4話
「人間ごときが......! 粋がっているんじゃあない!!」
グオオオオ! という低く唸るような叫びに、ビリビリと体が震える。もちろん、内心ビクビクしている。脚だって震えているかもしれない。だが、立ち続ける。
絶対に渡さないという俺の意志を感じたのか、九尾がグッと四肢に力を籠める。
「そうか、ならば奪い取ることにしよう!」
そう言うや否や、襲い掛かって来る九尾。俺は歯を食いしばって、顔を防ぐように腕をクロスさせる。
「狛犬!」
華夜が短く叫ぶと、九尾の体に横からぶつかる影が二つ。
「グウ! 邪魔をするな!」
クロスさせていた腕を解くと、拝殿の横に構えていた石像が二つ、九尾を威嚇している姿があった。
「克志、オーパーツを起動して!」
華夜が俺に向かって叫ぶ。起動......そうだ、俺が流し見た資料に書いてあった。たしか、スイッチは外には存在しない。俺はスマートフォンを取り出し、バッテリーが内蔵されている辺りをキューブに押し当てる。すると、勝手にスマートフォンの液晶に白い背景と黒い文字が浮かび上がる。
『起動しますか? YES NO』
俺は迷わずYESをタップする。
「人間、起動をするな!」
「狛犬、時間を稼いで! 克志!」
『どちらのモードを起動しますか? メイン設定 兵器』
俺は兵器をタップする。気づくと、スマートフォンの充電が瞬きする間にも減っていっている。急がなくては。
『かしこまりました、少々お待ちください』
「急いで!」
「あとは待つだけだ!」
「クソ、犬風情が!」
九尾が繰り出す攻撃はすべて躱されている。石像でありながらあの身のこなしは流石神社を守っているものと言ったところか。
一方、キューブは既に形を変え始めていた。まずキューブが宙に浮き、6つの面が展開され、中にぎっしりと詰まっていた機械がブオオンというモーター音を鳴らす。そしてガチャガチャと音を立てながら造形されていき、出来上がったのは。
「日本刀、か?」
しなやかに反っている鈍色の刀身が煌めく。鞘は存在しないが、柄、鍔も存在している。
「なんで日本刀になったのかも後で教える。とりあえず、九尾を追い返して!」
「りょ、了解」
宙に浮いている日本刀の柄を握り、九尾に構える。狛犬もその場を離れ、華夜を守るように華夜の足元で待機している。
睨み合いの状況で、九尾が呟くように尋ねてくる。
「......起動、してしまったか。人間、貴様の目的はなんだ?」
「それはこれから決める。とりあえず、お前がいるとそれが決められない。さあ、帰ってくれ」
「......その曖昧さ。腹立たしいが、いいだろう。ただし、少しばかりオーパーツの力を見せてもらおうか!」
一直線に向かってくる九尾。喰らったらまずい、まずいはずなのに。
「克志!」
俺は、その場で刀を構えていた。見える、気がする。ある程度の距離を2,3秒の間に詰めてくる九尾。だが、スピードはあれど、九尾は一直線に向かってくるだけだ。俺はすべてがやけにスローに感じられる。そして、
「喰らえ、九尾!」
俺は叫びながら刀を振り下ろす。九尾は刀に向かって9本の尻尾を伸ばしてくる。恐らく、刀を止めてから俺を攻撃しようということだろう。だが、今それに気づいてもどうしようもない、俺はとにかく全力で刀を振り下ろす。
結果は、圧倒的だった。圧倒的にーーー
「ガハッ......これが、オーパー、ツ、か」
俺の、いや、オーパーツの勝利だ。日本刀はすべての尻尾を斬り、九尾の首元を浅くだが斬った。その間に俺の腕に何かが引っかかるような感覚はなかった。まるで豆腐のようにすべてが斬れていった。
首元の美しい白色の毛を赤く染めながら俺に背を向ける九尾。
「......人間。お前がそれをどうするつもりか分からんが。もう、後戻りはできないということだけ肝に銘じておけ。我も今回は余計なことをしてしまったしな......それでは、また会おう」
ふわりと、まるで羽ばたいたのかのように軽やかな動きで森へ姿を消す九尾。負傷しているとは思えない動きだ。それに、恐らくだが、九尾は斬られるときに体をのけ反らせた。だから傷が浅かった。もし動かなかったら首が飛んでいただろう。
「あれが、幻獣か」
純粋な力、反応速度、そして年齢という経験値。恐ろしい。ただ、敵意はあっても殺意はなかったようだ。
やっぱり幻獣怖い。
※1年間ありがとうございました。今年一年はほとんど活動しませんでしたが。。。来年からは頑張りますので応援お願いします。