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第1話 やってきました、王都へと。さあ、楽しみはすぐそこだ!

ちょっとお菓子なクローディア(王都編)です。

最後までよろしくお願い致します。

「えーちら、おーちら。今度は王都へ~、馬車に揺らり揺られて連れられて行きますわ~」

「クローディア様、言い方!」

「しかも~、今回はお父様が一緒ではないのです~。季節は冬~、心も寒いし、髪が短いから首も寒い~」

「お嬢様!」

「ごめんなさい。だって、愚痴を言いたくもなりますわよ」

 メイドのミカに(たしな)められて、クローディアは口を尖らせる。

 現在クローディアは王都に向かう馬車の中、乗車しているのはメイドのミカと2人である。

 本来、護衛が一人同乗するのが常であるが、王都に近いこともあり、パースフィールド侯爵家に着くまでの間ゆるりとしたいとの希望で、本日護衛には遠慮してもらっている。

 そもそもなぜまだ6歳の幼いクローディアが王都ヘリケアまで来なければならなくなったのか、ことの起こりは、パースフィールド侯爵家から届いた一通の手紙だ。

 その手紙には、パースフィールド侯爵家の子息、エルネスト6歳が突然引きこもりになり、助けて欲しいとの内容が書いてあった。クローディアの父であるグレームズ男爵家当主ギャノンも、自分、クローディアも侯爵とは一切面識がなかった。それなのに、なぜうちにそんな手紙が来たのか。それはクローディアの叔父であるニコル=グレームズが、パースフィールド侯爵にご子息のエルネストの助けになるとクローディアを推薦した為であった。どのような話術を使ったのかは不明だが、藁をも(つか)みたい心境のパースフィールド侯爵は、(うち)に手紙を出したという訳だ。全くはた迷惑な叔父である。

 しがない男爵家の娘たる自分に一体何を期待しているのか。自分ができるのはせいぜい畑仕事くらいである。

 とは親子ともども思うものの、高位貴族である侯爵家に逆らえるはずもなく。

 お陰でクローディアはえっちらおっちらと遠いパースフィールド侯爵家まで出向く羽目になった。

 きっと瞬殺でお役御免になると思いきや、ニコル叔父の勘が当たったのか、侯爵家の子息エルネストが引きこもる原因がクローディアなら解決できるかもしれない事柄であった。

 エルネストが引きこもりになった原因は、亡霊が視えるようになってしまった事。外でも家でもどこでも亡霊が視え、怖くて外に出れなくなってしまったのだった。

 実はクローディアも特殊な目を持っていた。妖精が視える目。種類は違えど、普通の人間には視えないものが視える。そしてなぜか2人が互いの身体に触れていれば、力を共有でき、エルネストは妖精を、クローディアは亡霊を視れるようになった。

 かくて、クローディアは、原因がわかっただけに、放っておくことも出来ず、引きこもりを解消し、エルネストが平穏に暮らせるように尽力することになったのである。

 クローディアは妖精のララやドワーフの大翁たちの力を借り、エルネストの視える力を抑えることはできないながらも、せめて自分の(うち)であるパースフィールド侯爵家から亡霊にお引越しをしてもらい、何とかエルネストの心の平穏を取り戻すことに成功。これで引きこもりも解消。

 はあ、やれやれとクローディアの(うち)である男爵家へと帰宅したところ、さほど日を置かずに、再度パースフィールド侯爵家に呼び出しをくらう事になった。

 こちらはしがない下位貴族、男爵家、高位貴族からの呼び出しであれば、()せ参じなければならず、またも侯爵家へと舞い戻る羽目になった。

 そこで新たに判明した事実、お引越ししていなくなった亡霊の空きに乗じ、新たな亡霊が侯爵家に出没したということであった。なんとまさかのエンドレス。これではエルネストの心の平穏が保てない。されどまたエルネストに引きこもられても困る。

 根本的解決が難しいなら、対処療法を続けて行くしかないー。

 つまりは、亡霊が現れるたびに、お引越し願う。亡霊のお引越しは、エルネストだけではできず、クローディアと2人でないとできない。その為、当分の間、エルネストとともに行動して欲しいとのパースフィールド侯爵家からの強い要望が出てしまったのだ。

 要望、実質は命令である。

 侯爵家からの命令に、しがない下位貴族である男爵のグレームズ家が逆らえる筈もない。

 (だく)の一択である。

 クローディアがいれば、エルネストは引きこもらない。

 ならば。

 静養の為、侯爵領へと帰って来ていたが、王都で学ばせたいとパースフィールド侯爵は迷惑な事を言い出した。パースフィールド侯爵自身、王都で仕事がてんこ盛りであるから自分も王都へ行きたかったらしい。まるきり、侯爵家本位である。

