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第12話 たまにはまったり。でも手がかりなくて、がっかり。

「昨日も濃い一日でしたわ」

 午前中にエルネストの家庭教師の教えを共に受けた後、午後エルネストの書斎にて、クローディアは彼とお茶を飲んでいた。

 王都ヘリケアに滞在4日目にして、ゆっくりとした時間を過ごしている。

 ララも今日は温室でのんびりと過ごしている。

「ああ、美味しい」

「うん」

 2人はしみじみとお茶を味わう。

 まだ6歳なのに、なぜこんなに忙しいのか。まだ幼児といっても過言ではないのに、なんと目まぐるしい日々だ。

 自分から忙しい種を作っているのではないかとの突っ込みは認めない。

 昨日の叔父夫妻のやり取りは、どうしても必要だったのだ。毛糸の帽子については侯爵夫人からの依頼があったし、混合の糸のアイデアについては、王都食べ歩きの資金調達には欠かせない話し合いだったのだ。うむ。

 それよりも最大の難問にして、難関は首無し騎士の亡霊の案件だ。

 この問題の解決策を見つけられなければ、王都食べ歩きも実現しない。

 頑張れ、クローディア! である。

「それで、昨日のお茶会はどうでしたか?」

 エルネストは王城からの呼び出しと言っていたが、まさにその通り。

 お茶会と称した、将来王子様方の側近になれる人物を幼少時から発掘しようと王家が計画したお茶会だ。王家からの招待、それはもう強制力半端ない。病欠以外は出席必須である。

「なんか聞いていた感じと違って、とっても疲れたよ」

「まあ、どのように違っていたのですか?」

「うん、当初は男子だけの集まりの筈だったのに、なぜか女の子も沢山参加してて」

 あ、もしかして、どなたかがねじ込んできたのか。

「数人のご令嬢に囲まれ、質問攻めにされて、こわかった」

「あー、さようでございましたか」

 哀れな。ご令嬢様方、貴女様方のアピールは逆効果でありました。

「王子様方はにこやかに対応されていたのが流石だった」

 うん。きっと場数が違うんだよ。エルネスト様、貴方様もきっとそのうち王子様方のようになれるよ。うん。ファイト。

「昨日のお茶会に、女の子を呼んでいいなら、僕、クローディアと一緒に行きたかったよ」

 そう言ってエルネストは口を尖らせた。

「ふふ。それは残念でしたわ」

 あぶない。よかった。事前告知なく、男女混合お茶会に変更になって。

 そんな場に行きたくはない。絶対。

 まあ、下位貴族の男爵家の娘など、呼ばれる筈もないが。

 それはそれで、エルネストが面倒くさそうだ。良し悪しは別にして、直前変更ナイス!である。

「お友達はできませんでしたか?」

 きっとそれも目的のお茶会だ。成果はいかに。

「ご令嬢たちに付き合わされて、他の男子とは話せなかった」

 次男とはいえ、侯爵家のご子息である。その上、顔も整っているとなれば、人気もあるだろう。

「さようでございましたか。また機会もありますわ」

「もういいよ。僕はクローディアといるほうがずっと楽しい」

 可愛い事を言ってくれる。

 ストレートな物言いに、思わず顔がにやけてしまう。

「ふふ。ありがとうございます。ですが、ちゃんと行事に参加しないと、私が侯爵様に怒られてしまいますわ。もしかしたら、お家に戻されてしまうかもしれません」

「だめ! いやだよ!」

「ええ。私もですわ」

 あの温室を見る前だったら、それもよかったかもしれないが、今はもう少しここに滞在したい。

 温室で育てたいものがたくさんあるのだ。

「クローディアも? 僕と一緒にいたいと思ってくれてるの?」

 エルネストが嬉しそうに、目をキラキラさせる。

「ええ、もちろんですわ」

 クローディアはそっと視線を外す。

 ごめん、エルネスト様。もちろん貴方と一緒にいたいとも思っておりますが、少し温度差があるかもしれません。

「あ、そうですわエルネスト様、首無し騎士様の亡霊の事、何かわかりましたか?」

 クローディアはすばやく話題を変える。いよいよ本題である。

 エルネストは少し残念そうだが、答えてくれた。

「それが、全然手がかりを掴めなかった」

 エルネストはソーサーにカップを戻して話し出した。

「お茶会が終了した後、父上のところに行ったんだ。忙しそうだったけど、僕の話を聞いてくれて、貴族名鑑を見せてくれたんだ」

「まあ! それはよかったですね」

 貴族名鑑。それは、文官、騎士など問わず、現在の貴族の情報がぎっしり詰まった辞書的な本である。エルネストも貴族として社交を積極的に行うようになれば、その中の主だった貴族の名を覚えなければならなくなるだろう。

 クローディアは下位貴族であり、女子なので、そこまですることはないだろうが。

 だが、まだ2人とも6歳である。年が明けたので、今年7歳になるが、社交界にでるのはまだまだ先になる。毎年少しずつ改定される貴族名鑑。その年年(としどし)に、貴族でなくなる家もある。世知辛い。いつまでも、その末席に載っていたいと父は考えているに違いない。

 ささやかなその願いを踏みにじることがないよう、過ごしたいものである。

「うん。だけど、そこに首無し騎士がつけている紋章はなかった」

「そうでしたか。となると、首無し騎士様の家は何らかの理由で爵位を返上してしまったのでしょうか?」

 それとも貴族ではないのか? しかし鎧はかなり上質に視えた。庶民の出であるとは考えにくい。

「父上や父の部下の方々にも、僕の絵を見てもらったんだけど、心当たりは全くないって」

 誠に残念である。

「打つ手なしですわね」

 首無し騎士の正体を突き止める、唯一の手掛かりが紋章だった。それさえ、解決策を見つけるとっかかりにすぎなったのだ。そのとっかかりさえなくなってしまった。

 今後どうしたらいいのか。

「クローディア‥」

 エルネストが縋るように見つめてくる。

 それに答えたいが、答えがない。

 暗礁に乗り上げてしまった。打つ手なしだ。思わず唇を噛む。

 と、そこにノックの音。

「入れ」

 エルネストの返事とともに、執事のギルバートが音もなく入ってきた。

「おくつろぎのところ失礼いたします。ただいま、ガーブス様がご来訪されました」

「お祖父様が?」

「はい。どうか急ぎ、お出迎えをお願いいたします」

「わかった。クローディアも一緒にきて」

「わ、私もですか?」

 他人の私がしゃしゃり出てもいいのだろうか。

 ちらりと執事を見ると頷いている。

「はい。奥様も、ご挨拶をとおっしゃっておりました」

 そう言われればと、クローディアに否はない。

「承知致しました」

 クローディアは立ち上がると、エルネストとドアへと向かった。

なんとか毎日更新がんばりたいです。。

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