44話「神龍、鬼と踊る!」
追記:ステータスを載せるのを忘れてました。
「ハッ!」
「えぇッ!」
龍の爪と鬼の拳が吸い込まれるようにぶつかり合った。
たった一発の打ち合いで大気を震撼させ、闇をも晴らす。これだけで、この戦いの基準が異常であるのは明白だが⋯⋯これはまだお遊びだ。
「えぇ? いいじゃねぇか! 最高じゃねぇか! オメェさんよぉ!」
「血、滾り⋯⋯肉踊る!」
「全くだぁ! ここまで楽しくなるのは何生ぶりだ、えぇ!」
両者は裏合わせしたかのように連打を打ち合う。一撃、一撃が爆発したかのような轟音を叩き出し、次第にその速さを上げていく。
そしてーー
「異界から顕現する龍爪!」
「おぉっふっ!?」
ーー完全なる死角からの横殴りによってこの打ち合いは流の勝ちとなった。しかし、
「⋯⋯上手く跳んだか」
手応えに欠けた流が口にしたのはそんな一言だった。
そして、その台詞に合わせたかのように酒呑童子は何事もなかったと言わんばかりの動きで起き上がった。
「いんやぁ、流石に魔眼二つじゃあ手ぇ抜きすぎたか、えぇ?」
起き上がった酒呑童子⋯⋯しかし、その姿は吹き飛ばされる前とは少しばかり変化していた。
「⋯⋯その角、ようやく鬼らしく振舞う気になったか?」
そう、酒呑童子の額には先程までなかった角が生えていた。
何の迷いもなく真っ直ぐに伸びた一本、そしてその一本に付随するかのように歪曲した二本の角。
だが、変化していたのは角だけでは無かった。
「まぁ、オメェさん程の相手をするにゃぁこれくれぇは最低限度じゃねぇか、えぇ?」
そう言って酒呑童子は左右の目以外に外に二つ、手の平に二つ、計六つの眼を開いてた。
「鬼にとって角の数と大きさ、強度は誇るべきもんよ、えぇ? そして、儂はこの眼も良えモンだと思ってんよ、えぇ?」
「確かにその眼は面倒だ。果たして何を使っているか⋯⋯いや、全て開かせれば同じだな」
「そいつあぁ楽しみだ、えぇ!」
流の挑発にわかりやすく乗った酒呑童子。
一直線に、捻りなく飛び込むがその速度は先程とは段違いであった。
「ッ!?」
急な変化に対応が遅れた流は奇しくも酒呑童子の一撃を二の腕で耐える。
そして、離脱しようと一瞬で足先の方向を変化させるが、
「何処に行こうってんだ、えぇ?」
離脱先を読んでいたかのように流の背後に酒呑童子が先回りしていた。
「なっ!?」
「さっきのお返しじゃ、えぇ!」
先程とはまた違った一撃。今回は避けることも受けることもできなかった完全な一撃を顔面に食う。
流は大きく宙を舞いながらも体制を立て直し地面に着地する。
「⋯⋯ッ」
整っていた顔立ちは若干の諦めを覚え、頬は熱を帯びている。
口からはたらり、と血が通い白い肌に綺麗な線を彩る。
「かあぁ、しっかしまぁ硬ぇなオメェさん。ここまで強化したのに儂の方も痛かったじゃねぇか、えぇ?」
そう言いながら流の攻撃範囲のギリギリ外にまで近づいてきた酒呑童子は殴った右手を振っていた。
振っている右手は若干赤くなっており、本人の言っていることは間違っていないことがわかる。
「オメェさん本当に人間か? 儂から見ても化け物じゃぞ、えぇ?」
「⋯⋯我からすれば貴殿の方が驚きだがな。その眼⋯⋯どれも強力な代わりに脳へ負担が大きいはずだ。にも関わらずその調子⋯⋯化け物だな」
「⋯⋯へぇ、もしかしてだがもう儂が使ってる眼が何か分かったのか、えぇ?」
「『邪鬼の眼』『読心の眼』『予知の眼』『千里の眼』『威圧の眼』『強奪の眼』、以上六つだな」
「⋯⋯こいつぁ驚いた。いくら何があるか分かってぇともたった一合で分かるもんか、えぇ?」
「だから言っているではないかーー」
流の体から力が抜け自然体となる。酒呑童子もまた警戒を一切緩めることなく一瞬先の未来を見通しながら構えるがーー
「んあ? 消えッーーぐべらぁッ!?」
ーーそれでも流の動きは捉えきれず、真横に飛ばされた。
「ーー全て開かせれば全て同じだ、と」
膝蹴りを放った立ち姿。その場所は飛ばされる前に酒呑童子が立っていたすぐ後ろ。
何も分からぬまま吹き飛ばされた酒呑童子は数回のバウンドを繰り返した後にようやく地面に足が着いた。
「⋯⋯今んのはいってぇ⋯⋯何だ? 動きが見えなかったぞ、えぇ?」
何が起きたのか必至に考える。何度も何度も脳内であの一瞬を思い返すが⋯⋯何も分からない。
そして、三桁に届きそうなほどに回想したところで近づいてくる一つの足音が耳に入った。
「どうだ? 全ての眼に光を映す気になったか?」
何事もなかったかのように立ち振舞う一人の姿。その表情は何処か諦めを帯びているが⋯⋯それは決して戦いの敗北へではなかった。
「⋯⋯オメェさん、今何しやがった、えぇ? 儂は未来を見てたんじゃぞ? その儂が何も見えずに地面に着くたぁ⋯⋯どんな魔法じゃ、えぇ?」
