第九話:水浴びと氷塊
――ゼルエルとツァフキエルの攻撃に押されケッティの判断で撤退した。
現在のここは……
この少し前に嗅いだことのある木の香り――
それに低い天井に丸みのある木の壁――
プロエレフシの森にある森の守護樹、アラディアの家だ。
<シャドー・ムーブ>での影移動でどうにか離脱して逃れる事ができた。
ケッティの傍らにはルシファー、ディオニュソスと、今は息をしていないアラディア――。
「くそっ! ――もう少しで……」
「流星矢、危なかったのニャ…………ハァハァ」
「だがっ……」
「――それは傲慢と言うものニャ……」
ケッティは<ダークネス・ドッペル>による闇の分身と、<シャドー・ムーブ>での影移動で魔素を使い果たし、人の姿ではあるがグッタリしている。
「――う、う……………………ん……」
「目が覚めたわね――」
「私は…………」
――ディオニュソスが目を覚ました。
「港町シパリラでの魔女裁判で死刑を言い渡され、そこにアラディアが助けに入ったのニャ……」
「ケット・シー様?」
「…………」
「あれは夢ではなかったのですね――それで師匠は?」
「…………」
「…………」
「そんな師匠…………ウッ、ウワーーーン」
横たわるアラディアを見つけ、ディオニュソスは泣き崩れてしまった。
「ご主人様……」
「アラディアの事はまだ諦めないわっ」
「私のせいで師匠が……」
「悲しいのは自分だけじゃないのっ!
あの子は私の娘――泣いていても何も変わらないわ……」
「娘……?」
「私は先を見据え蘇生の可能性に賭け、凍結し時間の外でその時を待たせようかと思うわ。
――でも、今のままでは一人で行う事は不可能なの」
「時間凍結!? そんな魔法は聞いた事がありませんが……」
「氷の霊素で凍結させ、影の空間に留める事で時間の概念から切り離すわ。
これにはケッティとアラディアの力も借りたいと思っているの、頼めるかしら?」
「出来る事なら何だって!」
「ウチもご主人様が戻るなら何でもするのニャ!
でもその前に――三人とも酷い格好なのニャ。
自分達を綺麗にしてから――落ち着いてやる方がいいと思うニャ」
血だらけで着ている物もボロボロなディオニュソスをはじめ三人とも埃だらけで汚い。
「裏にある滝に行くニャ?」
「そうだね」
「ディオニュソス動けるかニャ?」
「ええ、傷口は塞がってるみたい――ケット・シー様達が治してくれたのですか?」
「ご主人様が鎖を斬り、ルシファーが抱えて広場から離れ、回復魔法を掛けたのニャ」
「そうですか…………ありがとう」
――三人は家を出て数分と経たない場所に来ている。
岩肌に樹木が張り付き、枝と枝の間から白糸のように川水が流れ落ち滝となっている。
ケッティは人の姿で素早く身に纏っていた物を脱いでいき水の中に飛び込んだ。
「ひぇっ、ちびたいニャァ」
長い黒髪が美しく体型だけ見ればスレンダーな大人なのだが行動は伴っていない。
続いて私も戦闘鎧を外して行き、堂々と裸体をさらけ出す。
「身長が変わってなかったから気が付かなかったけど、また胸が大きくなってるニャ……
黒い靄が乳袋にまた吸収されて膨れたのかニャ……」
「たしかに盛り上がりが増してズシッと重くなった気はするわね」
腕を組んで大きくなった乳袋持ち上げて見せる。
「不公平ニャ…………」
スレンダーではあるが、ケッティのそれは言い換えれば胸など平らで凹凸に乏しい。
――猫の姿ではデブなのに、人型でも残念な感じだ。
一方ディオニュソスの方も服を脱いでいた。
奴隷服から解放されると豊かな胸が揺れ、しなやかな肢体が露わになる。
だが、傷口は塞がっていても痣が数か所残り、血まみれでいて痛々しい。
「まだ痛そうニャ」
「見た目程痛みはないです。これも回復してくれたルシファーさんに感謝ですね」
言い終えると恐る恐る水に足を浸けていく。
体を水に沈めたが胸だけが浮いている。
私のそれと共に正に乳袋と言った状態。
ケッティは右、左と見比べ、より一層深い溜め息をついた……。
「そろそろ戻るか」
水から上がり魔素操作で<縮崩収納庫>に入れたアザゼルの衣装箱を物色し、タオルと着替えを取り出す。
ケッティの服は自分の魔素で作っているようだから問題ないが、ディオニュソスの着替えはどうするか――
とりあえず蒼いフロントボタンのシャツワンピースを出してみた。
「着替えここに置いておくわね、合わないようなら言ってちょうだい」
「ありがとう可愛い色ですね」
ディオニュソスは早速着ると長袖を捲り、腰紐を縛る。
着丈も足首が見える程度で似合っていると思える。
◇◆◇◆
――家へと帰りアラディアの前に三人で立った。
「ケッティは影への扉を開いて、ディオニュソスは魔素を私にお願いね」
「了解ニャ」
「ハイ」
「では始めるわよ……」
ディオニュソスの手から背中に大きな魔素が流れて来るのを感じる。
そして、妻のルーナと過ごした日々や、ケッティに始めてここに連れて来られた時の事を思い出し詠唱した。
「氷の霊素よ、我が身に宿れ、<アイシー・パーマフロスト>」
水晶のような輝きを放ち、不純物がなく中の様子が見て取れる。
大きな氷塊が出来上がりアラディアが包まれた。
ケッティがその下の影を操りゆっくりと中へ沈め消えて行く。
「またね――アラディア…………」




