決戦の舞台は異世界で
「こ、ここは……?」
どれほどの時間が立っただろうか。二人の行使した術は確かに最後まで二人を守り抜き、ついに暴力的なまでの光の奔流は収まった。
「まさか、亜空間?」
そして、光の本流が収まれば、周囲の光景は元の洞窟に戻るはずだった。が、あたりに広がっていたのは、黒だった。
四方を囲む壁はなく、頭上を見渡しても空がなければ、足元を見下ろしても地面はない。
そこにはただ乱暴に、空間の概念だけが存在していた。
「亜空、間……?」
「術によって作られた空間であり、異世界よ」
「なるほど?」
要領を得ない説明ではあるが、その中身は重要ではない。重要なことは、異世界を構築するなどという馬鹿げた術が行使されたこと。そして、そんな術を使うことができるほどに強大な相手と対峙しているということだった。
「隠し扉の先の亜空間。最終決戦にふさわしい舞台ね」
「そして、神話に出てくるような破壊兵器。相手にとっても不足なしだね」
こちらの会話を理解しているかは定かではないが、視線の先でたたずむ守護者は二人を見下ろして沈黙し、出方を伺っているように見えた。
「……先手を取らせてくれるなら、こっちからいくよ!」
先手必勝、それはこの世の常である。そう言わんばかりにセツナは守護者に向かって風のように、あるいは音のように。目で追うことすら難しいほどの速度と風を伴って疾駆する。
「鎌鼬!」
そして、その動きは姿が見えなくなるほどに早くなり、ついには比喩でなく全てを切り裂く風と化す。
そうしてセツナの技能によって巻き起こった斬撃の嵐は、ガーディアンの巨体を余すことなく包み込んだ。
しかし。
「……微塵も効いてないわね。流石に技一つでみじん切りになるとは思ってないけれど」
大抵の魔物なら一瞬で細切れに変わるセツナの大技は守護者の巨体に傷一つつけることなく、その斬撃の一つ一つは硬質な体表に弾かれて乾いた音を立てるだけだった。
どうやら物理攻撃は通用を与える見込みが薄いと見える。ならば。
「離れなさい、セツナ。『魔導砲』」
「ちょ、ちょっとお⁉︎」
間の抜けた叫びを置き去りにアイの掌から放出された大出力の魔導砲が守護者を直撃する。事前準備を必要としない魔術の中で一番の大技であり、第五位階相当の上位魔術。飛竜すら撃ち落とす大火力の前では、いくら守護者と言えど無傷ではいられないだろう。
「やったの……?」
「……それならいいのだけれど、そうはいかないみたいよ。反撃に備えなさい」
しかし、爆発により巻き上がった粉塵と轟音の後に現れたのは、傷ひとつない守護者の姿だった。
耐久力だけなら、今まで戦ってきたどんな魔物をも軽く凌駕するだろう。
そんなイレギュラーの塊はアイの術が切れたとみるや両手を広げ、その間に魔術陣を展開し、体の各部位に現れた魔力結晶を部位ごと回転させ、それを予備動作とするように術を構築していく。
ついで、その体の各部位が粒子を纏いながらも淡く発光していき……、
——該当術式の解析及び模倣に成功しました。《超電磁魔導砲》
「な……」
直後。すぐそばで雷が落ちたような轟音とともに、先ほどアイの放った魔術とは桁違いの風圧が、霊力が、紫電を纏った蒼白い光の奔流がアイの術を破り、常時展開している魔力障壁を破り、
「あ、アイぃ!」
「……かは」
纏ったローブごと、アイの体を貫いた。