第22話 武神様、ありがとうございます!!
短いです。
王都ヘリケアの一角。そこに国営の墓地があった。
領地を持たぬ貴族、あるいは戦争でなくなった兵士の墓がある。
個々の墓。あるいは集団での墓。墓の種類は様々である。
その敷地内の一角に、その人の墓はあった。
パースフィールド侯爵家の屋敷内を闊歩している首無し騎士の亡霊。
ヒース=ガナルディア、その人の墓である。
ガナルディアの位は子爵であり、狭いながらも領地はあったという。
それがどういう理由で、領地ではなく、ここに眠るようになったのか。その経緯は、知らない。生前の本人の望みなのか、はたまた残された家族での取り決めなのか。ガーブスにヒースの墓の場所を教えてもらった時、そこまで詳しくは教えてもらえなかった。ただ、クローディアとしては、彼の墓がここにあって助かった。彼の墓を彼の元領地まで探しに行かずに済んだからである。
今は少し日が傾きかけている。空が赤く染まり、影が徐々に深く落ちる時間帯である。
本来ならもう少し早くここに来る筈だったが、マシューの髪の毛が橙色に染まっちゃった困った案件が急遽持ち上がった為、この時間になってしまったのである。
視える範囲が広がったクローディアには辛い場である。
なるべく、周りに視線を向けないようにして、彼の墓の前にひざまずく。
そういえば、マシューは大丈夫だろうか。
精霊の影響はどのくらいあるのか。精霊妖精のみならず、亡霊まで視認できるようになっているのか。
ちらりと背後に視線をむけると、少し離れた場所に立っているマシューの顔が強張っているように見える。
うむ。騎士である君なら、きっと耐えられる。
もう少しそこで待っていてくれ。
そう思いつつ、お墓に持ってきた、花束を供える。紫系統の花を選んで作ったもらった。彼は忠義に厚い男だったから、上司のカラーでまとめた方がいいかと思ったからだ。
一度目のお墓参りでもそうした。
「二度目ですね」
そう呟きつつ、祈る。
ここに、魂がないと知りつつ祈るのは何か変な気持ちであるが、彼が安らかになるように祈る。
早く遥かなる高みに昇り、彼の仕えたグリント様に会えますように。
それからクローディアは小さいバックの中から、それを取り出した。
ヒースの遺骨が入った紋章入りの黒い小箱。
クローディアはそれを墓石の手前にそっと置く。
すると、それがぽわっと赤く光った。
正確には小箱ではない。
「やった!」
クローディアは小さくガッツポーズをとる。中の骨が光ったのだ。
やはり、そうだった。
あの大きな手は武神ガンダンテ様だったのだろう。赤は武神様のシンボルカラーだから。
クローディアが困っていると頼んだから、力を貸してくれたのか。
しかし、神様はそんなに簡単に力を貸してくれるものか?
そうであったら、武神様をはじめ、神々は大忙しである。
小さい精霊を助けたからだろうか。あるいは武神様の気まぐれか。
理由はわからない。けれど、これでセインピア聖教国に行った時に、ヒースの遺骨があるか否かわかるようになった。それが一番重要である。
これで一番の難題である問題が1つ解決したのだから。
問題はあと1つ。
それは隣国セインピア聖教国に行けるかだ。
現在のセインピア聖教国の国王は代替わりしたばかりの若い王で、新しい風を国内に入れようと、外国との交流に積極的であるという。
ただ、まだまだ根強い、鎖国賛成派がおり、なかなか望む体制にならないという。
「まあね。国王を補佐する双璧と呼ばれる一人が神殿長だったら、難しいよねえ」
もう一人は実務をつかさどる、宰相だとか。それも国王の交代とともに、代替わりしたそうだがなかなかすぐには変わらないのだろう。
そんな中、いくら門戸が広がったとはいえ、果たして入国許可証が自分にエルネストに下りるか。入国目的を正直に申請したら、まず無理だろう。
「ガーブス様、エルネスト様、今日の成果はどうだったかしら?」
クローディアは子供らしからぬため息をつくと墓の前から立ち上がった。
「マシュー、帰りましょう」
こくこくと頷くマシューを引き連れ、クローディアは墓地を後にした。
マシューが急激にクローディアの子分と化している気がしてます。。




