第六話:ケット・シーの過去
――崖の谷間の街アテゴラから港街シパリラに向けて旅立った。
街からしばらく進むと樹木の緑が減っていき、乾燥した地面に岩や石が転がり、雑草が疎らに見える程度の荒野へと変わった。そんな荒野がどこまでも続く…………。
人影はないが遠目に何頭かの動物が居るようだ。
「暑いですニャ……」
「確かに暑いわね……少し休憩しましょうか」
「この日差しは辛いのニャ…………日陰が欲しいですニャ」
「しょうがないデブ猫ね、ちょっと待ってなさい」
「そんな事言われても闇属性には――――ニャァ」
背中の翼さえあればアッと言う間に着く、何て事ないはずの道程だが歩きだと遠い。
無理をする意味も薄いので遮蔽物を作り休憩しよう。
「土の霊素よ、我が身に宿れ、<アース・ウォール>
水の霊素よ、我が身に宿れ、<ウォーター・ソース>」
詠唱と同時に地面に右手をつき、土で「く」の字の壁と屋根を作り日陰にする。
そして、土が減って沈んだ部分から水を出し水溜りにした。
「少し早いけど昼飯にしましょう」
「この暑さであまり食欲ないけど食べないと倒れちゃうニャァ」
「まぁ軽く干し肉程度にしておくわね」
ブーツを脱いで水溜りに足を浸け、<縮崩収納庫>から干し肉と水筒を取り出す。
腰を下ろして休もうとした時だ――
遠目に見えていた動物が別の動物に追われているのが分かった。
生存競争なのだから手を出さない方がいいのは分かっているが、どうにかしてやりたい気持ちにかられ<アース・ウォール>で助けてしまった。
無事に逃げたのを確認し休んでいるとしばらくして、淡灰褐色の毛衣で額から鼻にかけてと、四肢下部及び尻尾に黒斑紋が見て取れ、直線的で長めな角を持ったゲムズボックが1匹――足を引きずって近づいてきた。
隣まで来ると体長はなかなか大きい。
牛の仲間だが鹿や馬に近く、良く見ると後ろ足から血がでている。
先程追われている時に負ったのか……
「ニャニャァ~ニャニャニャニャァァ」
デブ猫がゲムズボックに話しかけているが、ゲムズボックは静かに頭をコクッと下げた。
――何を話しているのか気になって見ていると、どうやら交渉していたようだ。
「この子、群れの他の子は駄目だったけど自分助かった、ありがとうって言ってるニャ。
お礼に背中を貸してくれるそうなのニャ――――でも今は足が――って」
「風の霊素よ、我が身に宿れ、<エアリアル・ヒール>」
デブ猫の話を途中に、ゲムズボックを優しい微風のような魔法で癒してやる。
嬉しそうに頭をスリスリさせてきた。
――なかなか可愛いヤツね。
休憩を終え早速ゲムズボックの背を借りたが馬などに乗った事がない。
デブ猫を前に抱え代わりに言葉で指示してもらう。
鞍なんて物も持ち合わせてなかったので魔法で衝撃吸収させたが快適だ。
旅は順調に進み、この調子なら港街シパリラに明日着くかもしれない。
日も暮れ水場があったので、とりあえずは今日はここで野営しよう。
土魔法の<アース・ウォール>で簡易的な土の壁と屋根だけの小屋は作ったが、少し湿り気のある冷たい風が抜けていくのでデブ猫とゲムズボックと一緒に寄り添いあう。
さて夕食は何にしようかしら……
まずは近場にある枯れ枝を集め焚き火を起こし<縮崩収納庫>の中を確認。
食材としてあったのは小さめの林檎のような果実、食用鶏のブラーマに塩ぐらいだった。
ゲムズボックが果実を食べたそうにしているので果実はあげて――と言う事でブラーマの足を付根から千切り、シンプルに塩で味付けし、木に刺しじっくり焼く。
焚き火で独特の香りが付きいい感じだ。
横でデブ猫がユダレを垂らして――とてもデジャブを感じる。
デブ猫に焼けた一本をあげ、自分でも味わったが塩だけでもなかなかいけるわね。
食べながら気になっていた事をデブ猫に聞いてみた――――アラディアについてだ。
はじめは渋っていたが食べ物で釣ったら話始めた……
◇◆◇◆
アレが現われる前からこの地上には生物がいたニャ
ウチ達もそうニャ
――ある日、気がついた時には空高くアレが浮かんでいたニャ
しばらくして地上で天気がコロコロ変わっていって……
空から丸い物が降ってきて、ビックリしたウチ達は影の世界に隠れたニャ
長い時間が過ぎて地上に戻った時、今のご主人様とは別のご主人様に出会って人間の街で過ごしてたのニャ
だけど――――ご主人様は炎の中に消えてしまったのニャ
同じような人間よって木に縛られてしまい、助けようと思ったけど次の瞬間ご主人様の足元から炎が立ち、ゴゥゴゥと燃える様子に竦んで建物の陰からでる事ができなくて…………
あの事は今でも後悔しているニャ
それからウチは、人間の住む街を避けるように森に入り、何も考えずに奥へ奥へと歩いて行ったニャ
――とても寒かった。
――とても寂しかった。
――とてもお腹が空いた。
何日も食べぬまま歩き続け、あまりに空腹でウチは湖の畔で倒れてしまい、どうにか湖の水を舐めようとするも届かず、そのまま意識が遠くなって……そんなウチの目の前に今のご主人様が現われたニャ
それからは魔素とか教えてもらたりして、遣い魔として傍にいるようになったのニャ
出会った頃、既に目が見えなくて、空から落ちる直前の出来事のショックで見えなくなったって言ってたニャ
――――寝てる時に魘されていて、お母さんとか、ラファエルとか口にしてたニャ
――――もう一つ、ご主人様、詳しくは分からないけど病を患ってるのニャ…………
誰もが何かしら抱えているとは理解しているが、娘のアラディアが病だと聞きショックを受けた。
すぐにでも逢いたいが、今ここで引き返すわけにもいかない……




