第八話:執行阻碍
――港町シパリラの花崗岩が敷かれた広場中央。
アラディアは倒れ、私は咆哮し、黒い靄が覆っていった。
足元にはディオニュソスが寝かされており、ケッティは人の姿でアラディアを抱きしめたまま空を見上げた。
少し離れたところで起き上がった兵士達も空を見て沸いている。
「天使様が来てくれたぞ!」
「偉大なるお方に感謝を!」
「不味いですなのニャ――熾天使が来るなんて」
灰色の雲が割れ、眩い光と共に現われたのは三対六枚の翼を持つ熾天使。
後ろには天使を二体従える。
私も元熾天使だが、今の姿になってしまって昔の三割程しか力が出せていない。
――空から現れた三体と対峙するには分が悪すぎる。
「あぁ……何て事だ魔女風情が…………創世主様と我ら天使に逆らうとは……」
「まったく人間どもが使えないからこんなところまで呼ばれて面倒臭~い」
熾天使の名は審判の天使セラフィエル。
彼女の実力は四大天使に次ぎ、全天使の中で最も大きく三メートル近い巨体に稲妻を纏い、業を浄化すべく雷光槍ヴァジュラを片手に輝いている。
「お前たちに任せる。早く始末しろ」
「「ハイ、セラフィエル様!」」
「ア゛アアァァァ…………ハァハァ……」
私を覆っていった黒い靄は体に吸収された。
頭をガクッと下がり、この時は無意識の状態で動けない。
――――次の瞬間。
黒い靄が再び噴き出し三対六枚の翼になったかと思うと、すぐに六本の剣へと姿を変え翼のあった位置に据えられた。
「私は天使が憎い、創世主はそれ以上に憎い…………」
「足掻くなよ……念には念を入れ磨り潰してやるっ」
「気は乗らないですが――ゼルエル、瞬殺してさっさと帰りましょうぉ」
「俺が殺る。ツァフキエル、お前はそこで見ていろっ」
「わ~い、ラッキー」
ゼルエルと呼ばれた天使の一体が動き私達に大剣が迫る!!
――――だが、その攻撃は届かなかった。
ガガガガガガーーーッン!
六本の漆黒剣が舞い大剣の前に立ち塞がる。
私は動いていない。
「あちゃぁ……はじまってしまったニャ」
「ふはぁぁぁ……」
口から大きく息を吐いた。
「お前達――――私の感情の捌け口となるがよいわっ!」
右手を振り上げると低く派手な音を立て漆黒剣が大剣跳ね上げた。
腰から<死せる戦士の剣>を抜刀し紫色の輝き見せる。
漆黒剣達は背面の翼を広げたかのような位置に移動した。
「行くわよ! 覚悟しておきなさい」
「それはこっちの台詞だっ! 剣が沢山あるからって調子に乗るなよっ!」
――先に動いたのは私だ。
足払いし体勢を崩したところに上段から<死せる戦士の剣>を振り下ろす。
大剣を引き寄せガードし後方に跳ね起きるゼルエル。
間、髪を入れずに<死せる戦士の剣>で突きを放つ。
それと連鎖するかの如く漆黒剣が両側面から同時強襲。
突きはガードされたが、漆黒剣はゼルエルに肉薄――――。
ガガガンッ!!
「あはっ! あっぶな~い」
「余計な事を……」
宙を舞う漆黒剣は、もう一人の天使ツァフキエルの矢により迎撃されたのだ。
パワーのゼルエル。
スピードのツァフキエル。
――――敵ながらよいコンビネーションだ。
ゼルエルだけなら私の方が押しているが、ツァフキエルも加わると力のバランスは少しむこうに傾く。
それに、熾天使たるセラフィエルは動かずまだ静観している。
ツァフキエルを何とかしなくてはと思いつつゼルエルに攻勢をかける。
打ち合うたびに大剣を少しずつ腐食していた。
どうやら<死せる戦士の剣>が放つ特殊効果のようだ。
ゼルエルを追いつめれている。
そう思った矢先、ツァフキエルの矢で左踵を撃ち抜かれてしまった――――。
「不味いわ――機動力が――――」
「どうやらここまでのようだなっ」
「大口叩いてた割に呆気なかったわねぇ」
あちこち腐食している大剣が振り上げられた。
………………しかし
攻防の陰でケッティは闇の魔素を練っていた。
――<ダークネス・ドッペル>
その効果によって闇の分身体が三体作り出された。
――分身体の一体が大剣を受ける。
――分身体の一体が私を引き摺り寄せる。
「ここは撤退するのニャ!」
「くっ…………」
「逃がさないよぉ~! 流星矢」
炎を纏った無数の矢が頭上より降り注ぐ。
――分身体の一体が庇う様に前に立ち影が波打った。
――<シャドー・ムーブ>
ケッティにより私、アラディア、ディオニュソスは影の中に引き込まれた。
「マジ!?」
ゼルエルとツァフキエルが影に手を伸ばそうとするが遅かった。
「ウザっ! ウザ過ぎるからっ!」
「…………」
戦いを見ていたセラフィエルからのプレッシャーが跳ね上がった。
「コレもしかして……ヤバイかも…………?」
「黙れっ」
背中に”ゴゴゴゴゴゴゴ”とか書いてありそうである。
「まさか全てに逃げられるとは、ゼルエル、ツァフキエル、戻ってから覚悟しておけ」
「えぇぇぇぇ…………」




