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第14話 難題、難題、また難題。とほほ。

またまた長め&シリアスです。

「さっきもちらっと言ったけど、今から60年以上になるか、隣国のセインピア聖教国と我が国が戦争をしていたのは知っているかい?」

 ガーブスが尋ねる。

「はい。家庭教師から習いました」

ヴォルター様も曾祖父の話には興味があるらしく、いち早く答える。

「エルネストとクローディアはどうかな?」

「はい、先日習いました」

 エルネストの言にクローディアも頷く。

 隣国のセインピア聖教国。

 男神ガルドフィアのみを信仰する一神教の国である。大変信仰心が厚い国で、それが政治にも色濃く反映している。

 目上を敬い、男性を敬い、女子は内助の功を求めれる。

 はっきりいえば、完全なる男性中心の社会であり、国である。

 また聖教国というその名の通り、宗教が政治にかなり影響力を及ぼしており、他の信仰はすべて排除せよとの考えが国を治める上層部に浸透していた。それが国内だけに留まってくれていればよかったのであるが、先々代の国王は、クローディアたちが住むこの国、カルギニア王国の信仰にも口を出してくるようになった。

 カルギニア王国は多神教である。主神の女神エーレフィアの下に様々な神がいて、それぞれの神がそれぞれの力を生かしつつ、国を守ってくれていると考えている。人々はそれぞれが好きな神を信仰する。人によってはその時々によってお祈りする神が違っても全く持って問題はない。神様は神様なのだからという大変おおらかな信仰なのである。

 それがセインピア聖教国からしたら、当時とても気に入らなったらしい。折にふれ干渉してくるようになった。そうなると両国の関係に軋轢(あつれき)が生じ始める。

「戦争の原因は、本当に信仰の違いが気に入らなかったからだけだったのですか?」

 ヴォルターが鋭い質問をする。

「そうだな。それだけではなかったろうよ。あわよくば、邪教から隣国を救うという大義名分で、侵略して、領土拡大を狙っていたんだと思う」

「やはりそうなのですね」

 エルネストも同意するように頷く。

「戦争のきっかけを与えないよう、こちらも慎重に動いていたんだけどね」

 それが崩れたのは、隣国との国境付近での小さな小競り合いだ。

「今でもそうだが、隣国セインピア聖教国に入るには、入国審査がある。それをクリアしたものだけが、入国を許される。入国許可証が必要なんだよ」

「さようでございますか」

 勉強になる。将来大陸中を見て回りたいクローディアには、必要な知識である。

「セインピア聖教国は今でも外国人の入国を極端に嫌う。異国の文化が入るのが嫌なのだ」

「隣国の様子がわかれば、自分たちと暮らしや考えと比べられてしまうから」

 エルネストが考え込みながら呟く。

「となれば、支配しにくくなりますね」

 ヴォルターも意見を紡ぐ。

「そうだよ」

 正解を導き出した孫たちに、ガーブスは満足そうに頷く。

 クローディアが習った隣国セインピア聖教国の国民の暮らしは、とても窮屈な中で生活をしていると思う。自分だったら息が詰まってしまうだろうと思うほどだ。

 だが、その生活しか知らなければ、疑問を持つ者も少ないだろう。

「けれど、セインピア聖教国がいくら締め出そうとしても、我が国の商人たちはたくましい。どんなところへも商売になりそうなものを求めて行きたがる。それは今も昔も変わらない。況して昔は鎖国状態だったセインピア聖教国、一獲千金を狙えるほどの商機があるかもしれないと、我が国の商人は考えた。たとえお金を積んででも、入国したがった商人は多かった。それが狙われたと思う」

「やはりそうなのですね」

 エルネストが確信していたかのように言った。

 セインピア聖教国と我が国カルギニア王国との戦争のきっかけとなった小競り合い。

 それは家庭教師から教わった内容では、カルギニア王国の商人が両国の国境のあるローワーの町で、入国許可証をセインピア聖教国役人に示したところ、それに不備があり入国を拒否された。それを不服とした商人が抗議したところ、セインピア聖教国の役人が危険を感じて剣を抜いた。そこで商人の護衛と切り合いになり、セインピア聖教国の役人が大けがをした。これをきっかけに異教徒を排除をとの声がセインピア聖教国から上がり、戦争に突入した。これが世にいうローワー事件である。

