第五話:防具精選
――祖たる盲目の魔女、娘でもあるアラディアの遣い魔、ケット・シーのケッティに助けられた。
そして、どうにか一振の剣<死せる戦士の剣>を我が物とする事ができた。
「日も暮れてきましたし、ご一緒に夕食など如何ですか?」
「魔素いっぱい使ってお腹空いたニャ」
「たしかにお腹が減ったわね」
「それでは山道を下ったところにある飯屋に参りましょう」
◇◆◇◆
アザゼルに案内されて来たのは飯屋と言うか酒場だった。
少女の姿に集まる視線が痛いが、些細な事は気にしない。
「――――詳しい情報はグリゴリ教団の本部があるエパルロラの砦で」
「エパルロラの砦ね」
「そう言えば、箱舟は<アラトト山脈>に落ちたと言う噂――
山頂付近には幻獣の縄張りがあったはずで、麓まで行った者はいますが、山脈に上った者がいない為に色々と詳しい事は分かりません」
「なるほどね……」
「とりあえず東の<港町シパリラ>を抜けて、そこから南東に<エパルロラの砦>へ行かれるのが良いかと思いますが」
「ルシファーと一緒にケッティも行くニャン」
「うるさいぞ……デブ猫」
「酷いニャァ…………」
ケッティはいつの間にか黒猫の姿に戻っていた。
黒いデブ猫の姿で腹を見せ撫でられ、虚ろ虚ろしている。
とてもさっきまでの色艶がある女性と一緒だったとは思えないな……。
ちなみにデブ猫の姿に戻ると着ていた物も消えた。
魔素で作ったものらしい。
「ケッティさんもお疲れなのか寝てますね、今日は二階に宿を取りましたのでお使い下さい」
「――悪いな助かるわ」
「ボクはルシファー様の成長された体に合うよう、何着か見繕うかと思いますので、また明朝に」
そう言い残しアザゼルは帰って行った。
デブ猫を抱きかかえ二階に上がり部屋に入ると、部屋の半分を占めるセミダブルのベットで倒れ込むようにお互い眠りについてしまった。
◇◆◇◆
――翌朝。
横でケッティが黒猫の姿で丸まって寝ている。
デブっているので余計に丸いな。
寝落ちとは言え、<プロエレフシの森>を出てからは野宿続きだったので、ベッドのフカフカを堪能しよく眠れたスッキリとした朝だ。
「おはようございます」
少しすると扉がノックされアザゼルがやってきた。
昨日は鍛冶師って感じの服装だったが、今日は執事のような膝上ぐらいまで着丈がある黒いフロック・コートを羽織り、シルバーの帯をエルドリッジ・ノットで締め決まっている。
「あぁ……おはよう。今日はどうしたんだ?」
「どうしたと申されますと?」
「いや、随分と昨日と服装が違うわね」
「これは、やはりレディに服を薦めますので、まずは自分もしっかりしなければと思いまして正装してみました」
「うむ…………」
――アザゼルさん思ってた以上に気合入ってる!?
「ニャァァァ…………」
「ケッティも起きたわね、グッスリと寝てたな」
「魔素の消費が思った以上に大きかったのニャ」
「それではルシファー様――こちらを」
ドーーーンッ
――と衣装箱が部屋の中に置かれた……
よくこの大きさを持ってきたな…………
ベットと衣装箱でスペースが無くなり身動きが取れない。
しょうがないので三人でベットに上がった。
衣装箱を開け中を確認すると、様々なタイプの服や鎧が用意されている。
「これは凄いわね、この中から欲しい物を選べばいいのかしら?」
「いえ……全てルシファー様の為にお持ちしましたので、ご自由になさって下さい。
ケッティさんに合う物もあるかと思います」
「おっ……おうぅ…………」
目ぼしい物をベットに並べ、衣装箱の裏に隠れて試着しつつ、着る物を選ぶ――――
「今日は、この白いワンピースのような鎖帷子に、黒い左腕ガントレットとブーツにするわ」
「なかなかお目が高いですね!
