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7.蘭菜の考察

アルがまともに働けるのか心配な有栖は視線でその姿を追うが。

 現在、私はレジに座りながら参考書を開いている。

 勉強できる時間は勉強だ。

 

 ちらっと女性誌コーナーの方に目を向ける。

 蘭菜がアルに本棚の整理とはたきがけを教えている。


「な、何よ、普通に仕事できるんじゃない……」


 どうして私の教えたことは覚えられないの? 教え方が悪いの?

 私、将来の夢大丈夫?


 そう、私の将来の夢は教師なのだ。


「今度は子供向け本コーナーかな?」


 アルの動きを目で追う。


「恋する乙女の目してるねぇ」


 いつの間にか近くに来ていた蘭菜にとんでもないことを言われる。


「してないから」

「そうかいそうかい。 彼、結構物覚え良いじゃん? 即戦力だね」

「おかしいなぁ、私が教えたことはすぐ忘れるのよ?」

「なんでだろね?」


 と、アルの方を見ると何やら騒いでいた。


「この本、魔物図鑑か! この世界の魔物が網羅されてやがる!」


 ただの動物図鑑なんだろうなぁ。


「面白いねアル君」

「結構鬱陶しくなってくるわよ」


 およそ2日ですでに疲れてきたもの。


「なんなら、アル君をうちで預かろうか? 部屋もあるから問題ないよ? 有栖、自分の生活費だけでも一杯一杯でしょ?」

 

 アルを蘭菜の家に預ける……。

 

『アルお兄ちゃん! この本に描いてあるみたいなことしよ?』

『蘭菜……』


 もやもや……。


「う、うちのアパートでも、べ、別に大丈夫だけど?」

「ありゃそうかい? ふふーん、素直じゃないねぇ有栖も」

「だからぁ! 出会って間もない男になんて! 大体、私は恋愛とかしてる暇無いの!」

「寂しい青春だねぇ」

「ぐっ」


 そんなこと言われたって仕方ないじゃない。

 教師は私の小さい頃からの夢なんだから。


「蘭菜、この本はどうするんだ?」

「あ、それ今週のオススメだからレジ前の棚に置いてくれる」

「レジってなんだー?」

「あー、これこれ、有栖の前にあるやつがレジね」


 と、レジスターを指差して説明している。

 私の説明と大差ないのになぁ。

 自信無くすなぁ。


「そのうちレジの方も覚えてもらうからねー」

「お、おう、良く分からんけど任せろ」

「何か馴染んじゃってるけど、元の世界はいいの?」


 アリスさんや妹の事心配じゃないのかしら。


「もちろん一刻も早く戻りてぇけど、どうしようもないんだろ?」

「そう、なんだけど」

「難しいねぇ。 アル君、こっちの世界に来る前に天界とかで女神さまに『あなたは死にました』とか説明されたって言う記憶はないかな?」

「ねぇな、目が覚めたら有栖の部屋だった」


 ということは、転生じゃなくて転移の可能性が高くなったわけだ。

 転移ならなにかしら帰る方法があるかもしれない。


「昨日、あれから何冊か転移ものの本を読んでみたんだけどね、元の世界に戻った作品の中ではやっぱり、異世界で何かしら大きなことを成し遂げて、何でも願いを叶えてもらえる事になって元の世界に帰してほしいと願ったり、使命を果たした瞬間に勝手に戻ったりって感じだったかな」


「この世界でそれに当たる事ってなんだろ? 魔王もいなければ大きな災厄も特に無いし」

「魔王も災厄も無い世界か。 ちょっと前まではヴィエラザードもそうだったんだがな……」

「でもさ、そういう作品の主人公って、大抵は必要とされてその世界に召喚されたりとかされてるんだよね。 アル君はそうじゃないでしょ?」

「あぁ、変な魔法を喰らったんだ。 それしか覚えてないが……って、おい、2人とも下がってろ」

「はにゃ?」

「あー、また始まった、今度は何?」

「ポイズンローチだ、この世界のは小型みたいだが毒があるから気を付けろ!」


 何よポイズンなんちゃらって……。

 私は、アルの視線の先に私の足下付近に目を向けた。

 

 カサカサカサ……


「ひっ?! ゴゴゴゴキー!?」


 私はこいつが大の苦手だ。 いや得意な人なんて特殊な人ぐらいだ!


「うお?! 有栖! 離せ! 落ち着け! 奴を倒さないと!」


 私はもうそれどころではない。 とにかくアルにしがみついてブルブル震えることしか出来ない。

 やだやだやだ、なんであんなのがいるのよもう! この世界にも魔物いたじゃなーい!


「くそ、ここまでか! せめて有栖だけでも!」


 プシュゥゥゥゥ……


 ピクピク……チーン……


「はいおしまい。 有栖、もう大丈夫……だけど、もうちょいそうしとく?」


 アルに抱き着いて離れない私を見てにやにやしながら見ている。

 私は慌ててアルから離れて距離を取る。


「……」

「どしたの赤くなっちゃって?」

「うっさーい!」

「す、すげぇ!! 蘭菜! 何だ今の魔法! ラーナでもそんな強力な魔法使えねーぞ!」

「むふふ! これはこの世界にだけ存在する幻の魔法なのだよアル君」


 ややこしくなるからやめてよ蘭菜。


「うおおおお! 教えてくれ!」

「簡単さぁ! この缶のこの部分を指で引くだけ! これをポイズンローチなどの虫系の魔物に向けて放てばたいてい一撃さ!」

「虫系の魔物に特攻があるのか! やべぇ!なんて魔法だ!!」


 あー、やっぱ蘭菜の家に預けようかしら……。


「この魔法の名前は殺虫スプレーという!」

「サッチュウスプレー!!」

「この缶が無いと使えないから要注意だよ」

「なるほど! 触媒なのか!」


 もうどうにでもなれー!



 しばらくこのわけのわからないやり取りが続いていたがようやく落ち着いて、元の話題に戻ってきた。


「変な魔法喰らったんだよね?」


 私はレジで客の対応をしながら片手間で話を聞く。


「あぁ」

「うむ、私の勘だと、その魔法そのものが異世界に飛ばすような効果の魔法だったんじゃないかと思うんだよね」

「そんな魔法があるなんて聞いたことはないが……まあ、無いとは言い切れないな」

「つまり、私の推測ではアル君は何かの使命があってこの世界に飛ばされてきたわけじゃないんじゃないかと思う」


 蘭菜のやつ、なんだかんだ言って色々調べたり考えたりしてくれてるんだ。


「つまるところ、帰る方法がさっぱりわかんないわけ」

「……」

「げ、元気出しなよアル? 私協力するからさ?」

「あぁ……」


 とは言ったものの、魔法も使えない、異世界の知識もない私にして上げられることって何があるだろう?

 






意外と息の合う蘭菜とアル。

有栖がアルの為に出来る事は?

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