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日常の文学シリーズ

スローライフ・イン・ラージハウス

日常の文学シリーズ13(なろうラジオ大賞 投稿作品)

 部屋の机には、先ほど食べたコンビニ弁当のガラをまとめたビニール袋が置いてある。しばらく料理はしてない。キッチンは一階にあるが、もうずっと使っていない。


 机には常温になったお茶もあった。飲食物はコンビニやスーパーで必要な時に必要な分だけ買っている。冷蔵庫はリビングにあるが、もうずっと使っていない。


 床には明日着るワイシャツや下着がたたまれている。先ほどコインランドリーで洗濯してきたものだ。洗濯機は二階のベランダにあるが、もうずっと使っていない。


 大きなこの家の中で、男がこの部屋しか使わない生活を始めてしばらく経つ。案外生活できるものだ。ゴミ出しもきちんとしている。風呂は銭湯を利用していて身体も清潔だ。会社にも毎日行っている。給料は高くないが、別に金を使う趣味もないから生活費にも困っていない。何一つ不自由ない生活だ。


 この家一人で使うようになった当初は、冷蔵庫に食材を入れ、キッチンで料理をし、リビングで食べていた。洗濯機で洗濯もしていたし、家の風呂にも入っていた。


 しかし、いくつも使わない部屋があった。かつての男の家族たちのための部屋だ。使われない部屋には彼らの生活の記憶の残滓がうっすら残っていて、その上に孤独が降り積もっていた。男はすべての部屋を念入りに掃除した。かつての生活が消えないように、記憶が孤独で埋まらないように。


 すべての部屋の掃除には時間がかかり、仕事にも行けない日々が続いた。でも、いくら掃除しても孤独は次々降ってきた。記憶はどんどん埋もれて薄まった。男は、眠る間にも部屋に孤独が積もることを恐れた。夜中に飛び起きて掃除しに行ったこともあった。


 だがある日、男はあきらめた。降り積もる孤独に勝てない事を悟った。男は掃除をやめ、今自分に必要なものだけを考えることにした。誰も使わない寝室はいらない。みんなで使うリビングはいらない。大きい冷蔵庫も洗濯機もいらない。徐々に生活圏は縮小していき、最後は自分の部屋だけを使うようになった。それだけで精一杯だった。


 それでも夜になると、空っぽの部屋が頭に浮かんだ。気をそらすためにパソコンをつけたまま眠るようになった。ヘッドフォンなしでは眠れなくなった。男はそうやって何とか毎夜をやりすごしている。


そんな男の大きな家の前を偶然通った家族がこういった。

「大きな家でうらやましいわ」

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