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一生に一度だけ、催眠使って好きな人とデートをするのを許してください。

作者: 葱玉/onionslice

ノリで読みたい設定を呟いたら

「おまいが書くんだよ!」

って言われたのでその日の夕方から夜までの8時間で作ったやつです。ご査収ください


 この17年間、とても真面目に生きてきたと思う。


 でも、これは客観的に見たことで、規則的に生きるのが好きな性分な自分としては大したことじゃない。

 思うように生きてきた結果、クソ真面目とか、成績優秀者とか、健康優良児とか呼ばれただけ。

 本当は少し保守派で、人並みの承認欲求があって、なんだかんだで万能な自分を自慢げに思っている、ただの捻くれた人間だ。ちなみに万能ってのは言い過ぎで、ただの器用貧乏だったりする。

 別段仲の良い人はいないけど、それも仕方がない。


これまでも、これからも、自分はただ真面目に臆病に生きるだけで、現状にはあんまり不満がないし、何かリスクのあることをしようとも思わない。


こんな自分には、変わり映えのしない人生がちょうど良い。



だけど



もし、一生で一度だけわがままが許されるというのなら、それは今なんじゃないかと思う。



◆ ◇ ◇ ◇



 催眠?のような力が使えるようになった。


 一時的に人の感情を自分の好きなように変えることができるらしい。認識を変えるとかではなくて、感情を変えるらしい。

 嫌いな食べ物が食べれるようになったり、憂鬱な気分が晴れたり、何かに立ち向かう勇気をもったり、そして誰かに恋心を抱いたり。変える前の感情はわからない、サトリではないようだ。

 ちなみに自分の感情は変えられないらしい。使い勝手が悪いものである。


なぜ“らしい”だとか“ようだ”とか断定していないのは、使ったことがないからだ。使えることだけを知っている。


 経緯はわからない。なんか使えるようになってた。そもそも使うつもりもないので、そこまで重要な話でもない。



…いや



ひとつだけやってみたいことは、なくはない。



 人としては明らかに間違っていて─そもそも得体の知れない能力を使う時点で間違っているのだが─、罪悪感は少しばかりあるが、ようは他人にあんまり迷惑がかからないようにだけすれば良い。





 もっとも、まったく迷惑をかけないというのは不可能だったりする。






僕はこれから、世界でもトップクラスに最低なこの力を使って、最初で最後の恋を終わらせようと思う。






◇ ◆ ◇ ◇



日曜日。



「佐伯くん!お待たせ!待った?」


「いや、待ってないよ。僕もさっき着いたばかりだから。」


 駅前でテンプレな会話をする。

 彼女は僕のクラスメートだ。名前は東沙織さん。多少は話す程度で、僕だけが意識なんかをしている、ようは好きな人である。




 数日前、姉が「施しをやろう」なんて言って水族館のペアチケットをくれた。

 正直今回のことが無かったら燃えてなくなっているんだけど、これを口実にして、


『今度、水族館に行かない?チケット余っててさ』


といった感じのメッセージを東さんに送信した。

 「別に了承しても構わないって程度で好かれてるといいな」と力を使うことも忘れない。


 この能力、発動条件は実在する相手を認識しているだけで良いようで、そこはデスノート並の使いやすさがあった。


 ちなみにデートと言わないのはなるべく嫌悪感がないようにという配慮である。あからさまな好意を示さない方が(誘う時点で手遅れかもしれないが)、後腐れがない。スパイス程度の臆病もあるが、それはいい。


『うん!いいよ!』


しばらくすると返事が来た。最初で最後の力の使用だけど、うまく行ったみたいだった。この能力はなんなのだろうと、ぼんやり思った。




「服、似合ってるね。」


「そう?ありがと」


 ある程度の好感度が確定されている状況なので、台詞に躊躇いはない。なんとなく人形を相手にする虚しさがあるんじゃないかと思ったけど、やっぱり人間なのか、それとも恋を拗らせてるのか、虚しさなんかはなかった。


「それじゃあ行こっか」


「そうだね。」


 東さんは僕の手をひいて水族館へ向かう────⁉︎



 えっなんで手掴まれてるの?これが東さんの普通なのか?確かにクラスでも明るいタイプの人ではあるし、男子とも普通に話したりするタイプの人だけど、えっちょっ触れるのはあまり心臓に良くないんだけどまじか。


