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戦う覚悟


「……案の定、探査(サーチ)はできないみたいだね」


 扉の先には、先ほどまでの景色と打って変わって洞窟のような岩肌の通路が広がっていた。

 足元が歩きやすいように舗装されていることはなく、代わりに罠や仕掛けなどと言った人工物の類も確認することはできない。

 隠し扉の先において仕掛けや装飾は無粋と言わんばかりに、二人を迎え入れる意思も追い払う意思も感じられなかった。


「探知系の技能(スキル)が発動できないのは空気中の霊力が濃くなっている証拠ね。自分の目で警戒する必要があるけれど、術のリソースに困らなくていいのは楽よ」

「まあ、その分だけ魔物が強いことの証拠でもあると思うんだけどね。差し引きでちょっと厳しいかな……」

「最初から楽な冒険じゃないことはわかってるでしょ。冒険者の仕事は、冒険することよ」


 指先で自らの頬を掻きながら苦笑するセツナに、アイは肩を竦める。

 冒険とは即ち、危険を冒すことである。危険でない冒険など存在せず、それが魔王城なら尚更だろう。

 そして、人が求めるものは得てして危険の先にあるものである。だからこその冒険者()()だった。


「それよりも……」

「……また扉? 爆発とかしないよね……」


 再び二人の目の前に現れた扉に、そこに浮かび上がる魔術陣にセツナは嫌そうな表情を浮かべて拒絶の態度を表す。冒険者としての勘が罠を疑っているといったところだろうが、それは杞憂というものだろう。


「あなたの発想にはいつも驚かされるわ。魔術陣は爆発するものとでも教えられてきたのかしら」


 魔術の類は魔術師以外には理解されかねるが、流石に魔術陣が爆発するなどという事態は稀である。そして、扉に設えられている魔術陣が爆発しては扉自体が破壊されてしまうことは想像に難くない。扉の魔術陣は罠の類ではなく、スイッチだろう。

 ただ、未知の領域で起こる出来事を想像することに意味などはあるまい。であれば、数少ない情報から未知を既知に変えるが吉だった。


「まあ、爆発するかどうかは陣を見ればわかるわ。少なくとも、建物の中に爆破系の陣が組まれていることはまずないわね。自分の城を崩しかねないし……」


 そこまで言ったところで、指先で追うように魔術陣を読み取ったアイはその表情を険しくする。見たくないものを見てしまったような、知らない方が幸せなことを知ってしまったような表情だった。


「どうしたの? やっぱり、爆発する?」

「……爆発はしないけれど、すこし面倒ね」


 軽薄に呟くセツナに、アイは額に汗を浮かべながらも慎重に言葉を紡ぐ。自分の思考と状況を整理するためにも、それを円滑に共有するためにも必要な行為だった。


「……というと?」

「……入ったら戻れない可能性がある。陣は入り口だけの一方通行で、扉が閉まったら再び開く手段がわからない」

「……」


 端的なその発言に、場が緊張を帯び始める。

 元より、人智を超越した存在に挑みにいくはずだったのだ。今更恐れるものはない。それをわざわざ口に出すということはつまり、他にも懸念事項があるということだ。


「もう一つ。これが致命的なのだけれど、扉を開く条件が全ての霊力を捧げることなのよ」

「……!」


 それは、術師にとっても冒険者にとっても致命的な事実だった。

 術師にとって霊力は文字通りの生命線であり、尽きてしまえば術を行使することができなくなる。そして、一党としても、魔術師が欠けた状態で強敵に挑まなくてはならなくなる。設計者(ダンジョンマスター)の顔を見てみたいほどに底意地の悪い仕掛け(ギミック)というわけだ。

 この時ばかりは、少人数で挑んだことを後悔せざるを得なかった。


「別に、覚悟はできてるよ。冒険者なんてはみ出しものなんだから、今更輪廻から外れたって構わないでしょ」

「……冒険者らしくない考え方ね」

「あはは……まあ、冒険者っていうのは利己的なものだからね」

「どういう意味?」


 不可解な発言にアイは怪訝そうな表情を隠そうともせずにセツナを見つめ、


「困ったときはお互い様。その代わり、帰ったら一杯奢りってこと。それでちゃらね」


 セツナは不敵に笑って拳を突き出した。

魔術は霊力を使って発動します。

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