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第11話 うむ。叔父叔母はどこまでも商人である。

少し長めです

 ニコル叔父とサマンサ叔母が応接室から飛び出して行ってしまった後。クローディアとルカがお茶を飲みつつ、2人を待つことしばし。もうそろそろ侯爵家に帰らないとまずいかなあとクローディアが心配し始めた頃に、ようやく2人は応接室へと帰って来た。

「すまない。君を置き去りにしてしまって」

「本当ごめんなさい。つい興奮してしまって」

 2人は最初の興奮が収まったのか、済まなそうに部屋へと入って来た。

「いいえ。お役に立てたようでよかったですわ」

 本当。私の声が聞こえてたんだね。よかったよ、帰って来てくれて。

「役に立ったどころじゃないよ! これは織物業界の大改革になるよ!」

 また沸き上がって来たのかニコル叔父の圧がすごい。

「そ、そうなのですね」

 クローディアにはピンとこないが、すごい事らしい。

 うむ。ニコル叔父、サマンサ叔母。よしなにしてください。

「ああ、クローディア! 我が姪よ! 君にどのようなお礼をすれば釣り合うのかわからないよ!」

「本当! 欲しいものがあったら、何でも言ってちょうだい!」

 おお、その言葉を待ってました! 2人を待った甲斐があったというものである。

「本当によろしんですの?」

「ああ、もちろんだとも!」

「ええ! 遠慮なく言って?」

 ニコル叔父も、サマンサ叔母も、満面の笑顔である。

 かなり怖い。引きそうになる心を抑え、クローディアは思い切って話し始めた。

「実はわたくしパースフィールド侯爵様に、王都にどうしても来て欲しいと依頼された際に、小さくともよいので、王都の侯爵家の敷地内にガーデニングができるスペースをお借りできないかとお願いしたのです」

「ああ、クローディアは土いじりが好きだからね。でも君が好きなのは、ガーデニングではなくて、畑仕事ではない? 花より芋が好きだろう?」

「ニコル叔父様! 世の中には体裁という言葉がありますのよ! 確かに私、お芋大好きです! しかし、私畑仕事が王都でもしたいなんて、侯爵様に言えなませんわ!」

「はは、そうかい? クローディアなら、さらりと言ってしまいそうな感じだけど」

「まあ、いくらニコル叔父様でも失礼ですよ!」

 全く、クローディアの心臓がどれほど強いと思っているのか。弱くはないだろうが、普通である。

「そうですわ、貴方。少し言葉を慎みなさい」

「すまない」

 女性2人に諫められ、しゅんとなるニコル叔父。

 クローディアはコホンと一つ咳をすると話を進めた。

「話を戻します。侯爵様はわたくしのわがままを快く受け入れてくださり、王都の侯爵家の敷地内にある温室を自由にしていいとお許しをもらいましたの。それもそこで作ったものはわたくしの好きにしてよいとお許しを頂きました」

 そのうえ、クローディアは図々しくもその事を一筆書いてもらいたいとお願いしたのだ。

 このクローディアの言葉にパースフィールド侯爵様は片眉をあげたが、耐えた。

 クローディアが通常育てている野菜類のみだったならば、書類など無用だったのだが、ララが温室の話をきいて、珍しくお菓子以外でクローディアにお願いしてきたのだ。ララが持っている花の種を育てて欲しいと。

 いつも助けてもらっているララからお願いである。ぜひ叶えたいとクローディアは思ったのである。ララはクローディアにとって大好きな友達だから。

 その為、どきどきしながらも、侯爵に一筆願ったのだ。

 ララが持って来た花の種が、人間界のものでなく珍しい花だった場合、取り上げられてはたまらない。

 幸い侯爵様は、内心でどう思ったかしれないが、すぐに一筆書いてくれたので、とてもほっとした。

 父には、その後かなりお叱りを受けたが。結果オーライである。

「おお! すごいじゃないか! 流石、我が姪!」

 ニコル叔父は手放しでほめてくれる。うん、ここら辺は叔父と血のつながりを感じるクローディアである。

「パースフィールド侯爵が用意していただいた温室は、侯爵家の名に恥じぬ立派なものです。冬でも十分暖かくて、色々挑戦できそうなんですの。ですから、ニコル叔父様、珍しい草花や野菜の種などがありましたら、分けてくだされば嬉しゅうございます」

 国内外問わず、あちこち飛び回っている叔父である。きっとクローディアが見た事もない種を持っているだろう。

「もちろんだよ! 今持ってくる!」

 ニコル叔父はそう返事をするや、またも部屋を飛び出していった。

 元気な叔父である。

 クローディアはお菓子をつまむふりをしつつ、更に座っているララにそっと触れる。

 するとララがお菓子から目を上げて、クローディアを見上げる。

 クローディアは唇だけで、ララにお願いする。

 好きな苗木や種を選んで欲しいと。

 ララも話を聞いていたようで、大きく頷く。

 そう、そのために今日ララに付いて来てもらったのだ。

 ララは王都に来てから少し元気がなくて、今日も出かけるのを渋っていた。温室で留守番をしていたいと言っていた。それを少し強引について来てもらったのは、もしかしたら、叔父が持っている苗木や種の中でララが気に入ったものがあるかもしれないと思ったのだ。そしてそれを温室で育てたら、ララが元気になるのではないかと思ったから。

