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27話「神様の言う通りに」

区切りがつかなかったため少し多め(?)です!

 

「つーか何もいねえじゃん!」


 真里亞達がダンジョンに入り一時間が経過していた。

 その中で出会った魔物の数は何と一匹もいない。それどころか、他の冒険者にすら遭遇することもなかった。


 ただ木々によってできた道を歩き続けるだけで疲労が苛立ちに変わり、退屈がそれを加速させる。


「流石にこれだけ探してもいないってことは⋯⋯どう言うことなの?」


「アタシが知るわけねえだろ!」


 いつの間に関わっていたチーム内の雰囲気は険悪になって行き今にも爆発が起きかけていた。

 しかし、幸か不幸かその一時間は無駄ではなかった。それは、


「あれ? あそこにあるの階段じゃね?」


 言い争いに参加していなかった女子が茂みに隠れる石畳の階段を見つけた。

 そして、その女子の言葉に真里亞達は視線を一斉に向ける。


「ホントじゃん! ってことはウチ等一回も戦わずに一階層をクリアしたってこと!?」


「⋯⋯」


 真里亞と言い争っていた女子が歓喜の声を上げながら階段を見つめる。

 しかし、真里亞はその階段を見つめ歓喜ではなく悪い笑みを浮かべていた。そして、


「あー! アタシいいこと考えちゃった!」


 考えまとまったと言わんばかりに真里亞が大きな声を出し注目を集める。


「もうさ、こんな【ダンジョン】⋯⋯アタシ等が攻略しちゃわない?」


 真里亞の予想外の言葉にその場にいた全員が驚き、体を強張らせる。


「え? 何それ? また冗談?」


「そうだよ、こんな所さっさと命令終わらせて帰った方がーー」


「【ダンジョン】攻略者には特別な力が与えられる、確かギルドでこんなこと言ってなかったっけ?」


「「ッ!?」」


 真里亞の言葉に二人の肩が僅かに上がる。


「ここまで一回も戦っていないのに一階をクリアできちゃうんだよ? 今のアタシ等は実はかなり運がいいんじゃね? もしかしてこれって⋯⋯神様の導き的な?」


「か、神様の⋯⋯」


「導き⋯⋯?」


 真里亞の言葉に誘導される様に思考が曲がる。

 もしかしたら運命、もしかしたら導き、もしかしたら使命。そんな安っぽい言葉が三人の中を掻き乱すように走る。


「⋯⋯どう? 行かない?」


 ここが最終分岐点だった。この誘惑は通常なら危険を犯さないために乗ることはない。しかし、今の彼女達は、


「⋯⋯い、いこう」


「⋯⋯う、うん! ウチ等でこんな【ダンジョン】クリアしちゃおう!」


 一回も戦うことがなかった。魔道具があるから。弾が沢山あるから。そして、いざとなったら囮にできる奴が居るから。


「⋯⋯あ、あの」


 どこか歯車が噛み合わなくなり昏い笑みを浮かべる三人の様子を見て興奮に混ざらなかった幸が口を開いた。


 内容は当然ダンジョンの危険についてだが、


「さ、流石にこれ以上はーー」


「あぁ?」


「ひっ!」


「これ以上は⋯⋯何?」


 幸の興奮を冷ます様な言葉を真里亞は睨み一つで止めてしまった。


「アンタ達に決定権なんかあるわけねえでしょ? 何勘違いしてんの?」


「⋯⋯っ」


「アタシ達は仕方なくアンタ達をチームに入れてやってるんだよ? 何意見しようとしてんの? バカなの?」


「で、でも⋯⋯」


「ああ! ウザったいな!」


「いっ⋯⋯!」


 バンッ、と破裂音の様な甲高い音が静かなダンジョンの中で響いた。


 その音と同時に吹き飛ばされる様に倒れる幸。何が起きたか分からぬままチカチカと点滅する視界に混乱する頭。

 ゆっくりと動く手が抑えるのは熱を帯びた頬。そして、その熱を感じ始めると不思議と奥歯がカタカタと音を出す。


「⋯⋯」


「あんま調子に乗ってると⋯⋯殺すよ?」


「ひっ!」


 赤く腫れあがる左頬を抑えながら倒れこむ幸を見下す様に真里亞が見下ろす。手にもつ銃の銃口を向け、引き金に指をかける。


「わ、わかりました! 行きます! ついて行くから! これ以上は幸に酷いことをしないで!」


 今にも泣きそうな幸の前に転がる様に駆け込む美香。両手を広げ幸を庇う様に真里亞の前に立ち必死に懇願する。


「お、お願いします!」


「⋯⋯」


 頭を低くし頼みいる美香。その姿はもはや土下座に近い。

 真里亞はそんな美香と幸の様子を交互に見ると、


「⋯⋯次は無い。アンタ達みたいな人殺しに決定権なんて無えんだからな」


 美香の決断と必死さに心打たれた⋯⋯なんて事はなく従属を見た真里亞は銃口を下げ他の二人と共に二階層へ続く階段を下っていった。