「セインピア聖教国側は戦争のきっかけを欲していた。あの事件は、セインピア聖教国のしこみだったんだと思うよ」

 ガーブスが当時を振り返り語る。

 どこの国の為政者も国土拡大という野心を多かれ少なかれ持っているのだろう。

 より豊かになりたいという欲望は尽きない。

「まあ、事件の審議はこの際おいておこう。それで両国は戦争に突入した。戦争は1年で収束した。我が国の圧倒的優位でな」

「なぜ、セインピア聖教国を併合しなかったのですか?」

 ヴォルターが疑問を投げかける。

「がちがちの信仰に凝り固まった理屈の通じない国を併合しても、苦労するだけだと、その当時の国王ウィリアム様はお考えになったんだろう」

 確かに面倒くさそうだ。

「さて、歴史上での戦争の話はこのくらいにして、今重要なのは、ヒースが死ぬことになった戦いの話だ。戦場になったのはセインピア聖教国の王都であるピアディールに近いスリル平原だ。時期はセインピア聖教国との戦争が終結する直前だ。我がカルギニア王国の軍が優勢で、セインピア聖教国の王都陥落まで後少しのところだった。王都を陥落させれば、戦争が終わる。後もう一歩だ。その王都陥落という大事な任を国王ウィリアム様から与えられたのは、父のグリント=パースフィールドだった」

 ガーブスは淡々と話を続ける。

「父グリントは指揮官としてとても有能で、実際異常な強さで敵を打ち負かす常勝の人だった。そのくせ味方の犠牲も少ない。そんな父でもセインピア聖教国の王都ピアディールを目の前にして気持ちが急いてしまったんだと思う。王都を制圧すれば、一気に戦争の決着がつくとね。その気持ちに付け込まれ、体よく誘いこまれて、王都ピアディールに近いスリル平原で敵に囲い込まれてしまった。敵の罠にまんまとはまって窮地に立たされてしまったんだよ。その戦いで、父のグリントの副官を務めていたのが、ヒース=ガナルディアだ。彼は1人で百人も相手にできると言われるほどのつわものだった。そんな彼は味方を1人でも多く逃す為、彼の部下数人とスリル平原に残り、獅子奮迅の勢いで斧をふるった。それで味方を逃すことに成功したが、彼と彼の部下全員、戦死した。

 父グランドが、体勢を整え、再びスリル平原に戻った時にそこにあったのは、首が打ち取られたヒースとその部下たちの遺体だけだった。父グランドは、それらの遺体を持ち帰り丁重に葬ったそうだ」

 なるほど、だから亡霊のヒースも首がないのか。

 クローディアは疑問をそのまま口に(のぼ)せる。

「首はどうなったのですか?」

「おそらくセインピア聖教国内で味方の士気を上げるために晒された後、埋葬された。彼らの信仰でも、我が国でも遺体をぞんざいに扱うことは神への冒涜であると禁じられているからな。ヒースたちの身体もう少し遅ければ、回収されていたかもしれない」

 そうはいっても敵国の騎士である。個々の墓などあるはずもない。

 おそらくまとめて埋葬されているだけであろう。

 負け寸前の戦争下で、果たして敵国の騎士の首を埋葬する余裕があったのだろうか。現にヒースたちの遺体はそのまま打ち捨てられていたのだ。

「我が国は相手側の戦死者の扱いはどうだったのですか?」

 エルネストがそれまで黙って聞いていたアウグストに質問をする。

「できるだけ、埋める。墓堀り人を随行させるからな。でないと土地が穢れ、神がお怒りになる。そして病が蔓延する羽目になるからな」

 加えるなら、妖精も精霊もお怒りである。ドワーフの大翁も怒っていた。

「ならば、ヒースの首もセインピア聖教国内に埋まっている可能性があるのでしょうか?」

 エルネストが重ねて尋ねる。

「ある」

 ガーブスが即答する。

「すごい確信ですね」

 思わず敬語も忘れ、クローディアはするどく突っ込んでしまう。

「ああ、父グリントが戦争終結後、彼の遺骨の行方を詳しく調べたんだ。いつかヒースたちの首を取り戻すのだと。だからおそらく埋められたであろう場所もわかっている。確かめた訳ではないけどね」