(…落ち着こう、別に手首を掴まれてるだけだ。)


 別に手を繋いでるわけじゃない。いずれ離されるだろう。それまで耐えろ心臓。



「ねえ、水族館のチケットってなんでもらったの?」


 東さんが歩きながら聞いてくる。何故か手は掴まれたままだ。


「ん?ああ、姉がくれたんだよ。どこから手に入れたのかは知らない。」


「お姉さんがいるんだ、どんな人?」


 僕の姉についての話が始まる。


「んー、男勝りな性格かな。変人だよ。チケットくれた時も、『施しをやろう』なんて言うんだよ、何様だよってね。」


少しおどけた感じで言う。姉、佐伯祐美子はまあまあの変人だ。男勝りなこと以外は性格に特徴はないが、口調と纏う雰囲気が何か別空間をもたらしてくる。

 僕も姉のそんなところが少しうつっているかも知れない。


 東さんはそんな僕の話にもクスクスと笑ってくれて、また話がはずむ。水族館に着くまで、特に会話に困ることはなかった。


いつのまにか手は外れていた。



◆ ◆ ◇ ◇



 水族館の中はそこまで混んでいなかった。深い藍色の館内は落ち着いていて、魚は悠々と泳いでいる。


「わぁ…」


 東さんがついと言った感じで声を出す。これだけでも誘ってよかったと思えた。




 僕たちはとりあえずは順路通りに進むことにした。後でイルカショーをみようと、タイムテーブルを確認しておく。


「私ね、大きな魚が好きなんだ。だから、イルカとかも大きいのが好き」


東さんが泳ぐアザラシを見ながら言う。


「じゃあ、ジンベイザメとか?」


「うん!ジンベイザメとか、あとマンタが見たい」


「ジンベイザメとマンタだったら沖縄の美ら海水族館かぁ」


「そうそう!死ぬまでに一回は行きたいよね」


 沖縄だったら国内だし一回は行く機会があるだろう。


「美ら海水族館だったら中学の時に行ったことがあったよ。」


「ほんと⁉︎」


「うん。大きさもそうだけど色が綺麗でね…」


 その後もいろいろな話ができた。思ったよりも会話が途切れないもんだ、東さんの力だろうか。




◇ ◇ ◆ ◇



 午後のイルカショーの前にフードコーナーで昼食をとることにした。僕はカルボナーラ、東さんはペペロンチーノを選ぶ。


「辛いの好きなの?」


「うん、大好きってわけじゃないけど、なんとなく選んじゃうかな」


「そっか。」


 その後もいくつか話をしていた。


 昼食も終わり、イルカショーを観に行く。




 イルカショーが始まった。僕たちは観客席の真ん中より少し上に座った。濡れて良い準備はして来ていなかった。


インストラクターさんがイルカの紹介をする。


『1番大きな子がクーちゃん、次にこの子がジャンプが得意なケンちゃん、この子がとっても賢いしーちゃんです!』


(イルカショーといえば観客のカップルがステージに出てパフォーマンスに参加するって話を聞くけど、本当にあるんだろうか。)


