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33話「第二の遊戯『命の優劣を知る』」

最近、更新が安定しなくて申し訳ありません。

出来る限り作者も合わせていきます。

突然打ち切りとかはしませんのでご安心下さい。

 

 小さな紫の花ーー紫蘭が地上を埋め尽くす。


 それは一刻前にみた真紅の花畑とは違った趣があった。

 真紅の花畑はどこか毒々しいものを感じられ、見るものを魅了し、惑わし、引きずりこむ様な物だった。


 しかし、この紫の濃淡様々の小さな花は現実味を見せないほどに美しく、可憐で、壊れてしまいそうなほどだ。


 そんな幻想的な場所の中で、


「あははっ、よかったよ〜。ちょっと最後はヒヤヒヤしたけど楽しく見せてもらっちゃった」


 一際大きな岩の上でラウは紫蘭の花を一つ手に持ち、眺めながら口元を歪ませている。


「アンタがこの面倒ごとを出してる元凶か」


 真里亞はラウを銃の射程内に収め、構えながらそう言った。


「さっさとここから出すか、アタシ等を【ダンジョンマスター()】の元へ連れて行くか、それとも⋯⋯今すぐ死ぬか。どれが良いか選びな」


「わぁ〜、怖いお姉さんだ」


 真里亞の威圧に一切の動揺も、焦りも見せることなくラウは笑いながら冷やかした。


 そんなラウの態度が気に入らなかったか真里亞の額には青筋が一つ浮かんでいる。どうやら、話し合いより物理交渉が適切だと判断した様だ。


「⋯⋯どうやら、死にてぇらしいな。死んでから後悔ーー」


 完全に戦闘モードに入った真里亞。その台詞は遺言すら残させないものだ。しかし、


「ラウが今死んだらマスターの元へたどり着けないよ?」


「ーーッ!」


 ラウの一言で座り込んでいた美香が勢いよく立ち上がり、真里亞の射線上に割り込んで来た。


「⋯⋯何してんだよ。どきな」


「ど、どかない!」


「どけっつってんだろっ!」


「どかないって言ってるでしょ!」


 美香と真里亞の意地の張り合いが始まる。


 その光景をラウは面白いものを見るかのように眺め、緩んだ口元を戻そうとしない。


「今アイツを殺せばココから出られるんだぞ!」


「今あの子を殺したら香に会えなくなるでしょ!」


 譲れない物を突き通す。お互いの正義がお互いの感情を高ぶらせる。

 そんな感情はラウにとっては好物以外の何物でもなかった。


「いいね、いいね〜。ホント面白いよ」


「あぁ?」


 美香がどかないことと相まってラウへの態度に真里亞の怒りが抑え切れそうになくなってきている。


「そんなに自分達の言いたいことを通したいなら殺し合えばいいでしょ?」


「「⋯⋯」」


 顎肘を立てならがラウは問うた。しかし、その答えに何処か躊躇が見える二人は押し黙った。


「はぁ〜、これだから人間は。それならラウがキッカケをあげるよ」


 二人の無言の回答に退屈さを感じたラウは名案だ、とばかりに指を立てた。


「第二のゲームのルールはこうしよう。この中で一人死ぬ。その後、ココを抜けたらクリア」


「なっ!?」


「⋯⋯テメェ」


「もちろん、出てくる魔物は最後に出したトレントと同等のが出てくるからね?」


 ルールから驚いた美香は更に驚愕を強めた。それもそのはずだ。美香は実際のところ真里亞が居なければ詰んでいたのだから。


 逆に言えば美香にとってラウのこの発言は()()()()()死刑宣告にも等しい。


 逆に真里亞はラウを睨みつけながら頭をフル回転させていた。現在できる最善の手を、生き残るためにできる最良の手を。


「さて、それじゃあゲームスタートだ!」


 そう言ってラウはまたもや地面へ植物の成長の逆再生の様に消えていった。


「⋯⋯ど、どうすれば」


 消えたラウを見送ってから美香の額には湧き出る様に汗が生まれる。


 どう頑張っても勝てる未来が見えないのだ。


 先の戦闘で見せた真里亞の超人的な動きや魔道具の出現の謎。

 美香が逆立ちしようが、何百と挑もうが脳裏に浮かぶのは揺るがない自身の死。


 真里亞の前に立ったのはいいが、どうすることもできず冷たいものを感じながら美香は銃口と引き金を注視した。


 しかし、


「⋯⋯え?」


 真里亞が銃口を下ろしたのだ。否、正確には完全には下ろし切らず心臓から腹部に変わっただけだ。


「ステータスを見な」


「え?」


「だからステータスを確認しろっつってんだよ」


「⋯⋯っ、わ、わかったわ」


 真里亞の厳しい言い方に肩を震わせるも美香は指示通り自身のステータスを見た。そこには、


「⋯⋯え? な、何これ⋯⋯?」



 ーーーーー

 名前:望月 美香

 種族:人族

 性別:女

 Lv:26

 HP:1,650

 MP:2,750

 技能:万物の癒し手(2)、光魔法(4)、自己再生(1)