 それはそうだろう。当時敵地だった国で掘り起こす訳にも行かない。

 だが、これでわかったヒースの首はセインピア聖教国にある。

「お祖父様、お話しいただいてありがとうございます」

 エルネストが頭を下げた。

「いや、お前の助けになったかな?」

「はい。とても役に立つ情報でした。これで首無し騎士、いえヒース様が私たちの話に耳を傾けてくれるかもしれません。ヒース様としてもう一度話しかけてみます」

 あんなに怖がってばかりいたエルネスト様がここまで成長するなんて。うむ。なんだか胸が熱い。

「それでも何も成果が得られなかったら?」

 ガーブスが真っすぐクローディアとエルネストを見つめてくる。

「ヒースの首を取り戻したいです」

 エルネストが公言する。

 それは先に望んだ通りの言葉。

「そうか」

「はい」

 エルネストが力強く頷く。

「あの」

 クローディアはそこでふと疑問に思った事を口に出す。

「ヒース様はなぜ首無し騎士になってまで、こちらの屋敷(タウンハウス)にいらっしゃるのでしょうか?」

「曾祖父様を恨んでいたとか?」

 ヴォルターが答える。

「今の話を聞いた限りだと、志願して戦場に残られたようです。グラント侯爵様を恨んでいたとは思えないですわ」

「そうだね。僕もそう思う」

 エルネストも頷く。

「そういってくれるかい? 僕も父にそう言ったんだが、父は決して首を縦には振らなかったな」

 ガーブスが無念そうに笑う。

 きっとグラント様は自責の念が強かったのだろう。

「恨みじゃなくて忠誠心でここにいるのではないか? 父上、彼の人となりはどうでしたか?」

 アウグストがガーブスに尋ねる。

「ああ、彼はそうだね。鬱陶しいと思うほどに忠誠心厚い人だったようだよ。(グリント)が苦笑気味に話していた。自分の家族よりも(グリント)を優先しすぎる困った奴だったとね」

 自分の家族よりも主君を大事に思う。クローディアには理解できない。騎士道精神というものなのか。

「死してなお主君を思って、下界に残っているのか。度の過ぎた忠誠心だな」

 アウグストがぼそりと呟く。

「そう言ってやるな」

 ガーブスが眉を下げて諫める。

「でも、お祖父様。父上がいう事にも一理あるかと思います。彼の忠誠心は彼の根本(こんぽん)なのかもしれません。だって首無し騎士(ヒース)は本能だけで動いていそうだもの」

 本能がパースフィールド侯爵家への忠義なのか。エルネストの曽祖父グリントはそこまで忠誠をつくせる人物だったのか。

「彼は確かに怖いけど、僕らに危害を加えそうには視えないものね」

 それでも同居は難しいよね。

 エルネストの心の声が聞こえる

 わかる。廊下でばったりなんて、結構怖い。

「そうかそうか。うんうん」

 ガーブスが満足そうに頷く。

「今思い出したのだが、ヒースがここにいる原因に一つ心当たりがある」

「「本当ですか?!」」

 クローディアとエルネストが思わずハモって問う。

「ああ。後で、その原因のものを見せつつ、話そう。それにしてもエルネストもクローディアは賢いなあ」

 ガーブスが微笑ましそうにこちらを見つめて来る。

「クローディアはその上可愛いし、強いです!」

 いや、待って欲しい。エルネスト様! 今は一時の感情に流されているだけだから。そしてガーブス様、貴方のお孫様は私よりはるかにハイスペックです。

「そんな2人に聞こう。ヒースの首を取り戻す為に問題が2つ、細かく言えば3つある。それはわかるかな?」

「一つは入国できるかですね」

 エルネストが答える。

「そうだ。セインピア聖教国は今でも入国するのは難しい。今話していた理由ならまず審査は通らないだろう。だが、僕とアウグストで入国は何とかできるかもしれない。あともう一つの問題が厄介だ」

「グリント様が調査した場所に、本当にヒース様の首があるかですね?」

 クローディアが今度は答える。

「そう。それに加えてそこに首があったとして、本当に彼の首かどうかどうやって判別するか?きっとまとめて埋葬されている可能性が高いからね」

 そうだ。それが大問題である。

「それにおそらく白骨化している」

 エルネストも難しい顔をしている。

「骨になってしまえば、見分けは不可能といっていい。ましてや50年以上の前の骨だ」

 アウグストが追い打ちをかけるように言う。

「そうだ。それらが解決できない限り、セインピア聖教国に行っても無駄だということだ」

 ガーブスがそう締めくくった。

 クローディアはがっくりと肩を落とした。

 折角首無し騎士の正体が判明したのに、新たな難題が立ちはだかった。

 いったいいつになったら、解決するのか!?

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