 どうか、今から叔父が持って来てくれる種の中に、ララが気になるものがありますように。心からそう願う。

「お待たせ!」

 ドアから入って来たニコル叔父両手には、大きな平たい箱。

「あらあら」

 サマンサ叔母がテーブルの脇にあったワゴンにカップやお菓子を片付け、テーブルの上にスペースを開けてくれる。

「ありがとう」

 ニコル叔父は箱をテーブルの上に置いた。

「さあ! どれでも好きなものを持って行っておくれ!」

 箱には小さな袋がいくつも並んでいた。おそらくその一つ一つの袋の中に、種が入っているのだろう。叔父が袋を次々と開けて見やすいように並べてくれる。

「これらは大陸の国を色々回って集めて来た種だよ! 花や薬草、果物の種、後、何かわからないものもあるよ! 面白いものがなるって言われたものもある! どれでも好きなの持っていっていいよ!」

 何かわからないものとはなんぞや。

 いいのか、叔父よ。そんな得体のしれないものを可愛い姪に渡して。

 信用されているのか。実は何か知っているのか。

 にこにこ顔の叔父からは判別不能である。

 突っ込みたいところであるが、こういった態度の時の叔父に突っ込んでも答えは得られない事が多い。放っておくに限る。

 クローディアは右肩に座っているララに視線を向ける。

<うん! じゃあ選ぶわよ~!>

 ララはふわっと羽を一つ羽ばたかせると、箱に降り立つ。

 クローディアも箱の中身をじっくりと見る。

「え? 突っ込んでくれないの? 叔父さん寂しい」

「貴方は黙ってなさい。この後、毛糸の花の作り方も教えてもらわなくてはならないのよ。時間を無駄にできないわ」

 あ、そうだ。花の編み方か。それもあった。早く選ばないと。

 それもあり、ニコル叔父はざっくりと無視だ。

 種を選ぶのに集中しなくては。

<あー!! ココモモの種だわ!これ、とても甘くておいしいの!>

 ララが嬉しそうに飛び跳ねる。

 ララが示したその袋には、確かにココモモと書かれている札があった。

 ココモモ、どうやら妖精界と人間界で同じ名称で呼ばれている植物らしい。

 ララがはしゃいでいるので、このココモモの種を少し分けてもらおう。

「ニコル叔父様、これを少し分けてくださいな」

「おっ! ココモモか! 流石クローディアだね! 美味しいものに敏感だね!」

 微妙な誉め言葉である。一言言っておこうかと思った矢先、ララが驚きの声を上げた。

<あ!>

 どうしたのと尋ねたいのをぐっとこらえ、ララが近づいた袋を見る。

<ナンルー、どうしてここに>

 ララが少し呆然として袋を撫でる。

 その優しい触れ方に、ララにとって、あるいは妖精にとって、大事な種なのかもしれない。

 これはこの種をもらって行くしかないだろう。

「叔父様、これもいただけますか?」

「あ、これねえ、なんなのかわからない種なんだよ。一粒しかないんだ」

「貴重なものなのですね。ではいただけないですわね」

 ララがすごい気にしている種だから、できればもらって帰りたかったが仕方がない。

「いや、いいよ! 何かわからないものだし、クローディアが惹かれたものなら、君が持って行って育てたほうがよい」

「いいのですか?」

「もちろん! 今日はクローディアにいっぱいアイディアをもらったからね」

「ありがとうございます!」

<よかった!>

 ララはクローディアとニコル叔父のやり取りを聞いて、嬉しそうにその種を見ている。

「ああ、クローディア、できればこれも、それにこれも、持って行ってほしいな」

 南の国の果物の種。とても甘く美味しい実がなるらしい。

「後はね」

 そう続けながら、ニコル叔父はそれから数種類の種を薦めて来た。

 断る理由もないので、もらっておくことにする。

「こんなに沢山いただいてよろしいのですか?」

 自分から要求したとはいえ、もらいすぎの感も否めない。

「いいだよ! 買い付けてきたけど、どうやって育てようかと悩んでいたところだったしね」

「そうよ。遠慮しないでもらっておいて」

 サマンサ叔母もそう言いつつ、種をまとめて大きな袋に入れてくれる。

「ありがとうございます」

「ああ、もし温室で上手く育ったら、私にもいくつかお裾分けもらえたら嬉しいなあ。あと、観察日記などつけてみせてくれたらなお嬉しい」

 狙いはそれか。全く利用できるものは利用する。姪でも兄でもか。

 ニッコリ笑うニコル叔父、全く悪びれていない。そしてサマンサ叔母諫めない。

 まあでも、これだけもらったのだから、叔父叔母の好奇心を満たしてあげないほど、心は狭くない。

「かしこまりました。枯らさないようがんばりますわ」

「うんうん。後で、育て方がわかるものは、書面で渡すね」

「ありがとうございます」

「これで、侯爵様にクローディアの事を話した事を許してもらえるかな?」

「そうですわね。許して差し上げます」

 つんと澄まして答える。

「ああ、よかった。嫌われたらどうしようかと思ったよ」

 わざとらしく胸に手をあてて、大げさにほっとしたという態度をとるニコル叔父。

 それが似合ってしまうのが、また憎めない。

「さあ、では次は毛糸のお花の編み方を教えてもらえるかしら?」

 編み物に関しては、サマンサ叔母の管轄である。

 何気に叔母の目の瞳孔が開いているようで怖い。

 クローディアはソファに避けてあった編み棒をさっと手にとった。

「もちろんですわ。サクサクはじめましょう!

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