 称号:願い人、罪を背負う者

 ーーーーー


 ーーーーー

 万物の癒し手(2)


 あらゆる回復魔法を飛躍的に向上させ、死者すらも蘇らす事ができる可能性がある。

 また、使用者の魔力が枯渇した場合、体力を魔力の代用にすることもできる。

 向上の度合いは使用者の練度、魔力量に依存する。

 ーーーーー


 ーーーーー

 自己再生(1)


 使用者への疲労や傷が治りやすくなる。

 度合いは使用者の練度や耐性に依存する。

 ーーーーー



 美香にとっては驚くほどの成長を遂げていたのだった。


「ど、どういうこと⋯⋯? こんな技能(スキル)なんて持ってなかったし私のレベルだって⋯⋯あっ!」


 ここへ来て美香はようやく気がついた。美香がこの【ダンジョン】へ入ってから多くの魔物を倒していたことに。

 そして、無意識のうちに自身へ回復魔法をかけていたことに。


「確かアンタ、ここへ来る前は⋯⋯十五くらいだったっけ? 今は?」


「二十二よ」


「へ〜、ずいぶん上がってんじゃん。さっきの様子だと技能(スキル)を手に入れたみたいだけど⋯⋯何を手に入れた?」


 レベルの時の質問では変化しなかった真里亞の眼光が一気に鋭くなった。

 ある種、真里亞も賭けているのだ⋯⋯美香が持つ生存率を上げる奇跡に。


「⋯⋯ば、『万物の癒し手』」


「万物の⋯⋯癒し手⋯⋯? ずいぶんと大層な名前だけど能力は?」


「⋯⋯回復魔法の向上。そして⋯⋯死者すらも蘇らせる可能性があるみたい」


「はぁ!?」


 真里亞の表情に驚愕が走った。流石にここまでは予想していなかったのだ。ここまでの⋯⋯生存への道標に。


「ははっ⋯⋯」


 真里亞の口から乾いた笑みが漏れる。

 もし本当に神がいるとしたら⋯⋯あの“声”なんかとはもっと別の神がいるとしたら、真里亞は本当に生かされているのだと感じざるを得ない。


「⋯⋯ならもうこのゲームは半分クリアしたもんでしょ」


「え? それってどう言う⋯⋯」


「簡単なことじゃない」


 そう言って真里亞は構えていた銃口を美香から幸へと移した。


「な、何する気!?」


「決まってんでしょ? このゲームのルールは一人死ぬ必要があんだよ。だったらコイツ()を殺す。そして、アンタが生き返らせれば結果的には誰も死なない」


「そ、そんなことーー」


「アタシは死にたくねえの。アンタも同じなんでしょ?」


「そ、そりゃあ⋯⋯」


「そんで、アンタはコイツも死んで欲しくねえ。なら⋯⋯取れる手段は一つっしょ」


「で、でもーー」


「ガタガタ抜かすなっ!」


「ーーッ!」


 躊躇う美香に飛ばされた激しい怒声。花畑一帯に響き渡るほどの怒声は美香に恐怖を感じさせる⋯⋯否、美香が恐怖を感じているのはそれだけが理由ではない。


「⋯⋯いいか? チャンスは一回。それでアンタがコイツを生き返らせられないならコイツの運はそれまでだ」


「⋯⋯わ、わかった」


 恐怖を感じているのは自分自身へだ。


「一応、傷が治しやすい様にトレントの枝を心臓に刺す。死んだのを確認してから治せよ?」


「⋯⋯」


 無言で頷く自分自身はいつから友の命を弄ぶ様になったのだろうか?


「⋯⋯じゃあ、いくぞ。⋯⋯オラッ!」


「幸ッ⋯⋯」


 友の死を止めることない自分自身はいつから命を数合わせの足し引き算だと考える様になったのだろうか?


