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第一話:遥かなる蒼天での衝突

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挿絵(By みてみん)


 ――ある惑星のはるか上空、衛星軌道に浮かぶ<箱舟>。


 彼は天窓のジェル状ドームシェルから惑星を見ていた。

 九階級ある天使の最上位な熾天使(してんし)、中でも更に特別な六対十二枚の翼を持ち、金色の髪に全身を覆う魔素(マナ)が美しく白金の輝きを放ってる。

 創世主を敬愛し、全ての天使を統括する長であり、全ての天使の憧れだ。


 ――彼の名は熾天使ルシファー。

 隣にはルーナと呼ばれる天使が並んでいる。


「創世主の思い描いた惑星改造(テラフォーミング)計画は順調だな」


「もともと確認できていた生命体も暴れたりしていないようだし、これなら早く次に進められそうね」


「そうだな……」


 彼ら愚直に創世主の命令で箱舟から惑星を見守り、観察し、管理する。

 それはとても長い時間を要するが、天使にとっては寿命と言う概念はない。


 光を司るルシファーは、月を司るルーナとの間に女の子を授かりアラディアと名付けた。

 小さな娘に霊素(エーテル)魔素(マナ)からなる源素の扱いを教え、箱舟での生活は穏やかに時間が流れた。



  ◇◆◇◆


 研究区画<喜びの園(エデン・ガーデン)>。

 対角で数キロメートル程の広さがある丘陵草地。

 天窓には青い空や雲が投影されており、食用可能な樹木が全ての種類植樹されていた。


 丘陵中央にある泉の畔には、有機並列統合型大規模記憶装置(セントラルクラスタ)<生命と知識の樹>がそびえ立ち、泉を覗き込むと樹の根が見え、それは無数の透明な球体を抱えている。



 ――穏やかな日常が一変したのは突然だ……。

 ――この日、創世主は人間と呼ぶ事になった新たな命を作る事に成功した。



 十七歳ぐらいに見えるが生まれたばかりの最初の人間。


 まだ痩せているが引き締まった筋肉が見える♂のアダム。

 すらりとし滑らかな曲線で描かれ、胸は豊かな膨らみを見せている♀のイブ。

 二人は喜びの園(エデン・ガーデン)で創世主から愛情を注がれ日に日に成長していた。



 ルシファーは最上位天使故に傲慢だった。

 創世主から受ける愛情を二人に奪われ、面白くないと思う感情が大きくなる。


 そんな中、創世主よりこれらの管理を任される事に――。



 創世主から<生命と知識の樹>に触れる事は絶対ダメだと、アダムとイブは禁止されていた。

 樹は情報集積体(ビッグデータ)<禁断の果実>を実らせ、それはあらゆる知識を内包したものなのだ。


 ルシファーは創世主からの愛情を取り戻すため策を考えた。

 蛇へと姿を変え、アダムとイブに近づき<生命と知識の樹>の暗号制御言語エンクリプトプログラムを告げ(そそのか)す。

 

