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55話「神龍、憐憫を向ける」

 

「長話は終わりだ。決着をつけようか、悪魔(ウァラク)よ」


 天から降り注ぐ光を遮るようにして覆い尽くす長い体躯はその鱗一枚一枚を輝かせ第二の太陽として地上を照らしていた。


 その神々しさを放つ龍を前にしてウァラクはーー


「⋯⋯あは⋯⋯あはは、アはは⋯⋯フはハハハはハハははっはッ!」


 ーー狂ったように嗤っていた。


「そうだよ⋯⋯これだよ神龍君! この高揚感だよッ! 明日なんて待ってられない! 今! 今この瞬間に生を感じるんだ! 次の瞬間には終わりを迎えてるかもしれないこの緊張感⋯⋯僕は、僕はこれを求めていたんだッ!」


 竜を撃ち落とされ地上に立つウァラクは残った右半身を大きく広げ天を仰いだ。


「永い長い時間の中で僕はたくさんの人間に出会ってきた。知を求めた者、財を求めた者、武を求めた者⋯⋯彼らは皆が皆怠慢な時を過ごし破滅を迎えた! 誰も僕に破滅を! 破壊を! 教えてくれる者はいなかった!」


「「ッ!?」」


 そして、左半身を抑えていた右手が退いたことで鬼龍と神龍はようやく気がついた。



 ーー消えた左半身の中で何かが蠢いていることに。



「気がついたみたいだね? 僕もこれを使うのは随分久しぶりなんだ」


 蠢く何かはズリズリと這いずるようにウァラクの外へ出ようとする。

 一筋の光芒を見ることすら許されなかった闇の帳の中から必死にもがくように何かは顔を出す。


「さァ、始めヨウか。こコカらの僕は手を抜かないヨ? ⋯⋯僕ハ僕ノ全テヲ賭ケテ君タチヲーー」


 ()()と言う名の魔物が顔を見せる。


「ーー破壊スル」


 蓋をされ押さえ込まれていた少年(ウァラク)の業が淀んだ濁流となって腕を、脚を、全身を飲み込んでいく。


 小さな少年の手足は丸太を優に超えるほどに肥大化し五指には短剣大の爪が鈍く光を放つ。

 天使のように美しく清らかな羽は見るも無残なほどに面影をなくし薄汚く朽ち果てていた。

 そして、整った美少年の顔は様々な奇怪な模様が侵食し醜さと恐怖を無条件に押し付ける。


「アヒャ⋯⋯アヒャヒャ⋯⋯アビャビャヒャブビャアァアアアッッ! ソウダ、先ズハ試シ撃チヲ、ダ!」


 そう言ってウァラクは()()を振りかぶりーー


「ウウゥゥラアアァッ!」


 ーー地面へ叩きつけた。


 ズドオオオォォン


「ムッ!?」

「クッ!?」

「ちょっ!?」

「⋯⋯!?」


 地響きと同時に四人に襲いかかったのは膨大な風とそれに乗って来た砂埃だった。


「けほっ、けほっ⋯⋯もぉ、何が起きーー!?」


 空を漂う流と鬼龍。

 そして、その鬼龍の紅色に光っている爪からは紅桜の悪態と驚愕が全員の心境を代弁した。


「⋯⋯な、なによ⋯⋯これぇ⋯⋯?」


 視界が晴れそこにあったのは『無』であった。


 誰もいない観客席や精巧に作られた像はその欠けらを残すことなく消し飛ばされていた。

 それはもう文字通り決闘場(コロッセオ)の面影はなくダンジョンの一室を更地へと変化させられた。


「ウ、ヒャ! マァマァノ調子ダヨ」


 事の原因を生み出した本人は左手を握ったり開いたりを数回繰り返し満足そうな顔立ちで空を見上げた。


 背筋を凍らせるほどに醜悪な笑みを浮かべて。


「⋯⋯こ、これは想定外です。ユウキ様逃げましょう! こんな化け物と戦ってはーー」


「破壊、スーー」


「ーーッ!?」


 さっきまで地上にいたじゃないか。そんな言い訳を一切受け付けないウァラクの速度は墨桜の許容範囲を超えていた。


 振り下ろされる巨大な拳。狙われているのは黒く光る爪。

 直撃すれば砕け散ってしまう、そんな悪夢のような走馬灯を墨桜は見た。


「墨桜ッ!」


 初動で気づくことはできなかった鬼龍であるが咄嗟の動きで腕を振り、その遠心力で庇うように拳と墨桜の間に滑り込む。


「ーールッ!」


「ぐぼあっ!」


 そして、ウァラクの巨大な拳を背中に受けた鬼龍は体の中にあった酸素を奪われるように吐き出さされ、地面へ直進した。


「ゲオッ⋯⋯うっぐ⋯⋯ガハッ」


「ユウちゃん!」

「ユウキ様!」


 地面へめり込むように撃ち落とされた鬼龍は酷い有様だった。


