引き上げている。

 アウグストには後で報告するとして、ちょうどよいタイミングの為、クローディアは夢の話とともに、ヒースの骨を見分ける方法が見つかった旨を報告する。

「武神様に力を貸してもらえるなんてすごいね!」

 エルネストは手放しで喜んでくれた。クローディアの言を少しも疑っていない。

 一方ガーブスはクローディアの話に頷きながら、口を開く。

「うんうん。神からの天啓かあ。よかったね。僕もぜひ箱が光るところを見たいね」

 それはつまり自分の目で確かめたいという事だろう。

 当然である。

 子供のそれも幼児の言葉だけでは信用されないのは当たり前であろう。

「かしこまりました。ではもしガーブス様がよろしければ、明日ヒース様のお墓に参りますか?」

「うん。そうだね、そうしようか」

 即決である。クローディアとガーブスとエルネストと3人で、明日再度墓地に行く事になった。

「そうすると、後はセインピア聖教国に行けるか否かですわね」

 クローディアがお茶を口に含んでから呟く。

 そう後は、ヒースの遺骨が埋まっているかの地に行けるかである。

「ああ。大丈夫。今日入国の許可が下りたよ」

「えっ! 入国の許可が下りたんですか?!」

「僕とエルネストのね」

「まあ。よろしゅうございましたわ!」

 どうやら、連日王城へ通った甲斐があったらしい。

 ただ気になるのは、ガーブスとエルネストは、という下りである。

 これから察するに、どうやらクローディアは許可が下りなかったという事だろう。残念である。

「エルネストだけでは行かせられないからね、私も同行するよ」

「そうなのですね」

 クローディアは? とはとても聞けない。

「どちらかというとエルネストがおまけだね。私がちょうどセインピア聖教国に仕事があるからそれにエルネストが付いてくる形にしたんだよ」

 やはり話の流れからしてクローディアは留守番らしい。

 トントン拍子進んだのはいいが、こんなところに落とし穴。

 残念。初の外国旅行に行けると思ったのに。

 だからセインピア聖教国に行く話になった途端、エルネストがすっと暗い顔になり黙りこくってしまったのかもしれない。

 無理もない。セインピア聖教国でもきっと亡霊はいる。

 きっと一人で行くのが怖いのだろう。かの地で何泊するかわからないが、できる対策を2人で話し合おう。エルネストが旅でなるべく安らかに過ごせるように。

 そこでふいにガーブスがクローディアに話を振って来た。

「確認なのだが、やはりクローディアも一緒に行きたいかね?」

「! できれば! ぜひ行きたいです!」

 もちろんである。そんな確認いらない。

 首無し騎士ことヒースの案件もあるが、初外国旅行である。行きたいに決まっている。

「うん。そうだよね」

 何やらガーブスが顎に手をかけて思案している。

 そこでクローディアははっと気づいた。

 旅費! 旅費はどうする? そんなお金グレームズ男爵家にはない!

 いくら侯爵家とはいいつつも、結構大きい出費だろう。クローディアの分までは出してはくれないだろう。お金がネックか。

 こればかりはどうしようもない。エルネストたちに任せて、やはり自分は留守番するしかない。

 それにしてもガーブス様よ、希望を持たせて落とすなんてひどい。がっかりである。

「あの、私、お留守番しております」

「あれ? なぜだい? さっき行きたいと言っていたじゃないか」

 落胆する気持ちを隠しつつ、クローディアは答える。

「考えてみれば、子供と言えど、外国へと旅行するには、それなりのお金がいりますから。男爵家にはセインピア聖教国へ行く旅費などありません」

「ああ、なんだ。そこか。その点は問題ないよ。クローディア一人連れて行ったってたいしたことないからね」

 なんと! 流石高位貴族様! やはり男爵家とは収入が段ちなのかもしれない。

 クローディアの気分は一気に上昇する。

「ただ」

「ただ? 他に何が問題があるのですか?」

「うん。実は、エルネストは、わしの仕事の補助と、まあ、孫だからね、入国申請は通ったんだが、クローディアは申請が却下されてしまったんだよ。まだまだ観光で行ける国でないからね」

「そうですか‥‥」

 なんだ。また上げて落とされた。泣きたくなるぐらい落ちたぞ。

 ああ、きっと言葉には出ていないが、もっとクローディアの家の爵位が高ければ、ごり押しもできたかもしれない。しがない男爵家の娘など、政治的になんの価値もないし、ガーブスの仕事の補助としてなんて理由は6歳の幼女を連れて行く理由としては無理すぎる。

 エルネストを連れていけるのはガーブスの孫であるからが大きい。

「だが、連れて行こうと思えば手はある」

「本当ですか!」

 なに? ガーブス様。私を上げたり下げたりして。連れて行ってくれる方法があるなら最初から言って欲しかった。

「クローディア、君を侯爵家の使用人としてなら、連れていけるよ」

「お祖父様!」

 それまで黙っていたエルネストが叫んだ。

「私は、彼女をそのような形で連れて行きたくありません! クローディアは未来の僕の妻になる人なのに!」

 エルネストの言葉に、クローディアは目をむく。

 待ってほしい! いつそんな話がでた! 私は一言も聞いていないぞ!