 アダムとイブは言われるがままに<生命と知識の樹>へ暗号制御言語エンクリプトプログラムを入力しロックを解除。


 ――――すると根に抱えられた球体は輝きだした。


 それは泉全体を覆う程の輝きとなり、頭上から一つ<禁断の果実>が落ちて来る。

 二人は何の疑いも無く半分ずつそれを食べ知識と欲望を覚えた――。


「私たちはなぜ今まで裸だったの……」


「だがイブがとても綺麗だ……」


 アダムとイブは自分達が裸であったことに気が付き羞恥心を覚えた。

 だが同時に性欲を覚え、自慰行為を知り、それは次第にエスカレートした。

 互いに好奇心から少しずつふれあい――。

 気が付けばの二人は身体的快楽に溺れた――――。



 純粋さを失ったアダムとイブに失望した創世主。

 最初の人間ではあるが失意は大きく、天使を呼び箱舟から惑星の地上へと落すよう命じた。



「――これより対象の地上への降下作業に入ります」


 ■ 対象ノ搬入ヲ作業確認 ■

 ■ カウント開始シマス ■

 ■ 六十 ■

   ・

   ・

   ・

 ■ サイドハッチ閉鎖完了 ■

 ■ 発射シーケンスヲ開始 ■

 ■ 生命維持装置作動確認 ■

 ■ 液体酸素充填作業完了 ■

 ■ カプセル内気圧正常値 ■

 ■ アクセスアーム引離 ■

 ■ 最終カウントダウン ■

 ■ 十 ■

  ・

  ・

  ・

 ■ 三 ■

 ■ ニ ■

 ■ 一 ■

 ■ 射出 ■



 箱舟からアダムとイブは追放された。

 しかし、これだけではもちろん終わらなかった。


「儂が大事にしていたモノに……。このような事をしたお前にも失望した――全てに呪われ、地を這いまわるがよいのじゃ!」


 ルシファーの謀略は成功した。

 だが、創世主の怒りにふれてしまい箱舟からの追放を迫られる――。

 創世主以外では最強だったルシファーは、自らを慕う三百二十二体の天使を集め、軍勢をなし、反旗を翻し創世主に戦いを挑む事を決意。


 最強の熾天使ルシファーは創世の間を目指し侵攻した。



 だが、そう簡単にはいかない。

 目の前に現れる三対六枚の翼を持つ熾天使。


 黄金の板金鎧(キュイラス)を纏い、黄金の片手剣と盾を持った――ミカエル。

 白い法衣(ローブ)を纏い左手にホルンを持つ――ガブリエル。

 紅いサーコートに焔の大剣を持った――ウリエル。


 ルシファーに次ぐ力を持った四大天使の三体が行く手を塞ぐ。



「まさかお前がこんな事を起こすなんてな!」


「ルシファー様、考え直して下さい……」


「創世主様に仇なす者、問答は無用で迎撃行動へ移行、焔の大剣で葬りさる!」


 ルシファーは腰の長い鞘から剣を抜き白金の魔素(マナ)を刃に纏わせる。


「我は最強の熾天使――――さぁかかってくるがいい!」



 焔の大剣を中段に構えたウリエルが地面を蹴った。


 剣と剣が交錯し激しく甲高い音を立てながら朱色の軌跡が流れる。

 中段から上段、上段から斜め右下段へ――――


 飛び込みながらのなぎ払いも、踏み込んでの振り落としもルシファーは軽く受け流す。


「そんな大振りでは掠る事もないぞ!」


「ハァハァ……くっ…………」



「次はこちらから行くぞっ」


 腰を落し捻りながら白金の魔素(マナ)を乗せた一撃が放たれた。

 白金の斬撃がウリエルに迫りくる。


 ゴシュッッツ!


 斬撃は防がれた。

 盾を構えたミカエルが割って入ったのだ。


「そう簡単にそちらの攻撃も入ると思わない事だ――大丈夫かウリエル」


「あぁすまない……助かった」


「ウリエルさん、一人で突っ込み過ぎですよ」


「流石に三人相手だと面倒だな――」


 その時だ――後ろから同士たる数十体の天使達が駆けつけてきた。


「ルシファー様に続けぇぇぇぇっ!」

「「「おおぉぉ!!」」」


「まったく雑魚どもがワラワラと…………」


 フォォォォォォンッ!


 ――美しいホルンの音色が鳴り響き――

 次の瞬間、翼が一対二枚の下位天使達が倒れて行く。


 ガブリエルの優美な顔とは裏腹に、魔素(マナ)を乗せたホルンの音色は下位天使達を一瞬で気絶させたのだ。

 残ったのは二対四枚の翼を羽ばたかせている中位天使数体のみとなってしまった。


「己……怯むな、ゆくぞっ!」


「私たちとルシファー様の戦いにまだ水を差すのですね、まったく――」


 ガブリエルのホルンが光り、槍へと変形した。

 ――そして、残った中位天使への突撃で屠っていく……。


「本当に無粋な連中でした」


「これでお前との戦いに入ってきたモノは居なくなったな」


「では改めて参るとしよう」



  ◇◆◇◆


 ――――その頃、居住区画では


「まさか――こんなにも早く四大天使が来るなんて!?

 アラディア逃げて…………」


「おかぁぁぁぁさーーーん……っ!」


 七百体近い天使がルシファー達と交戦中、四大天使の一角たるラファエルが、妻のルーナと娘のアラディアを強襲する。

 ルーナはどうにか娘を庇い、抵抗し、箱舟から脱出させる事はできたが、ルシファーに次ぐ強さを持つラファエルの前に為す術もなく命が消えて行く。


 手を伸ばしても届かない……その光景に幼いアラディアは絶望し悲嘆した……


 

 百五十日間にも及ぶ壮絶な戦闘だった。

 創世主達は強かった。


 ルシファーは創世の間に辿り着く事ができないまま、創世主と相見える事無く敗れ、数多くの同士となった者達を亡くした。

 ――だが、箱舟の損傷も激しく、衛星軌道からアラトト山脈へと落ちていく。


 戦いに敗れたが箱舟からは脱出――地上に向けて降下する。

 体を包んでいた魔素(マナ)は憎しみで白金から黒へと変化し、美しかった十二枚の翼も漆黒へと変わる。

 これは堕天と呼ばれる現象。

 傷ついた同士達も同様に堕天し、地上より更に深くへ落ちていく。



 ――――突如に黒い(もや)がルシファーを覆った。

 チリチリと放電現象が起き、火花を飛び散らせ、その場から消失させる……。

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