「心臓が止まった! 魔法をかけな!」


「わかってるッ! 幸⋯⋯死なないでッ!」


 死者すら蘇らそうとする自分自身はいつから『人間』を辞めてしまったのだろうか?


「お願い⋯⋯お願いッ!」


 美香の手にはほんのりと熱いモノが宿る。それは優しく包み込みと同時に厳しく育んでくれるモノだ。


 人ならばこれを神の奇跡と呼ぶだろう。


 ドクドク、と濁流の様に押し寄せる赤い液体が押さえつける美香の手を同様の赤色に染め上げる。しかし、それも間も無くして引き下がる。


 神ならばこれを力の一種と呼ぶだろう。


 そして冷たく、蒼白になりかけていた幸の顔に柔らかな熱が帯び始めーー


「⋯⋯ん」


 ーー薄っすらとぼやけた視界を瞳に移した。


「さ、幸ッ!」


「成功か⋯⋯」


「あ、あれ? ここは⋯⋯それに⋯⋯真里亞⋯⋯さん⋯⋯?」


「あぁ?」


「ひっ⋯⋯!」


 周囲を見渡し、真里亞を見つけ怯える。どこかで見た様な光景だが幸が目を開け、会話し、動くその姿を見て美香の頬には涙が通う。


「み、美香!? どうして泣いてるの!?」


「⋯⋯ゴメンね⋯⋯本当にゴメンね⋯⋯」


 拭っても拭っても止まらない涙は何でだろうか?

 幸が眠りから覚めたことだろうか?

 それとも⋯⋯


「ごめんね⋯⋯ごめんね⋯⋯」


「美香⋯⋯謝られたって分かんないよ。何で謝るの? いつの間にか私血だらけだし⋯⋯美香が治してくれたんじゃないの?」


「ッ、そ、それはーー」


 真っ赤になった自身の服を摘み、美香の手を指差しながら幸は笑顔を浮かべていた。


 それを全否定するために美香は身を乗り出しながら真実を口にしようとするが、


「そうだ。アンタは道中で深手を負ってコイツがここまで運んだ後に治してやったんだよ」


「なっ!?」


 美香を手で制しし、被せる様に真里亞は発言した。


「そ、そっか⋯⋯じゃあ、謝らないといけないのは私の方だね。ありがとね美香!」


「ち、違っ⋯⋯」


 幸の考えていることを正そうと美香は否定しようとするが真里亞がそうはさせない。


「いいから黙ってろ」


 真里亞は美香の耳元でそう呟くと美香を押しのけて幸の前に立った。


「え⋯⋯っと、真里亞⋯⋯さん?」


「今すぎステータスを確認しな」


「⋯⋯え?」


「詳しい説明は後々説明するが今はここから脱出しけりゃいけない。アンタが戦力になるか確認したいんだ」


「え? そ、それってどう言う⋯⋯美香?」


「⋯⋯」


 真里亞の畳み掛けに今ひとつ要領を得ない幸は美香に目線を送ると美香は無言で頷いた。


 それだけで必要なことなのは理解できたため幸は特に考えることなくステータスを開き、真里亞にレベルや技能(スキル)を伝えた。


「ふぅ〜ん、アンタはあんまり変わってないっぽいね。特に目立った技能(スキル)もないし⋯⋯まぁ、戦力外ってほどでもないっか」


「⋯⋯」


「じゃあ、先に進むよ。あんまりウダウダやっててもその分だけ時間がもったいないしね」


 真里亞はそう言い残し紫蘭の花畑の出口へと向かった。


 その背中をジッと睨む様に見ていた幸は何か言いたそうだが、生来の平和主義的気質からか頭を振るい狂いそうな思考を捨てた。


「えっと⋯⋯美香? 立てる?」


 幸もまた真里亞の後を追うために立ち上がり美香に手を差し伸べる。


「⋯⋯大丈夫。立てるから⋯⋯ごめん」


「⋯⋯なら良いんだけど」


 美香は幸の手を借りずに立ち上がった。そして、幸と共に真里亞が向かった拓けた道へ足を向けた。


 時折、幸が視線を合わせてくることがあったが決まって全て逸らした。そして、自分自身へ問うのだ。


 これで良かったのか? と。だって⋯⋯


 屍ならばこれを悪の所業と呼ぶのだろうから。


ラウちゃんの存在が予想以上に展開を暗くしていく⋯⋯

二章がこの調子でいきそうで怖いですね⋯⋯

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