 エルネスト様、今貴方は勘違いしているのです! 自分を窮地から救い出してくれた感謝の気持ちがすり替わっているだけんなんです! 少年よ! 早まってはいけない。

「エルネスト様! 何をおっしゃっているのです! 私たちまだ6歳ですのよ? 結婚などまだまだまだまだ先のお話ですわ!」

 うん。君とは永遠にないと思う。

 お願いだ。私の小さな心臓をいじめないでくれ。

「僕は!」

 更に言い募ろうとしたエルネストをガーブスがとめる。

「ああ、わかっているよ。お前がクローディアを気に入っているのは。しかし、今の状況で連れて行くにはこれしか方法がないんだよ。お前はクローディアと離れても大丈夫なのかい」

 うおおおお。エルネスト祖父。大人だ。さらりと流して本題に戻してくれた。

 ありがたい。どうかそのまま広い心で男爵家を見守って欲しい。

 それにするどい指摘だ。そもそも私が侯爵家に滞在している理由はエルネストが亡霊に一人で対処できないからに他ならない。セインピア聖教国への道中、新たな亡霊がエルネストを悩ませるかもしれないのだ。私を連れていくべきだろう。うむ!

「エルネスト様、わたくし、お留守番はいやですわ。連れていってもらえるなら、メイドでもなんでもやります」

 ただ実務の実力が伴うかは定かではない。私も下位とはいえ、貴族令嬢なので、掃除や洗濯など自信はない。申し訳ない。

「ああ、流石クローディアだね。覚悟が違う。その心意気にもう一つ注文だよ! メイドではなくて従僕になって欲しいんだ!」

「へ? 従僕、ですか?」

 思わず令嬢にあるまじき声が出た。

「ああ、セインピア聖教国では女性は行動に制限が多いんだよ。だからどうせなら、従僕に化けるほうが、動きやすい」

 なるほど。納得である。

「何、対外的なものだ。実際は仕事などしなくていいからね」

「ありがとうございます」

 うん。従僕かあ。なんかその方が面白いかもしれない。折角国外へ行くのだ、行動制限なんていやである。

 それに今、幸か不幸か髪が短い。それに6歳という年齢。加え、畑焼けした肌。全部が味方してくれている。もうこれで男の子の服装をすれば、誰もクローディアを女の子とは思わないに違いない。

「わかりました。エルネスト様付きの従僕になります! ふふ。なんだか楽しそうですね」

「うんうん」

「名前はクロードなんていかがでしょう?」

「おお。いいんじゃないかな?」

「クローディア! 君は本当にいいの?! 僕はいやだよ!」

 エルネストが我慢できないというように叫ぶ。

「エルネスト様、わたくしお留守番より、一緒に行きたいです。それに一緒の方が心強いのでは? それに何より楽しいでしょ?」

 くらえ! エルネスト様直伝、首傾げコテン! クローディアがやって効くかは不明だが。

「うっ」

 エルネストが言葉に詰まった。

 少しは効いたらしい。幼女だからこそか。

 実際、ただ男装すれば、連れていってもらえるなら、全然苦ではない。

 侯爵家と男爵家。将来国が必要としている子息と、いてもいなくてもいい娘。

 扱いが違うのは、自明の理である。


 チクン。


「うっ?」

 なぜか一瞬クローディアの胸が差すように痛んだ。

 気のせいか。不思議に思い、思わず胸に手をやる。

「クローディア?」

 心配そうにエルネストがのぞき込む。

「何でもないですわ」

 今は何ともない。なんだったのだろう。キリで刺されたような鋭い痛み。

 いや、今は気にしている時ではない、またエルネストがぐたぐたいう前に一気に話を進めるのだ。外国旅行が待っているのだ。

 ああ、セインピア聖教国。習った通りの国なのか。

 街並みは、カルギニア王国とどう違うのか。楽しみは尽きないのだ。

「ガーブス様! どうか、それで話を進めてくださいませ!」

「わかった! 任せておいて!」

 ガーブス様が力強く頷いた。

「ありがとうございます!」

 やった! 初外国旅行だ!

「さあ、エルネスト様、一緒にセインピア聖教国へ行きましょう! 明日から忙しくなりますわよ!」

 今クローディアの頭の中は、当初の目的は露ほどもなく、見知らぬ外国への散策の期待でいっぱいであった。

クローディア少し心がもやりとしました。その原因は自分でもつかめないと。まだ6歳ですから。クローディアは成長してもそうかも。エルネストは苦労しそうですね。

いつもお読みいただきありがとうございます。

少しでもおもしろいと思ってもらえたら、評価、ブクマなどなどしていただけたら、とっても励みになります(*^-^*)

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