 既に龍化は解け背中は陥没し赤黒くなっている。間違いなく肋骨と脊椎が砕けその砕けた先には肺がある。

 何度も血の塊を吐き出す口は体内に酸素を取り込もうと必死に動かされている。


「マズハ一人。イヤ、コレデ君ト戦エル、ネ」


 邪魔者を排除した⋯⋯否、邪魔となる可能性を排除できたウァラクは心底満足そうに嗤った。墨桜へ向けた嗤いより一層醜悪で狂気的なものを。


「⋯⋯」


 流はウァラクに注意しながらチラリと下の様子を見た。


「す、すぐにティアちゃんのところに運ばないとッ!」


「だ、ダメです! ティア様は今酒呑童子を治療しているはず⋯⋯それにこんな状態のユウキ様を動かせば着く前に⋯⋯」


「そ、そんなっ! じゃ、じゃあユウちゃんは⋯⋯ユウちゃんは助からないの?!」


「わ、私が⋯⋯私が避けきれなかったばっかりに⋯⋯ユウキ様⋯⋯ユウキ様ッ!」


 鬼龍の両手を片方づつ握り紅桜と墨桜は必死に願っていた。大粒の涙を二人流し、握った手をさらに強く結び懇願していた。


(⋯⋯彼女達に回復系の技能(スキル)は無いのか。そのティアと言う奴が来ることも無いと考えると⋯⋯)


 流は今も宙に立ち続けているウァラクを見据えた。


(こいつを瞬殺して助ける、と言いたいところだが⋯⋯)


 ウァラクが鬼龍を撃ち落とすまでに至った光景が流の脳裏によぎった。そして、それから打ち出される答えは⋯⋯


(瞬殺はできそうにもないんだよな⋯⋯)


 結局は【ダンジョン】を踏破するために鬼龍は倒さなければいけない障害。

 ここで生きていようが死のうが最終的には⋯⋯そう思う事で流はウァラクを時間をかけてでも倒す事に気持ちを切り替えた。


 内心気分が悪いのは変わらないが。


「⋯⋯貴様が求めているのは『破壊』であったな?」


「ソウダ。破壊ダヨ! 破壊破壊破壊破壊破壊破壊ッ! 形アル物ハ破壊サレル瞬間ガ一番美シイ! 散リ際ガ一番美シイ! ソウハ思ワナイカイ?」


「そう言う捉え方も否定はできないな。芸術は爆発だ、と言う者がいるくらいだ」


「プハハハハハッ! 中々二面白イ考エ方ヲスル人間ガ居ルモノダ!」


「だが我はーー」


 流は会話の中で見ていた。ウァラクが()()をする瞬間を。

 そして、その瞬間に龍化した流の長い尾がブレる。


「ンーーグベッ!?」


 突然の襲来を頭に受けたウァラクは間抜けな声と共に地上に叩き落とされた。そして、


「ーー美しさは必死に足掻いている時が一番であると思うぞ」


「不意打チハ汚イジャーーコレハ魔法陣ッ!?」


 撃ち落とされたウァラクの周囲には全方位を囲うように奇怪な文字と図形をあしらわれた魔法陣が浮かんでいた。


「破壊とは美の可能性を潰すことだと知れーー『失墜を招く神龍の思念(ロスト・レガリア)』」


 魔法陣が一層強い輝きを放つと同時に膨大な熱量を帯びた光線が慈悲無くウァラクに襲いかかった。


「ウ、ヒャアアアアアアアアアアァァアアアァッッーー」


 眩い光の世界でウァラクの悲鳴だけが大きく響き渡るが、


「ーーハハハッハハハハハハッッハッ!」


 それは次第に変化し、嗤い声へとなり流が生み出した魔法陣にも変化が起きていた。


「流君、コレジャア⋯⋯コンナンジャア足リナイヨッ!」


 魔法陣で囲われた場所の中心部に闇が生まれ、外へ外へと侵食を始めた。

 そして、間も無くして全てが飲み込まれ眩しいと感じていた光の世界はその影だけを残した。


「君ノ攻撃ハ単純ダ。光ハ輝クカ熱イカ、コレシカ無イ。ナラ、輝キハ闇ノ底へ、熱ハ遠ク二スレバ怖ク無イッ!」


 のっしのっしと歩み寄るウァラクは我が意を得たりと言わんばかりに得意げに嗤った。


「所詮、君ガ考エタ真理ハ僕ノ(ちから)ノ前デハ無力ダッタワケダ!」


 口を開け、大きく嗤うウァラク。

 それはどんな攻撃が来ても逃げる必要もないと言う確信と安心感を得てしまったからだ。


 故に、流が()()()攻撃の準備をしていても動じることはなかった。

 どうせ無駄に終わる、そう勘違いしてしまっているからだ。


 だからウァラクは知らなかったーー





「愚かで哀れだな」





 ーーもう既に決着がついていることを。


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