第十四話:地下迷宮
――黒き一角黒馬を倒し奥へと足を進める。
先の戦いで鋭く尖った一本角を斬り落とし得る事ができた。
スコルとハティの額からは小さな角が顔を出している。
フェンリルには生えてなかったはずだが、稲妻の直撃か、黒い魔素を吸収した影響だろうか?
橋を越えた先は広間、奥に進むと更に下に降りる階段があった。
地下二階。――まずは周囲の索敵。
「風の霊素よ、我が身に宿れ、<エアリアル・スキャン>」
地下迷宮内を風の霊素が駆け巡り、上にかざした右手から周囲の構造を読み取る。
地下一階は一本道だったが、この階は複雑に入り組み、なかなかに広い。
「魔素を帯びたもの達が散見しているわね、強くなる事が目的だし、まずは外周を移動しながらどんどん狩っていきましょう」
「ついて行くのニャ」
「今度こそボクとハティで狩りつくしてやるっ!」
「ある程度経つとまた沸くらしいから魔素の配分に気を付けなさい」
猫耳女王スカーサハに聞いた話によると、この地下迷宮の敵は魔素が収束して生れるらしく<魔物>と呼ばれており、低位な魔物程再発生が早く、強い魔物は再発生に数日掛かるのだとか――。
上の階は整備されていたが、この階は鍾乳洞と言った感じだ。
溶食によって鱗模様になった壁面、天井が高く水晶が幾つも垂れ下がり、そこから水滴が落ちてくる。
朱く透き通った羽根、長く伸びた牙に鉤爪。
天井にビッシリと張り付くコウモリ――。
長く大きな耳、針のような毛、棘のついた長い尻尾。
床を埋め尽くすネズミ――。
「数百、数千、数万……ワサワサと動き回って獲物がいっぱいなのニャ」
――スコルとハティが赤と銀の稲妻を纏い、宣言通り元気よく駆け抜け蹴散らしていく。
「どうだい、ボク達の力!」
「私も頑張ってるのぉ」
「いい感じだわ――――でも、何が起こるか分からない、気を抜かないようにね」
かなりのハイペースで二時間程狩り進めた頃、私の乳袋がまた膨らみを増し、スコルとハティの角が伸びた。
…………ケッティの人型としての容姿がさほど変っていない事には触れないでおこう。
<エアリアル・スキャン>で索敵してなければ見逃していただろう、陰に隠れるように存在する狭くなった通路。
そこを抜けると目の前が拓けた。
降りて来た階段のちょうど反対側、辺りには光る苔などが生え、天井の小さな穴から光が落ち、広間の中央が刳り抜れ陥没しドーナツ状になっている。
どうやら狭かった通路が裏道で、正しい通路は逆回りだったようだ。
陥没穴の数メートル下には――エメラルドグリーンに輝く地底湖が六ヶ所点在、中心には大きく美しい蒼い水晶が佇んむ。
「予定外だがここから下に降りてみるか」
「蒼い水晶の影が宙を泳いだ気がしたけど…………気のせいかニャ?」
「ボク、もっと強い敵と戦いたい」
「私もなのぉ」
ケッティの発言は軽く流されてしまった。
気のせいだろう……。
「じゃあ降りるぞっ」
「おお!」
「なのぉ!」
「なのニャ!」
地底湖のエメラルドグリーンと色が重なり、見逃していたが半魚獣が多数泳いでいた。
深緑色の光沢ある鱗に覆われ、魚の体に鮫のような鋭い歯、ヒレが進化してか足になっている。
スコルとハティが先程と同じように突っ込む。
「ボク達の攻撃が当たらない…………」
「こいつらすばしっこいのぉ」
水中では半魚獣の方が素早さでは勝っている。
攻撃は避けられ、半魚獣が水面から口を出し水弾を飛ばす。
全方位から水弾がスコルとハティを狙う。
どうにか上に跳び回避できていたが――
「相性が悪いようだな――――私と代わりなさい」
「ぐぬぅぅぅぅ」
「舞え、漆黒の刃!」
私は漆黒剣を飛翔させた。
――<エアリアル・スキャン>
同時に索敵魔法を併用し、黒い煌めく軌跡を描き六本が剣舞する。
漆黒剣が次々と地底湖に吸い込まれるように串刺しにし消えて行った。
エメラルドグリーンの湖面には半魚獣の死体が浮いている。
そう思った次の瞬間、蒼い水晶に亀裂が入り半魚獣達の魔素を吸収した!?
水晶の内側で魔素が渦巻く――――。
それは次第に収束していった。
内側から鋭い爪が覗き亀裂を拡げる。
「あれは危険だっ! 離れろっ!」
「凄く荒々しい感じなのニャ……」
「…………」
「…………」
スコルとハティは無言で赤と銀の毛を逆立てている。
水晶は崩れ、中にいたものが翼を広げ羽ばたいた。
前肢に鋭い爪を持ち、肘から蝙蝠のような翼になっている。
「――――あぁ外気を感じるのは久しぶり……」
額には二本の角があり、その中間には丸く深みある赤い宝石が輝く。
瞳も同じように赤く不気味な光を発しながらこちらを見ている。
「あれは伝説の……」
「ケッティ知っているの?」
上半身は部分的に鱗に覆われているが女性らしい胸元の膨みがある。
下半身には脚がなく蛇のように尾が細く長い。
「蝙蝠の翼に蛇の尾――影の世界に伝わる<蛇竜ヴィーヴィル>なのニャ」
「ヴィーヴィル……」
目の前を浮遊するヴィーヴィルからの魔素によるプレッシャーが跳ね上がった。
「ほう、これに耐えるか小娘ども。――面白いわ」
ケッティを守る形で私が前に立ち、その後にスコルとハティが並ぶ。