 何度もいうが、侯爵家の(めい)に逆らえる訳もなく、エルネストの為、もっと言えば、将来国に役立つだろう子供の育成の為、弱冠(じゃっかん)6歳のクローディアは一人親元から離され、王都に向かう羽目になっているのである。

 そう一人だ。

 もちろん、クローディア付きのメイドたるミカが、11歳と幼いながらも、ついて来てくれている。

 しかし、グレームズ男爵家から身内の一人、大人の一人もいないとはどういうことなのか。

 今クローディアが乗っている馬車でさえ、男爵家のものではなく、パースフィールド侯爵家のそれ。しかも護衛もである。

 まったく。侯爵家に着いた時に、この6歳のいたいけな女児一人で、対応しろというのか。

 鬼か。

 父、ギャノン曰く。

 パースフィールド侯爵領で一人で滞在できたんだから、大丈夫! お父さん信じてる! との言。くっ! 父よ、貴方はわかってない! 私が侯爵領の屋敷でいかに大変だったか。

「ふふふふふ。実の娘に対してこの仕打ち、お父様は、娘が可愛くないのですわ」

 もしくは己の胃を守ったか。

「そんなことはありません! 旦那様はお嬢様を大切に思っておりますとも!」

 おお。当主を立てるなんて、ミカはできたメイドである。

「ただ、それ以上にお嬢様の図太い性格なら、1人でも乗り切れると思ってらっしゃるだけです!」

 一言多いメイドでもある。そして直の(あるじ)には歯に絹きせないメイドでもある。

「ミカ」

 じろりと睨んだクローディアに流石にまずいと思ったのか、慌てて付け足す。

「あ、図太いっていうのは、誉め言葉で! ほら、動じない? 男らしい?」

 図太いは誉め言葉ではない。そして淑女からだんだん言葉がかけ離れていく。

「私、クローディア様なら、どこまでもついていけますっていつも思ってます」

「ミカ‥‥‥」

 まあ、いい。悪気のないのはわかっている。

「ミカ、本当ついて来てもらってありがとう。心強いわ」

 ミカにはクローディアが王都に行く理由を詳しくは話していない。ただエルネストの話し相手として行くとだけしか告げていない。

 それでも、ミカがいるだけで気分的にも実質的にも違う。

「私は、クローディア様付のメイドですから!」

 にっこり微笑んだ彼女、クローディアも頬を緩める。

「私! 王都に行ってみたかったんです! まさか本当に来れるなんて!」

 うん。こちらの理由が大半だろう。ミカは裏表がないところがよい。そのまま育てよ。

 ミカにしてみれば、仕事とはいえ、思ってもみなかった幸運だろう。

 今回の機会がなければ、王都に来る機会など、そうありはしないのだから。

<私も~! 私もいるんだから~! 忘れないで欲しいわー!>

 そう言って、抗議するように、クローディアの右肩の上で、ララがぴょんぴょんとはねている。

 ララ。輝く金の髪に若葉色の瞳、透明な羽をもつ小さき妖精であり、クローディアの友達である。

 馬車の中にはクローディアの他、ミカしかいないが、ララに返事ができない。

 ミカはクローディア付きのメイドであるが、クローディアが本当に妖精が視えるとは思っていない。想像力豊かな女児くらいにしか考えていない。それが普通なのである。本当に視えるのだと言い張って嫌われたくはない。したがって、クローディアは返事の代わりに、ララをそっと撫でた。

<んふふ~>

 ララはそれで満足してくれたのか、クローディアの肩で座って足をぶらぶらさせている。

 くっ! 可愛い奴め!ミカがいなければ、撫でくりまわしてやりたい。

 いかんいかん、冷静になれ。

 クローディアは頭を軽く振ると、王都に行く事について考える。

 クローディアにしてみても、父に連れられての観光での王都訪問であったなら、うきうきの行程である。

 しかし、今回は、お仕事である。それも実質無料奉仕だ。

 まあ全くの無料奉仕とはいえないかもしれない。王都で滞在する間、費用はすべてパースフィールド侯爵家持ち。侯爵家の王都の屋敷にいる間、エルネストとともに学問、ダンス果ては、女子に必要なマナーも教育してもらえる。その上、クローディアが王都に行くならぜひかなえて欲しいと出した条件も飲んでもらえたのだ。

