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世界を変えるのは勇者の専売特許ではないというお話


 それは、人類にとって革命前夜の一幕だった。


 黒い雲の間から赤い光が臨き、黒々とした岩肌の地面が覆う魔界の最奥。そこにそびえ立つ。禍々しく重厚な魔王城の城門。その手前でたたずむ二人の少女。


 片方の少女は盗賊シーフ然とした軽装と短めの白髪を携え、もう片方の少女は薄紫のローブに三角帽と、魔術師然とした服装である。

 そんな二人からは恐れも憂いも感じられず、どこまでも自然体に見えた。


「あはは、人類の解放記念日インディペンデンスデイってやつ?」


 ふと、片方の少女が口を開く。それに合わせて短めの白髪が儚げに揺れた。


「別に、そんな大層な目的があるわけじゃないわよ。欲しいものを手に入れるだけ」

「それもそうだね。平和や安寧なんておまけに過ぎないし、ボクたちには関係のない話だ。そうでしょ? アイ」

「ええ、私は魔王を倒して賢者の石を手に入れる。それで世界がどうなったって関係ない」


 もう一方の、アイと呼ばれた黒髪の少女はそう言って城門に施された魔術陣に手をかざす。


 魔王城の分厚い城門を破るには、どれだけ重厚な破城鎚を用意しても足りることはないだろう。必要なのは、数十人の魔術師による解呪ディスペルの儀式。そして、強者の資格である膨大かつ純粋な魔力だけだった。


「勇者が聞いたら憤死しそうなセリフだね」

「別に、その程度で死ぬ奴じゃないってことくらいわかってるでしょ」


 軽口を叩いている間にも、城門にかざした少女の掌へと白く発光する粒子が岩肌の合間から浮かび上がって収束し、同時、城門に刻まれた無機質な魔術陣が淡い光を帯び始める。


「いつにも増して複雑な陣だね」

「……あなたに陣の良し悪しが分かるのかしら、セツナ」


 黒髪の少女は、同様に黒い瞳で相方の赤い瞳を睨みつける。が、セツナと呼ばれた白髪の少女は不敵に笑って肩を竦めるだけだった。


「全く? ただ、魔王城なんだから特別なんじゃないかって」

「意味がわからないけど、確かに複雑であることには変わりないわね。そして、まどろっこしいことは好きじゃない」


 その笑みにアイは黒髪を揺らして嘆息し、途中まで構築された陣を解除する。


「あはは、あんまり大きな音は立てないでね?」

「保証はしかねるわ。……霊力増強スピリチュアルブースト


 少女が術名を呟くとともに、その足元に小さな、それでいて目が眩むほどに赤く眩い光を放つ魔術陣が形成される。その光が強くなるごとに周囲に生暖かい旋風が巻き起こり、二人を包み込みんだ。


「久しぶりに、キミの本気の魔術が見れそうだね。魔術じゃなくて、錬金術なんだっけ?」

「……」


 その問いに、明確な答えが変えることはなかった。代わりに、アイはうなずくように俯いて言葉とは到底形容できそうにない音を発し始める。誰にも真似できない、彼女だけの詠唱方法だった。


偽りの再構築(フェイクリメイク)


 ふと、激しく靡いていた黒髪が動きを止め、あたりは術の構築を始める前の光景を取り戻す。

 足元の陣も、浮かび上がる粒子も、


「うっはぁ……。今更だけど、キミと二人なら魔王だって倒せる気がするよ」


 そして、眼前の城門も。これ以上ないほどに、最初から存在していなかったかのように跡形もなく、音もなく消失していた。


 それらを消し去った張本人は何食わぬ顔で魔王城の敷地に立ち入り、


「さあ、呑気なこと言ってないで、行きましょう。こういうセリフは好きじゃないけれど、最終決戦よ」


 門があった場所の前で立ちすくんでいるセツナを促すように、本来は勇者が放つはずの言葉を言い放った。

お読みいただきありがとうございます。十万字くらい書いてるので、それまでは投稿したいと思います。

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