9話
昼食を二人で食べながら次の目的地について話していると、少女が近づいてくるのに気が付いた。通り過ぎるのではなく、まっすぐ俺の方へ来るのだ。
「お兄さん! 今の場所!」
「? 今の場所?」
「克志、その女の子は?」
対面に座っている華夜が首をかしげる。いや、誰と言われてもな......
「隠し子?」
「縁起でもないことを......」
「冗談」
「ねえ、お兄さん」
華夜に向けていた顔を少女に戻す。ちょうど座っている俺と同じくらいの背の高さ。茶髪をショートカットにしていて、ボーイッシュな印象だ。身長と雰囲気から察するに小学校高学年くらいだろうか?
「どうした、少女?」
俺が少女の方へ体を向けると、少女が頼みごとをしてくる。
「ねえ、あたしを緑村に連れて行ってよ!」
緑村。村という単語から想像できるだろうが、そこは自然に囲まれた集落。人口は100人ほどで主に農業を行って生計を立てている人たちが過ごしている場所。観光スポットというわけではないが、訪れたのなら足を運んだ方が良い場所がいくつかある。......なぜ俺がここまで詳しいかというと。それは、俺たちの目的地がそこだからだ。そして、今昼食を食べながら緑村について話していた。『今の場所』とは今話していた場所という意味なのだろう。
「君、お父さんかお母さんはどこにいるの?」
華夜がわざわざ席から立ち上がって、屈んで少女に目を合わせて微笑みながら尋ねる。
「緑村にいる! あたし遠出してたんだけど、バスで帰ることになったんだ! 早く帰りたいんだけど、バスだとちょっと時間かかっちゃうし!」
「俺に付いてきてもかかる時間は変わらないと思うが」
「ううん、絶対時間かかる! だって、絶対バスが道に迷うもん! 理由は知らないけど、絶対迷うんだ。あたしが道教えても運転手さん聞いてくれないし。それなら、ほかの人の車に乗ってあたしが案内した方が絶対良い!」
「ふむ」
オーパーツには認識阻害の能力がある。ただ、黒神社に向かった俺は問題なくたどり着けた。恐らくバスも問題なく緑村まで行くことができるだろう。
しかし。オーパーツにはわからない機能が多い。目的地に置いてあるオーパーツはそういった機能がある、と言われればそう理解できてしまう。なぜなら、オーパーツだからだというほかない。
「華夜、連れて行っても?」
「うん、いいよ」
恐らく似たようなことを考えていたのだろう。俺たちは少女を連れて行くことに決めた。
度胸のある女の子だなあ。