『さあ!ボールを抱えてー…それっ!』


 おおっと観客席から歓声が上がる。


「おお!カッコいい!かわいい!すごい!」


 東さんは想像以上にはしゃいでくれた。とても見応えがあって、迫力満点のショーだった。



 カップル参加のパフォーマンスはなかった。



◆ ◇ ◆ ◇



「楽しかったね!」



 イルカショーが終わってからもう少しだけみて、水族館を出る。


 ここらは水族館以外にもお店や広場なんかがあるので、ウィンドウショッピングといったところか、あたりをみてまわって、時刻はもうすぐ夕方といったところ。


 僕たちは広場のベンチに腰掛けて休憩していた。


「うん。そう言ってくれると、誘ってよかったよ。」


「うん、誘ってくれてありがとう」



 そろそろ暗くなるので、東さんを送って帰ることにする。



 僕の一生で一度の最低なわがままも終わろうとしていた。




 帰りも会話には困らなかった。また姉の話をしたり、途中で入ったお店の話をしたり、学校での話をしたり。


そうこうしているうちに、東さんの家につく。


あたりはすっかり暗くなってしまった。


「ごめんね、こんなに遅くになっちゃって。門限とかは大丈夫だった?」


「うん、大丈夫だよ。誰かと一緒なら8時までは大丈夫だって」


「そっか、ならよかった。」


 結果オーライではあるが、あらかじめ門限を確認しなかったのは間違いだったな。


「今日はありがとう。楽しかった。」


「こちらこそ!また学校でね!」


「うん、それじゃあ、また。」


玄関先で別れる。東さんは家の中に入っていった。



 扉が閉まる音がして、数秒後…



 僕は能力を解除する。東さんは元に戻る。今日のことは何かの間違いだと思うだろう。よっぽど嫌われていたりしない限りは、明日からは元どおりだ。



なんだかすっきりした僕は、帰路についた。



もう二度と、この力は使わない。




◇ ◆ ◆ ◇




 扉が閉まる音がして、数秒後…



 ボッと音が出そうなほど、体が一気に真っ赤になった。



 急に恥ずかしくなってきたのか、今日のことが何かの間違いかと思う。

 


(今日…佐伯くんとデ…デート…したんだよね…)



 厳密にはデートではないけど、心の中で思う分にはなんの問題もあるまい



 佐伯佑哉くんはクラスメートだ。私が緊張して長くは話すことができないので、接点はそこまで多くはない。多少は話す仲ってだけで、私が一方的に思いを寄せている、いわゆる好きな人だ。



 まさか水族館に誘われるとは思っていなくて、誘ってもらえるほど嫌われてるわけじゃないと知って安心していたのだけど、なんだかその時から私はおかしかった。



 今まで自分とはガラリと変わって、緊張しなくなった。なんだか男友達を相手にしているような気分。



(手…握ったよね…)



 手というよりかは手首だけど、と思いながら自分の右手をむすんで開いてする。


 今日の私は今までにないくらい大胆?だった。正確には好きな人としてみていないみたいな振る舞いだったような気もする…本当に人が変わったみたいだった。



(そもそも、1日佐伯くんは一緒だなんて…)



 さらにあつくなった顔を手で覆ってしゃがみ込む。



 もう少しだけ、噛み締める時間が欲しい。





「さおり〜?帰って来たんなら何か言いなさい?」



 台所からお母さんの声が聞こえる。ある程度回復したので、私はリビングに向かう。



「はーい!ただいま〜!」



 もしかしたら



「今日はどこ行ってたの?」



「水族館だよ!佐伯くんが誘ってくれたの」



「まあ」



 もしかしたら、佐伯くんを前にした時だけは緊張せずに話が出来るかもしれない。



 明日、学校で話しかけてみよう。今日のこともあるし、私ならできる気がする。



◆◆◆◇



 翌日、月曜日。



 僕は朝早くに起きて、朝食を食べる。


 今日からはまた普通の生活が始まる。また僕は真面目に戻る。


 昨日は一生に一度のわがままと言ったけど、もう一つわがままを言うなら、教室で東さんを眺める事だけは許して欲しかったりもする。東さんに嫌われていたら諦めよう。



 学校につき、校門をくぐり、教室に入る。



 教室に入ると声をかけられた。


「おっ…おはよう佐伯くん!」


「ん?ああ、おはよう東さん。」



まさかの東さんだった。いや、まあ昨日の今日なのだからおかしくはないのかな?とりあえず嫌われてはないらしいのはよかったけど、なんだか、少し罪悪感が刺さる。



「……………!」


「……?」


東さんは固まってしまった。えーと?



「じゃっ、じゃあまたね!」


「あ、うん。またね」



そそくさと言った感じで去っていく東さん。まあ、いいか。



それよりも



(やっぱり…)


(やっぱり…)





(東さんとはこれですっきり終われるだなんて、)


(佐伯くんと緊張せずに話せるなんて、)





((そんなうまい話は、ないんだろうなぁ…))




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― 新着の感想 ―
[良い点] 小気味いい話だった テンポもよく読みやすかった [一言] すごく文才があると思います 同じ感じの話をもっと読みたいです
[良い点] 佐伯くんの能力があればベタ惚れ状態にだってできたはずなのに、「別に了承しても構わないって程度で好かれてる」くらいの設定にする所が、根の真面目な部分が感じられて良かったです。 そしてその結果…
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