それはあの剣と同じく黒竜の素材を使った物になりまして――――
装備者の魔素で体にフィットします」
両肩がショルダーカットされ背中もオープンになった白金の鎖帷子、左腕の肩から黒竜の鱗で覆われ指先がドラゴンの爪のようなガントレット、膝上までのブーツも同じく黒竜の鱗で覆われ足先がドラゴンの鉤爪になっている。
鎖帷子との絶対領域を腰紐と黒い鎖のガーターベルトで連結させているのがポイントらしい。
<死せる戦士の剣>を帯剣すると、統一感がありなかなか様になっている思う。
「今日はそのままなのか? ――デブ猫」
「デブ猫って言わないのニャ!
せっかく昨日はそう呼ばれなかったから安心してればこれニャ……
人型は目立ちそうだからこのままでいるのニャ」
「それは――――残念です。
ケッティさんにも似合いそうな物を持ってきたのですが、着てる姿を見れないとは……」
「ニャ!」
「では、これは有り難く頂いて収納してしまうわよ」
「収納ですか?」
魔素を操作し――右手の前に黒い球を出し、光の小さな玉がその周囲で回転している。
右手の黒い球を大きな衣装箱にかざすと、吸い込まれるように消えていった。
「ほう!? ――――それは一体?」
「あぁ、私が作り出した<縮崩収納庫>と言う収納する為の魔法なの」
実際に使うのは初めてで<重力崩壊魔法>の魔素操作は難しいが上手くいった。
徐々に慣れていけば攻撃系にも使えるだろうが、慣れないうちは威力の加減が――――。
「そうだ、コレも少ないですが路銀にお使い下さい」
「…………路銀?」
「えっと――もしや、買い物をした事は……」
「無いわね――――デブ猫はどう?」
「ウチは基本猫の姿ニャ…………
買い物はした事ないニャ
っで、デブ猫って言わないでニャ……」
「でしたら街を出る前に一緒に道中食べる物を買いましょう」
「ほう、それは興味深いわね、頼むわ」
――街道を少し<シパリラ>方面に行くと日用品や食料を扱う商店が見えてきた。
そして、いい匂いが漂ってくる……。
「美味しそうな匂いですニャ」
「たしかにお腹をくすぐる匂いね」
「このあたりはシパリラ方面から来た人を取り込もうと、屋台で料理を売る店が多いですね」
デブ猫がユダレを垂らしている。
朝飯がまだなのでしょうがないと言う事にしておこう。
「何か食べましょうか」
「賛成ですニャ」
「それなら、少し待ってて下さいお薦めがあるんです」
アザゼルはいそいそと屋台に向って行った。
そして、両手に何かを持って帰って来たが実にそそられる匂いだ。
「こちらをどうぞ」
「中のサックサク!なのニャ」
「うむ、衣がカリッカリッでありながら、中の肉はしっとりしていて……後追いで香辛料の香りが…………」
<箱舟>にいた頃には味わえなかったモノに感動していると、街の南側にある牧場で放し飼いされたブラーマと呼ばれる大きな食用鶏の唐揚げを、ヌーンと呼ばれる薄く硬いパンのような物に挟んでいると説明された。
デブ猫はこんなに刺激の強い物を食べて平気なのかと思っていたら、ケット・シーは普通に人間と同じ物が食べれるらしい。
――ただ熱いのは苦手だそうだ。
「こんな美味い物があるなら昨夜も食べたかったわね」
「そんなに喜んで頂けるとは思っていませんでした。こちらとしても嬉しいです」
他にも薦めたい物が――などと買い物を楽しみつつ、気が付けば街の門の側に来ていた。
「プロエレフシの森からアテゴラまでと、アテゴラから港街シパリラまでは地形は違えど同じぐらいの距離になります。ですので徒歩だと三日程でしょうか」
「同じぐらいなら問題ないわね、ではこのまま向ってしまおうと思うわ。いろいろ世話になったわね」
「お気をつけて! 仕掛ける際には駆けつけます!」
――こうしてケット・シーのケッティと共にアテゴラを後にした。




