第二十一話:遥かなる蒼天への帰還
――数十年前。
ルシファーが創世主に対し起こした百五十日間にも及ぶ壮絶な反乱。
それは全長六百六十六メートル、高層ビルで例えれば二百十階建てに相当するだろう<箱舟>の船体を激しく損傷させた。
頭部が尖っており紡錘な流線型の船体は、衛星軌道からアラトト山脈の尾根へと落ち、山肌を抉り取りながら木々が吹き飛ばし、搭乗していた天使達には周囲の安全確保の為、山に生息していた狼などの生物を駆逐、又は捕獲する命令が下だった。
船体の修理と並行して捕獲した生物の実験も繰り返された。
解析、分解、比較、再構築――――。
そして――最初の人間アダムとイブを造りだした技術を発展させ、天使達の遺伝情報継承と発現を担う連続的値を離散的値に変換。ビット量子化された数列を非周期性の結晶ベースに、編集最適化に成功した。
高分子化合物の結晶回路で魔素的特性を利用し信号を増幅、最適化された値の配列で細胞を設計図通りに構成。
単純に言うと、DNAとゲノムを編集構築し新たな複製体を生み出したのだ。
――――合成遺伝子生物。これが<仮面の天使>の原型である。
◇◆◇◆
――数十年の時を経て現在。
それは再び衛星軌道へ飛翔しようとしていた。
箱舟内部構造は七階層で、生活する区画から研究する区画、情報を保存する区画まで様々。
船体外装はまるで骨格のシロナガスクジラに高い粘性を持った液体分散媒で覆ったようだった。
頭部の下顎に位置する部分から船体の臍にかけて六十六本のヘネリオンユニットが青く発光。横に広がった薄いヒレ状の尾で船を制御している。
「セラフィエル様、やっと飛び立ちますね!」
「お前たちに任せる。周囲の警戒を怠るな」
「あまり乗らないですが――ゼルエル、しっかりお仕事しましょうぉ」
「俺が船体下部を警戒する。
ツァフキエル、お前はセラフィエル様の傍にいろっ。
他の者は俺に付いて来い!」
「「「「 仰せのままに!」」」」
「わ~い。ゼルエル、やっさしいぃぃぃ」
箱舟浮上に伴い、熾天使セラフィエルを筆頭に警戒態勢が敷かれていた。
セラフィエルの横で弓を構える天使がツァフキエル。
大剣を担ぎ下位天使を引き連れ下に向うのがゼルエルである。
ヘネリオン鉱石は加圧し気化させる事で磁場をカットする――。
その効果を利用したヘネリオンユニットが青い輝きを増し、雲一つない晴れ渡る蒼い空の下、動力音も無く箱舟を浮かび上がらせた。
船体下部には、模様が刻まれ青く光り立方体の形をした、六十三個の聖櫃が追随する。