 そのクローディアが出した条件とは。

 ずばり、侯爵家敷地内、もしくはそれに近い場所で、畑仕事、土いじりがしたいというものだった。

 クローディアとしては、王都にいる間、自然との触れ合いがなくなるのは、どうしてもいやだったのである。土に触れないなんて、ストレスたまりまくりである。

 ただ、畑を侯爵家の庭で、というのは、季節的にも庭の美観的にもクリアが難しかったらしい。

 それで、クローディアを王都に呼ぶのを諦めてくれればよかったものを。

 そこはパースフィールド侯爵家。庭の一角にある温室をまるまる使用を許可してくれたのである。何でも今は亡きエルネストの祖母が昔にその温室で薬草を育てていたという事である。今は使われていなかったらしく、そこの使用を許可されたのである。

 そこでなら存分に土いじりをしてもよいと。これが決めてで、断れなくなってしまった。無念、である。まあ、行く事が決まってしまったものは仕方がない。後はいかに楽しむか。

「それにしても温室があるなんて、流石は侯爵家ですわ」

 いったいどんな作りなのか。

「ふふふ」

 楽しみである。

「お嬢様、いきなり笑って気持ち悪いです」

 うむ。安定の物言いである。

「温室を使わせてくれるなんて、侯爵様、太っ腹ですね」

「そうね」

「でも、長い間使ってなかったって事は、あちこち壊れていたりしなかったんですかね? あ、使えるように修理してくれたとか?」

「え?」

「もしそうなら、お金かかったでしょうね~」

「そ、そうかしら? 侯爵様だって子供一人の為に、それほどお金をかけたりしないでしょ」

「そうですかねえ。侯爵家の威信にかけて! なーんて、バリバリに素敵な温室を用意してくれてたりして」

 やめて、ミカ。やめて。今、喉がきゅっとなったから。

 子供が使う温室だ。お金なんて、そうかけてない、かけてないに違いない。

 自分の首を自分で締めてなんてないんだからね。クローディアだって親元から離されて暮らさなければならないのだから。

 だから、侯爵家に縛られてなんかいないんだから。

 ぶんぶんと頭を振り、浮かんだ考えを追い払う。

「それにしても、侯爵家の皆様と一緒でなくてよかったですね~。ご一緒だったら、こんなにのんびりとできなったでしょうから」

「ええ。せめて向かう馬車の中だけでも、緊張せずにいたいものね」

 本当はエルネストは王都に向かうのも一緒に行きたいと主張したが、流石に色々な準備もあるからと別々に向かう事になったのだ。

 なるべく早く出発することを条件にエルネストはしぶしぶ頷いた。

 とはいっても、一度男爵家に帰ってからの出発になったので、多少遅れるのはしょうがない。きっとエルネストは今か今かと待っているに違いない。

 うむ。クローディアがいない間、亡霊に少しでも慣れていて欲しいものである。

 それが将来のためです。エルネスト様。

 そんな弟子を見守る師匠のような心境になっているクローディアに、ミカが爆弾を落とした。

「ところでクローディア様、いつまで王都に滞在するのですか?」

「社交シーズンの間だけよ」

「そうなんですか~。私、期間言われてなくて。もしかしてずっとかな? なんて思って」

 まて。なにそれ、不吉な事を言わないで欲しい。

「じゃあ、社交シーズンが終わったら、クローディア様は侯爵領に帰るのですね~」

「まって。違うから。私が帰るのは、男爵領の自分お家だから」

「そうなんですか。残念。今度は私も一緒に行こうと思っていたんですよう」

 やめて。そんなフラグ立てないで。

「私は! 社交シーズンが終わったら、グレームズ家のお(うち)に帰りますからっ!」

 馬車の中という事を忘れ、クローディアは拳を握りしめ立ち上がった。

 刹那。馬車が揺れて、正面の座席におでこをぶつける。

「いたっ」

 額を抑え、うずくまる。

 なんか自分の言を否定されたようで、心も痛い。

「ああ! クローディア様! 王都が見えてきましたよう!」

 うずくまる主人を余所に、窓から外を見て叫ぶ。どこまでも、マイペースなミカ。

 うむ。君を見習いたいものである。

 ミカの言葉に、クローディアは馬車の窓から顔を出す。

 見つめる先、そこには。

 王都を守るようにそびえる外壁が見えた。

 カルギニア王国の王都ヘリケアである。

「わあああ!」

 何のかんの言っても初めての王都だ、クローディアの心は浮き立った。

 ぐちぐち考えてもなるようにしかならない。

 ならば、折角来た王都である。存分に楽しみたい。

 まずは、美味しいものを食べるぞ!

 クローディアはぐっと拳を握りしめた。

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