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4.自己紹介

 異世界からやって来たらしい青年を部屋に運んだその翌日。

 私が目を覚ますと彼は、剣を抱えて壁にもたれかかり眠っていた。

 

 何かで見たことがある。 その姿勢は、眠っている時に何かに襲われたりした際、すぐに剣を抜いて臨戦態勢を取るためのものだと。

 彼はそういう世界で生きてきた人なんだ。


 私は彼を起こさない様にそっと起き上がり、朝食の卵焼きを作るためにガスコンロに火を点けた。

 その時、背後に人の気配を感じて、一瞬ビクッとなった。


「お、悪ぃ。 驚かせるつもりは無かったんだ」

「い、いえ。 あの、起こしてしまいました?」


 なるべくゆっくり起きたつもりだったんだけど。


「いや、癖でな……そんなに深くは眠ってなかったんだ。 物が動く気配にも敏感だしな」


 深い眠りに就く、それは命の危険をさらすことに繋がる。

 そういう世界なんだ……。


「それよりよ、この世界には魔法は無いんじゃないのか?」

「はい、ありませんよ」

「じゃあよ、それはなんだ?」


 彼はガスコンロに点いた火を指差して訊ねてきた。

 えぇ…。 彼の世界では料理をする時も魔法で火を出していたんだろうか?


「これはですね、ガスコンロっていうものなんです。 これをこうやって捻ると……」


 カチッ……ボッ!


「何ぃっ! 火が出やがっただと!?」


 私からすれば掌から炎が出る人間がいる方が驚きだ。


「マジックアイテムの一種か?」

「だから、この世界には魔法はないんですってば」

「そ、そうだったな」

「この世界の道具は魔法の力じゃなくて、科学や化学の力で動いてるんです」


 と言っても、彼には理解できないかもしれないけど。

 案の定「カガクってなんだ?」と、首を捻っている。


 


 私は2人分の朝食を作り終え、小さなテーブルの上に並べる。


「どうぞ、召し上がれ」

「おお、すまねぇな。 腹が減ってたんだ」


 かく言う私もである。 昨日彼を拾った所為で夕飯を食べ損ねている。

 しかし、誰かと食卓を囲むのなんて久しぶりだ。

 ふふ、なんだか楽しい。


「うめぇ!」

「そうですか?」

「ああ、この世界の食い物はこんな美味いのか」

「貴方の世界ではどんな物を食べていたんですか?」

「あー、旅の途中とかで宿に泊まれない事の方が多かったからな。 基本的にはその辺の獣の肉とか魔物の肉焼いて食ってたぜ? 美味くはねーけどな」


 でしょうねぇ。 私なら3日で餓死できる自信あるわ。

 ただの卵焼きを美味しそうに頬張る姿はとても、微笑ましく見える。


 そう言えば今まで特に疑問に思わなかったけど、異世界人と言葉が通じてるのはどういう原理だろう?

 普通に考えて不思議なことだ。

 同じ世界にだっていくつもの言語が存在してるのに……。


「美味かったよ、ありがとうな。 え-っと……」


 あ、そう言えばまだお互いの自己紹介とかしてなかったわ!

 お互いの世界については少しだけ話したのに。

 聞いたのは、彼の片思いしてる人が、私の容姿とそっくりらしいということだけ。


「私は柊有栖(ひいらぎありす)。 有栖って呼んでください。 その方が呼びやすいでしょう?」

「お前も『アリス』なのか」

「偶然って凄いですね」

「そうだな。 俺はアル・クロスナー。 皆からアルって呼ばれてたからそう呼んでくれ」


 やっぱりファンタジックな名前なんだ。

 これで名前が田中太郎とかだったらどうしようかと思ったわ。


「アルさん、ですね」

「呼び捨てで良い。 それと、そのですます口調もやめてくれていい」


 どうやらアリスさんはアルと砕けた感じで話していたらしい。


「わかった。 これから、元の世界に帰る方法が見つかるまではよろしくね、アル」

「よろしく」

「さて……」


 私は、学校へ行くために準備をする。 制服に着替える間は後ろを見ていてもらうことで対応した。

 

「私、これから学校に行かなきゃいけないんだけど、アルは1人で大丈夫?」

「学校か、この世界にもあるんだな。 1人で大丈夫だ、気にせず行って来い」


 私は軽く注意事項と家電の使い方、おなかが空いた時のカップめんの作り方を教えて家を出た。

 少し心配だけど大丈夫だろう。

 右も左もわからないこの世界で無茶なことはしないはず。




「ふむ、有栖が戻ってくるまで外には絶対に出ない事か……仕方ねぇな。 右も左もわからん世界だ。 大人しくしてるか」


 他にも来客があっても出ない事だの、大きな声を出さない事だの色々忠告して行ったな。

 今は頼れるのは有栖だけだし、言うことは聞いておくに越したことはねぇ。


「テレビだったか?」


 俺はその四角い箱の前に腰を下ろした。

 確かこのスイッチを押せば使えるんだったな。


 スイッチを押すと箱の中に何やら姿が浮かび上がってきた。


「何ぃ! この世界には魔物はいないんじゃなかったのか!」

 

 箱の中にはジャイアントビーがいた。


「一体どうなってやがる!」


 俺は慌ててスイッチを押してテレビを止めた。

 すると、箱の中のジャイアントビーも消えてしまった。


「な、何なんだこのアイテムは……」


 この世界には魔物はいない。 有栖は嘘をついているのか?

 帰ってきたら問いたださないといけないな。




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