第16話 エルネスト様、君は本当に6歳なのか!?
短めです。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ほらあ、ガーブス様、そうなっちゃったじゃないですかあ。
クローディアは口を尖らせた。
ガーブスの予言的中。
午前中の勉強を終わらせると、クローディアとエルネストの2人は、ヒースの遺骨の入った箱を持ってまずは教会へ向かった。次にガーブスに教えられたヒースのお墓へ。
結果、本体の亡霊さまはついて来てはくれなかった。お引越ししてくれなかった。
教会へも、彼自身のお墓にも。
帰りの馬車の中、2人は向かい合って座っていた。
エルネストの隣には護衛のジャスティンが座っている。
ジャスティンは茶色い髪、緑の瞳で、頬に傷のある長身の男性。エルネストの護衛の一人である。
彼は口が堅いと聞いているので、クローディアは残念な気持ちを抑えきれずに、口を開いた。
「だめでしたわね」
「うん。やっぱりそうだったね」
「エルネスト様、やっぱりってどういうことですか?」
彼は顎に手をあて言葉を紡ぐ。
「これは昨日のお祖父様の話を聞いての僕の推測だけど、首無し騎士が侯爵家に死してなお彷徨うようになったきっかけは、遺骨の一部を持ち歩くほどに悔いる曾祖父様の気持ちと、主君を崇拝するほどに強すぎる彼の忠誠心、そして自分の遺骨が屋敷にあったからだと思う」
「では、同じような条件が揃えば、どこの家にも亡霊が居つくようになるのでしょうか?」
それは怖い。はっきり言って怖すぎる。
「クローディア、そもそもこれらの条件が揃うのも稀だと思うよ。揃えようと思っても揃えられるものじゃない」
「そうですね」
ふう。一先ず安心。安心なのか?
クローディアは首を傾げた。
その時、ふともう一つ疑問が浮かんだ。
「エルネスト様、ヒース様はなぜご領地の屋敷ではなく、王都の屋敷にいるんでしょうか?」
「おそらくだけど、戦争中、それに戦後も曾祖父様は王都にいる事が多かったんじゃないかな」
「なるほど、エルネスト様、すごいです。そこまでわかるなんて」
「言っておくけど、すべて推測だよ。亡霊がどこにどうして居つくなんて、実際わからないし、照明のしようがない。ただ、そこにいる事実から推測するしかないからね」
エルネスト様、君は本当に6歳なのか? こんなに理路整然と物事を考えられるなんて。やはり侯爵家産、ハイスペックである。
「話を続けていいかな?」
「あ、すいません、話の腰を折ってしまって。どうぞ続けてください」
「うん。つまり3つの要因が揃ったからこそ、彼は亡霊として屋敷に現れた。当時どれか1つでも欠けていたら、ヒース様は侯爵家に引き付けられなかったんじゃないかな。遺骨は主君と首無し騎士を繋ぐ大きな役割をしたんだと思う。ただ、首無し騎士が侯爵家に何十年も彷徨っている事で定着し、遺骨は彼を繋ぐ役割終えた」
「だから、遺骨を屋敷から移動しても、首無し騎士はついて来なかったんですね」
「そうだと思う」
なるほど、人間だって一つのところに住んでいれば、そこの土地に街に家に溶け込んでいく。それと同じようなものか。
「彼が本能だけで、侯爵家を彷徨っているなら、彼が忠誠を誓った主君が死してなお、遥か高みへ上らないのはおかしい。もしかしたらもう、きっかけさえわからなくなっているのかもしれない。この侯爵家にいる意味や主君を想う気持ちも残っているのかどうかさえ危ういかもしれない」
「そんな!」
主君の思いと彼の忠誠心が、彼をこの屋敷に引き留めたのに。その気持ちさえも薄れたというのか。無くなってしまったというのか。
もう彼を説得できないのか。どうすることもできないのか。
「では、彼の頭を取り戻しても意味がないのではないですか?」
「いや、心は心臓にあり、思考は頭だと本で読んだことがある。その考えからすれば、頭を取り戻すことは大事だよ」
「そうですよね!」
そう考えないと、出口がなくなってしまう。
「可能性のあることは全部やらないと、僕は一生彼を視て過ごさなくてはならなくなる」
エルネストはその考えを振り払うように首を振った。
「とにかく彼の頭を見つけよう。その為には、彼の遺骨があるセインピア聖教国に行く。セインピア聖教国に行く手立ては、お祖父様が何とかしてくれると言っていたけど、問題は」
「沢山の遺骨の中から、どう彼の遺骨を判別するか、ですね」
「うん」
個々に墓などある筈はなく、まとめて埋葬されている可能性が高い。
果たして判別するなど可能なのか。
2人はそれぞれ腕を組んで考え込んだ。
しかし屋敷に到着しても、その対応策は全く思い浮かばなかった。