「⋯⋯ごめん⋯⋯なさい」


「幸は悪くないよ」


「でも⋯⋯でもっ⋯⋯私が⋯⋯私が余計なことを言わなければこんな事には⋯⋯」


「⋯⋯幸」


「⋯⋯な、に?」


「⋯⋯行こっか?」


 幸を見る美香の目には怒りは一切ない。唯々、悲しさと切なさを混ぜ合わせた様な昏い絶望が色濃くなっていた。


「⋯⋯ごめん」


 美香の手を借りながら立ち上がる幸。その足取りは感じたことのない重さと鈍さをもたらしながら二人の少女を二階層へと導いた。


 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾


【植物のダンジョン】二階層。

 ここもまた緑が鬱蒼と茂る世界が広がっていたが、一階層とは少し雰囲気が違っていた。


「これ⋯⋯爆発の跡?」


 真里亞達三人が最初に目にしたものは大きく抉れた地面と横倒れになっている周囲の木々だった。

 明らかに何かしらの大きな爆発があった事はわかるのだが逆に言えばそれ以上のことは何も分からない。


「どうすんの真里亞?」


「別に構わないでしょ? さっさと下の階に続く階段を探すよ」


 真里亞達は抉れた場所の周囲を迂回する様に先を目指した。

 そして、先を目指すにつれ気づくことがあった。


「なんか、爆発の跡が多くない?」


 誰もが気づいていたがあえて言葉にしたなかった内容を真里亞の取り巻きの一人が口にした。


 入った直後に見たものが一回。その一回に続く様にあちらこちらに同様の爆発跡が見える。更には、それ以上の大きさの跡も視界に映る。


「もしかしてこの爆圧跡って⋯⋯この魔道具のじゃない?」


 女子が真里亞の両手に一丁づつ握られている拳銃と自身が持つ軽機関銃を交互に見た。

 どちらが、と言うわけではなく、どちらもなのではないかと疑いをかける。


「⋯⋯まあ、それならそれで心強いから良いけどさそれだと⋯⋯何で一階層には無かったわけ? 爆発の跡が」


「そ、そうだよね」


 真里亞の言及に反論ができなかった女子は窄めるように態度を小さくした。


 不可解なことが多すぎる。

 一階では見なかった数多くの爆発跡、未だに入っているはずの冒険者と会わない、魔物とも遭遇しない。


 しかし、これ等を全て知ろうとするには彼女達には情報が少なすぎた。


「チッ、こんな事なら魔道具の説明をきちんと見ておけばよかった」


 普段の対応の適当さを自覚する事なく悪態を吐く真里亞。

 本来であれば事前に魔道具の威力を説明されたのだが真里亞達はその説明をサボり、更にはその説明資料を幸達に見せる前に紛失してしまっていたのだ。


「「「「「⋯⋯」」」」」


 最初の盛り上がりは何処へ行ったのか徐々に沈黙し周囲を警戒しながら進む一行。

 だが、()()な事に真里亞達は情報を得る機会を得てしまった。


「⋯⋯あ、あれ? あそこにいるの冒険者じゃない?」


 そう言ったのは一階層で階段を見つけた女子だった。


 女子が指差す先はかなり遠くだがそこには確かに複数の人影が背中を合わせながら進んでいるのが見える。


 しかしそれはかなり小さく、普通の人では見ることができないだろう。


「⋯⋯どこよ」


「あっちだよ」


 当然ながら普通の人である真里亞は見えておらず、見えた女子が先導する事で徐々にその影を視界に映した。


「あ、ホントだ」


「ね? 言ったでしょ?」


「ははっ! アンタスゲえじゃん! よくあんな場所から見えたな!」


 ようやく遭遇した事で真里亞達に活気が溢れ出る。その興奮のまま近づけば相手方も確認した様で真里亞達に手を振っている。


「やあ、君達は確か⋯⋯僕達の後の班だったかな?」


 五人いる冒険者は全員が男。全身を迷彩服で覆っているところから何処かのサバゲー好きかと思わせる。


 その中でリーダーだろう二十歳前後の細身の男が真里亞達に声をかけてきた。


「アタシ等がアンタ達の後なのかは知らねえけど最後の班よ」


「じゃあ、僕達の次の班で間違いないよ。それで、どうしたの? まさか魔物でも出たのかい?」


 男は真里亞達が急いで駆け寄ってくる姿から何かしらの問題が発生したと勘違いしたらしく、そのリーダーの声で他の四人が周囲警戒の体制に入った。


「⋯⋯別に魔物にあったわけじゃない。どっちかってと魔物に一匹もあってないんだけど」


「あ、そうなのかい? それなら良かった。無事殲滅ができているようだ」


「殲滅?」


 真里亞の言葉に拍子抜けした様に構えを緩める四人とリーダー。


 そして、真里亞はリーダーの言葉の中にある不可解な事に疑問を覚えた。


