第十二話:空虚の先へ
――フェンリルを助ける事はできなかった。
代わりにフェンリルから双子の狼兄妹、スコルとハティを託された。
アラトト山脈に留まるのは危険だと判断し、ケッティの<シャドー・ムーブ>でプロエレフシの森へと戻った。
「何で母さんを……『何かあっても守ってあげるわよ』って言ったのに!」
「…………」
「ごめんなさい…………」
大切な者を失う辛さを知っているはずだったのに、目の前で何もできなかった。
先程まで小さな狼かと思えたスコルとハティは何だか二回り程大きくなったように感じられる。
母から幻獣の資質を受け継いだかのようだ。
守護樹の家に入るとディオニュソスが出迎えてくれた。
スコルとハティに紹介したが――――上の空といった状態だ。
ケッティと木の椅子に座り、スコルとハティは部屋の隅で横になっている。
ディオニュソスはアラトト山脈でフェンリルに起きていた事を知っていた。
現地に着くまでの事も詳細に――燃え残った樹木と繋がり見ていたのだ。
スコルとハティの耳がこっちを向く。
フェンリルが善戦してた事。
仮面の天使が倒しても倒しても沸いて来た事。
フェンリルに起こった事がディオニュソスの口から語られた。
「私がまだ<箱舟>に居た頃、あちら側に天使は七百体程しか居なかったわ。
それに仮面の天使など存在もしてなかった。
ディオニュソスの話だと少なくとも三体以上が同じ顔だったと……」
「そんな事があるのかニャ?」
「現に起きているし……身体能力は天使同等だけど、行動が単純な事だけしかできないと仮定すると、クローンと言うよりはぱパペットに近いかしら…………」
「難しい言葉が出てきたニャ」
「そのクローンとかパペットと言うのは何でしょう?」
「クローンは複製体で元の個体と同等程度の身体能力や思考力を有する者、対してパペットは肉体性能は再現できるが思考力が無く、別の誰かに操られているものね」
「わ、解かったのニャ…………」
ケッティの頭から蒸気が上がっている。
「絶対解かってないわねっ」
「…………」
「しかし、大量のパペットに極大魔法……」
それから――どうすればよいか知恵を出し合ったが結論には至らなかった。
◇◆◇◆
――スコルとハティがプロエレフシの森に来て数日が経った。
「今のままでは全然力が足りないわ……」
「そうなのニャ……」
天使達との力の差をどうするか打開策を考えて居ると――
「そう言えばケット・シー様」
「ケッティでいいのニャ」
「ではケッティ様、猫の世界にあると言う迷宮とは、どのような場所なのですか?
そこで特訓などができれば……」
「…………そんな場所があるのか?」
「むむむ<闇黒の城塞都市>の事かニャ?」
「そこに迷宮があるの?」
「影の異世界は武芸に長けた女王スカーサハが治めているニャ
城の地下が大規模な迷宮になっていて、むこう側は時間の流れがこちら側より早いニャ。」
――ケッティから影の中にある猫の世界について語られる。
「こっちの世界に比べて特訓する時間が増えるって事かしら」
「ボクも母さんの仇がとれる力が欲しい!」
「私だって欲しいのぉ」
――久しぶりにスコルとハティが会話に入ってきた。
「ちなみに時の流れが早いってどれぐらいなのかしら?」
「現実世界の一日が影の世界では三ヶ月になるニャ」
「…………」
「なるほど、それは行ってみる価値がありそうね」
「でも――――影の異世界は入れる時が限られてるのニャ」
「いつでも入れるってわけじゃないのですね」
「では、いつ入れるのかしら?」
「う~ん、次の新月は――六日後に入れると思うニャ」
「六日か……では、その日に行ってみよう」
スコルとハティも無言で頷いている。
六日後、<闇黒の城塞都市>へ行くのは、私、ケッティ、スコル、ハティだ。
これで天使に対して新たな対抗策が見つかるとよいのだが…………




