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第四話:剣との対話

――ルシファーとアザゼルの勝負はアザゼルが負けを認めた事で決着がついた。

 そして今は、アザゼルに連れられ工房内のアトリエだ。


「それにしても本当に驚きましたよ、あんな技は箱舟に居た頃でも見た事がなかったので」

「あぁ――あれは最近できるようになったのよ……実戦で使ったのははじめてだわ」

「ですが、剣の腕も力も大分下がっているように見えますが」

「――やはりそう感じるわよね――――この体になって確かに以前の三割程しか出せていないように自分でも感じてはいたわ……」

「…………ところで、今までどうしていたのですか?」

「うむ――実は私もよく分かっていないの」


 私は黒い(もや)に覆われてから今までの事を話し、アザゼルから創世主と天使達の戦いより数十年の時が流れていた事を聞いた。


「薄々はそんな気がしていたけど……」

「それでルシファー様は今後どうなさるおつもりで?」

「もちろん、私は創世主を倒すわ――――負けたままではいないからね。

 あとは妻と娘の行方も……」


「やはりお気持ちは変わられてないのですね――安心しました。

 ボク達は地上に落ちた同士達でグリゴリと言う教団を作りました。

 人々に知識を与えながら反撃の日に備えて信徒を増やしています。他の同士達はここより東の地に――」

「そうか、同士達は健在で嬉しいわ。

 私も力を取り戻さなくてはならないわね」


「力と言えば、武器を求めてらっしゃいましたな――それなら現在使い手がいない武器でがありますが少々癖が強く……」

「それらを見せてもらう事は可能なの?」

「承知しました。この部屋ではないので着いてきて頂いてもよろしいですか」


 アザゼルは本棚を横にずらし、現れた階段で地下に下りる。

 霊素(エーテル)で通路の蝋燭に火を灯し細い洞窟を抜けると、そこは祭壇のような部屋になっており、脇の木箱に乱雑に入っている剣とは別に、一振りの剣が壁に飾られていた。

 飾る場所はもう一か所あるが今は空いているようだ。


「<死せる戦士の剣(エインヘルヤル)>です」

「これは素晴らしいな……強い力を感じるわね」

「<死せる戦士の剣(エインヘルヤル)>は、同士達と冥府にまで落ちた際に皆で討伐した<黒竜(ヘイロン)の牙>と、煉獄鉱石で作った<パガトリオア鋼>で作りました」

「……<死せる戦士の剣(エインヘルヤル)>か」

「<死せる戦士の剣(エインヘルヤル)>は闇の魔素(マナ)属性で黒竜(ヘイロン)の意志が宿り、抑え込める者でないと使えません。

 なので、まだ持てた者がいないのです」

「なるほどな。試してもいいかな?」

「どうぞ。しかし、魔素(マナ)を纏わせるならここでは危険ですので表で――」


 アザゼルと工房アトリエの裏庭に出て、早速<死せる戦士の剣(エインヘルヤル)>を握った――。

 瞬間、周囲に黒い霧がかかり黒きモノが体に重く圧し掛かる。

 気を緩めると意識を持っていかれそうだ……。

 

 目を閉じ一点に意識を集中し黒きモノと対話する。


【力ヲ……欲スルモノヨ…………我ニ……体ヲ渡セ…………全テヲ……解キ放テ】

【心ノ壁ヲ…………】


「――そうはいかない、力は欲しくても体を渡す分には……」


 頑張ってはいるが、黒きモノの方に少しずつ引き寄せられ……意識が…………

 このままでは不味い……と思った時だ。


「仕方がないですニャ――ご主人様にも頼まれていますし、力を貸してあげるニャ」


 ルシファーの影が液体の如く波打ち、にょろっポヨンっと黒いモノが出てきた。

 ――――デブ猫と呼ばれていたケット・シーのケッティだ。


 黒猫の姿で影から現れたが、ポフッと煙に隠れたかと思うと女性に変身した。

 裾には深めのスリットが入ったローブに、ワイドシルエットのパンツ.

 猫の状態からは想像もできない程に、長い黒髪が艶めかしく、体のラインが細やかで妖艶な女性の姿で私の肩に手を当てた 


魔素(マナ)を少し分けてあげるのですニャ」


【――強キ魔素(マナ)ト心ヲ持ツ者ヨ……今ハ…………貸シテヤル……】

【ダガ……コレハ……本当ノ……解放デハ……ナイ……】


 <死せる戦士の剣(エインヘルヤル)>は不気味な黒い光を落ち着かせた。

 ――紫色に薄らと光を留めている。

 ケッティの助力で捩じ伏せる事が出来たが、自分だけでできなかった事が悔しい。


「流石はルシファー様。――――ところでそちらは?」


「ウチはケット・シーのケッティ。

 ご主人様――アラディア様からこの子を頼まれたニャ」

「アラディアと言えば、祖たる盲目の魔女ですね」


「何だって!? 彼女がアラディアだったって言うの……」


 私からすれば創世主達との戦いはまさに昨日の事なのだ。

 妻ルーナと幼い娘のアラディアの事が走馬灯のように脳裏を駆け抜ける。


 ――あぁ、目を瞑っていてハッキリ分からなかったが、どことなく感じた懐かしさはルーナに似ていたのもあるのだろう。

 アラディアのもとに行って抱きしめたいが、今は少女の姿になってしまっていてあの頃とは違う……


「アラディア様、あの時久しぶりに楽しそうな表情をしてましたニャ。

 また会いにプロエレフシの森に行くのニャ」


「――――もちろん」


「そう言えばルシファー様、少し大きくなりましたかな?

 服がその――胸のあたりとか、それに顔つきも変わったような?」


「ん……?」


 アザゼルに指摘されアトリエの窓を鏡代わりに見ると、着ているシャツがパツンパツンで胸のボタンが取れそうだ。

 ――と言うか、前に少し屈んだらボタンが取れた……

 顔も数日前より引き締まり、湖の水面に映って居た八歳ぐらいの少女から十台半ば、十五歳ぐらいに思えるぐらいになっている。

 赤黒い髪も少し伸びたように感じるが何が起きたんだ……?


「きっとアレ……ニャ…………ウチが魔素(マナ)を分けたからだと思うのニャ」


「――何の関係があるの?」


魔素(マナ)の絶対量が増え、器である体がそれに合わせて大きくなったのだと思うニャ」


「…………」


「――そう言う事ですか、それならルシファー様悪い影響は無さそうですね」


「まぁ――剣については<死せる戦士の剣(エインヘルヤル)>を譲り受けたいと思うわ」


「仰せのままに」


 ――こうして<死せる戦士の剣(エインヘルヤル)>を愛剣にする事となった。

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