「ああ殲滅だ。この階層で君達は魔物にあってないだろう? それは僕達が全ての魔物を殺したからさ」


「あ? そうなのか? じゃあ一階もか?」


「残念だけど一階は分からないな。魔道具の跡が無かったからもっと前に入った軍の連中が殺したんじゃないかな?」


 男はギルドが今回の企画をする事になった経緯を思い出しながら答える。

 だが、当然だがその説明をサボった真里亞達はそんなことは知らない。


「隊長、そろそろ時間ですよ?」


「あ、もうそんな時間か」


「時間?」


「ああ、僕達が【ダンジョン】に滞在できる時間だよ。三時間が限度だからね。それまでに帰らないといけないから」


「あ、そうか」


「多分このままこの階層にいても魔物には会えないから三回層に行ったらどうかな? そこだったらまだ誰も行ってないと思うから魔道具の試し打ちができると思うよ?」


「はあ」


 リーダーの何処か熱くなっている弁に気圧されながらも真里亞は生返事をした。


 そして、それをどう取ったのかリーダーは背負っているリュックから一枚の紙切れを取り出した。


「はいコレ。この階層の地図。ここが現在地でここが三回層の階段がある場所」


 なんと手渡されたのは三回層の地図だった。

 地図はかなり詳細に描き込まれており、その範囲は階層にほぼ全域に渡っていた。


「こ、コレくれるのか!?」


「うん、あげるよ。別にもう一つ作ってあるからね。こっちをギルドに出せば僕達がお金を貰えるし。それに⋯⋯」


 手渡された地図に驚き喜ぶ真里亞を見ながら何処か別の狙いがあるかの様にリーダーの目は細く笑っていた。


「⋯⋯もし()()()()()()()()()土産話でも聞かせてくれるなら全然問題ないよ」


「ああ! 面白そうなもんがあったら絶対話してやるよ!」


「お、言質とったからな? 絶対教えてくれよ? できれば他の奴に話さないのもオマケ付きで」


「他のやつに話さないかはちょっと分からねえが見っけたモンは全部話してやるよ」


「期待してるよ」


 真里亞の答えが嬉しかったのか、はたまた別の何かがあるのか、リーダーは口元を釣り上げながら出来るだけ柔和に笑っていた。


「さて、じゃあ僕達は地上に戻るよ。気をつけて行ってくるんだよ」


「あいよ! アンタ達も気をつけて帰んな」


 生来の気質か、環境による気質か、真里亞は遠ざかるリーダー達に手を振りながら大きな声で返した。


 そして、しばらくすればリーダー達は木々の隙間に入り込み見えなくなってしまっていた。


「いや〜流石アタシ? まさかこんな簡単に三回層行けちゃうなんて! しかも、他にも色々聞けちゃったし? マジでアタシの可愛さって罪だわ〜!」


 地図を手に入れた真里亞は本日最高に盛り上がっていた。普段ん見せない様な高い声やお嬢様を気取った様な仕草がそれを示していた。


「じゃあ真里亞、コレからどうする? やっぱ⋯⋯行っちゃう?」


 地図が手に入った、と言う事実に嬉しさを隠しきれないのは他の女子二人も同じだった。


 綻んだ口元が、落ち着かない雰囲気が、煽る口調が、それを示していた。


「当然、行くっきゃないでしょ!」


「さっすが真里亞!」


「本当にウチ等が攻略しちゃうかもね!」


 盛り上がる興奮は誰にも止められない。火に油が際限無く注がれ、その火は既に全てを燃やし尽くそうとしていた。


 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾


「隊長良いんですか?」


「何がだ?」


 知った場所の様に迷いなく一点を目指す五人の迷彩柄の冒険者達。

 その中で一番小柄で眼鏡をかけた冒険者がリーダーに問うた。


「何がってあの女の子達に三回層を教えた事ですよ」


「別に間違った情報を教えていないだろ?」


「間違ったも何も⋯⋯」


 何一つ悪気を感じていないリーダーが肩をすくませる。その反応に眼鏡の冒険者は眉間にシワを寄せ不愉快を露わにする。


「はぁ、そうカッカするな。別に三回層への道を教えただけで彼女達が死ぬわけじゃない」


「それはそうですけど⋯⋯」


「第一、あそこには()()()()()()だろ?」


「⋯⋯でも、魔物以上に危険な存在はいましたよね?」


「ははっ、それは【ダンジョン】と言う未知である限りは仕方ないだろう。例えそれが⋯⋯」


 リーダーが視線を眼鏡の冒険者から一番体格が良く()()()()()()()()()()()冒険者へと向けた。


()()も居たとしてもね」


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