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5.転生? 転移?

異世界青年アルを拾った翌日。

アルをアパートの部屋に置いて学校へ行った有栖だが?

 アルを家に置いて学校へやって来たわけだけど、やっぱり心配だ。

 とは言え、今日の放課後もしっかりバイトを入れてあるから、帰るのはどう考えても19時ぐらいだ。


「大丈夫かなー? 変なことしてなきゃいいけどなー」


 割と利口な人っぽいけど、不安は不安だ。


「どうしたの有栖? ソワソワしちゃって?」


 と、不安に駆られていると、蘭菜が心配して声を掛けてくれた。


 そうだ、蘭菜に相談するんだった。


「ちょうど良かった蘭菜に異世界転移の事で訊きたいんだけどさ」

「はにゃ? ラノベに目覚めたか同志有栖よ。 聞こうではないか」


 なんかよくわかんないキャラになりきってるけど無視しよう。


「実はね──」




「と、いうわけなんだけど」


 昨日のバイトが終わった後の事を全て打ち明けた。

 すると、蘭菜はバカにするどころか、目を輝かせて質問攻めしてきた。

 

 どんな人なのか、どんな世界から来たのか、魔法が使えたりするのか等々。

 私は知りうる限りの情報を提供した。


「うーん、ヴィエラザードにアル・クロスナーねぇ。 そんな設定のラノベは無かったかな?」

「そっかー」


 本の世界からやって来たって線は薄いということかしら。

 ふしぎ何とかじゃないんだから……。


「それでさ、彼を元の世界に帰してあげたいんだけど、何かラノベでそういうの参考になったりするの無い?」


 現実に起きてしまっている異世界転移? 転生? と本の内容ではわけが違うとは思うけど、少しでも手掛かりが欲しい。


「んにゃー、難しいねー。 まず、その彼が転生者なのか転移者なのかだけどさ」


 私はその、転生とか転移をよく理解していない。


「転移ってのは、何かの原因や、使命があって別世界へ飛ばされる感じね。 んで、転生だけど……」


 文字通りならそれは……。


「自分の世界で死んじゃって、別世界で生まれ変わるみたいな感じ。 つまり、元の世界では死んじゃってるから……」

「戻れない?」

「そういうこと。 話によれば、変な魔法が直撃したらしいじゃない?」


 確かにそう言っていた。

 暗黒司祭とかいう悪い人の、見た事もない魔法に当たったと。

 もしかして、アルは元の世界で死んで……。


「まあ、まだわからないけどね。 でも、転移の方だとしても戻る方法ってなかなか手掛かり無いよー?」

「そうなの? そういう作品って最後は元の世界に戻ったりするんじゃないの?」


 私はてっきりそういうものだとばかり。

 昔見たアニメとかも、別の世界に飛ばされた主人公が、悪い奴をやっつけて最後は元の世界に戻る、みたいのが多かったような?


「昔は確かにそういう感じだったみたいだけど、今の異世界転移モノって、転移した本人が全く元の世界に未練とかなくて、いきなり異世界に馴染んじゃうのよ」

「な、何それ……」


 フィクションとは分かっていても、それはちょっとどうなのよ。


「挙句、チート能力に物言わせてやりたい放題やるし、かと思えば何の能力も無い主人公が平々凡々と異世界生活を楽しんでたり」


 私、ラノベってよくわかんないなぁ。


「つまり、最近の異世界転移モノ主人公は、元の世界に帰ろうとする気すらないのよ」

「手掛かりもなにもあったもんじゃないわね」


 うーん、アルは1秒でも早く帰りたいと思ってるはずよね。

 片思いの女性を置いて来ちゃってんだから。


「有栖ぅ、やけにそのアルって人に肩入れするねぇ? 惚れたかー?」


 蘭菜がにやにやしながらとんでもない事を言い放った。


「バッ、バカ! そんなわけないでしょ!? き、昨日会ったばかりの男性になんて! そ、それにアルには好きな人が……」

「そっくりなんでしょー? 有栖にぃ?」

「と、とにかく、惚れてなんかないから!」


 確かにイケメンだったけど、決して惚れたりとかそういうのでは無い……はず。


「異世界モノの中では、異世界で仲良くなったヒロインと結ばれるなんてのもあるよん?」

「無いからー!」




 放課後のバイトをしっかりこなして家へ帰る。

 ついでに、蘭菜のお兄さんから要らなくなった服をいくつか貰えたので、アルにはこれを着てもらおう。

 さすがにあんな目立つ格好で、外は出歩かせたくない。


 明日は学校は休みだが、1日バイトだ。

 蘭菜から、明日はアルを連れてこいと言われたので、仕方なくOKした。

 私としても、目の届くとこにいた方が安心するし。


「アル、大丈夫かな?」


 私は部屋の鍵を開けて中に入る。


 電気を点けて……。


「ただいま」


 ただいまなんて久しぶりに言ったわ!


「おう、ちょっといいか?」


 何か急に怖い雰囲気出してどうしちゃったんだろう?


「ただいまの返事は、おかえりなさいだよアル」

「お、おかえりなさい?」

「はい、よく出来ました」

「そんなことより、訊きたい事があるんだが」


 まあ、彼からしたら訊きたい事だらけでしょうけどね。


「このテレビっつうアイテムは何だ? 使ったら中に魔物がうじゃうじゃいたぞ」


 ……は? 魔物?


「この世界には魔物なんていないって教えたでしょ?」


 そう言って私は、テレビのリモコンを手に取り電源を入れた。

 それを見たアルは、大きく飛び退き、剣の柄に手を掛けて身構える。

 お、面白いっ!


「有栖、下がれ、ジャイアント・ビーの群れに襲わ……れ……」


 ジャイアントなんちゃらは良く知らないけど、画面に映っているのは、バラエティ番組だ。


「何だと……一体どうなってやがる! 昼は確かにこの中にジャイアント・ビーの群れが」


 私は番組欄を確認する

 何々、「この夏、オオスズメバチの被害者増!」


「これか……」


 私は、テレビがどういう物なのかを簡単に説明する。

 

「ふうむ、有栖の世界は便利なアイテムが一杯あるんだな」

「本当、便利な世の中になったものね。 あ、そうだ。 明日からこの服を着回してね? こっちの世界ではこういう服装が一般的なの」


 私は紙袋から服を出して渡す。


「防御力の低そうな防具だな。 こんな装備じゃ、グリズリーに撫でられただけで死んじまうぜ?」


 グリズリーって何よ……。


「居ませんから」

「そうか、平和な世界だから、こんなんでも良いのか」

「あと、明日は朝から外に出るわよ」

「俺も出撃していいのか!!」


 出撃って……。

 

 今日話してみて少し分かった事がある。

 この人、利口だと思ったけど案外バカだ。

 

 今も「腕が鳴るぜ!」とか「この世界にはどんな魔物がいやがるんだ!」とか意味不明な事ばかり言ってる。

 しかも、魔物はいないって何度も教えてるのに。

 

 うん、確信した。

 

 アルはバカだ。


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