「単純な話だ。我が貴殿の反応できない速度で動けば未来もまた貴殿は我の動きに反応できない」
「つぅこたぁオメェさん⋯⋯ずっと手を抜いていたってことか、えぇ?」
「それは心外だな。我もここまで力を出す羽目になるとは思ってもいなかったぞ。ここまで力を解放したのはヤツ以来か」
「⋯⋯ヤツ? そいつぁ一体どんな化け物かしんねぇが⋯⋯⋯⋯勝手に比べられんのは気にいらねぇな、えぇ?」
「ーーっ?」
ゾワリ、と不穏な感覚が流の背中を這い寄った。
意識を周囲に向けたとしても風景の変化はない。ただ、戦っているこの場の雰囲気だけが穏やかでなくなったのだ。
「⋯⋯ったく、どいつもこいつも気にいらねぇよなぁ、えぇ? 手ぇ抜いて、意気がったところを叩き折るタァいい度胸じゃねぇか、えぇ?」
「この世界そのものが⋯⋯怯えている?」
「おまけに勝手に比べっこするだぁ? まったく勝手な尺度で解釈しやがってヨォ、えぇ? こんなんだから⋯⋯気にいらねぇ」
「一体⋯⋯何を言っているんだ?」
誰かに向けての暴言か、それとも自分自身への自虐か。
只々、酒呑童子は怒りの言葉を並べて行く。
「楽しくなってきたっテェのにもうお終いだしヨォつまらねえ事この上ねぇよな、えぇ? 嗚呼、嗚呼⋯⋯気にいらねぇな、えぇ?」
「これは⋯⋯!」
「気にいらねぇ、気にいらねぇ、気にいらねぇ! その余裕が! その強さが! その心が! キニイラネェなぁ、えぇ!」
この瞬間、酒呑童子の中で何かが外れた。
外れてはいけない何か。
押さえつけていた何か。
失ってはいけない何か。
その全てが外れてしまったーー『憤怒』によって。
「キエエエエエエエエエエエエエェェエエエエエッッッ!」
普段より一層甲高い声の叫び。
留めなく溢れるような怒りが荒れ狂う酒呑童子に変化を生み出す。
額に生えていた三本の角。そこに、禍々しいほどにドス黒く、畝った角が二本生える。
横一列に開いていた四つの眼。そこに列を増やすように四つと四つの眼が開かれ、更には後頭部に一つ開かれ悍ましい生物を彩る。
小柄であった体格。そこに嘘のように肥大化が始まり、気がつけば見上げるほどの巨体にまでなっていた。
「怒り⋯⋯それが貴殿の力の根源か」
「ふぅ、ふぅ! そうじゃぁ、えぇ! この姿になったからには⋯⋯全力やぁ、エェ!」
「ーーッ!」
先ほど流が酒呑童子にやったことの再現。一瞬にして酒呑童子は流の死角に潜り込み予想を超える力で横殴りにする。
三本目の時は寸でのところで対応できていたが、ここに来て流は対応しきれず水平に飛ばされる。
「ガッ⋯⋯ゴホッゴホッ!」
数五のバウンドを繰り返した後に地面に足をつけることができたが流は堪らず片膝を地上に落としてしまう。
「これが⋯⋯怒りか⋯⋯ッ!?」
酒呑童子の驚異的な腕力に驚かされながら吐き出したものに目を向けるとまた別の意味で流は驚愕した。
「成る程、我を蝕むのは力ではなく⋯⋯病魔か」
流が目にしたのは体に流れる赤い血ではなく、黒く濁り蠢く何かであった。
そして、流が周囲に目を向ければいつのまにか黒い霧に包まれていた。
「ご明察だ、エェ? 儂の『病魔の眼』は儂の魔力を糧に生まれる。それは今オメェさんを包んでいる霧のようにもできるし儂の拳に乗せることもできる」
「親切に解説してくれるのか? 存外に怒りに身を任せているのだと思っていたぞ?」
「何でもかんでも堕ちていきゃぁ良いってもんじゃぁねぇぞ、エェ? 怒りってぇのはどっかで手綱を引けて初めて力になるもんよ、エェ?」
「確かにな⋯⋯なら、我も一つ『力』を見せてみるか」
そう言うと、流は真っ白のコートから一つの指輪を取り出した。
「エェ? 此の期に及んでオメェさん⋯⋯いってぇ何する気だ、エェ?」
「先ほど言ったではないかーー『力』を見せると」
そう言いながら流は持っていた指輪をはめた。その瞬間、指輪は流を認識し鼓動するかのように光を瞬かせた。
「うおっ!?」
その光の量は酒呑童子の目を眩ませるには十分であり、咄嗟に視界を腕で遮る。
そしてーー
「ウルアアアアアアアアアアアァァアアアアアァァッッ!」
ーー眩しい視界の中で酒呑童子が目にしたのは一体の『龍』であった。
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名前:神 流
種族:人族
性別:男
Lv:78
HP:11,850
MP:19,750
技能:鑑定眼(-)、聖魔法(10)、身体強化(8)、???(?)、???(?)、???(?)、威圧(-)、降龍術(-)、空間魔法(8)
称号:聖魔法を極めし者、龍人、不治の病、???、???
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